株式会社 診断と治療社

【4月1日発売予定】心不全治療薬レベルアップセミナー

心不全治療薬には,各専門領域における使用上の原則や留意点があります.本書では,心不全治療薬を5つのレベルに分け,各レベルの代表的な薬剤の特徴と使用法を丁寧に解説しました.「自分で新しく心不全治療薬を処方してみよう」というコンセプトではなく,飲んでいる薬から,「どんな心不全なのか?」を想起でき,「この薬はこういう意図だろうな」「この患者さんは注意が必要だぞ」などと評価できるようになることが目標です.
定価:
4,950円(本体価格 4,500円+税)
発行日:
2025/04/01
ISBN:
9784787826923
頁:
192頁
判型:
A5
製本:
並製
在庫:
在庫無し

序文

序 文
循環器といえば以前は「虚血性心疾患に血行再建術! ステント治療!」だったのに対して,今では慢性冠動脈疾患に対して血行再建術を盲目的に推奨するのは「かっこ悪い」時代となりました.大動脈弁をはじめとしてカテーテルで弁膜症の治療をすることが当たり前となり,心不全を診る多職種でのチームが当たり前のように各大学・病院にできあがりました.私が医師になってからで,これだけの循環器領域に対する意識が変わるとは想像していませんでした.
中でも,心不全に関する治療薬の進歩は目を見張るものがあります.フロセミドしかなかった時代から,今は昔,禁忌とされているβ遮断薬を入れることが当たり前となった時代を経て,今では「Fantastic Four」といわれるなんか強そうな名前がつけられるようにまでになりました.
薬のエビデンスの一般的なところはどの本にも記載されています.本書では現場で処方されている薬を見たときにどのように考えるのか.なぜ処方されているのか? ジェネラリストの先生方からすると,ポリファーマシー醸成所とされてしまうかもしれない心不全の領域でどのように考えながら処方しているのか.ぜひ本書を参考に,薬がどのように出されているのか,心不全の薬剤についての暗黙知を共有したいと思います.
今回は我々の病院が誇るエース,伊佐幸一郎先生に執筆してもらいました.心不全の治療は現場が命.現場の視点からまとめてくれているのでぜひご覧ください.


2025年2月
聖路加国際病院
水野 篤



はじめに
まずはじめに,本書は決して心不全の全てを知ることができる専門書ではありません.心不全の臨床現場で遭遇する薬の視点から心不全を理解しようとする,一つの見解を示すものです.
私はまだまだ駆け出しの循環器内科医にすぎません.しかし,心不全診療の「よくわからなさ」や「とっつきにくさ」を直近で痛感してきた苦い経験があります.本書は主に初期研修医,専攻医,非循環器専門医の先生方,コメディカルのみなさんが,私のようにとっつきにくさを感じた心不全診療に取り組むきっかけとなるような入門書として執筆しました.
心不全治療はここ半世紀で大きな変革を遂げたといわれています.利尿薬主体の「目に見える治療」から,「心臓を休ませる」,「予後を改善させる」ことの重要性が認識されるようになり,いかに心保護薬・予後改善薬といった「目に見えない治療」を導入するかの勝負となりました.心不全の複雑な病態に対応するため,多彩な作用機序の薬剤が登場してきています.左室機能の低下した心不全では,それだけで5種類以上の薬剤が投与され,重症例では10剤を超えることもまれではありません.総合診療領域でポリファーマシーを問題視されているのと対照的です.
心不全治療薬には,各専門領域における使用上の原則や留意点があります.例えば,ただ血圧が低いからといってβ遮断薬を中断したり,カリウムが高いからという理由でACE阻害薬を中断したりすることは適切とされていません.このような心不全治療薬の使用における重要なポイントを明確にし,共有できるようになることを目指したのが本書です.
つまり,「自分で新しく心不全治療薬を処方してみよう!」というコンセプトではなく,心不全の患者さんが飲んでいる薬から,どんな心不全なのか? を想起でき,この薬はこういう意図だろうな,この患者さんは注意が必要だぞ,などとざっくりと評価できるようになることが目標です.そうなることで,循環器専門医とのコミュニケーションも円滑になり,よりよいチーム医療が実践できるのです.
さて,例えば下記の常用薬のある患者さんを担当したとしましょう.

アスピリン100mg 1回1錠1日1回朝食後
ボノプラザン10mg 1回1錠1日1回朝食後
アゾセミド30mg 1回1錠1日1回朝食後
エナラプリル2.5mg 1回0.5錠1日1回朝食後
カルベジロール1.25mg 1回0.5錠1日1回朝食後
スピロノラクトン25mg 1回0.5錠1日1回朝食後
ダパグリフロジン10mg 1回1錠1日1回朝食後
ジゴキシン0.125mg 1回1錠1日1回朝食後
ピモベンダン2.5mg 1回1錠1日2回朝・夕食後
エドキサバン30mg 1回1錠1日1回朝食後

どんな印象を持ったでしょうか? なんだか心臓の薬をたくさん飲んでいるなあ,という感じでしょうか.
本書を読み終えた結果,受け取る印象がきっと変わるはずです.
心不全は現代社会で急増している疾患で,まさに「慢性心不全パンデミック」といわれるほどです.そんな現代において,心不全診療に携わる機会はますます増えています.循環器専門医ではなくとも,心不全について正しい知識を持ち,適切な治療を行うことが求められています.本書が,読者にとって心不全治療薬の理解を深めるよきパートナーとなることを願ってやみません.


聖路加国際病院心血管センター
伊佐幸一郎

目次

序文
はじめに
編集者・著者プロフィール
略語一覧

第1章 心不全の診断と治療
 1 心不全診療のoverview
第2章 心不全治療薬
 2 レベル説明
  レベル1 絶対に使いこなせるようになりたい急性期の薬剤
 3 ループ利尿薬
 4 硝酸薬
  レベル2 エビデンスが確立している,投与必須の慢性期管理の薬剤
 5 ACE阻害薬
 6 ARB
 7 ARNI
 8 β遮断薬
 9 MRA
 10 SGLT2阻害薬
  レベル3 レベル1~2に追加して使う薬剤
 11 ジゴキシン
 12 経口強心薬
 13 Ca拮抗薬
 14 バソプレシンV2受容体拮抗薬
  レベル4 循環器集中治療で用いられる静脈注射薬剤
 15 抗不整脈薬(アミオダロン)
 16 ランジオロール
 17 ドブタミン
 18 PDE III阻害薬
 19 ドパミン
 20 カルペリチド
  レベル5 専門家の間でも議論のある薬剤
 21 HCNチャネル阻害薬(イバブラジン)
 22 GLP-1受容体作動薬
 23 sGC刺激薬(ベルイシグアト)
  エピローグ
 24 まとめ:処方薬から患者の病態を推し量る

コラム
 利尿薬のコンビネーションとNa利尿
 血管拡張薬と長期予後
 日本人はACE阻害薬が嫌い?
 特殊な効果を持つARB
 ARNIの実臨床でのポイント
 β遮断薬はHFpEFには投与しないべきなのか,してもよいのだろうか?
 これからのMRA
 SGLT2は革命的な変化をもたらした
 ジギタリスとこれから
 経口強心薬とこれから
 Ca拮抗薬の投与をどうするか?
 長期予後では効果が示せなかったが,興味深い薬剤
 循環器専門かどうかはアミオダロンを使えるかどうかで決まる
 ランジオロールの適応について
 ドブタミンは心不全の薬剤の中の王道中の王道
 PDE III 阻害薬の位置づけ
 ドパミンの時代は終わった?
 カルペリチドとANP
 イバブラジンが与えてくれた示唆
 Cardio-Kidney-Metabolic health
 結局,神経ホルモン系

索引

関連書籍

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