患者さんの訴えや症状に注目,そこを出発点にリハプログラム作成のプロセスを新しい視点で解説.外来で多く遭遇する,「身体障害(中枢神経,非中枢神経,脳性麻痺)」「高次脳機能障害」「発達障害」「精神障害」の事例35項目をとりあげており,実習や臨床ですぐに役立つ.一歩先をいきたいリハ学生から若手PT/OTに活用いただきたい一冊!
関連書籍
ページの先頭へ戻る
目次
序 文
執筆者一覧
本書の使い方
Ⅰ 身体障害
A 中枢神経
1 歩幅が狭い…松村剛志
医療解説 パーキンソン病の概要…杉江秀夫
2 膝を屈曲したまま歩いている…松村剛志,葛谷憲彦
医療解説 パーキンソン病の神経病理…筒井祥博
3 上肢がふるえる…中村俊彦
医療解説 パーキンソン病の振戦…松林朋子
4 立脚相で膝を伸展したまま歩いている…髙木 聖
医療解説 脳血管障害の概要…杉江秀夫
5 足を振り出すときにつまずく,歩くときに足を引きずる…青山満喜
医療解説 随意運動の障害と錐体路…熊田竜郎
6 遊脚相で膝を伸展したまま歩いている…髙木 聖
医療解説 脳血管障害の病理…筒井祥博
7 足を過度にあげて歩く.背伸びをして歩く…小貫睦巳
医療解説 知覚障害と神経経路…熊田竜郎
8 座っているとき・立っているときに体が側方に傾いている…中村俊彦
医療解説 脳血管障害に伴う高次脳機能障害…杉江秀夫
9 椅子から立ち上がれない…磯貝 香
医療解説 痙性麻痺の関節拘縮と二次的な運動障害…鈴木輝彦
10 歩き方が不安定でふらつく…渡邊雅行
医療解説 失調症…杉江秀夫
さらに理解を深めよう!
〈他の原因による失調症の一例〉脊髄小脳変性症…鶴井 聡
11 立ち上がりや立位で膝がぐらつく…天野徹哉
医療解説 ギラン-バレー症候群…福田冬季子
12 車椅子にしっかり座らないで寝そべったようになる,
活動性も低下している…村岡健史
医療解説 脳血管障害後の廃用症候群…河合正好
B 非中枢神経
1 膝を屈曲したまま歩いている…天野徹哉
医療解説 脊椎圧迫骨折,サルコペニア…鈴木伸治
2 立脚相で膝を伸展したまま歩いている…髙木 聖
医療解説 ポリオ…長嶋雅子
3 歩くときに足を重たく感じる…青山満喜
医療解説 ロコモティブシンドローム…鈴木伸治
4 遊脚相で,膝を伸展したまま歩いている…櫻井博紀,後藤 聡
医療解説 大腿骨顆上・顆部骨折(大腿骨遠位部骨折)…鈴木伸治
5 足を過度にあげて歩く.背伸びをして歩く…櫻井博紀,荻須孝広
医療解説 (総)腓骨神経麻痺…石垣英俊
6 歩くときに体幹が左右に動揺する…山本 武
医療解説 変形性股関節症…鈴木伸治
7 歩くと膝がぐらつく…天野徹哉
医療解説 変形性膝関節症…鈴木伸治
8 椅子から立ち上がれない…磯貝 香
医療解説 大腿骨近位部骨折…鈴木伸治
9 腕があがらない…縣 信秀
医療解説 肩関節周囲炎(五十肩)…鈴木伸治
10 頚〜手にかけての異常感覚,手に力が入らない…縣 信秀
医療解説 頚椎症…鈴木伸治
11 腰から足にかけて痛み・しびれがある…櫻井博紀
医療解説 腰部脊柱管狭窄症,PAD…鈴木伸治
C 脳性麻痺
1 道具を使うときに手を固く握りこんでいる…遠藤浩之,小貫睦巳
医療解説 脳性麻痺 (痙直型四肢麻痺)…宮本 健
2 意思を伝える手段がなく困っている…小貫睦巳,遠藤浩之
医療解説 脳性麻痺 (アテトーゼ)…遠藤雄策
Ⅱ 高次脳機能障害
1 右側を向いていることが多く,歩くときに右側に寄っていってしまう…山田英徳
医療解説 高次脳機能障害…平野浩一
2 手足の位置に無関心である…鹿田将隆,山田英徳
医療解説 失認症…熊田竜郎
3 物を扱うのに手間がかかる…山田英徳
医療解説 失行…熊田竜郎
4 会話が成り立たない…鹿田将隆,山田英徳
医療解説 失語症…熊田竜郎
5 活気がない…村岡健史
医療解説 認知症…筒井祥博
Ⅲ 発達障害
1 落ち着きがなくじっとしていない…野藤弘幸
医療解説 注意欠如・多動性障害(ADHD)…杉江陽子
さらに理解を深めよう!
発達障害児と学校保健:学校保健の仕組み(特別支援学校,特別支援学級,
通級による指導,通常の学級)と養護教諭の役割…山崎秀夫
2 話しかけても関心がない…野藤弘幸
医療解説 自閉症スペクトラム障害…河合正好
3 運動,理解,言葉の発達が年齢に比べて遅れている…遠藤浩之
医療解説 知的障害…河合正好
Ⅳ 精神障害
1 声が聴こえるといい,人と交わらず引きこもりがち…小野 弘
医療解説 統合失調症…河合正好
2 興味が消失し活動が低下している…小野 弘
医療解説 うつ病…河合正好
索 引
ページの先頭へ戻る
序文
理学療法士,作業療法士の養成過程には臨床実習があります.臨床実習は講義で学んだ知識を実際に生かし,患者のリハプログラムを学ぶという重要な意味があります.同時に,患者と向き合いながら患者とのコミュニケーションや接し方を学んだり,現場のほかの医療職とかかわることで自分が医療スタッフの一員であることなどを学びます.
しかし,実習に入る前に「患者とうまく接することができるだろうか」「指導の先生とうまくやれるだろうか」「授業で学んだことをうまく活用できるだろうか」,また実習中に「発表,レポート提出がうまくできない」「実習を続ける自信がない」などの不安や悩みがあることを聞きます.これは単に臨床場面に慣れていないということだけではなく,講義で学んだ知識をいかに実践するか,患者の問題点をどのように解決していくのかがうまく自分のなかで整理されていないことにも一因があると思います.臨床に臨む際に学生が抱く不安の克服には,学年の早い時期から臨床場面を経験させるearly exposureが一つですが,なにより臨床場面で利用できるわかりやすい書籍があればさらなる手助けになると思います.
そこで常葉大学保健医療学部理学療法学科,作業療法学科教員スタッフの理学療法士,作業療法士,医師を分担編集として,学生たちが“どこでつまずくのか”,“どのようなガイダンスが有効なのか”などについて議論した結果,患者の“症候”あるいは“訴え”をもとに書籍の内容を組み立てていくのがよいのではないかと結論しました.今までの本をみると,多くは疾患の説明から始まるものが多いのですが,本書では症候・訴え→事例の紹介→プロセスを明示したフローチャート→プロセスの解説→医療解説→リハプログラム作成→ポイント(理学療法士,作業療法士として一言ポイントを述べる)という流れにしてあります.診断名はあえて最初に明かしていません.いくつかのプロセスを経たうえで「医療解説」を入れることでさらに深く患者の病態を理解できます.“症候”または“訴え”は外来で多く遭遇するであろう事例を抽出して35項目とし,それぞれ「身体障害:中枢神経」「身体障害:非中枢神経」「身体障害:脳性麻痺」「高次脳機能障害」「発達障害」「精神障害」という6つのカテゴリーにわけ記述しました.つまり診断から出発するのではなく,事例の示す問題点に注目してそこを出発点とするという視点から本書は成り立っています.
本書はこれから実習に臨む理学療法学科,作業療法学科の学生のみならず,卒後間もない理学療法士,作業療法士も対象に利用できるような内容です.また各執筆者が自分の経験に基づいた記述もあります.これはおそらく臨床場面でのよいアドバイスにもなると思います.本書が少しでもスムーズな臨床実習の取り組みに寄与すれば幸いです.
最後に私たちの願いを聞き届けていただき根気よくサポートしてくださった診断と治療社,堀江康弘,柿澤美帆,島田つかさの諸氏に感謝します.
平成28年5月
常葉大学保健医療学部長 杉江秀夫