
子どもの発育・発達と乳幼児健診
定価:4,950円(税込)
推薦のことば
本書の著者は,日本を代表する小児神経医学の専門家であり,特に神経発達症(発達障害)や心理発達の分野で広く知られています.本書『子どもの心理発達の臨床―定型発達からわかる!アタッチメント症(愛着障害),不登校・不適応の支援と対応』は,子どもの心理発達に関する包括的な知識を提供する1冊であり,基礎理論から臨床現場での応用までを網羅した,子どもの発達を深く理解するための必携書です.
著者は謙虚に「本書は専門書ではなく,専門書を読む準備のための本」と述べていますが,その内容は極めて充実しています.本書では,Piagetの心理発達理論といった基礎知識から,神経発達症やマルトリートメント(子ども虐待)が子どもに及ぼす影響に関する臨床知見や最新の研究成果まで,幅広いテーマが丁寧に解説されています.また,各発達段階で直面する課題や,不登校や不適応といった現代的な問題への具体的な対応策も示されており,子どものこころの健全な成長を支えるための重要な指針を提供しています.
本書は,子育て中の保護者や教育者,医療従事者にとどまらず,心理学を学ぶ学生にとっても,実践的で有益な内容となっています.
Unit 1では,心理発達の基本原則や子ども特有の心理的配慮について,Piagetの発達理論に著者の知見を融合させた科学的な視点から説明されています.さらに,防衛機制を通じて子どもの行動の背景にある心理を読み解く方法や,子ども虐待に関する詳細な解説は,日常的にも役立つ実践的な知識として大いに参考になります.
Unit 2では,定型発達における心理発達課題を年齢ごとに具体的に解説しています.アタッチメント(愛着)形成,しつけ,集団遊び,自我の目覚めなど,子どもの成長過程で直面する課題をわかりやすく説明し,日常生活での対応方法についても触れています.これにより,発達段階に応じた適切な支援が可能になります.
Unit 3では,心理発達からの逸脱が引き起こす様々な問題について,DSM-5-TRに基づいた解説が展開されています.反応性アタッチメント症や脱抑制型対人交流症,不登校や不適応,さらには映像メディア過剰曝露など,現代の子どもたちが直面する課題への理解が深まり,それらにどう向き合うべきかを考えるきっかけを提供しています.
Unit 4では,治療的介入の具体例やペアレントトレーニング,ソーシャルスキルトレーニング(SST)の意義について詳しく説明されています.特に,アタッチメント形成に課題がある子どもに対する多角的なアプローチは,保護者や支援者にとって大きな助けとなるでしょう.
著者の豊富な臨床経験と深い学識が凝縮された本書は,子どもの発達や心理的ケアにかかわるすべての人にとって必読の1冊です.特に臨床家にとっては,日々の実践を支える貴重なガイドとなることでしょう.本書を通じて,多くの子どもとその家族がよりよい未来へと導かれることを心より願っています.
2025年1月
福井大学子どものこころの発達研究センター発達支援研究部門
友田明美
序文
筆者は現在でいう専攻医時代に,自閉スペクトラム症や注意欠如多動症などの神経発達症群の子どもの見方を学ぶ機会があった.しかしながら,診療のなかでは,神経発達症群の症状以外のことを相談されることも多く,不登校に至った子どもも外来に来ることも多かった.いまなら簡単に答えられることでも,当時は対処法もわからず(筆者が)困っていた.
困っていた筆者を救ってくれたのは,冨田和巳氏の講演であった.法政出版から出された『子どもたちの警告~不登校・いじめは日本の文化』『不登校克服マニュアル~助けを求める子どもたち』を読み,神経発達症群に適応反応症(適応障害)の合併のある子どもを理解できるようになった.加えて,筆者に様々なことを教えてくださったのは精神科医の白橋宏一郎先生であったこともあり,精神障害の知識も小児科医にしては豊富で,精神障害の除外も可能であったのは幸運であった.
かくして,筆者自身がわからないのは,神経発達症群の症状でもなければ,精神障害による症状でもないもので,まさに本書で記す心理的な問題による症状であった.保育所の巡回指導で正常な発達の諸問題を学んだり,各種の文献を読みあさることで,筆者がわからなかった諸症状への対処も少しずつ可能となった.こうなってみると,神経発達症群の子どものことで相談を受けても,実は,定型発達の子どもでも同じことが起こる相談事項がたくさんあることもわかるし,時には対処しないほうが好結果を生むこともあるのを学んだ.
本書では,筆者が理解できた子どもの定型発達の心理発達過程を通して,環境要因により病的な心理発達過程にある子どもやその筆者なりの対処法についてふれていきたい.拙著『軽度発達障害の臨床』初版の序文に「本書は専門書ではない.専門書を読めるようになる準備のための本である.それゆえに厳密さや穏当さを欠くところもあるかもしれない」と書いたが,本書も同様である.読者のご批正を受けて,筆者自身も成長したいと思う.
本書は,冨田和巳氏(こども心身医療研究所)の著作や講演からの学びの成果であり,氏に心から深謝するとともに,ご批正をいただきたい.Unit 4は,山形県内で校長を務められた庄司健二氏,養護教諭を務められた土屋隆子氏をはじめとして,筆者の大学院公開ゼミにご参加いただいた教員の実践である.この場を借りて,御礼申し上げたい.
友田明美氏(福井大学子どものこころの発達研究センター)にはマルトリートメントに関して,石井玲子氏(いしい醫院/かみのやま病院)には児童・思春期の精神科学全般に関して,小野寺爽氏(かみのやま病院)には防衛機制に関して,磯村毅氏(スマホ依存防止学会代表)には映像メディアの問題に関してご支援いただき,本書の編集には坂上昭子氏のお世話になった.また,宮城県内,福島県内の小児科医の仲間に,本書の原稿を読んでいただき,理解可能な内容かどうかをご検討いただいた.この場を借りて,厚く御礼申し上げたい.
2025年1月
横山浩之
推薦のことば 友田明美
序文
用語および症例について
Unit 1 心理発達の基本を探る
1-1 心理発達の原則と臨床心理学――心理学にも法則がある
1-2 子ども特有の心理学上の配慮事項――運動発達・認知発達と心理発達にかかわる
1-3 心理的な反応と精神症状――違いは「わかる」か,「わからない」か
1-4 こころの問題による身体症状――しっかり鑑別して治療しよう
1-5 マルトリートメントとは――こころと脳を傷つける
1-6 自傷行為とその対応――みえない苦痛を探し出そう
1-7 自殺企図・自殺とその対応――「あきらめ」を見逃さない
1-8 非行とその対応――マルトリートメントを見逃さない
Unit 2 定型発達の心理発達課題
2-1 心理発達課題とは――年齢に応じたこころの学習がある
2-2 0歳児の課題「アタッチメント形成」――人を無条件に信用する能力
2-3 アタッチメント形成と共同注意――共同注意の遅れは要注意
2-4 1歳児の課題「しつけの基本」――「イヤイヤ期」到来を喜ぼう
2-5 0・1歳児の課題と「からだを使った遊び」――“からだ”と“こころ”が“ことば”を育てる
2-6 2歳児の課題「同世代とのかかわり」――よい習慣を身につける絶好のタイミング
2-7 3歳児の課題「自我の目覚め」――ことばで叱らず表情で叱る.増やしたい行動にきちんと相手をする
2-8 4歳児の課題「ルールを理解して行動する」――学童期に生じる問題に備える
2-9 5歳児の課題「一次反抗期」――「ルールを理解して行動する」からこそ生じる
2-10 8歳児の課題「ギャングエイジ」――集団の意見と個人の意見に折り合いをつける
2-11 思春期前夜の課題「こころの黒板」と思春期の課題「自律」――目を離さずに,手を離す
2-12 青年期の課題「アイデンティティの形成」――形成の失敗例は「引きこもり」かも
Unit 3 心理発達課題からの逸脱で何が起こるか
3-1 反応性アタッチメント症――人を信用できず,人を避ける
3-2 脱抑制型対人交流症――人を信用できず,人を利用して扱う
3-3 アタッチメント症:Zeanahの提唱による――RAD/DSEDの周辺にいる子どもたち
3-4 映像メディアの問題と依存症(嗜虐)――安心して人に依存できない …背景にあるアタッチメント症
3-5 解離症群――心理的に病的な健忘
3-6 心的外傷後ストレス症(PTSD)――トラウマとは死にかかわる体験と性暴力の体験
3-7 不登校と適応反応症――誘因と原因を区別する
3-8 神経発達症群と不登校・不適応――発見の遅れによる不利益
3-9 精神障害と不登校・不適応――誘因がはっきりしない
3-10 心理的諸問題と不登校・不適応――各時期のキーパーソンの存在の重要性
3-11 アタッチメント形成と不登校・不適応――RAD/DSEDから発達性トラウマ障害へ
3-12 しつけの基本と不登校・不適応――反抗挑発症の原因になり得る
3-13 自我の目覚め,一次反抗期と不登校・不適応――ペアレントトレーニング技法を使いこなそう
3-14 群れ(ギャングエイジ)と不登校・不適応――折り合うことを学ばせるために
3-15 思春期前夜の課題と不登校・不適応――背景にある子どもの失望に気がつこう
3-16 思春期の課題と不登校・不適応――自律の失敗は引きこもりを招くかも
Unit 4 治療的介入について
4-1 0歳児の課題の失敗への対応――母親役・父親役の役割分担で対応
4-2 0歳児の課題の失敗に対する父親役(担任)の対応――ペアレントトレーニング技法で手本を作る
4-3 0歳児の課題の失敗に対する母親役(個別指導役)の対応――優しく見守り,手本をみせる
4-4 0歳児の課題の失敗に対する校長の役割――校長のリーダーシップの重要性
4-5 映像メディアの問題による行動異常とその対応――幼児期・学童期・思春期以降で異なる対策
4-6 心理的安定とカウンセリング――トラウマの再体験にならないように
4-7 心理的問題・精神障害を抱える保護者への対応――二つの共感を区別しよう
索引
著者紹介
■ CASE・COLUMN ■
Unit 1 心理発達の基本を探る
CASE1 不登校〔10歳,女子/最終診断;全般不安症(全般性不安障害)〕
CASE2 自傷行為を主訴とした不登校(14歳,女子)
CASE3 緊急性の高い自殺念慮例(9歳,男子)
COLUMN1 筆者がよく用いる心理検査
COLUMN2 摂食症群について
COLUMN3 非行をはじめてみつけたときに……
Unit 2 定型発達の心理発達課題
CASE4 ネグレクトによる運動・精神発達の遅れ(3か月,女児)
CASE5 痙性両麻痺(軽度),言語発達遅滞(11か月,女児)
CASE6 映像メディアの問題による登園しぶり(年中の4歳,男児)
CASE7 ギャングエイジを誤習得したまま青年期に至った女性(21歳,女性)
COLUMN4 マルトリートメントに気が付くために
COLUMN5 心理発達研究における共同注意(広義の共同注意)
COLUMN6 「自我の目覚め」直前の言語発達
COLUMN7 治療的退行とは
COLUMN8 一次反抗期という用語
COLUMN9 保護者のいい分を聞くときに……
COLUMN10 ギャングエイジが障害告知に与える影響
COLUMN11 男女差について
COLUMN12 中1ギャップとは
Unit 3 心理発達課題からの逸脱で何が起こるか
CASE8 反応性アタッチメント症(2歳,女児)
CASE9 脱抑制型対人交流症(4歳,男児)
CASE10 アタッチメント症:選択的なアタッチメント対象がない(1歳9か月,男児)
CASE11 解離性同一症(10歳,男子)
CASE12 不登校に陥った軽度知的発達症(小学3年,女子)
CASE13 極めて高いIQに伴って発症した抑うつエピソード(小学4年,男子)
CASE14 社交不安症(社交不安障害)(中学1年,女子)
CASE15 「1歳児の課題」習得失敗による行動異常(9歳,男子)
CASE16 「自我の目覚め」の課題習得失敗による行動異常(6歳,男子)
CASE17 「ギャングエイジ」の課題習得失敗による不登校(10歳,女子)
CASE18 映像メディアの過剰曝露による不登校から脱却できた例(13歳,男子)
CASE19 映像メディアの過剰曝露による不登校から脱却できなかった例(13歳,男子)
COLUMN13 映像メディアの問題に対する薬物療法
COLUMN14 DSM-5-TRにおける解離症群
COLUMN15 心的外傷後ストレス症(PTSD)の病名のひとり歩き
COLUMN16 登校しぶりの時期と不登校の原因
COLUMN17 映像メディアの問題が不登校の臨床にもたらしたこと
COLUMN18 日本式民主主義
COLUMN19 0・1歳児の課題と自我の目覚め以降の問題の見分けかた
COLUMN20 小1プロブレムへの対応
COLUMN21 性別違和について
COLUMN22 引きこもりとその支援
Unit 4 治療的介入について
CASE20 父の自殺企図に付き合わされたPTSD(小学4年,女子)
COLUMN23 保育所における母親役
COLUMN24 マルトリートメント対応における校長のリーダーシップの重要性
COLUMN25 東日本大震災とPTSD