子どもの偏食相談スキルアップ
定価:3,960円(税込)
監訳における序文
【翻訳・監訳のいきさつ】
マーティン・A・フィンケル博士との出会いは,2011年5月にOak財団の助成を受けて国際子ども虐待防止学会(ISPCAN)が主催した「ISPCAN Round-Table 2011,デンバー」に参加した時であった.紳士的であり,非常に親しみのある(人なつこい)言葉でフィンケル博士から声をかけてくださったことが思い出される.
私は1999年2月にコロラド州デンバーにある有名なケンプセンターを訪問したことがあり,その時はコロラド大学小児病院に所属するドナルト・C・ブロス教授(弁護士で,医療ネグレクトを中心に子どものマルトリートメントに関する論文多数)が訪問中の案内をしてくれたのであるが,ブロス教授は,フィンケル博士と風貌や人柄が実に似ていたのである.私は10年以上前の訪問のお礼をフィンケル博士に申し上げたので,変な雰囲気の出会いの始まりであったが,その直後になんとブロス教授が現れたのである.私の心からの驚きをたぶんお察しいただけるではと思う次第である.
さて,このデンバー会議のテーマは,“Child Sexual Abuse:A Review of Practical Interventions from an International Perspective”というものであった.フィンケル博士をはじめとする米国の専門家や,英国,スイス,オーストラリア,日本,パキスタン,インド,エストニア,レバノン,南アフリカ,アルゼンチン,ブラジル,プエルトルコ,ペルー,南アフリカなど文字通り国際的なメンバーによる会議であった.ケンプセンターという本拠地での開催のため,もちろんケンプセンター長のクルグマン博士の挨拶などを含め,子どもの性虐待の現状を再確認するとともに,人的な関係性が広まり実に有意義な会議であった.日本からは私と京都ノートルダム大学の桐野由美子氏が参加させていただいたが,この会議の休憩時間にフィンケル博士から,米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)からの出版書籍である本書の翻訳について依頼があった次第である.
帰国後,日本版の翻訳は,監訳者のメンバーである溝口史剛先生,山田不二子先生,白川美也子先生などのグループですでに開始されつつあり,日本における子どもの性虐待の動向から,出版の時期が模索されていることが判明した.わが国では,子ども虐待に関する医学領域の書籍は,南山堂から「子ども虐待の臨床―医学的診断と対応」(2005年),また診断と治療社から「虐待を受けた子どものケア・治療」(2012年)が出版されているが,医学専門書と呼べる「子どもの性虐待」に関する書籍は,非常に少ない現状にある.発達過程にある子どもの生殖器の構造の正常と異常についての知識は,わが国では産科・婦人科医師のみが担当する領域であるため,それ以外の医師や医療従事者はむしろ不得意とする領域にある.本書は,わが国の子ども虐待への対応,特に「子どもの性虐待」という虐待問題において,医学領域からの専門的アプローチとしてはおそらく初めての書籍であると思われる.本書は,医療従事者が積極的に「子ども性虐待」に対応できる非常に貴重な情報源である.産科・婦人科領域以外の医師,あるいは医師以外の全ての医療従事者にとって専門的,かつ包括的な内容が収録されている待望の書であることを強く伝える次第である.
【本書の読み方について】
本書は,先に述べたように米国小児科学会から出版されている「実践ガイド」の翻訳である.つまりわが国の子ども虐待,さらには性虐待への対応システムにはない対応職種や施設などが紹介されている.以下,本書を実践ガイドとして読むにあたって,監訳者が気づいた点を紹介する.①子ども虐待,児童虐待,マルトリートメントの語句について,②米国の動向について,③米国の対応システムについてである.
第1点についてであるが,国際的な子ども虐待に関する表記は,ご存じのように「child abuse and neglect」で,不適切な行為をすること(abuse)と子どもに必要なことをしない(neglect)の両者を対にして使用する用語として広く用いられている.国際的にはmaltreatment(マルトリートメント)はabuse and neglectを意味し,わが国で誤用されている子ども虐待の上位概念としてのマルトリートメントでないことに留意いただきたい.本書においてもマルトリートメントは,子ども虐待そのものを意味している.なお,法律用語は子ども虐待より児童虐待としての用語がなじむため,全ての箇所での語句統一は行っていない(13章など).
第2点は種々の対応において米国の子ども虐待の発生数が1990年代後半年から徐々に減少傾向を示し,性虐待においても発生数の減少が報告されていることである.本書にそのヒントが見つかる可能性を示唆する.
第3点のわが国になじみの薄い米国システムであるが,第2点で示したように効果的である概念,システム,役割(職種)を探ることで,今後わが国への導入を検討できるものとして理解いただきたい.わが国の児童相談所にあたる児童保護局(child protection services:CPS)は有名であるが,子どもの権利擁護センター(child advocacy centers:CAC)や子ども虐待研究教育臨床サービス研究所(Child Abuse Research Education and Service:CARES,医療およびメンタルヘルスの分野で,診断・治療のベストプラクティスを提供する全州的なリソース・センター)などは少しイメージしにくいのではなかろうか.虐待医療を専門とする子ども虐待専門医師(child protection doctor)は,わが国にないものである.看護領域(第9章)では,特定看護師(nurse practitioner:NP,資格取得により一定レベルの診断と治療などの診療が認められている)やトリアージナース(triage nurse,患者の重症度を判断し,診察の優先順を決める),性暴力被害者診察看護師(sexual assault nurse examiners:SANE)などが紹介されている.このNP,トリアージナースは日本看護協会でもわが国の医療事情を鑑み,虐待医療とは別に導入が模索されているが,SANEも導入の可能性は別として高い必要性が感じられる.性虐待被害の子どもへの法的証拠としての司法面接(forensic interview)は,わが国の一部の児童相談所で施行されている手法の一つでもある.すなわち,米国のシステムなので日本には関係が少ないという考えではなく,必要性の中から生まれたシステム,職種を知ることで,わが国の性虐待への対応への非常に大きなヒントになることが期待されると考えたい.
【謝辞】
本書翻訳に協力いただいた諸氏,丁寧に監訳いただいた諸氏,そして,私達の仕事の進行を辛抱強く支え,本書の編集に尽力いただいた寺町多恵子氏,田中美紗子氏をはじめとする診断と治療社の関係諸氏には心からお礼を申し上げる.出版社の本書発行についての英断は,わが国の性虐待防止に向けての歩みに対して大いなる力添えとなったことを申し添えて,謝辞とさせていただく.
原著における前文
第3版となった本書は,性虐待の疑いのある子どもとその家族に直接関わっている現場の医師や子どもの専門家にとって,貴重な手段・方策を提供することに寄与するものである.小児科の論文に性虐待を受けた子どもの医学的所見に関する先駆的な報告が発表され始めてから,30年が経過している.思春期前および思春期の子どもの生殖器解剖について,過去30年の間に,正常所見と被害を受けた後の所見に関する専門的理解が深まり,より洗練されてきた.性虐待の診断を受けに受診した子どもに認められた所見を解釈したり,治療の必要性を評価したりするために,今では日常診療で普通に使うことのできる診断根拠というのが次々と出てきたわけだが,それらは,ずらりと勢揃いした性虐待の卓越したエキスパートたちによって,本書の後続章で明らかにされていく.性虐待が疑われる子どもを評価するという元来チャレンジングなことに直面する専門家は,子どもの全身を系統的に診察するうえですぐに役立つ首尾一貫した情報を,本書の中に見出すであろう.さらに,この第3版は全体として,子どもへの性虐待調査における多機関多職種連携アプローチに対して深い敬意を表しており,多機関多職種連携チームについての章(第12章)は,効果的なチーム機能における入門書として役立つ.この多機関多職種連携アプローチは,ヘルスケアの提供者として,または,子どもの代弁者として,子どもと家族のために働く私達のチームワークにとって不可欠なものである.このように医療の現場で虐待通告の内容を評価するための理想的な方法に関する知識が増加する一方で,子どもが直面する新しい危険が出現し続ける.この危険には,ポルノグラフィーが掲載されたインターネットや,手練手管の搾取者との性的関係への誘惑などが含まれている.搾取についての章(第14章)では,子どもへの増加しつつあるこの種の危険を考察するための枠組みも提供されている.
専門家達の30年以上にわたるたゆまぬ努力によって,専門家や子どもの代弁者がだんだん集まり,一つのグループにまで育って,ようやくここまできたことが今振り返ってみるとよくわかる.驚くべきことに,最近の疫学データによると,子どもの性虐待の発生率と罹患率は,米国社会で近年,減少しつつあることが示唆されている.しかしながら,そのような減少傾向の理由は明らかではない.1980年代の初めに,子どもの性虐待通告が爆発的に増加した.カリフォルニア州ロサンゼルス郡だけで見ると,子ども虐待通告事例の約25%が性虐待であった.就学前の子どもに対する性虐待の通告や被害児が複数に及ぶ事案の通告が急増した後,性虐待が子ども虐待全体に占める割合は約8%まで落ち着き,この数字は本章を執筆している今日も続いている.楽観的に見ると,データは身体的虐待の総数も減っていることを示唆している.私達は早期発見と介入でよい方向に向かっているのだろうか,そして,虐待の常習化や再発を減らしているのだろうか.1980年代に虐待通告が増加した頃,私は,以前だったら,司法解剖医が虐待の被害児であることを認めず,事件にならずに埋もれていた子どもが見つかるようになったのだろうと推察していた.ところが,性虐待が始まってから子どもが開示するまでに約8年もの年月がかかっていることがいくつかの研究で示唆された.臨床経験は私達に基本を教え続けてくれる.家族や親戚と4日間の旅行から帰った3歳の女の子が「ドンおじさん(おばのボーイフレンド)が彼女の“ちっちゃい出っ張り(外性器)”を触った」と母親に開示したというケースに出逢った.母親は,性虐待評価のために私達の小児救急部門にその女の子をすぐに連れてきた.以前であれば,私達がそのような子どもに出逢うことはなかった.というのも,子どもが性虐待を開示しても信じてもらえず,「ドンおじさんがそんなことするはずがない」と言われたり,家族のある人から不適切なタッチをされたという子どもの訴えは矮小化されて,「ドンおじさんを子どもに近づけないようにしておけばよい」といった対応しかとられていなかったからである.今では,性虐待が始まってから子どもが開示するまでの時間はずいぶん短縮された.これは,埋もれていた被害児がきちんと特定されるようになり,大人が子どもの言葉に耳を傾け,信じるようになったからだと,私は推測している.
子どもを効果的に擁護するためには,子どもと家族が直面している危険に関して私達が知っていることをしっかり守らなければならない.それでは,子どもの性虐待の分野でまだ残っている問題や困難とは一体何であろうか.この分野のパイオニアであり,現在も活躍している貢献者Finkelhorは,今後研究すべき課題として2つのテーマを提示している.(1)ある人が性虐待を受けたかどうかについて,正確に評価するための特徴を明らかにすること,(2)性虐待が長期にわたって及ぼす影響を最小限にするための要因を特定すること,の2つである.後者は,Vincent Felitti博士がACE(Adverse Childhood Experiences,小児期有害体験)研究のデータを引用する際にも,よく主張されるテーマである.Felitti博士は,性虐待に絡んだ複数の要因と機能不全家族の問題こそが,子どもが大人になった時に経験する健康問題のリスクを増加させる要因であることを明らかにした.では,介入によって,これらのリスクは変化するのであろうか? 性虐待から子どもを救い,子どもを治療することで,結果は変わるのであろうか? 養育里親に措置することや加害親を投獄することは,子どもが大人になった時の福利(ウェルビーイング)にどのような影響を及ぼすのであろうか? 助けを求める叫び声が水の中から川沿いの町に聞こえてくるというシナリオを私は思い起こす.町の人々は川の淵に走り寄り,川でもがいている男を見つける.彼らは大慌てでボートをつかんで,おぼれかけている男を助け,ボートで運んだ.数日後,彼らは同じような状況に遭遇し,再び救出に成功した.彼らはみんなで集まって相談することを決心し,救出作業をよりよくするための方法を議論した.男達を救い出した場所に最も近い川べりにボートを置いておくことにしたのだ.彼らは,救出のために待機する市民の当番表を作成した.町は,その功績と救助プロトコルに対して賞を受けた.しかし,なぜ人が川に落ちるのかを見るために,上流に行こうとする人は誰一人としていなかった.町のレーダー(探知機)は,まだ予防策にまでは届いていないのである.それでは,私達は救出だけをしているのであろうか? それとも,予防もしていると言えるのであろうか? 子どもの性虐待を予防する方法などあるのだろうか─性虐待のエピソードを繰り返させないだけでなく,性虐待の発生そのものを防ぐ方法があるのだろうか?
これは,実に挑戦的な課題である.私達は小児科医療において,新しいワクチンの開発が成功するのを幾度も目撃してきた.侵襲性の高いインフルエンザ菌タイプb感染症を事実上排除することができるようになったし,侵襲性と非侵襲性両方の肺炎球菌感染を著明に減らすことができたし,そして,次の世代の女性の子宮頸がんの減少が期待できるヒトパピローマウイルスワクチンも開発された.残念ながら,子どものマルトリートメントに対するワクチンが開発される可能性はなさそうである.しかし,私達は,自動車の衝突事故や自転車の転倒事故による外傷のリスクを最小限にする戦略を開発することができるようになった.また,遊んでいる時に子どもが転落事故で受傷することがないように遊具を改良してきた.さらに,乳児が眠る時,仰向けに寝かせるように親を教育することで,乳幼児突然死症候群の発生率を2/3に減らすことができた.それゆえ,私達は,子どもが性虐待を受けるリスクを減らす方法を模索しながら前進することをやめてはならない.それは難しいかもしれない.しかし,私達は,その目標の達成に向かって,努力を倍増しなければならない.私達は診断の洞察力を洗練し,多機関多職種連携チームで働くことの価値についてすでに学んだのだから,これからはより多くの注意を予防の方に集中する必要がある.私達は,親になったばかりの新米ママや新米パパに,乳児が泣いた時に上手に対処できるように準備させる努力をしたことで,乳幼児揺さぶられ症候群の発生率の減少に成功した.性虐待の場合は,誰に教えたらよいのだろうか? 「性加害者に抵抗しなさい」などと子どもに教えるというのはあまりに単純すぎるし,破滅的だとも言える.体重20 kgしかない6歳の子どもが,体重80 kgで25歳の大人の攻撃をかわせるのだろうか? (特に,年上の加害者が,子どもが信頼する家族の一員だったり,知り合いであったりする場合).そうではあっても,子ども達とオープンに対話する方法を親に教えることは,性虐待を早期に発見し,再発を防止するうえで重要な道筋となる.予防のために籠手(こて)を使う時代は終わった.今や,次の段階に移り,性虐待の犠牲者となる子どもの数がアメリカや海外で減少し続けるように介入する時である.おそらく,ポリオのように,子どもの性虐待が過去のものになる時代が来ることを期待できるだろう.
要約すると,私達は,医療の専門家および子どもの代弁者としての仕事を自らにふさわしいものにできる.性虐待を受けたかもしれない子どもに直面した時,私達は,Finkel博士とGiardino博士のこの第3版を系統的全身診察のガイドとして使うことができるし,虐待通告に対する徹底的な調査を実施する他職種の専門家たちと連携することもできる.その場合でも,私達は,子どもを安全に保ち,かつ,性虐待や性的搾取に曝される危険を減らす方法を究極の目標として探究する.医療も,行政も,予防の努力も,証拠と厳密な研究に基づいて情報を得る必要がある.幸いにも,本書は,有用かつ直接的な方法でたくさんの証拠を収集しているので,臨床医や子どもの代弁者はすぐにこの本を使い始めることができる.私達がこれらの情報を専門家としての仕事のガイドとして用いながら,性虐待の発生数も評価が必要となるような子どもの数も,これまでよりずっとずっと減少した世界を作るために,総力を挙げて団結しよう!
Carol D.Berkowitz,MD
原著における序文
私達は,「子どもの性虐待に関する医学的評価」を改訂・拡張して第3版を発行しようという申し出を大変喜んでいる.私達は,米国小児科学会(AAP)によってこの本が出版されることを光栄に思う.第1版の出版から16年が経過した.この間に,子どもの性虐待被害についての理解は集積され,劇的に増加した.根拠となる知見が増加したことと専門的技術が進歩したことの影響は,子どもの性虐待を診断する洞察力を劇的に改善し,性虐待防止策と予防策を改良し,治療的介入を洗練した.性虐待被害児の特別のニーズをよく理解し,子どものニーズに感度よく反応しながら,子どもの性虐待を認知し,調査する制度が,米国全州はもとより,海外でも徐々に浸透していくのを見るのは,本当に元気づけられることである.子どものマルトリートメントの分野が成熟するにつれ,性虐待を受けた子どもの特別な医学的ニーズを明らかにし,それに対応することにおいて,小児科医が指導的役割を果たし続けている.もうすぐ,米国医学会は,AAPのサブスペシャルティーとして,子ども虐待小児科学という専門分野を正式認定するであろう.多機関多職種連携の活動領域も長い時間をかけて変化し続け,戦略のスペクトラムには,調査をコーディネートすること,法的証拠を収集すること,さらに,性虐待を受けた子どもの医学的ニーズと精神的ニーズに応じることが含まれる.これら全ての変化や医療に対する需要に応じることの難しさはあったものの,AAPと一緒に歩み続けた指導的立場にある小児科医は,子どもの被害者のあらゆるニーズを満たすために必要な多機関多職種専門家連携においても重要なメンバーとして役割を果たし続けた.性虐待の可能性を評価され,必要に応じて,子どもが措置されるのであれば,その子どもは,知識が豊富で技術が高く,感度のよい臨床医に診てもらうべきであると私達は信じている.本書には,高い技術を持った臨床医の専門的知見が集約されており,性虐待を受けた子どものニーズを特定する際の彼らの幅広い経験が,実践的かつ容易に応用できるように記載されている.
この第3版には,子どもの性虐待に関する医学的診断において,科学的な根拠に基づいた知識というものが更新され続けてきた経緯や,性虐待を受けた子どもを診断し,治療する医学的専門家としての役割が洗練されてきた経緯が記述されている.医師であれ,看護師であれ,医療の専門家達は,第一線で子どもと関わる人材であるがために,彼らが専門性を有しているか否かということは,彼らが性行為の証拠(痕跡)を特定できるかどうかにおいて極めて重要な意味を持つ.医療の専門家の意見というものは,子どもが経験したことを十分に理解するために究極的な意義を持つ診断学というジグソーパズルの重要な1ピースである.きちんと記載された医学的診断書や意見書は,虐待として通告された事実の立証や虐待の再発防止だけでなく,心理学的後遺症の治療が必要か否かの判断に寄与する.子どものマルトリートメント以外の分野で,これほどに多機関多職種連携アプローチや他職種との協働を必要とする医学領域はほとんどない.子どもの保護システムを担う多機関多職種の貢献というものがいかに重要であるかという点が,本書を通して強調され続けている.
本書は,医療の専門家だけのために書かれたものではなく,児童相談所の児童福祉司など子どもの保護に関わるソーシャルワーカー,メンタルヘルスの専門家,警察・検察や裁判所の職員のための参考書としても書かれたものである.各分野の専門家には,次の諸点を理解することが責務として課されている.系統的全身診察とはどのようなものなのか,医学的診察はいつ施行するのが適切なのか,病歴がいかに重要か,子どもが開示した内容と医学的所見との矛盾はどのように説明されるのか,診療録はどのように記載されるべきなのか,どのような医学的記録と検査を入手すべきなのか,そして,下された医学的診断は何を根拠としているのかなどに関する理解である.
この最新版には,子どものポルノグラフィーやインターネットといった,急激に広まりつつあるリスクに関する新しい章が含まれている.どのような形態であろうとも,性被害が及ぼす主な衝撃は心理的なものであるため,小児科医が精神療法や心理療法を幅広いスペクトラムの中から選択する時に役立つように心理的評価の章(第10章)も追加されている.また,性虐待の予防に関する最新の内容を補うために,新しい章(第11章)も追加された.この第3版は,単に知識だけでなく,すぐに役立つ新しい情報を臨床実践するのに必要な技術をも提供していて実践的であると,読者に感じていただければ光栄である.
本書が子どもの性虐待を診断する医療現場に具体的な知識を提供し,結果として,バランスのよい客観的で妥当な医学的診断を下せるようになることを寄稿者達は望んでいる.私達は,この非常に価値のある領域に尽力している専門家に敬意を表するとともに,本書に寄与した著者が,みなさんが最良のケアを提供するうえで役立つ情報を提供できていることを期待する.私達の努力が子ども達のためになれば,この上ない喜びである.
Martin A.Finkel,DO
Angelo P.Giardino,MD,PhD,MPH
目次
監訳における序文 /柳川敏彦
原著における前文 Carol D.Berkowitz
原著における序文 Martin A.Finkel,Angelo P.Giardino
編集者紹介
執筆者紹介
訳者一覧
日本における性虐待の現状と対応
柳川敏彦
第1章 子どもの性虐待に関する諸問題
Angelo P. Giardino,Michelle A. Lyn
第2章 医学的評価
Martin A.Finkel
付記 性虐待が疑われた場合の病歴の取り方:
対応の原則と質問の仕方
Martin A.Finkel
第3章 身体診察
Martin A.Finkel
付記 性虐待が疑われた時に:
身体診察に際し,養育者からよく出る質問
コルポスコープ写真のケーススタディー
第4章 子どもの性虐待における身体所見の証拠保存
Lawrence R.Ricci
第5章 小児・思春期の子どもの
性暴力および性虐待における性感染症
Deborah C.Stewart
第6章 子どもの性虐待における法医学的証拠
Vincent J.Palusci,Cindy W.Christian
第7章 性暴力における思春期の問題
Ann S.Botash
第8章 性器肛門診察:
診断に苦慮する鑑別診断
Lori D.Frasier
第9章 子どもの性虐待評価に関する看護師の役割
Eileen R.Giardino,Faye A.Blair
第10章 心理面の問題
Julie Lippmann
第11章 子どもの性虐待の予防と治療
Melissa K.Runyon,Esther Deblinger
第12章 子ども虐待への学際的アプローチ:
地域資源の利用
Philip V.Scribano,Angelo P.Giardino
第13章 子どもの性虐待の医学的評価における法律的問題
John E.B.Myers
第14章 子どもの性的搾取:
認知と予防に関する考察
Sharon W.Cooper
第15章 医療記録の記載方法,通告書の書き方,結論
Martin A.Finkel
略語一覧
索引