2016年以来の改訂となる「食物アレルギー診療ガイドライン2021」に対応.ガイドラインの副読本としても役立つ1冊.本全体の構造や執筆者の多くは初版を踏襲し,この5年間の進歩を大いに取り入れて最新の情報にリニューアル.各アレルゲンの最新研究から臨床現場で求められる対応,患者が社会の中で直面する問題までを詳細に解説.食物アレルギーの確定診断に欠かせない「経口免疫療法」「食物経口負荷試験」についても解説している.
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目次
改訂第2版の序
初版の序
執筆者一覧
Ⅰ 食物アレルギー総論
A 食物アレルギーを巡る国際的な動向 海老澤元宏
B 食物アレルギー:診療・社会的対応の変遷 宇理須厚雄
C 食物アレルギーの疫学・病型 今井 孝成
D 食物アレルギーの免疫学 善本 知広
E 食物アレルギーと遺伝 廣田 朝光・玉利真由美
F 食物アレルギーと環境因子 中野 泰至・井上祐三朗
G 感作の成立と予防対策 福家 辰樹
H 食物アレルギーの診断 漢人 直之
Ⅱ 食物アレルゲン
A アレルゲンの構造と機能 伊藤 浩明
B 鶏卵・魚卵・鶏肉 山田千佳子・和泉 秀彦
C 牛乳・牛肉 松原 毅・岩本 洋
D 小麦・ソバ・穀物 横大路智治・松尾 裕彰
E 種子(ピーナッツ・大豆・木の実類・ゴマ) 丸山 伸之
F 魚類・甲殻類・軟体類 板垣 康治・塩見 一雄
G 果物・野菜 岡崎 史子・成田 宏史
Ⅲ 食物アレルギーの臨床各論
A 卵アレルギー 杉浦 至郎
B 牛乳アレルギー 川本 典生
C 小麦アレルギー 長尾みづほ
D ピーナッツ・木の実類アレルギー 北林 耐
E 大豆・ゴマアレルギー 高里 良宏
F 魚・甲殻類アレルギー 中島 陽一・近藤 康人
G 果物アレルギー 夏目 統
H その他の食物アレルギー 千貫 祐子・森田 栄伸
Ⅳ 食物アレルギーの臨床的課題
A アナフィラキシー 柳田 紀之・海老澤元宏
B 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA) 福冨 友馬
C 新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症,好酸球性消化管疾患 鈴木 啓子・野村伊知郎
D 成人の食物アレルギー 中村 陽一・橋場 容子
E 栄養・食事指導 楳村 春江
F 経口免疫療法 佐藤さくら・海老澤元宏
Ⅴ 食物アレルギーに関連する社会的諸問題
A 給食・外食産業 林 典子
B 患児・保護者への生活指導 岡藤 郁夫
C 保育所・幼稚園・学校に対する情報提供 吉原 重美
D インシデント(ヒヤリ・ハット)事例から学ぶ安全対策 佐々木渓円
E アレルゲンを含む加工食品の表示 藤森 正宏
F 患者会・NPO法人による地域づくり 中西里映子
G 食物アレルギーサインプレート 服部 佳苗
H 行政・専門学会の動向 伊藤 浩明
索 引
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序文
改訂第2版の序
本書の初版が2016年に発刊されて5年が経過しました.日本小児アレルギー学会の「食物アレルギー診療ガイドライン」も,2016年版から2021年版に改訂出版されました.
2016年時点で,食物アレルギーの診療・研究および社会的な諸制度は,かなり成熟していると感じていました.しかしこの5年間を振り返ってみると,各分野で大きな進歩があったことを実感します.そこで,ちょうどガイドラインの改訂に歩調を合わせて,本書も改訂版を作成する運びとなりました.
本全体の構造や執筆者の多くは,初版を踏襲しています.それぞれの執筆者は,この5年間の進歩を大いに取り入れて,最新の情報にリニューアルしてくださいました.改めて,この5年間にどれほどの情報が新たに蓄積し,食物アレルギーに対するアプローチが変化してきたか,実感することができます.同じ章を読み比べてみるのも,この改訂版の醍醐味かもしれません.改めて,気合いのこもった原稿を執筆してくださった先生たちに,感謝いたします.
本書とガイドライン改訂の編集作業を通じて,私自身が実感している食物アレルギー診療の変化をあげてみます.
まず,食物アレルギーの診療そのものが,より安全で「患者に優しい」方向に向かっています.特に,食物経口負荷試験や経口免疫療法において,アレルギー症状を起こさないことがより重視されるようになりました.以前と比べて消極的な診療方針とも感じますが,より幅広い地域で,多くの医療機関が食物アレルギーの診療に取り組むようになった結果ともいえるでしょう.医療安全に対する社会の要請が強まっていることも,反映していると感じます.
食物アレルギーの発症抑制に関する臨床研究が進み,微量の抗原摂取による経口免疫寛容の誘導が,臨床現場にも実装されつつあります.それを支えているのは,乳児のアトピー性皮膚炎に対する標準治療が普及して,湿疹を完全にコントロールしたうえで摂取を進めることが,社会的なコンセンサスになってきたことです.
食物アレルゲンに関する知見は,分子レベルで飛躍的に進んでいます.それが,臨床現場における診断や食事指導に対する根拠を与え,現場で遭遇する多くの疑問に応えられるようになってきました.
最後に,アレルギー疾患対策基本法に基づく諸策が全国に広がり,アレルギー診療の均てん化が進んでいます.しかしそこには,各地域におけるアレルギー専門医の育成,成人移行または成人発症した食物アレルギー患者への医療提供など,まだ解決しなくてはならない問題が残されています.
本書が,ガイドラインの副読本として,皆様のお役に立てば幸いです.
2022年3月吉日
伊藤浩明
初版の序
IgE抗体が発見されてからちょうど50年.食物アレルギーの研究や診療は,長足の進歩を遂げてきました.しかし,食物アレルギーという疾患はそれを追い越すかのように進化を続け,診療で直面する課題も社会的対応も,複雑さを増しています.
診断と治療社の川口さんから「食物アレルギーの新しい本を作りませんか」とお話をいただいたのが,ちょうど1年前.基礎から臨床・社会的諸問題まで網羅的に集大成したボリューム感のある本,という構想を合意したところで,本書の内容は迷うことなく決まりました.私の贅沢なわがままをすべて受け入れていただき,意中にあった全国の先生から快く執筆をお引き受けいただいて,本書は発刊に至りました.
冒頭を飾って,日本の小児アレルギー界の双璧である海老澤先生と栗原先生に,グローバルな視点と歴史的な視点から,現在の私たちの立ち位置を示していただきました.それに続く基礎・臨床医学の総論では,各分野のトップリーダーの先生から,最先端の情報を盛り込んだ迫力ある解説をいただきました.
私が“趣味”とする食物アレルゲンでは,「分子レベルの情報を遠慮なく書いてください」という意図を見事に汲み取って,食品科学における各分野のスペシャリストに,アレルゲン分子の本質に迫る記述をしていただきました.
臨床面では,現在診療・研究の第一線で活躍している医師と栄養士の皆さんが,臨場感溢れる解説を書いてくれました.アレルギーの診療に必要な知識やノウハウだけでなく,患児の生活や成長と共に歩む心意気を綴ってくれています.
最後に,アレルギーは本質的に社会に根ざした疾患であり,他のどんな疾患よりも社会制度と密接な関わりがあります.アレルギーの診療に携わる医療者は,その仕組みを知るだけでなく,積極的に病院から出て社会に関わることが求められます.医療者のアイデンティティーを持って病院から外に出ることは,大きなやり甲斐のある仕事です.
折しも本書は,日本小児アレルギー学会が改訂発行する「食物アレルギー診療ガイドライン2016」と時期を同じくして発刊されます.ガイドラインでも,食物アレルギーの診療は,アレルゲンを除去して安全を保障する守りの姿勢(管理)から,少しでも食べられる方向に患者を導く攻めの姿勢(治療)に向かって,舵を切ったように思われます.本書はさらに,ガイドラインには書ききれない詳細な情報や,「本音」に溢れています.両者が同時に作成されていた経過上,一部の内容や言葉使いに齟齬が生じているところがあるかもしれません.その責は編者の私にあるとして,迷ったらガイドラインを正解とお考え下さい.
本書全体を通して,食物アレルギーに関する知識を得るだけでなく,その奥深さに迫ろうとする各執筆者の「気迫」を感じ取って頂けたら,望外の喜びです.
2016年10月吉日
伊藤浩明