耳鼻咽喉科・頭頸部外科医である筆者らが長年に亘って超音波で診断し外科的治療で診断結果を確認しながら集積してきた症例から,厳選した400を超える超音波像を提示.耳下腺,顎下腺,口腔・中咽頭,下咽頭・頸部食道,甲状腺,神経原性腫瘍,その他の頸部腫瘤など,頭頸部超音波診断における重要領域を網羅.特にリンパ節に重点をおき,日常臨床検査で頻度の高い主要疾患の症例を中心に解説した.医師のみならず超音波診断に関わるすべての医療者必携の,臨床現場で確実に役立つ一冊.
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目次
Ⅰ 総 論 検査装置の選択と基本手技
Ⅱ 各 論
1 耳下腺
●炎症性疾患
1 急性耳下腺炎
2 急性耳下腺炎後(耳下腺管拡張残存)
3 流行性耳下腺炎(ムンプス,おたふくかぜ)
●Sjögren症候群
1 Sjögren症候群
●腫瘍性疾患
A 良性腫瘍
1 耳下腺多形腺腫
2 Warthin腫瘍
3 耳下腺囊胞
B 悪性腫瘍
1 粘表皮がん
2 腺様囊胞がん
3 腺房細胞がん
4 腺がんNOS
5 扁平上皮がん
6 多形腺腫由来がん
7 耳下腺悪性リンパ腫
8 その他の耳下腺悪性腫瘍
2 顎下腺
●炎症性疾患
1 急性化膿性顎下腺炎
2 慢性顎下腺炎
3 顎下腺唾石症
4 慢性顎下腺炎と唾石症
●慢性硬化性顎下腺炎(Küttner腫瘍),IgG4関連疾患
1 慢性硬化性顎下腺炎
●腫瘍性疾患
A 良性腫瘍
1 多形腺腫
B 悪性腫瘍
1 腺がん
2 大細胞がん
3 腺様囊胞がん
4 多形腺腫由来がん
3 舌下腺
●囊胞性疾患
1 がま腫
●腫瘍性疾患(舌下腺腫瘍)患
1 舌下腺がん
4 口腔・中咽頭
●炎症性疾患
A 口腔・中咽頭炎症性疾患
1 扁桃炎
●腫瘍性疾患
A 口腔腫瘍(舌腫瘍を含む)
1 舌がん
2 頰粘膜がん
B 中咽頭腫瘍
1 中咽頭がん
2 中咽頭悪性リンパ腫
5 下咽頭・頸部食道
1 下咽頭がん
2 下咽頭頸部食道がん
3 頸部食道がん
4 胸部食道がん
6 喉頭
●喉頭がん進行例
1 喉頭がん(声門下進展)
2 喉頭がん(傍声帯間隙進展,甲状軟骨浸潤)
3 喉頭がん(舌根部浸潤)
7 甲状腺
●びまん性病変を呈する疾患
1 Basedow病
2 橋本病
●結節(腫瘤)性病変を呈する疾患/良性
1 腺腫様結節,腺腫様甲状腺腫
2 濾胞腺腫
3 甲状腺囊胞
●結節(腫瘤)性病変を呈する疾患/悪性
1 甲状腺乳頭がん
2 甲状腺濾胞がん
3 甲状腺未分化がん
8 リンパ節
●炎症性・反応性リンパ節腫脹
1 急性化膿性リンパ節炎
2 亜急性壊死性リンパ節炎
(組織球性壊死性リンパ節炎,菊池病)
3 反応性過形成
4 頸部リンパ節結核
●腫瘍性疾患によるリンパ節腫脹
1 悪性リンパ腫
2 頭頸部扁平上皮がんのリンパ節転移
3 扁平上皮がん以外のリンパ節転移
9 神経原性腫瘍
A 頸部神経鞘腫
1 迷走神経鞘腫
2 頸神経鞘腫
3 腕神経鞘腫
4 舌下神経鞘腫
5 頸部交感神経鞘腫
B 傍神経節腫
1 頸動脈小体腫瘍
10 その他の頸部腫瘤
A 囊胞性疾患
1 正中頸囊胞(甲状舌管囊胞)
2 側頸囊胞
3 類表皮囊胞,類皮囊胞
4 粉瘤(表皮囊胞,アテローマ)
B 脂肪腫
1 脂肪腫
C 血管腫
1 血管腫
11 鼻・副鼻腔
●炎症性疾患
1 副鼻腔炎(小児)
●囊胞性疾患
1 副鼻腔囊胞
2 歯原性囊胞
●腫瘍性疾患
1 上顎洞がん
2 鼻腔がん
Ⅲ 付 録 1:超音波ガイド下穿刺吸引細胞診・組織診
2:超音波ガイド下中心静脈穿刺のために必要な知識
索引
Check!
アーチファクト
耳下腺腫瘍の質的診断
耳下腺腫瘍の局在診断
耳下腺多形腺腫とWarthin腫瘍の鑑別
低~中悪性度の耳下腺悪性腫瘍
高悪性度の耳下腺悪性腫瘍
唾液腺腫瘍の良性・悪性鑑別診断
経口的走査
下咽頭がん再建後(遊離空腸)
経鼻胃管(フィーディングチューブ)の確認
頸部リンパ節腫脹超音波診断の進歩
悪性リンパ腫超音波像の特徴
頭頸部扁平上皮がんのリンパ節転移における超音波像の6つの特徴
頭頸部がん術前評価における超音波検査
腫瘍の存在部位確認のコツ
交叉法のトレーニング
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序文
耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域は,かつては病変の視診,触診が診察の主体であり,画像診断の導入がやや遅れた領域であった.その後,CTスキャンを中心にさまざまな画像診断が行われるようになった.その中でも超音波診断は触診の延長線上にある検査であり,診断装置の簡便化と画質の向上に伴い,手軽で非侵襲的な検査として,目覚ましい普及を遂げた.リアルタイムに動画像で病変部を観察可能で,血流,癒着や浸潤の有無,触診で判別できない深部の情報も得られる重要な診療ツールといえる.しかし,広く認められた診断基準や標準的な検査法というものがなく,それぞれの施設や医師をはじめとする検査者個人単位で個別に行われているのが現状である.すなわち,まだ診断学としては成立していないことになる.今後,多くの施設で各検査者が共通の認識をもって超音波診断を行い,施設を越えて多くのデータを蓄積し,その診断結果を検討することで,耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の超音波診断学が形成されていくことを願っている.
耳鼻咽喉科・頭頸部外科医である筆者らは長年にわたり多くの疾患を超音波で診断し,外科的治療で診断結果を確認しながら症例を集積してきた.まだ診断学には至らない一例一例の症例の単なる積み重ねが多いが,超音波診断を担当する医療関係者の方々に何らかの形で役立つはずと考え,超音波画像中心のこの本を刊行することにした.
唾液腺腫瘍は術前診断の難しさが取り沙汰される疾患であるが,超音波像は実際に腫瘍のマクロ像を忠実に反映し,さらに血流診断による腫瘍の活動性評価が可能で,今後の診断基準作成が非常に重要な疾患であるため,多数例の超音波像を提示した.
頸部リンパ節疾患も多彩であるが,超音波像は疾患病態を的確に描出可能であり非常に興味深い.これまでリンパ節疾患の超音波診断に関して詳細に述べた書物は少なかったため,本書ではリンパ節の項を重点の一つとした.特に,頭頸部癌頸部リンパ節転移の正確な診断は予後向上と治療後の機能障害予防に非常に重要である.超音波を頸部リンパ節転移診断に活用することで,非侵襲的に精度の高い診断が可能となる.頭頸部癌の治療に不可欠なものとして,リンパ節転移超音波診断の標準的診断法と診断基準を確立し,世界に向けて発信することを大きな目標として掲げており,診断に役立つ転移リンパ節の画像も多く掲載した.
さらに,プライマリケアの意義が論じられる今日,本書がヒトにとって重要な部位である頸部を中心としたもので,耳鼻咽喉科・頭頸部外科を専門とする医療関係者に限らず,すべての領域の医療関係者,研修医,学生にとっても有用で,医学教育の観点から必携の教科書であることも強調したい.
発展途上ではあるが,着実に進歩しつつある耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の超音波診断に対する筆者らの熱い思いをこの本に託す.
2016年5月
古川まどか
古川 政樹