株式会社 診断と治療社

かかりつけ医のための認知症診療テキスト 改訂第2版

認知症1000万人時代の到来に伴い,今や認知症はまずかかりつけ医が診るべき疾患として定着してきている.本書はそうした先生方に向けて企画された入門書である.認知症診療に関する臨床上のノウハウから社会資源の活用までを一挙網羅し,認知症を学びたい誰にとっても有益な書となっている.日々多忙な先生はまず「実践編」を,より詳しく知りたい事柄については「基礎編」を読むことで理解を深められるよう構成した.
  • 順天堂大学大学院医学研究科認知症診断・予防・治療学講座 客員教授/医療法人社団カワムラヤスオメディカルソサエティ河村病院 医師/くどうちあき 脳神経外科クリニック 医師/メモリークリニックお茶ノ水 医師 田平 武編著
定価:
4,620円(本体価格 4,200円+税)
発行日:
2023/11/07
ISBN:
9784787826152
頁:
164頁
判型:
B5
製本:
並製
在庫:
在庫あり
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序文

推薦の序

 認知症新時代に応える本に化けた! これが改訂された本書読了後の第一印象である.近年は認知症関連の成書がとても多いなか,本書なら誰が読んでもそれぞれに面白いはずだ.なぜなら,認知症学に関わる基礎と臨床の知識が絶妙のバランスで盛り込まれているうえ,臨床脳科学のトピックスに関するわかりやすい記載まであるからだ.認知症に関わる学問の基盤には,脳神経内科学,精神医学,老年医学,神経心理学に加えて,基礎医学としての神経病理学や脳科学がある.これらに近年の進歩の説明も加筆された.しかも,これらが田平先生の語り口で講義するかのように緻密に表現されている.
 認知症の世界はまさに日進月歩.最重要はアデュカヌマブ(Aducanumab)やレカネマブ(Lecanemab)といった疾患修飾薬の登場であろう.今日では,これらを使ってアルツハイマー病の適切な治療ができることが求められる.まずは正しくアルツハイマー病を診断すること.易しそうだが,認知症医療の場では,どの患者さんもアルツハイマー病に思えてくるという落とし穴がある.つまり「似て非なるもの」への注意が必要である.ここが本書では絶妙の目配りでまとめられている.具体的には,今回新たに加わった原発性年齢関連タウオパチー(PART),レビー小体型認知症(DLB)の診断基準,疾患修飾薬,特に日本人のCADASIL(cerebralautosomaldominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy)の遺伝子変異への注意である.しかも本書の作成にあたって,広く読者に認知症を理解してもらえるように日本認知症学会専門医の問題集を参考にされたと聞く.
 本書のような専門書は,特に一人の筆者によれば,ともすれば「木を見て森を見ず」か「森を見て木を見ず」になりがちだ.ところが本書ではそれがない.本書はすべてが一人の筆者によって書かれているだけに認知症学としての一貫性があり,かつ漏れがない.これは以下に示す田平先生の学術的な個人史を考えればさもあらんと思える.先生は,九州大学医学部ご卒業のあと,同大学の神経内科で初期トレーニングを積まれ,中枢神経系免疫疾患を中心に研究生活に入られた.アメリカ留学から帰国され,30 代半ばにして現在の国立精神・神経医療研究センターの神経研究所の部長に就任されている.そこでは免疫疾患ばかりでなくアルツハイマー病の基礎研究にも邁進された.特にアミロイドワクチンの開発には心血を注がれ,世界のトップレベルと目されている.その後は国立長寿医療研究センターの研究所長を経て,順天堂大学,さらに第一線の医療機関で臨床活動も続けてこられた.そして今なお定期的な認知症診療,さらに定期的な認知症勉強会を牽引され,司会も質問も助言もされる.こうしたご経験から,本書では認知症学全体がほどよく融合され熟成している.
 あなたが初学者か基礎医学者なら,本書は認知症学の入り口から中級レベルまで一気に導いてくれるだろう.専門家なら,今さら人に聞けない基礎医学の知識や希少疾患の概要がスイスイと頭に入ってくることだろう.加えて本書では,老年医療の基本知識,介護保険制度まで紹介されている.
 このように,本書は認知症を学びたい誰にとっても有益なテキストに仕上がっている.認知症学における座右の書として,ぜひともお勧めしたい.

2023 年9 月
筑波大学名誉教授
朝田 隆



まえがき

 総務省統計局「人口推計」によると,わが国の65 歳以上の高齢者人口は3,627 万人となり,総人口の29.1% を占める(2022 年9 月15 日現在推計).これに2013 年に厚生労働省が発表した高齢者の認知症有病率15% をかけると,認知症高齢者は544 万人となる.これに若年性認知症および軽度認知障害(MCI)の人数を加えると,認知症および認知症予備軍の人は約1 千万人と推計される.
 一方,日本認知症学会の認知症認定専門医は令和5 年4 月現在2,077 人,日本老年精神医学会の高齢者のこころの病と認知症に関する認定専門医は943 人で,合計すると3,020 人となり,この10 年でほぼ倍増している.とはいえ,この数字は相変わらず専門医1 人につき3,300 人あまりの認知症患者とMCI の人を担当する計算になる.仮に1 人の専門医が月曜から金曜日まで毎日10 人の新患を診たとしても,全員を診るのに1.3 年以上かかる計算になる.10 年前の筆者の試算では2 年以上であったので,負担はかなり軽減されてはいるが,依然として非現実的な数字である.したがって,今後は「かかりつけ医」,「認知症サポート医」が果たす役割が極めて重要になる.診断や治療・ケアがむずかしい症例は専門医に委ねるとしても,典型的な症例や診断・治療が容易な症例は始めからかかりつけ医,サポート医に委ねられる.また,専門医が診断した患者の日常診療を受けもつことも期待される.
 このような状況にあって,これからはかかりつけ医,サポート医に対する認知症専門研修がますます盛んになるものと予想される.本書はそういった先生方のためのスキルアップテキストとして書かれた.また,これから認知症専門医の資格をとろうと考えている研修医にも役立ち,さらには認知症認定看護師養成のための認知症病態論のテキストとしても利用できる.
 日ごろ多忙なかかりつけ医,サポート医の先生にはまず「実践編」をお読みいただき,自信をもって認知症患者を診ていただきたい.そして,より詳しく知りたい事柄については「基礎編」を読んでいただき,さらに理解を深められるよう構成した.最近は家族がインターネットを利用してかなり詳しい情報を仕入れてくる.かかりつけ医といえども一定の知識を身につけておく必要があろう.そのための知識として,本書では「患者対応の方法」だけでなく,ある程度踏み込んだ専門的知識も「基礎編」に取り入れている.避けては通れない「老化」と「アンチエイジング」,「老年医学」にも言及した.
 なお,「認知症の人」という言い方は社会生活のうえでは妥当と考えられるが,筆者は認知症をあくまでも病気として捉えており,認知症を有する人は医療行為の対象になると考えている.したがって,本書では「認知症の人」と「認知症患者」を使い分けている.また,治療薬は一般名で記すことが原則でありそれに従った.認知症治療薬もジェネリック品が多く出て,ジェネリック品は一般名を用いていることにご注意いただきたい.同じ薬品でも多数の商品があるので,筆者が日頃使用している薬を中心に記載している点ご了解いただきたい.

2023 年9 月
順天堂大学大学院医学研究科認知症診断・予防・治療学講座 客員教授
医療法人社団カワムラヤスオメディカルソサエティ河村病院 医師
くどうちあき脳神経外科クリニック 医師
メモリークリニックお茶の水 医師
田平 武

目次

推薦の序
まえがき
著者略歴

実践編
第1章 認知症診療の実践―総論
 A 認知症における包括的医療,ケアのための医師の役割
 B 認知症とは
 C 「認知症」という言葉
 D 認知症の初期が疑われる症状
 E 認知症の中核症状
  1 記憶障害
  2 失語
  3 失読,失書
  4 失行
  5 失認
  6 構成障害
  7 注意,意欲,判断障害
  8 実行機能障害
  9 感情,情動障害
  10 社会的認知障害
  MEMO 注意障害
 F 認知症の行動・心理症状(BPSD)
  1 おもなBPSD
  2 BPSDの悪化要因
  MEMO BPSD①─要約
 G せん妄
  MEMO せん妄─要約
 H 認知症の生活機能障害
 I 認知症の診察
  1 問診票
  2 病歴聴取
  3 一般理学的診察
  4 神経学的診察
 J 認知症の検査
  1 認知機能検査
  2 抑うつ状態の評価
  3 一般検査
  4 画像検査
 K 認知症の診断
  1 診断基準
 L 認知症の告知
 M BPSDの対応
  1 BPSDの一般的アプローチ
  2 BPSDの個別的アプローチ―家族へのアドバイスを中心に
  MEMO BPSD②─予防のための一方策
  MEMO BPSD③─対応方針
  3 BPSDの薬物療法
 N せん妄の治療
  1 誘発因子の除去
  2 せん妄の薬物療法
 O 認知症患者,家族に対する指導
 P 認知症かかりつけ医,認知症サポート医の役割
  1 認知症かかりつけ医の役割
  2 認知症サポート医の役割

第2章 認知症診療の実践―各論
 A おもな認知症疾患
  1 アルツハイマー型認知症(AD)
  MEMO リバスチグミンパッチの使用経験
  2 若年性アルツハイマー型認知症(若年性AD)
  3 他疾患の合併
  4 非定型アルツハイマー型認知症(非定型AD)
  5 血管性認知症(VaD)
  6 レビー小体型認知症(DLB)
  7 前頭側頭葉変性症(FTLD)
  8 進行性核上性麻痺(PSP)
  9 大脳皮質基底核変性症(CBD)
  10 嗜銀顆粒性認知症(AGD)
  11 神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)
  12 特発性正常圧水頭症(iNPH)
  MEMO ADとiNPH
  13 内科疾患と認知症
  MEMO ペラグラの症例
 B 「主治医意見書」の書き方
  1 「主治医意見書」記載の準備
  2 「主治医意見書」記載の実際

第3章 認知症診療の実践―症例
 症例 1 休養のみで軽快した老年症候群としてのせん妄(86歳,男性)
 症例 2 SPECTが早期診断に有用であった症例(55歳,男性)
 症例 3 進行が早い若年性AD(51歳,男性)
 症例 4 ADの治療①(73歳,男性)
 症例 5 ADの治療②(76歳,女性)
 症例 6 ADの治療③(85歳,女性)
 症例 7 薬剤誘発性せん妄を示したDLB(76歳,女性)
 症例 8 急激な幻視の悪化をきたしたDLB(84歳,女性)
 症例 9 認知症の進行に伴うBPSDの治療(90歳,女性)
 症例10 メマンチン塩酸塩が著効したADのFTDバリアント(84歳,女性)
 症例11 性的逸脱行動の治療(76歳,女性)
 症例12 帰宅願望に対して生活指導が有効であった症例(87歳,男性)
 症例13 BPSDの強いVaD(83歳,女性)
 症例14 失語症が強いAD(59歳,男性)
 症例15 大脳皮質基底核症候群 (CBS)-AD(77歳,男性)
 症例16 ADとの鑑別を要したタウオパシー(80歳,男性)
 症例17 後部皮質萎縮症(PCA)の症例(63歳,女性)
 症例18 正常圧水頭症(NPH)を合併した血管性因子の強い初期AD(68歳,男性)
 症例19 進行性核上性麻痺(PSP)が疑われたAD(84歳,女性)
 症例20 もの忘れで発病した脳腫瘍(64歳,女性)

基礎編
第1章 認知症診療の基礎―総論
 A 老化
  1 老化の定義
  2 加齢と老化
  3 老化の学説
  MEMO 世界一長生きした人
  4 遺伝的早老症
  5 脳の老化
  MEMO HMさん
  MEMO 一過性全健忘
  6 老化のメカニズムとアンチエイジング
 B 老年医学
  1 高齢者医療の特徴
  2 老年症候群
  3 認知症高齢者に合併しやすい精神・神経症状,身体症状
  4 高齢者の検査値の変化と意義
  5 高齢者の栄養
  6 高齢者医療における生活機能障害
  MEMO CGAを利用した包括的全人的医療の例
  7 高齢者の薬物療法
  MEMO てんかん

第2章 認知症診療の基礎―各論
 A 認知症診療の評価スケール
  1 認知機能の評価
  2 記憶機能の評価
  3 前頭葉機能遂行機能の評価
  4 日常生活動作(ADL)の評価
  5 BPSDの評価
  6 意欲の評価
  7 介護者の介護負担感の評価
  8 うつの評価
 B 認知症診断に用いる特殊検査
  1 FDG/PET
  2 MIBG心筋シンチグラフィ
  3 アミロイドイメージング
  4 タウイメージング
  5 血液検査,髄液検査
  6 脳波検査
 C DSM-5における認知症の診断基準
  1 認知症の診断基準―定義と分類
  2 認知症と軽度認知障害の診断基準
  3 アルツハイマー型認知症(AD)の診断基準
 D 社会資源
  1 介護保険制度
  2 施設
  3 介護職
  4 介護サービス
  5 介護予防サービス
  6 成年後見制度
  7 施策
 E 認知症認定看護師の使命
 F 認知症疾患
  1 アルツハイマー型認知症(AD)
  2 軽度認知障害(MCI)
  3 血管性認知症(VaD)
  4 レビー小体型認知症(DLB)
  5 前頭側頭葉変性症(FTLD)
  MEMO ピック病
  6 進行性核上性麻痺(PSP)
  7 大脳皮質基底核症候群(CBS)
  8 嗜銀顆粒性認知症(AGD)
  9 神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)
  10 辺縁系優位型加齢性TDP-43脳症(LATE)
  11 石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病(DNTC)
  12 特発性正常圧水頭症(iNPH)
  13 ハンチントン病
  14 クロイツフェルド・ヤコブ病(CJD)
  15 神経梅毒(進行麻痺)
  MEMO 梅毒検査
  16 単純ヘルペス脳炎
  17 非ヘルペス性辺縁系脳炎
  18 脳腫瘍
  19 慢性硬膜下血腫
  20 アルコール関連障害
  21 海馬硬化症性認知症(HSD)
  22 頭部外傷による認知症
  23 認知症との鑑別が必要な高齢者の精神疾患

文献
あとがき

和文索引
欧文索引

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