多様な有用性をもつボツリヌス治療を解説したシリーズの改訂版.初版以降,「2歳以上の小児脳性麻痺児における下肢痙縮に伴う尖足」「上肢痙縮・下肢痙縮」が相次いで追加適応となり,治療の幅が広がってきている.本書では,治療の知識と手技の実際を,わかりやすい図や写真を使って解説.また長期予後の観点からリハビリテーションの項目を新たに追加した.運動障害児の診療に携わる医師のみならず,看護師,リハビリテーションスタッフにもわかりやすい内容となっている.
関連書籍
ページの先頭へ戻る
目次
目 次
総監修の言葉 /梶 龍兒
改訂第2版の編集にあたって /根津敦夫
執筆者一覧
第1章 ボツリヌス毒素の基礎知識と最近の知見
/目崎高広
1.歴 史
2.ボツリヌス症(botulism)
3.毒素の構造と作用機序
4.治療実施手順
5.抗毒素抗体の検査法
6.最近の知見
第2章 小児へのボツリヌス治療総論
/根津敦夫
1.どのような小児を治療すべきか
2.ボツリヌス治療の適応となる病状
3.慎重投与
4.治療前の確認事項
5.治療の実施
6.治療実施の際の注意事項
7.副作用・有害事象について
8.治療効果の評価
9.まとめ
第3章 脳性麻痺にみる痙縮・強剛総論
/君塚 葵
1.定義および早期発見
2.脳性麻痺の分類
3.神経病理
4.治 療
第4章 上肢痙縮の治療
/根津敦夫
1.どのような小児をボツリヌス治療すべきか
2.治療目標の設定
3.用法・用量
4.手指痙縮の治療
5.手関節屈曲痙縮の治療
6.回内痙縮の治療
7.肘屈曲痙縮の治療
8.肩甲帯引き込み痙縮の治療
9.治療後の評価と再投与の基準
10.ボツリヌス治療後の作業療法
11.治療事例
第5章 下肢痙縮の治療
/根津敦夫
1.どのような小児を治療すべきか
2.治療目標の設定
3.用法・用量
4.下腿筋痙縮の治療
5.膝関節屈曲痙縮の治療
6.大腿内転痙縮の治療
7.股関節屈曲痙縮の治療
8.治療後の評価と再投与の基準
9.ボツリヌス治療後の理学療法
10.治療事例
第6章 重症心身障害児(痙性斜頸を含む)の治療
/井合瑞江
1.治療目的
2.用法・用量
3.重症心身障害児(痙性斜頸を含む)の治療
4.注意事項
5.治療効果の評価尺度
6.治療効果・長期的予後
7.有害事象
8.治療事例
第7章 ボツリヌス治療を生かしたリハビリテーション
/花井丈夫
1.脳性麻痺に対する理学療法の概説
2.ボツリヌス治療への療法士の関与
3.ボツリヌス治療後の訓練プログラム
4.治療事例
付 録:横浜療育医療センター・ボツリヌス外来 治療実施計画書
索 引
Column
四肢痙縮治療における筋選択の問題
側彎治療における筋選択の問題
超音波画像か? 筋電図か?
神経筋接合部の分布と投与方法
長期のボツリヌス治療は筋肉を萎縮させるか?
腸腰筋と腰背部痛との関係
ボツリヌス治療が脳の可塑性に与える影響
海外での小児脳性麻痺に対するボツリヌス治療の現状
日本での小児脳性麻痺に対するボツリヌス治療の現状
重症心身障害児の治療は誤嚥性肺炎を誘発するか? 軽減するか?
ページの先頭へ戻る
序文
総監修の言葉
わが国でのボツリヌス毒素療法は,1980年代後半から臨床試験が始まり,1996年に眼瞼痙攣に対しての治療が認可されて以来,2000年に片側顔面痙攣,2001年に痙性斜頸,2009年に小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足,2010年に上肢痙縮・下肢痙縮に対して適応が拡大されてきた.使用に関してはいまだ厳しい制限が課せられているものの,海外では本治療法に関する研究は進歩を続けて治療効果をあげている.
こういった時代背景を鑑み,近年,わが国でもボツリヌス毒素療法に対する保険適用疾患が拡大されつつあり,著効例も多く報告されるようになってきた.
しかし,治療を受ける患者側のニーズも高まっているなかで,事故事例なども報告されており,治療を施す医師は正しい知識と手技を身に付け,安全かつ適正に実施しなければならない.さらに,ボツリヌス毒素療法は様々な診療科において実施されているため,それぞれの領域での専門知識の習得も必要不可欠である.
そこで,ボツリヌス毒素療法を診療科ごとに取り上げ,手技・コツ・禁忌事項などを盛り込むとともに,写真・イラストを用いて多数の症例をわかりやすく解説したシリーズを企画するに至った.総監修者としては,まずシリーズ構成を決定し,各巻診療科別にその領域の第一人者の先生方に編集をお願いした.
今回発刊された『小児脳性麻痺のボツリヌス治療 改訂第2版』はその第一弾の改訂版である。
本書が有効に活用され,ボツリヌス毒素療法の発展に寄与することを心より祈願している.
2012年4月
徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部感覚情報医学講座
臨床神経科学分野(神経内科)
教授 梶 龍兒
改訂第2版の編集にあたって
改訂第2版を発刊するにあたり,初版と同じ「小児脳性麻痺のボツリヌス治療」の表題にしたのだが,実際には小児脳性麻痺だけでなく,さまざまな後天性脳障害による痙縮やジストニアに対しても,ボツリヌス治療は大変有効である.本書は,そのような運動障害児の診療に携っている医師が,効果的かつ安全にボツリヌス治療を行うための必要な知識と手技を解説している.さらに第2版では,この3年間に蓄積された豊富な治療経験なども数多く紹介することができた.また,ボツリヌス治療を詳しく学びたい看護師やリハビリテーションスタッフにとっても,決して難しくない内容になっているので,是非治療の理解を深める上で役立てていただきたい.
医師が行うボツリヌス治療だけで長期予後が予想したほど改善しないことは,欧米ではすでに周知されている.すなわち,それぞれの患児に適した治療目標の設定,生活指導,リハビリテーション,治療評価などが,介護者や多職種のスタッフとの連携によって施行されなければ,長期予後は改善しないのである.特にリハビリテーション訓練については,ボツリヌス治療によって痙縮筋が弛緩された状態を活かし,拮抗筋の筋力をできるだけ増強させることが,長期予後にとって重要である.今回の改訂では,この視点に立って内容を一部変更した.また,初版ではやや小さく不明瞭であった図譜などは,今回できるだけわかりやすく改良し,文献については2011年9月末までに入手したものを掲載した.
初版が刊行された2008年12月,わが国でボツリヌス治療を受けていた脳性麻痺児は,まだ少数の痙性斜頸を伴う患児に限られていた.その後2009年2月に,念願であった「2歳以上の小児脳性麻痺における下肢痙縮に伴う尖足」の追加適応が公知申請によって承認され,2011年6月までに全国で約3,300名の患児が治療を受けることができ,予想どおりの急速な普及をみている.さらに,国内多施設共同で行われた無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験の結果に基づいて,2010年10月に「上肢痙縮・下肢痙縮」の追加適応が承認されるに至り,脳性麻痺のみならずどのような後天性脳・脊髄障害が原因であっても,必要な部位に投与することが可能な時代になり,今後ますます治療の需要が高まっていくことが予想される.
現在,ボツリヌス治療が抱える大きな問題のひとつは,治療に携わる医師の不足である.ボツリヌス治療は,一度習得すれば手技的には簡便で,かつ比較的安全に行える治療ではあるが,この治療を手がける医師は依然相対的に不足している.確かに治療には時間もかかり,多職種との連携システムの構築も必要である.脳性麻痺だけでも常に1,000出生あたり約2人の割合でみられ,始めたらキリがない.そうでなくても小児科医は忙しいし,リハビリテーション科医や整形外科医も同様に忙しいのである.そのような現状であるが,近い将来,治療を必要とするすべての運動障害児が,早い段階から適正なボツリヌス治療の恩恵に与れて,少しでもquality of lifeを高められるようにすることが,医療先進国を自負するわれわれの責務であると考える.本書が,運動障害児のよりよい成長・発達に,少しでも貢献できることを心から祈って止まない.
2012年4月
横浜療育医療センター
センター長 根津敦夫