株式会社 診断と治療社

【4月18日発売予定】子どものトラウマ治療 傷ついた脳を回復する

平成は発達障害,令和はトラウマの時代――.

虐待(マルトリ),いじめ,災害など,子どもを取り巻くトラウマのリスクが拡大しています.本書では,最新の脳科学エビデンスと社会状況をもとに「子どものトラウマとは何か」を解説.さらに,アセスメントの方法や,現場で実践されている治療法を参考動画付きで紹介します.「傷ついた脳」は回復できるのか? その答えが,この一冊に!
  • 福井大学子どものこころの発達研究センター 教授 友田 明美 編集
  • 福井大学子どものこころの発達研究センター 客員教授 杉山 登志郎 編集
定価:
4,950円(本体価格 4,500円+税)
発行日:
2025/04/18
ISBN:
9784787825827
頁:
176頁
判型:
B5
製本:
並製
在庫:
在庫無し

序文

はじめに
~子どものトラウマ治療のいま~

本書は,子どものトラウマ治療のテキストである.「トラウマ(trauma)」とは医学用語では単に傷のことであるが,「こころの傷(心的外傷)」も同じトラウマという用語が用いられるようになった.それは,身体の傷もこころの傷もともに相互に影響を生じるからである.本書を出版する時点における,わが国の子どもの状況を述べておきたい.
わが国において,少子化が続いている.2024年はどうやら,年間出生数70万人を切りそうである(最近の少子化がそのまま続くと,2720年に日本の子ども人口は1人になるという〈吉田 浩:2024年版子ども人口時計〉).ところが,このような極端ともいえる少子化にもかかわらず,以下に列挙するように,子どもの問題は増え続けている.
・不登校は2007年には小学校児童の0.3%,中学校生徒の2.9%であったのに対し,この数年急増し,2023年には小学校児童の2.1%,中学校生徒の6.7%となった(文部科学省調査,2023).
・神経発達症(発達障害)が増え続けていて,通常クラスにも数人いることが普通である.
・いじめをめぐる問題が深刻化していて,しばしば子どもの自死を招いている.
・希死念慮をもつ子どもが増えていて,中学生女子の5割近くに達する.
・マルトリ(虐待やネグレクト)の対応件数はこの数年間,20万件を推移している.
これらの項目はそれぞれ相互に絡み合っているが,多くにおいて,トラウマが関連することに注目してほしい.
特に注意が必要なのはマルトリである.マルトリの実数が対応件数の半分としても10万人であり,すでに何年間も年間出生数の1割をはるかに超えている.その結果,すでに子どものどの現場においても,被虐待児に出会わないということはないという状況が生じている.
一方,その治療の現状はどうか.そもそもマルトリが減らない理由は,これまで治療を行ってこなかったからである.わが国のマルトリへの対応システムには決定的な欠陥があり,子どもの保護だけで,家族への治療を行ってこなかった.マルトリは家族の病理であり,加逆側の養育者もまた,元被虐待児であり,現在は複雑性PTSDという診断の者も多い.
子どものトラウマへの治療は,当然ながら家族への治療も含む必要がある.こうして,わが国の子どもの状況を振り返ると,本書の意義がおのずから明らかになるのではないだろうか.本書は臨床の現場での実践を目的に書かれており,子どもとその家族のトラウマの「今日の治療」である.手元に置いていただき,対応に苦慮する症例に出会ったそのときに,臨床の場でめくって役立てていただきたい.

2025年2月
杉山登志郎

目次

口 絵
はじめに ~子どものトラウマ治療のいま~  杉山登志郎
執筆者一覧

第1章 いわゆる子どものトラウマとは何か? 
 A 傷ついた脳も回復する─マルトリとトラウマの関係と支援─  友田明美
 B 神経発達症(発達障害)とトラウマとの関係  水野賀史
 C いじめの影響は深刻で,長期にわたっている   和久田学
 D 社会の価値感が生む教育虐待  武田信子
 E トラウマとPTSDの違い  倉田佐和
 F マルトリの生物学
  1 エピジェネティクス  藤澤隆史
  2 脳機能画像 マルトリによる脳の変化  滝口慎一郎
  3 脳形態画像 マルトリによる脳の変化  牧田 快

第2章 マルトリの臨床的アセスメント
 A マルトリによって起こる多彩な症状─子どもの場合─  藤澤玲子
 B マルトリによって起こる多彩な症状─大人の場合─  若山和樹
 C 複雑性PTSDの診断  鈴木 太
 D 臨床に役に立つアセスメント,心理テストの活用法  篠崎志美

第3章 子どものトラウマにおける治療と最新情報を知る
 A 治療総論  杉山登志郎
 B インターネット認知行動療法  濱谷沙世
 C TF-CBT(トラウマフォーカスト認知行動療法)  石島洋輔
 D TSプロトコール  杉山登志郎
 E 自我状態療法  杉山登志郎
 F TFT(思考場療法)  森川綾女
 G ホログラフィートーク  嶺 輝子
 H 入院による治療  古橋功一
 I 子どものトラウマに対するナラティブ・プレイセラピー  水島 栄

第4章 共同子育てという視点
 A 施設養育のいま  明石秀美
 B ペアレント・トレーニングによる子どもの実行機能改善  矢尾明子
 C 子どもたちへの社会的スキル促進のための介入  山本知加

Index
おわりに  友田明美

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