日本小児呼吸器学会作成,わが国初の小児の咳嗽疾患に対する診断・治療ガイドラインを6年ぶりに改訂.初版に引き続き,小児の咳嗽の原因を年齢別に,代表的な疾患を重点的に解説し,巻頭カラーの診断フローチャートに沿えば,すぐに確認したい疾患へ読み進められる.改訂では,薬物治療に関するCQを設定,他学会による評価も充実させ,よりエビデンスに基づく記載とした.ぜひ小児呼吸器患者を診療するすべての医師にご活用いただきたい.
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目次
急性咳嗽の鑑別診断フローチャート―経過が3週未満の咳嗽―
遷延性咳嗽の鑑別診断フローチャート―3週以上8週未満続く咳嗽―
慢性咳嗽の鑑別診断フローチャート―8週以上続く咳嗽―
救急外来でみる咳嗽の鑑別診断フローチャート
カラー口絵
刊行にあたって
「小児の咳嗽診療ガイドライン」作成委員会
作成にあたって
Part.Ⅰ CQ篇
CQ-1 小児の長引く咳嗽に抗菌薬を推奨するか?
CQ-2 小児の長引く咳嗽に吸入β2刺激薬を推奨するか?
CQ-3 小児の長引く咳嗽にヒスタミンH1受容体拮抗薬を推奨するか?
CQ-4 小児の長引く咳嗽に吸入ステロイド薬(ICS)を推奨するか?
CQ-5 小児の長引く咳嗽にロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)を推奨するか?
CQ-6 小児の長引く咳嗽にプロトンポンプ阻害薬(PPI)治療を推奨するか?
CQ-7 小児の急性気管支炎の咳嗽に経口β2刺激薬を推奨するか?
CQ-8 小児の後鼻漏症候群による咳嗽に推奨できる薬剤はあるか?
Part.Ⅱ 解説篇
第1章 咳嗽の概念,病態生理,評価法
A.概念・分類
B.病態生理
C.評価法の解説
第2章 咳嗽の疫学
A.総 論
B.海外との比較
C.成人との比較
第3章 咳嗽の診断
A.問 診(医療面接)
B.咳嗽患者の身体所見
C.咳嗽患者の検査所見
1 血液・感染検査
2 生理学的検査
3 画像検査
D.鑑別診断(年齢による咳嗽の原因疾患の特徴)
E.確定診断の進め方
1 急性咳嗽のフローチャート―経過が3週未満の咳嗽―
2 遷延性咳嗽のフローチャート―3週以上8週未満続く咳嗽―
3 慢性咳嗽のフローチャート―8週以上続く咳嗽―
4 救急医療の必要な咳嗽フローチャート
第4章 咳嗽の治療
A.治療の進め方
B.薬物による治療
1 中枢性鎮咳薬
2 抗菌薬
3 去痰薬
4 β2刺激薬
5 副腎皮質ステロイド
6 ロイコトリエン受容体拮抗薬
7 ヒスタミンH1受容体拮抗薬
8 ヒスタミンH2受容体拮抗薬とプロトンポンプ阻害薬
9 クロモグリク酸ナトリウム(DSCG)
10 抗コリン薬
11 Th2サイトカイン阻害薬
12 漢方薬
トピックス 難治性慢性咳嗽の治療薬としてのガバペンチン(抗てんかん薬)
参 考 一般用医薬品(OTC医薬品)・民間療法
C.非薬物療法による治療
1 呼吸理学療法
2 鼻汁吸引と鼻腔洗浄
3 加 湿
第5章 おもな疾患
A.気道系の先天異常
1 上気道病変
2 下気道病変
B.感染症
1 急性鼻咽頭炎(普通感冒)
2 鼻・副鼻腔炎(ウイルス性・細菌性)
3 気管支炎・肺炎・胸膜炎
4 急性細気管支炎
5 百日咳
6 ウイルス性クループ
7 急性喉頭蓋炎
8 肺結核
C.アレルギー疾患
1 喘 息
2 アレルギー性鼻炎(通年性・季節性)
3 咳喘息
4 アナフィラキシー
5 アトピー咳嗽/喉頭アレルギー
D.気道異物・胃食道逆流症・誤嚥
1 気道異物
2 胃食道逆流症(GERD)
3 誤嚥(吸引)・吸入
E.心因性咳嗽
F.その他
1 喫煙・受動喫煙
2 大気汚染と室内空気汚染
G.咳嗽が遷延・重症化しやすい基礎疾患
今後の課題と展望
付 録 咳嗽を伴うおもな疾患の特徴
索 引
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序文
刊行にあたって
日本小児呼吸器学会(本学会)が「小児の咳嗽診療ガイドライン」の初版を刊行したのは,2014年4月でした.当時本学会の運営委員長を務められていた故川﨑一輝先生がその序文にお書きになったように,2011年に『咳』の診療に関するシンポジウムを契機に,本学会の事業として『長引く咳』に対応する診療ガイドラインを作成することが合意されました.
しかし,咳の原因となる病態および疾患は極めて多様であり,個々の疾患に対するガイドラインとは異なるアプローチが必要でした.具体的には,咳嗽の性状や随伴症状などの特徴から診断を絞り込んでいく手順をフローチャートとして提示し,各種疾患に関する最新の診断,治療について解説する方向でまとめられました.これに,咳嗽の疫学,病態生理,診断のための検査,治療薬や理学療法の解説なども加え,テキストブック的なガイドラインが完成しました.
『咳』は一般小児科診療において最もありふれた問題ですが,その適切な鑑別というのは必ずしも容易なものではありません.この多くの臨床家を悩ませてきた課題について,適切な診療を普及することは本学会の役割との認識で取り組んだ一つの成果が本ガイドラインであり,高い評価をいただきました.しかし,医学の進歩は日進月歩であり,この数年間の進歩を取り入れた改訂作業は,その後も継続して続けられてきました.
今回の改訂にあたっては,従来の内容を発展的に継承しつつ,おもに治療法を中心に代表的なクリニカルクエスチョン(CQ)を選定するため,既存のシステマティックレビューを検討しました.さらにそのなかから質が高いと思われたレビューをもとに,アップデートな最新研究の情報も検討し,エビデンスレベルに基づいた推奨を提示するという日本医療機能評価機構の医療情報サービスMindsの『診療ガイドライン作成の手引き』に準拠した部分を加えることになりました.
そのため,従来の委員会委員に加えて数名の若手研究者にも参加していただき,外部委員による評価や意見も加える方向で改訂が進められました.いざ実行してみると,エビデンスとなる研究は少なく,地域的にも欧米やオーストラリアに偏っているなどの問題があり,期待通りの成果を示すことは困難でした.しかし,こうした現状を把握したことは,今後の研究課題を示すことに繋がっており,そうした臨床研究の進展をもとに,これからも本ガイドラインの改訂と発展が継続されていくものと期待されます.
最後に本ガイドライン作成にあたり,御尽力くださいましたすべての方々に心から感謝申し上げます.
2020年6月
日本小児呼吸器学会 運営委員長
高瀬真人
作成にあたって
1 本ガイドラインの目的・読者対象
日常の小児科診療において,咳嗽は最も頻度の高い主訴の一つです.そのため,すでに欧米では小児の咳嗽に関するガイドラインが作成されていますが,それらのガイドラインの疫学・診断・治療内容は役に立つものの,必ずしもわが国の現状にあてはまらないところもあります.そこで2014年4月,わが国の小児咳嗽疾患の特徴をふまえたうえで,よりよい診療を行うため,学会主導によるわが国初の「小児の咳嗽診療ガイドライン」を作成いたしました.初版発刊から約6年が経過し,幸い多くの方の実地診療にお役立ていただいております.今回,他の関連ガイドラインの改訂に伴う変更やクリニカルクエスチョンの設定など,さらなるアップデートを行っております.読者対象は初版から引き続き,小児呼吸器患者を診療するすべての医師としています.
2 小児の咳嗽の特殊性
咳嗽の原因の多くは急性の呼吸器感染症です.また咳嗽の多くは一過性ですが,時に長引くものもあります.このような長引く咳嗽は,急性咳嗽と区別して遷延性咳嗽や慢性咳嗽とよばれています.長引く咳嗽の小児特有の原因として,感染性因子以外に,先天性の形態異常や気道異物によるもの,アレルギーに関連したもの,受動喫煙によるものや心因性のものなどがあげられます.また小児では,アナフィラキシーや急性喉頭蓋炎のような救急に対応が必要な咳嗽疾患もあります.そのため,小児咳嗽の特殊性を十分に理解したうえで診療に臨むことが大切と考えます.
3 本ガイドラインの作成手順
日本小児呼吸器学会の運営委員会において,2012年4月に「小児の咳嗽診療ガイドライン」作成委員会が発足され,それに基づき,日本小児呼吸器学会運営委員の中から8名の委員が選出されました.今回の2020年版(改訂第2版)では,この8名の作成委員と別途指名された4名の協力委員を中心に本ガイドラインを作成しました.執筆した原稿は,作成委員による複数回の編集会議と査読で議論を重ね,おもに日本小児呼吸器学会会員のパブリックコメントと日本小児呼吸器学会役員の査読を経て検討,外部評価委員にいただいた評価も参考に推敲した後,「小児の咳嗽診療ガイドライン2020」として発刊に至りました.多くの貴重なご意見をいただきました先生方に深謝申し上げます.
4 クリニカルクエスチョン(CQ)
CQの作成にあたっては,当初,疫学,検査,診断,治療,その他の種々の分野における30個の案が検討されました.作成委員会において議論を繰り返し,最終的に臨床現場で判断に迷うであろう咳嗽の治療,とくに薬物療法にしぼった上記8個のCQを設定することとなりました.
種々の疾患における症状の一つとしての咳嗽ではなく,咳嗽そのものに対する治療・薬物治療を検討した研究は当初から少数と予測されました.そのため,まずは作成委員会において該当するキーワード(cough/chronic cough/child/pediatric等)にてThe Cochrane Libraryを検索し,既存のシステマティックレビューを検討しました(検索期間:1999年7月~2018年4月).作成委員会にてこれらの文献の内容を吟味し,このなかから質の高いと思われた8つのレビューをもとにCQの骨格を作成しました.これらのレビューを用いて,アップデートな最新研究の情報についてはこれらのレビューで用いられたものと同じ文献検索式を用い,また適宜PubMed,医中誌などさらに検索を加えました.
5 エビデンス総体の評価と推奨グレードの決定
本ガイドライン(CQ)では,「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」に準じ,エビデンス総体と推奨グレードを設定しています.
作成委員会の場で,一致をみるまで議論を重ね,最終的に委員の総意において,エビデンス総体の評価ならびに推奨グレードを決定しました.
6 本ガイドラインの使用法
本ガイドラインの特徴として,海外や成人と比較しながら,わが国の小児の咳嗽の原因を年齢別に,かつ代表的な疾患を重点的に解説しています.また,用語の定義,疾患名などはなるべくわかりやすく統一を図りました.さらに2020年版では,それらのアップデートとともに,薬物治療に関するクリニカルクエスチョン(CQ)を設定し,作成委員会としての方針をお示ししました.
小児咳嗽の診断・治療の進め方の基本は,十分な鑑別診断を行い,的確な診断のもと,それぞれの疾患に見合った治療を行うことです.そこで確定診断の進め方として,巻頭カラーに,①急性咳嗽,②遷延性咳嗽,③慢性咳嗽,④救急外来でみる咳嗽,の四つの鑑別診断フローチャートを掲載しました.また本文には,そのフローチャートのポイントも記載しています.フローチャートに沿って即座に確認したい疾患を読み進められるように工夫しました.ただし,すべての疾患を網羅するものではないことにご留意ください.
7 外部評価
本ガイドライン作成の過程において,その実地臨床での適用可能性や妥当性を客観的に評価するため,本ガイドラインの作成後,その作成に直接関わっていない咳嗽診療の関連学会を代表する専門家(日本外来小児科学会,日本呼吸器学会,日本小児耳鼻咽喉科学会)に外部評価を依頼しました.また広く患児の養育者にも意見を求めました.それらの意見を参考に本ガイドライン作成委員会でさらに検討を重ね,最終稿としました.
8 利益相反
ガイドラインの透明性・公平性を担保するために,本ガイドラインの作成委員・協力委員には学会事業として無償で編集・執筆を行っていただきました.また本ガイドラインの作成には,製薬会社などの企業の資金は用いられておらず,特記すべき利益相反(conflict of interest)はありません.
9 医薬品適応外薬の使用
保険適用のない薬剤および投与量を使用する場合は,薬剤の特性,副作用を十分に理解している必要があります.適応外薬を安易に使用することは避けなくてはなりません.また,適応外薬を使用して副作用などの問題がおきた場合には,医薬品副作用被害救済制度の補償対象とならない場合があることに留意し,このことは患児やその養育者に周知しておく必要があります.
「小児の咳嗽診療ガイドライン」作成委員会 委員長
吉原重美