Burkittリンパ腫,上咽頭がん,伝染性単核症,種痘様水疱症,蚊刺過敏症など,多様な疾患との関連が明らかとなっているEBウイルス.胃がんの約一割がEBウイルス陽性であり,移植の成否を決定する重要な合併症である移植後リンパ増殖症にもEBウイルスが関連することもわかってきた.そこで,感染症にかかわる医師だけでなく,すべての医師に知っていただきい,EBウイルスの分子科学と臨床についての基礎的情報を網羅した.好評であった目次構成はほぼそのままに,最新情報を追加し,よりわかりやすくコンパクトに仕上げた改訂版.
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目次
◆カラー口絵
◆概要
EBウイルス感染の概要…髙田賢藏
◆基礎
1.ウイルスの構造と遺伝子
1)EBウイルスの構造と遺伝子…吉山裕規,柳 壹夫
2)EBNA…渡部匡史,藤室雅弘
3)LMP…安居輝人,南谷武春
4)EBER…髙田賢藏
5)BARTs,BARF1,microRNA…瀬戸絵理
6)Lytic genes…工藤あゆみ
2.細胞への吸着,侵入…南保明日香
3.リンパ球トランスフォーメーション…髙田賢藏
4.ウイルスプラスミドの複製・維持機構…神田 輝
5.ウイルスの再活性化…村田貴之
6.ヘルペス群ウイルスの共通性と多様性…川口 寧
7.Kaposi肉腫関連ヘルペスウイルスとEBウイルスの重複感染…上田啓次
8.動物モデル…藤原成悦
◆臨床
1.健康人における感染と伝染性単核症…脇口 宏
2.EBウイルス関連Tリンパ球増殖性疾患(慢性活動性EBウイルス感染症・EBウイルス関連血球貪食性リンパ組織球症)…吉岡幹朗,菊田英明
3.X連鎖リンパ増殖症…金兼弘和,岡野 翼,星野顕宏
4.エイズ関連リンパ腫…片野晴隆,峰 宗太郎
5.移植後リンパ増殖性疾患…江川裕人,羽賀博典,工藤豊一郎
6.Burkittリンパ腫…木村 宏,松本公一
7.膿胸関連リンパ腫…青笹克之,中塚伸一
8.鼻性NK/T細胞リンパ腫…原渕保明,長門利純,高原 幹
9.Hodgkinリンパ腫…大田泰徳,竹内賢吾
10.上咽頭がん…Sai Wah Tsao,Chi Man Tsang,Kwok Wai Lo(和訳:瀬戸絵里)
11.胃がん…深山正久
12.消化管の慢性炎症…柳井秀雄
13.自己免疫疾患(関節リウマチ,Sjögren症候群)…斎藤一郎
14.種痘様水疱症と蚊刺過敏症…岩月啓氏
◆診断・治療
1.EBウイルス感染症の診断と治療…河 敬世
2.EBウイルスの核酸検出法…清水則夫,渡邊 健,外丸靖浩
3.免疫療法…藤田(西山)由利子,森尾友宏,高橋 聡
◆EBウイルス実験法
1.代表的なEBウイルス感染細胞株…髙田賢藏,清水則夫
2.通常のウイルス学的手法によるEBウイルス実験法…髙田賢藏,今井章介
3.組換えEBウイルス作製法―遺伝子治療への応用―…飯笹 久,吉山裕規
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序文
改訂第3版 序文
2014年3月,OxfordにてEBウイルス発見50年を記念してシンポジウムが開催された.発見者のEpstein卿はご健在で,EBウイルス発見のいきさつについてお話しされた.発見当初,EBウイルスは初めてのヒトがんウイルスとして大いに注目され,多くの優秀な研究者が参入した.子宮頸がんとパピローマウイルスの関連を明らかにし,2008年にノーベル生理学・医学賞を受賞したHarald zur Hausen教授もその一人で,Burkittリンパ腫,上咽頭がんにEBウイルスDNAが存在することを証明した.成人T細胞白血病とヒトT細胞白血病ウイルスの関連を明らかにした日沼頼夫教授もEBウイルス発見直後からEBウイルス研究を始められ,Burkittリンパ腫由来のP3HR—1細胞株を樹立された.P3HR—1細胞はB95—8細胞,Akata細胞とともに三大EBウイルス産生細胞株の一つで,変異を導入したEBウイルス作製のための母細胞としてEBウイルス遺伝子の機能解析に貢献してきた.その日沼教授は本年2月にご逝去された.ご冥福をお祈りする.
EBウイルスは初期のBurkittリンパ腫,上咽頭がん,伝染性単核症に加え,多様な疾患との関連が明らかとなってきた.臓器移植の普及に伴う移植後リンパ増殖性疾患は移植の成否を決定する重要な合併症の一つとされ,欧米各国でEBウイルス特異的免疫療法が行われている.胃がん全体の約一割にEBウイルスがかかわっていること,東南アジアに多発するNK/T細胞リンパ腫もEBウイルスがその発症にかかわることがわかってきており,これらの病態解明も,医療に大きく貢献すると考えられる.
本書の前回の改訂は2008年7月であるから,7年を経過したことになる.その間,多くの執筆者が定年退職などによりEBウイルス研究の現場から離れられた.そのため,今回の改訂では多くの章で執筆者が変更となった.また,島根大学の吉山裕規教授に新たに編集者として加わってもらった.全体の構成は第2版と同じであるが,よりコンパクトで平易な内容となるようにした.「免疫不全とEBウイルス」の章のみは「エイズ関連リンパ腫」と「移植後リンパ増殖性疾患」の2つに分けた.本書が「EBウイルス学」の入門書として読者のお役に立てば幸いである.第3版の上梓にあたり,診断と治療社のご厚意と編集部諸氏のご尽力に深謝する.
2015年8月
北海道大学名誉教授
髙田賢藏
改訂第2版 序文
2003年の本書刊行から5年が経過した.この間,中国,台湾,マレーシアなど東南アジア諸国のEBウイルス研究が活発となり,上咽頭がんをテーマとするEast—Westシンポジウムがスタートした.上咽頭がんに加え東南アジアに偏在するEBウイルス陽性のNK/T細胞リンパ腫もこれらの国々で克服すべき大きな問題となっている.また,エイズ,臓器移植などに伴う免疫低下時に発症するEBウイルス関連リンパ増殖症,リンパ腫の予防,治療法開発も重要な課題である.
今回の改訂にあたっては,比較ウイルス学,動物モデルの重要性を考え,新たに「ヘルペスウイルス群の共通性と多様性」「動物モデル」の章を設けた.また,「ウイルスの構造と遺伝子」の章の「LMP」「EBER」の項,「Bリンパ球不死化」「バーキットリンパ腫」「NPCとEBV感染」,「免疫療法」の章は,執筆者の現在の専門性を考慮して変更をお願いした.「NPCとEBV感染」では,現在でも毎年2,000例のNPCの発症があるという香港のTsao博士に,発がんのメカニズムから臨床にわたる最新知識を紹介いただいた.免疫療法は,初版では米国のRooney博士に執筆いただいたが,改訂版では,免疫療法の実現を目指し,EBウイルス感染に対する免疫の基礎研究で着実な研究を展開している葛島博士に執筆いただいた.
本書がEBウイルス学の入門書として多くの読者のお役に立てば幸いである.新版の上梓にあたり,診断と治療社のご好意と編集部諸氏のご尽力に,深く感謝する.
2008年7月
北海道大学遺伝子病制御研究所教授
髙田賢藏
初版 序文
1964年にEBウイルスが発見されてから40年が経とうとしている.最初の発見はバーキットリンパ腫の病原体としてであり,ヒトがんウイルス第1号として大いに注目された.その後,EBウイルスが大部分のヒトに感染していること,伝染性単核症の病原体であることが明らかになり,がんウイルスとしての意義が不明確となった.それとともに,EBウイルスの研究も一時期低迷状態にあった.それが再び活発になったのは分子生物学的研究手法の発展と臨床的な広がりによる.EBウイルスはその全ゲノムシークエンスが決定された最初の大型ウイルスであり,培養細胞系を用いてウイルス遺伝子の機能解析が飛躍的に進んだ.エイズ,臓器移植などの免疫不全状態におけるEBウイルス感染リンパ増殖症の発生は,EBウイルスの潜伏感染が宿主の免疫機能との微妙なバランスの上に成立していることと,その破綻が発がんに至る可能性を示した.バーキットリンパ腫,上咽頭がん,胃がん,T/NKリンパ腫,ホジキン病,膿胸リンパ腫などいずれのEBウイルス関連がんにおいても,ウイルスは多様な感染形態をとることにより宿主の免疫と折り合いをつけている.さらに,がん以外にも慢性活動性EBウイルス感染症,種痘様水疱症,炎症性腸疾患,自己免疫疾患などとの関わりはEBウイルス感染の多様性を示して余りある.
この分野の研究はまさに日進月歩であり,基礎および臨床研究の進展に応じた,EBウイルス学の全体像が記載された教科書が待望されていた.この度,柳井秀雄,清水則夫両博士の編集により,EBウイルス研究を活発に行っている研究者が執筆され,「EBウイルス」刊行の運びとなった.心からお礼を申し上げたい.本書がEBウイルス学の入門書として,学生,一般臨床医,研究者のお役に立てば幸いである.
2003年6月
北海道大学遺伝子病制御研究所所長・教授
髙田賢藏