今までありそうでなかった,五十肩についての運動療法をまとめた1冊.治療を施すセラピストや肩の痛みに悩む患者のために,イラストや画像を豊富に用いてビジュアルにわかりやすく解説されている.まずは肩関節のしくみを学び,評価法を身につけられるようになり,そのうえで具体的なリハビリテーション方法やホームエクササイズ,さらには日常生活指導や予防法まで,実践的で役立つ内容が詳細に呈示されている.
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目次
序 文
執筆者一覧
用語解説
第1章 肩関節のしくみ
A 肩関節の構造…松井佐矢香
1.肩甲帯の骨格
2.肩甲帯の各関節
3.肩甲帯の筋
4.肩甲帯の靭帯
B 肩関節の運動…松井佐矢香
1.肩のランドマーク
2.肩関節の動きの方向
3.肩甲上腕リズム
第2章 五十肩とは
A 概念と診断…小島 隆史
1.定 義
2.原因と各種検査所見
B 臨床経過と所見…小島 隆史
1.臨床症状
2.疼痛部位
3.運動制限
C 治療と予後…小島 隆史
1.治 療
2.予 後
D 鑑別診断…小島 隆史
1.肩関節の痛みと拘縮を生じる肩疾患
2.その他の鑑別すべき疾患
第3章 評 価
A 痛みの評価…伊藤まどか
1.痛みに対する評価項目
2.ペインスケール
3.痛み日誌
4.患者立脚肩関節評価法:Shoulder 36
B 肩関節の可動域の評価…伊藤まどか
1.肩関節の運動方向および参考可動域
2.肩関節回旋
3.他動運動の抵抗感(end feel)
C 筋の評価…伊藤まどか
1.筋の硬さ:筋が原因となる可動域制限
2.筋 力
3.圧 痛
D 姿勢の評価…伊藤まどか
1.全体像
2.肩関節障害の姿勢
E 代表的な肩関節の徒手検査法…山本 良彦
1.棘上筋テスト(SSPテスト)
2.棘下筋テスト(ISPテスト)
3.肩甲下筋テスト(lift offテスト)
4.drop arm sign
5.Yergasonテスト
6.スピードテスト
7.インピンジメントテスト(Neerテスト)
8.インピンジメントテスト(Hawkins-Kennedyテスト)
第4章 リハビリテーションとホームエクササイズ
A 急性期(疼痛期):freezing phaseの取り組み…山本 良彦
1.リハビリテーション
2.ホームエクササイズ
B 慢性期(拘縮期):frozen phaseの取り組み…山本 良彦
1.リハビリテーション
2.ホームエクササイズ
C 緩解期:thawing phaseの取り組み…山本 良彦
1.リハビリテーション
2.ホームエクササイズ
第5章 活指導
A 生活指導の実際…松岡 綾
1.日常生活における肩の役割
2.生活指導のポイント
3.更衣動作
4.整容動作
5.入浴動作
6.睡眠時の姿勢
7.その他の注意すべき日常生活の動作
B 予 防…松岡 綾
1.五十肩の前兆?:肩こりの要因と対策
2.生活に運動とリラックスを取り入れましょう
3.姿勢の悪さ
4.ストレス
Column
肩関節の運動感覚…浅川 未来・山本 良彦
諸外国における五十肩…浅川 未来・山本 良彦
画像診断…浅川 未来・山本 良彦
注射療法…浅川 未来・山本 良彦
物理療法…浅川 未来・山本 良彦
手術療法…浅川 未来・山本 良彦
参考文献
あとがき
索 引
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序文
五十肩は古くて新しい疾患です.人類が手を地面から離して立ち上がり,肩関節が体重を支えることから腕を大きく動かすことに重点を移したときより,ヒトの肩関節は五十肩を宿命づけられたのだと思います.そして人類が長生きできるようになり,平均余命が50歳を超えるようになったことで,五十肩は表面化してきたのではないでしょうか.
ヒトが手を自由に動かし,物を正確に操作したり,重たい荷物をもったりするためには,腕の付け根である肩関節が安定している必要があります.そしてまた,投げる動作をするためには肩関節には大きな運動範囲が必要です.これらのことから肩には「安定」と「運動」という,相反する要素が要求されることがわかります.特にスポーツの場面では,この安定と運動が同時に求められる状況が頻繁に生じます.肩関節は常に究極の選択のなかで使われているのです.複雑に手を使う人類の肩には非常に負担がかかり,肩関節疾患の要因となっています.
五十肩と四十肩は同じ疾患です.もちろん症状も同じですが,40歳代の人に「五十肩」とはいいにくいことから,四十肩といういい方もするようです.現在,五十肩(四十肩)は肩関節周囲炎の一つとして位置づけられています.原因は明らかではなく,突然肩が痛くなり,動かすことができなくなることから始まります.夜間にも痛みが現れるので,ぐっすり眠ることができません.症状が似ている疾患もあり鑑別が必要です.経過は人それぞれで,半年で治る人がいたり2年程度かかる人がいたりします.五十肩という疾患は,多くの場合,時間が経てば勝手に治ってしまうと思われています.しかし,痛みがなくなっても肩が上がらない,思うように動かすことができないなどの機能障害を残す人も少なくありません.この機能障害は,日常生活程度の動作なら全く問題はないといえますが,肩に大きな負荷のかかる趣味活動や,スポーツなどの場面で違和感を覚えることがあります.本書はそのような機能障害を残さないためのリハビリテーションについて記載されています.
五十肩の経過をみていると,各時期の名称はさまざまですが,大きく分けて三つの病期があることがわかります.むやみに動かして痛みを悪化させないように,また過度な安静により肩関節可動域に運動制限を残すことがないように,それぞれの病期に応じた治療の考え方を記しました.五十肩の治療は「痛みに耐えて肩を動かせばよい」というものではありません.それぞれの病期でその症状が異なるため,治療のしかたも変わります.できるだけ早く治し,肩に機能障害を残さないために適切な時期に適切なエクササイズを行うことが重要です.
本書で扱った評価法や治療法もこれがすべてというわけではありません.ここに示した考え方に沿って,患者の肩の状態にあわせて応用していただければ有り難いと思っております.
肩関節のケアに関わるセラピストと肩が痛くてお困りの方々におすすめしたい一冊です.
2015年4月
長野保健医療大学保健科学部リハビリテーション学科
山本良彦