消化器手術における手術部位感染症(SSI)の制御は重要なテーマの1つである.従来,わが国のSSI対策は,米国疾病予防管理センター(CDC)など国際的なガイドラインに準ずる形で施行されてきた.しかしながら,これらには少なからず日本の臨床現場に合致しない内容も含まれている.本ガイドラインでは,学会主導で3つの多施設ランダム化比較試験(RCT)を行うなど,わが国の実状に合致した推奨を提示する.
関連書籍
ページの先頭へ戻る
目次
作成組織
序
ガイドライン出版に寄せて
クリニカルクエスチョン(CQ)一覧
序章 ガイドラインの目的,使用法,作成方法
1 本ガイドラインの目的
2 対象利用者
3 対象疾患
4 本ガイドライン利用上の注意
5 本ガイドラインの作成経過
6 本ガイドラインの作成方法
7 公聴会(医療者からの情報収集)
8 普及のための工夫
9 改訂について
10 診療ガイドライン作成過程および作成内容の普遍性
第1章 SSIの定義,頻度,リスク因子
CQ1-1 SSIの定義は?
CQ1-2 消化器外科領域のSSIの発生頻度は?
CQ1-3 消化器外科領域手術におけるSSI発症のリスク因子は?
CQ1-4 SSI発症に伴う医療経済的影響は?
CQ1-5 SSI対策の費用対効果は?
第2章 SSIの診断基準,サーベイランス,分離菌
CQ2-1 SSIの診断基準にはどのようなものがあるか?
CQ2-2 SSIサーベイランスの有用性は?
CQ2-3 消化器外科術後SSI予防のための適切なサーベイランス方法は?
CQ2-4 消化器外科術後SSIの分離菌の特徴と経年変化は?
第3章 術前処置
CQ3-1 術前の鼻腔黄色ブドウ球菌保菌者はSSI発生率が高いか?
CQ3-2 鼻腔黄色ブドウ球菌保菌患者に対する術前decolonization はSSI予防に有用か?
CQ3-3 MRSA 以外の多剤耐性菌保菌者では予防抗菌薬を変更するか?
CQ3-4 栄養状態不良の患者における術前栄養状態改善はSSI予防に有用か?
CQ3-5 栄養不良のない患者における術前免疫調整栄養管理はSSI予防に有用か?
CQ3-6 術前の禁煙はSSI予防に有用か?
CQ3-7 術前の禁酒はSSI予防に有用か?
CQ3-8 術前のステロイド,免疫調整薬の減量はSSI予防に有用か?
CQ3-9 腸管前処置はSSI予防に有用か?
CQ3-10 クロルヘキシジンのシャワーや入浴がSSIを予防するか?
CQ3-11 バリカン(クリッパー)除毛は剃毛よりもSSI予防に有用か?
第4章 予防抗菌薬投与
CQ4-1 予防抗菌薬の適応術式は?
CQ4-2 予防抗菌薬投与の適切なタイミングは?
CQ4-3 予防抗菌薬の術中再投与のタイミングは?
CQ4-4 予防抗菌薬の投与期間は?
第5章 術中処置
CQ5-1 スクラブ法とラビング法では,どちらがSSI予防に有用か?
CQ5-2 消化器外科手術の術野消毒では,どの消毒薬がSSI発生予防に有用か?
CQ5-3 粘着式ドレープはSSI予防に有用か?
CQ5-4 創縁保護器具はSSI予防に有用か?
CQ5-5 術中の手袋交換や二重手袋,術中再手洗いはSSI予防に有用か?
CQ5-6 術中の手術器具交換はSSI予防に有用か?
CQ5-7 抗菌吸収糸はSSI予防に有用か?
CQ5-8 創洗浄はSSI予防に有用か?
CQ5-9 閉創前の腹腔内洗浄はSSI予防に有用か?
CQ5-10 消化器手術後にドレーン留置することで,SSIは減少するか?
CQ5-10-1 胃癌手術後のドレーン留置はSSI予防に必要か?
CQ5-10-2 腹腔鏡下胆?摘出術後のドレーン留置はSSI予防に有用か?
CQ5-10-3 胆道再建のない肝切除術後にドレーン留置は必要か?
CQ5-10-4 膵頭十二指腸切除術後の腹腔内ドレーン留置はSSI予防に有用か?
また,留置したドレーンは早く抜去するほうがSSI予防に有用か?
CQ5-10-5 虫垂切除後の腹腔内ドレーン留置は,SSI予防に有用か?
CQ5-10-6 結腸・直腸癌手術後の腹腔内吻合や腹膜外吻合のドレーン留置はSSI予防に有用か?
CQ5-10-7 消化器外科手術後の皮下ドレーン留置はSSI予防に有用か?
CQ5-11 創閉鎖,縫合糸,生体接着剤
略語一覧
索引
ページの先頭へ戻る
序文
序
日本外科感染症学会が念願としていた「消化器外科SSI予防のための周術期管理ガイドライン2018」を上梓することとなったことは,誠に喜ばしいかぎりであります.
米国では,1999年に米国疾病予防管理センター(CDC)がエビデンスに基づいたガイドラインを公開し,2017年にこの改訂版も出されているほか,世界保健機関(WHO)や米国外科学会/ 米国外科感染症学会(ACS/SIS)からも,SSIガイドラインが次々と提示され,日本の医療機関でもこれを順守する傾向にあった.しかし,米国のガイドライン,中でもWHOのガイドラインは発展途上国を念頭においた国際視野の観点から作られたものであり,日本の医療事情(SSI発症後も外科医がその治療にあたる)の相違や人種,体格,手術手技そのものが相違することを考慮すると,日本独自のSSI予防を含めた周術期管理のガイドラインの必要性に迫られていた.本学会が研究会から学会へと改組発展し,私が理事長に就任したときから,このガイドライン作成のための委員会を立ち上げ,初代担当理事に平田公一先生をお願いした経緯がある.さらに,本学会では,欧米のガイドラインに示された「予防的抗菌薬の適正使用」については,予防薬の選択,投与時期については問題ないが,投与期間については,日本の外科事情が前述の如く欧米と大きく異なることから,日本の現状にあった日本発のエビデンスの必要性を感じ,2003年にRCT委員会を立ち上げ,プロトコールを作成,2007年には事務局を三重大学(楠教授)に設置,肝切,上部消化管,下部消化管の3領域に関する予防的抗菌薬投与期間に関する本邦独自のRCTに基づいたエビデンスを2013年に発表した.折しも,本学会では2010年より「外科周術期感染管理医認定制度」を設立し,2011年にはその一期生が誕生した.本制度の永続性や認定医の質の進歩を保証するためには,認定医養成のための実践的な教育機会や,そのための「周術期管理テキスト」の上梓の必要があり,2012年には,この認定医制度委員会が教育委員会,ガイドライン作成委員会との連携のもと,優れた認定医育成のための「周術期感染管理テキスト」を上梓した.このような経緯のなか,これら認定医が順守すべき本邦独自のガイドライン作成はいよいよ機が熟すこととなり,2016年に産業医科大学の真弓教授を担当理事,委員長とするガイドライン作成ワーキンググループが結成され,今日に至った.
本ガイドラインは,一般臨床医から,消化器外科治療に従事する医師,さらには感染対策チームのスタッフまで,SSI予防にあたるすべての医療スタッフが対象であり,日本独自の医療事情を反映した本邦独自のエビデンスレベル,その推奨度も盛り込まれた実践的ガイドラインであると信じています.これまで,このガイドラインの作成にご尽力いただいた平田先生,真弓先生,大毛先生をはじめとする諸先生方に,心からの敬意と謝意を申し上げます.本ガイドラインが,医療の実践の場で多いに活用いただけることを念じ
ています.
2018年10月吉日
日本外科感染症学会 前理事長
炭山嘉伸
ガイドライン出版に寄せて
このたび学会待望の本ガイドラインを発行するにあたり,前理事長の炭山嘉伸先生,前担当理事の平田紘一先生,現担当理事の真弓俊彦先生,作成委員長の大毛宏喜先生をはじめ,委員,執筆者の皆様に心より御礼申し上げます.
さて,術後感染症は手術部位感染(surgical site infection: SSI)と遠隔部位感染(remote infection: RI)に大別されます.SSIはさらに切開創SSIと臓器/体腔SSIに分けられます.切開創SSIは鏡視下手術の増加により発症率が減少してきており,また近い将来に汚染度の高い開腹手術におけるNPWT(局所陰圧閉鎖療法)の予防的使用が認可されれば,さらに切開創SSIは減少するものと予想されます.そのような日本の医療事情も考慮した本ガイドラインは,今後長期にわたって日本の周術期管理に貢献できるものと期待しています.
折しも,日本の医療費の増加を受けて,国は急性期病院の役割を明確に示してきています.具体的には,平均入院日数を短縮させ,重症度,医療・看護必要度を病棟ごとに定めており,その基準値は今後さらに厳しく設定されることと予想されます.そのため,術後合併症を減らし,入院期間を短縮させる周術期管理はますます重要な意味をもつことになります.また,手術患者の確保は急性期病院の体制維持と病院経営のうえで極めて重要なこととなり,われわれ
外科医の活躍が病院の将来を左右するといっても過言ではありません.一方で,働き方改革が提唱され,われわれ外科医の労働時間が短縮されると,ますます術後合併症を減少させることが重要な意味をもつことは明らかです.
本ガイドラインが手術患者さんはもちろんのこと,外科医の負担を軽減し,病院の利益と国益に貢献することを期待しております.
2018年10月吉日
日本外科感染症学会 理事長
草地信也