内分泌性高血圧は決して稀ではないが,診断されずに見逃されていることが多い.本書では,内分泌性高血圧をいかに疑い,スクリーニングして,鑑別診断のための検査法を行い,的確に診断して最適な治療法を選択するかを個別に分かりやすく解説している.初版発行から7年の月日を経て出版となった改訂第2版では,【基礎編】で新たな血圧調節因子について取り上げ,【臨床編】で新たな薬剤により誘発される高血圧について取り上げた.
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目次
推薦のことば 萩原俊男
『内分泌シリーズ:内分泌性高血圧診療マニュアル』改訂第2版発行にあたって 成瀬光栄
『内分泌シリーズ:内分泌性高血圧診療マニュアル』発行にあたって(初版) 成瀬光栄
改訂第2版 序文 平田結喜緒
初版 序文 平田結喜緒
執筆者一覧
略語一覧
Ⅰ 総論編
1 内分泌性高血圧の概要 成瀬光栄 他
2 高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)と内分泌性高血圧 神出 計 他
Ⅱ 基礎編
第1章 昇圧に作用する因子
1 成長ホルモン(GH) 福田いずみ
2 バソプレシン(AVP) 萩原大輔 他
3 甲状腺ホルモン 成瀬光栄 他
4 副甲状腺ホルモン(PTH) 今西康雄 他
5 アルドステロン 吉本貴宣 他
6 デオキシコルチコステロン(DOC) 小島元子
7 コルチゾール 鈴木佐和子 他
8 エストロゲン 髙橋克敏
9 11β—水酸化ステロイド脱水素酵素(11β—HSD) 武田仁勇
10 カテコールアミン 竹越一博
11 レニン 成瀬光栄 他 34
12 アンジオテンシン変換酵素(ACE)と ACE2 山本浩一 他
13 アンジオテンシン 山本浩一 他
14 内因性ジギタリス様物質 髙橋伯夫
15 ウロテンシン 高橋和広
16 レプチン 浦 信行 他
17 Na チャネル(ENaC) 石井俊史 他
18 エンドセリン(ET,ECE) 宮内 卓
19 ネプリライシン(NEP) 平田結喜緒
第2章 降圧に作用する因子
1 一酸化窒素(NO,eNOS) 杉山 徹
2 過分極因子(EDHF) 神戸茂雄 他
3 カリクレイン-キニン 茂庭仁人 他
4 プロスタノイド(プロスタグランジン) 結城幸一 他
5 アドレノメデュリン(AM) 北 俊弘 他
6 Na利尿ペプチド 向山政志
7 アディポネクチン 船橋 徹
8 アペリン 谷山義明 他
9 リラキシン(RLX) 平田結喜緒
Ⅲ 臨床編
第1章 総 論
1 低カリウム血症を伴う高血圧の鑑別診断 立木美香 他
2 副腎腫瘍を伴う高血圧の鑑別診断 谷 祐至 他
3 レニンプロフィールによる高血圧の鑑別診断 三好賢一
第2章 各 論
A 下垂体疾患
1 先端巨大症 平田結喜緒
B 甲状腺疾患
1 甲状腺機能亢進症 田上哲也 他
2 甲状腺機能低下症 田上哲也 他
C 副甲状腺疾患
1 原発性副甲状腺機能亢進症 竹内靖博
D 副腎疾患
1 原発性アルドステロン症 田辺晶代 他
2 クッシング症候群(下垂体性も含む) 土井 賢 他
3 先天性副腎過形成 柳瀬敏彦 他
4 DOC 産生腫瘍 柴田洋孝
5 サブクリニカルクッシング症候群 立木美香 他
6 褐色細胞腫 方波見卓行 他
E 腎疾患
1 腎血管性高血圧 神出 計
2 レニン産生腫瘍(傍糸球体細胞腫,腎外性レニン産生腫瘍) 田辺晶代 他
F 遺伝性疾患
1 Liddle 症候群 石井俊史 他
2 AME 症候群 宗 友厚
3 Gordon 症候群 野村尚弘 他
4 家族性高アルドステロン症 笹井有美子 他
5 グルココルチコイド抵抗症 林 美恵 他
G 薬剤誘発性高血圧
1 経口避妊薬 上芝 元
2 偽アルドステロン症 田村尚久
3 その他の薬剤誘発性高血圧 林 晃一 他
4 セロトニン症候群 平田結喜緒
5 がん分子標的薬 平田結喜緒
付録 内分泌性高血圧に関する主要な機能検査と画像診断
1 カプトプリル試験 成瀬光栄 他
2 フロセミド立位試験 橋本重厚
3 生理食塩水負荷試験 南方瑞穂 他
4 デキサメタゾン抑制試験 立木美香 他
5 選択的副腎静脈サンプリング(ACTH 負荷) 田辺晶代 他
6 画像診断① CT,MRI 桑鶴良平
7 画像診断② 核医学検査 中本隆介 他
索 引
Column
・難治性副腎疾患の課題 成瀬光栄
Information
・内分泌シリーズ書籍の紹介①:原発性アルドステロン症診療マニュアル 成瀬光栄
・内分泌シリーズ書籍の紹介②:褐色細胞腫診療マニュアル 成瀬光栄
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序文
推薦のことば
この度,成瀬光栄,平田結喜緒,楽木宏実の三先生の編集による『内分泌性高血圧診療マニュアル改訂第2版』が発刊された.既刊の『原発性アルドステロン症診療マニュアル改訂第3版』『褐色細胞腫診療マニュアル改訂第2版』『下垂体疾患診療マニュアル改訂第2版』『クッシング症候群診療マニュアル改訂第2版』など内分泌シリーズ書籍の姉妹本であり,これらを合わせると,現時点における内分泌性高血圧に関するアップデイトな情報はすべて網羅されることになる.
医学・医療の分野における研究の進化は目覚ましく,まさに日進月歩である.内分泌分野においても分子遺伝学的研究の成果として新しい血圧調節因子の発見や,内分泌性高血圧の病態解明において著しい進展がみられている.これらを背景として今回の改訂第2版が発刊されることになった.
本書の特徴は,内分泌性高血圧の原因となるホルモンをはじめとした関連因子の構造,作用機序,高血圧における役割,機能の評価方法などについて基本的な知識を整理したうえで,各種内分泌性高血圧の臨床的事項,すなわち疫学,診断,治療など実際の診療に役立つ情報が満載されている点である.特に診断,治療の部分は詳述されており,さらに簡明にするためにこれらのフローチャート,あるいはアルゴリスムが図示されており,実地臨床上において大変わかりやすいように工夫されている.さらに,実地臨床上有用な総論として,低カリウムを伴う高血圧の鑑別診断,副腎腫瘍を伴う高血圧の鑑別診断,レニンプロフィールによる高血圧の鑑別診断が取り上げられている.また最後の付録として内分泌性高血圧に関する主要な機能検査と画像検査法が具体的に紹介されており,実際の臨床において極めてありがたい情報である.編集者の細部にわたる配慮がなされており,各論においては各執筆者がその意図を汲み実際に経験しているからこそ書ける傑作の書である.今回の改訂により昇圧系因子,降圧系因子が分類され,ACE2,ネプリリシン,アペリン,リラキシンなどが新たに追加され,臨床編では家族性アルドステロン症が追加されるなどアップデイトなものになっている.
内分泌性高血圧は適切な治療で治癒可能なことが多く,これを見過ごして漫然と不適切な治療を続けることは許されない.その診断の端緒はこれを疑うことである.内分泌性高血圧を見逃さないためにも,本書は一般医家から専門医まで必読の書である.
2017年11月
森ノ宮医療大学 学長
荻原俊男
『内分泌シリーズ:内分泌性高血圧診療マニュアル』
改訂第2版発行にあたって
内分泌疾患はホルモンの過剰・欠乏により各種の循環・代謝系の異常を合併することから,その診断の遅れは患者の生命予後に重大な影響を及ぼす.それ故,早期診断と適切な治療が必須であるが,臨床所見は多様で疾患の種類も極めて多い.
診療水準の向上のためには臨床経験豊富な専門医と内分泌疾患に関する系統的かつ最新の知識が必要であるが,いずれも十分とは言えないのがわが国の現状である.編者らはこれまで,内分泌疾患の診療水準の向上を目的として『内分泌代謝専門医ガイドブック』『原発性アルドステロン症診療マニュアル』『褐色細胞腫診療マニュアル』『もっとわかりやすい原発性アルドステロン症診療マニュアル』『クッシング症候群診療マニュアル』『甲状腺疾患診療マニュアル』『内分泌機能検査実施マニュアル』『内分泌代謝臨床研究マニュアル』『内分泌代謝疾患クリニカルクエスチョン100』『内分泌代謝専門医のセルフスタディ230』『難治性内分泌代謝疾患Update』などの内分泌シリーズの企画・編集を行ってきたが,その企画の一つが『内分泌性高血圧診療マニュアル』である.
高血圧は推定有病者数が約4,000万人とされ,わが国でも最も頻度の高い生活習慣病である.高血圧の診療には生活習慣の是正と適切な降圧治療が必須であるが,まず第一に重要なのが二次性高血圧,すなわち,特定の原因による高血圧の診断である.特に内分泌性高血圧は原因となる病態と高血圧との関連が明確な疾患群で,全高血圧の約10~15%,すなわち数百万人でその疑いがあると考えられるが,鑑別すべき疾患は極めて多く,診断は必ずしも容易ではない.
『内分泌性高血圧診療マニュアル』は高血圧の診療に従事するすべての医師を対象とした内容で,原因となる様々なホルモンと関連物質に関する基礎的知識,主要な疾患の診断と治療,機能確認検査と画像検査をコンパクトにまとめた企画である.初版の刊行後7年が経過し,その間,代表的な内分泌性高血圧である原発性アルドステロン症や褐色細胞腫の診断,治療面で,顕著な進歩が見られたことから,今回,最新の情報を追加すべく本書を改訂することとなった.執筆は前回の改訂に際してご協力いただいた先生方に加えて,新項目ではこの分野で活躍されている気鋭の先生方に執筆をお願いした.改訂第2版『内分泌性高血圧診療マニュアル』が,わが国の高血圧の診療水準向上に貢献できることを祈念するとともに,執筆にご協力いただいた先生方に改めて深謝申し上げる次第である.
2017年11月
国立病院機構京都医療センター
臨床研究センター 特別研究員
成瀬光栄
改訂第2版 序文
わが国の高血圧患者は4,000万人を超え,高血圧は代表的なcommon diseaseの一つといえる.しかし,高血圧患者の大部分は原因が不明な本態性高血圧である.原因が明らかな2次性高血圧は,原因を除去すれば高血圧が治癒あるいは軽快する可能性が高いことから,その正確な診断と適切な治療が求められている.2次性高血圧の中でホルモン異常に基づく内分泌性高血圧の大部分は副腎由来ホルモンの過剰分泌による副腎性高血圧である.中でも原発性アルドステロン症(PA)は従来考えられたよりも高頻度(5~10%)であること,適切な診断・治療により治癒可能であること,標的臓器障害の程度が大きいこと,腺腫にKCNJ5遺伝子変異が高頻度(~40%)みられることなどが最近明らかにされ,現在最も注目される内分泌性高血圧の一つである.このように日常高血圧診療においてPAを代表とする内分泌性高血圧の重要性が再認識されている.
わが国では日本高血圧学会による「高血圧治療ガイドライン2009年」(JSH2009)が策定され,その後の改訂版(JSH2014)にも内分泌性高血圧の診断と治療が明確で簡潔にまとめられている.またPA診療ガイドラインは日本内分泌学会(2009年),アメリカ内分泌学会(2009年,2014年改訂)で策定され,また2016年には日本内分泌学会から発表された『わが国の原発性アルドステロン症の診療に関するコンセンサス・ステートメント』はエビデンスに基づき,PA診療ステップの標準化を通して,一般医家への啓発に大きく貢献するものと期待されている.
内分泌性高血圧は決して稀なものではなく,一般診療の中に埋もれてしまって見逃されていることが多い.『内分泌性高血圧診療マニュアル改訂第2版』では日常診療において紛れ込んでいる内分泌性高血圧をいかに疑い,スクリーニングして,鑑別診断のための検査法を行い,的確に診断して最適な治療法を選択するかを個別にわかりやすく解説している.また改訂版の基礎編では新たな血圧調節因子や,臨床編では新たな薬剤により誘発される高血圧を取り上げて解説している.本書は内分泌・高血圧専門家だけでなく,広く一般医家の診療マニュアルとして高血圧診療の現場で活用されることを期待したい.
2017年11月
公益財団法人先端医療振興財団・先端医療センター病院長
東京医科歯科大学名誉教授
平田結喜緒