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ハイパーサーミア 診断と治療社 | 書籍詳細:ハイパーサーミア 
患者からがん温熱療法を希望されたら

京都学園大学健康医療学部教授

古倉 聡(こくら さとし) 著

初版 B5判 並製 120頁 2017年08月07日発行

ISBN9784787823052

定価:4,620円(本体価格4,200円+税)
  

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ハイパーサーミア(温熱療法)を希望するがん患者は多いが,標準療法との併用で高い相乗効果が得られることは医師にさえ理解されづらい現状がある.本書では,治療の歴史から現状,そして実際の適応有無についてエビデンスを用いて解説し,豊富な症例カラー写真で効果を確認することができる.また,患者からの質問に正しく答えるだけではなく,すぐに治療の検討もできるよう付録にハイパーサーミア機器導入施設の一覧を掲載した.

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目次

口絵カラー


A 基礎篇1 なぜ,ハイパーサーミアは癌に効くのか? ~in vitroでの研究から~
1 癌細胞内分子への障害  
2 シグナル伝達系への細胞応答  
3 細胞周期への影響  
4 ハイパーサーミアはEMT(上皮間葉移行)を抑制する  

B 基礎篇2 ハイパーサーミアの免疫システムへの影響  
1 ハイパーサーミアと好中球の機能  
2 NK細胞に対するハイパーサーミアの影響  
3 樹状細胞に対するハイパーサーミアの影響  
4 抗原提示機構におけるHSPの役割  

C 臨床篇 ハイパーサーミアと放射線療法・化学療法との併用療法  
1 併用療法のメリット  
2 ハイパーサーミア併用放射線療法のエビデンス  
3 ハイパーサーミア併用化学療法のエビデンス  
4 ハイパーサーミア併用化学放射線療法のエビデンス  

D アトラス篇 ハイパーサーミアの併用が奏効した症例  
1 一般的な浅在癌と深在癌  
CASE 1 分化型甲状腺癌  
CASE 2 分化型甲状腺癌  
CASE 3 鎖骨上窩平滑筋肉腫  
CASE 4 乳癌皮膚再発  
CASE 5 乳癌腋窩リンパ節転移  
CASE 6 肺癌鎖骨上窩リンパ節転移  
CASE 7 食道癌鎖骨上窩リンパ節転移  
CASE 8 左顎下腺癌術後再発  
CASE 9 頬粘膜癌術後再発  
CASE 10 食道癌局所再発  
CASE 11 T4食道癌  
CASE 12 肺大細胞癌Ⅳ期(脳転移)  
CASE 13 切除不能肺腺癌ⅢB 期  
CASE 14 切除不能進行胆囊癌  
CASE 15 切除不能進行胃癌T4N0M0  
CASE 16 切除不能進行胃癌T4N0M0  
CASE 17 胃癌術後,縦隔および後腹膜リンパ節転移  
CASE 18 乳癌術後,肺転移・縦隔リンパ節転移  
CASE 19 乳癌仙骨転移,肺転移  
CASE 20 結腸癌骨盤内再発  
CASE 21 尿管癌肺転移  
CASE 22 卵巣癌術後再発  
CASE 23 子宮頸癌Ⅳa期  
CASE 24 子宮頸癌Ⅳa期  
CASE 25 子宮頸癌Ⅳa期  
2 薬剤耐性を克服した症例  
CASE 26 薬剤耐性を克服した肺腺癌  
CASE 27 薬剤耐性を克服した肺腺癌  
CASE 28 薬剤耐性を克服した肺腺癌  
CASE 29 薬剤耐性を克服したスキルス胃癌およびその癌性腹膜炎  
CASE 30 薬剤耐性を克服した乳癌の傍胸骨リンパ節転移  
CASE 31 薬剤耐性を克服した卵巣癌術後,腹膜播種  
CASE 32 薬剤耐性を克服した直腸癌の肝臓転移  
CASE 33 薬剤耐性を克服した直腸癌術後,肺・肝転移  
CASE 34 薬剤耐性を克服した直腸癌術後,肺転移  
3 少量抗がん剤+ハイパーサーミアが有効であった4症例  
CASE 35 直腸癌術後,局所再発  
CASE 36 直腸癌術後,肺転移再発  
CASE 37 直腸癌術後,肺転移再発  
CASE 38 結腸癌術後,肺転移再発  
4 放射線療法治療後,再発症例  
CASE 39 食道癌,化学放射線療法後,局所再発  
CASE 40 食道癌,化学放射線療法後,再発  
CASE 41 胃癌術後,腹壁転移  
5 難治癌症例  
CASE 42 肺腺癌T4N3M1,化学療法後増悪  
CASE 43 肺腺癌Ⅳ期  
CASE 44 肺扁平上皮癌T4N2M1  
CASE 45 膵癌Ⅳa期  
CASE 46 卵巣明細胞癌術後,再発  
CASE 47 悪性線維性組織球腫(MFH)  
CASE 48 骨盤脂肪肉腫  
CASE 49 乳癌術後,癌性胸膜炎,肝臓転移  
CASE 50 切除不能膵臓癌およびその多発肝臓転移  
CASE 51 進行胃癌(3型)および肝臓転移,癌性腹膜炎  

付録 ハイパーサーミアの治療可能な施設  
1 一般社団法人 日本ハイパーサーミア学会認定施設(2016年9月現在)  
2 ハイパーサーミア稼動施設  

文献  
あとがき  
索引

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序文

各領域の先生方に理解していただきたいハイパーサーミアという癌治療
~患者からハイパーサーミアの併用を希望されたあなたに読んでいただきたい~

 19世紀後半,William Coley(ウィリアム・コーリー)という外科医は癌患者の何人かが,今日「化
膿連鎖球菌」として知られる丹毒に感染し,高熱を出したのちに,腫瘍が消失したことに気がついた.
このことに興味をもった彼は,同様の症例が過去に記録されていないかを調べたところ,複数の症例
が報告されていることを発見した.その後,コーリーは,咽頭癌の患者に丹毒を意図的に感染させる
治療を行い,癌の縮小と延命を経験している.そしてコーリーは,死んだ化膿連鎖球菌とセラチア菌
の混合物をコーリーワクチンとして,1893年1月24日に腹部腫瘍をもつ16歳の少年に投与した.
数日間毎日,コーリーワクチンを打ち続けた.そうすると,腫瘍は徐々に縮小し,1893年8月には腫
瘍はほとんど消失した.その後,この少年は,他の抗癌剤治療を受けることなく,26年後に心臓発作
で亡くなるまで,健康に過ごした.1934年にはアメリカの医学界で癌の全身ハイパーサーミアとして
知られるようになった.このコーリーワクチンは,現在,ある製薬会社が製品化を計画している.

 現在,ハイパーサーミア(温熱療法)は放射線療法や化学療法との併用により相乗的な効果が期待
される治療法である.臨床試験では温熱療法と放射線療法の組合せによって,放射線療法単独よりも
明らかに高い局所制御率が得られたとの報告が多数認められる.また化学放射線療法に温熱療法を併
用することで,有意に生存期間が延長したことを示す報告も多数ある.わが国においてハイパーサー
ミアは,1990年4月に放射線療法との併用で保険適用となった.その後,1996年には化学療法との
併用およびハイパーサーミア単独治療も保険適用となった.しかし,ハイパーサーミアは,加温装置が
高価なこと,一人の患者のちりょうに時間と手間がかかるわりには診療報酬点数が低すぎることから,そ
の普及に支障をきたしているのが実情である.

 ハイパーサーミアの有用性については臨床か以外に多くの生物学者,基礎医学者が認めているが,
前述の通り,実際の臨床使用になるとマンパワーを要することなどから,ハイパーサーミアを導入す
る医療機関はそれほど増えていない.その一方でハイパーサーミアの抗癌治療効果に期待をする患者
は近年増加の一途をたどり,治療を順番待ちされている患者であふれているという現状がある.

 このような患者たちの多くは主治医のところで標準化学療法を施行されており,その化学療法に併
用してハイパーサーミアを希望され,ハイパーサーミア実施施設に来院される.そこで治療枠をうま
く調節して抗癌剤治療とハイパーサーミアの併用療法が開始されることになるわけだが,その際に化
学療法を行っておられる主治医の先生からハイパーサーミアを併用することへの理解が得られないこ
とが多々ある.本書ではハイパーサーミアの有効性を基礎的研究および臨床試験の結果をもとに解説
する.本書によりハイパーサーミアについてご理解いただくと同時に,併用療法を積極的に進めてい
ただければ患者のためになると信じている.

2017年6月 
京都学園大学健康医療学部 教授 
古倉 聡