厚労省研究班と日本先天代謝異常学会の協働によるエビデンスに基づくガイドライン.2007 年にわが国でも酵素補充療法が導入され,疾患認知度が向上し,新規診断例が増えている.一方,ポンペ病を専門とする医師は多くなく,また地域的にも偏在している.今後は非専門医も本症の診断,治療に関わる機会が増えるであろう.難病指定医,さらには一般診療医の先生方,医療従事者の方々にお役立ていただきたい.
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目次
序文
診療ガイドラインの刊行にあたって
診療ガイドラインの編集にあたって
診療ガイドラインの作成方法に関して
作成組織
本ガイドラインの使用上の注意
対象となる患者
利益相反
作成資金
I ポンペ病の概要
疾患概要
病態
病型・臨床症状
臨床検査と診断
治療と予後
II クリニカルクエスチョン(CQ)
CQ 1 ポンペ病の診断において,病理学的検索は推奨できるか?
CQ 2 ポンペ病の診断において,濾紙血のGAA 活性測定は有用か?
CQ 3 ポンペ病に発症前治療は有効か?
CQ 4 酵素補充療法はポンペ病の生命予後を改善するか?
CQ 5 酵素補充療法はポンペ病の呼吸機能を改善するか?
CQ 6 酵素補充療法は運動機能を改善するか?
CQ 7 酵素補充療法はポンペ病の心筋症を改善するか?
CQ 8-1 酵素補充療法はポンペ病の神経合併症である脳血管障害を改善するか?
CQ 8-2 酵素補充療法はポンペ病の神経合併症である白質病変を改善するか?
CQ 8-3 酵素補充療法はポンペ病の神経合併症である難聴を改善するか?
CQ 9-1 酵素補充療法はポンペ病の合併症である難治性下痢を改善するか?
CQ 9-2 酵素補充療法はポンペ病の合併症である構音障害を改善するか?
CQ10 ポンペ病において酵素補充療法の治療開始時期は治療の有効性に影響するか?
CQ 11 ポンペ病において,遺伝子型は酵素補充療法の有効性に影響するか?
CQ 12 食事療法はポンペ病に推奨できるか?
CQ 13 理学療法はポンペ病に推奨できるか?
CQ 14 人工呼吸療法はポンペ病の生命予後を改善するか?
CQ 15 ポンペ病の経過観察に骨格筋画像は有効か?
索引
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序文
序文
この度,『ポンペ病診療ガイドライン2018』が,ライソゾーム病(ファブリー病含む)に関する調査研究班と日本先天代謝異常学会の協力のもとで刊行されることを大変嬉しく思います.
ポンペ病(Pompe disease)はライソゾーム病の1つであり,その発症年齢から乳児型と遅発型に分類されています.フロッピーインファントやミオパチーの鑑別疾患として考慮されるべき疾患ですが,その稀少性から一般の臨床現場で本症を的確に診断することは容易ではありません.そして,ポンペ病に対して,わが国では酵素補充療法(enzyme replacement therapy;ERT)が2007年に健康保険収載され,実地臨床の現場で使用され,その効果が実証されています.しかしながら,十分な治療効果を得るためには早期診断・早期治療が必要です.また,新生児スクリーニングの必要性やERTに伴う抗体産生の問題などが報告されています.
以上のような観点から,ポンペ病の診断・治療に関する科学的エビデンスに基づく診療ガイドラインの必要性が実地臨床現場から上がってきたことを受けて,2017年にライソゾーム病(ファブリー病含む)に関する調査研究班による『ポンペ病診療ガイドライン2017』が作成されました.しかしながら,同ガイドラインは非売品であったため,実地臨床現場の先生方に冊子をお届けすることができませんでした.今回,日本先天代謝異常学会診断基準・診療ガイドライン委員会,そして同理事会の審査・承認を経て,学会編集の形で『ポンペ病診療ガイドライン2018』として上梓されたことで,医療従事者の方々にお届けすることができるようになりました.
このガイドラインはMindsの手法に沿って作成されています.ポンペ病は先述したように稀少疾患であり症例数が少ないため,エビデンスレベルの低いものはその旨を明記し,推奨内容はエキスパートオピニオンとしています.しかしながら,現実的にはMindsの精神に則っていることから,本ガイドラインはエビデンスレベルの高い診療ガイドラインであるということを強調したいと思います.
最後になりましたが,本ガイドライン作成に多大なご尽力をいただきました厚生労働省難治性疾患等政策研究事業「ライソゾーム病(ファブリー病含む)に関する調査研究班」研究代表者の衞藤義勝先生,同研究班ポンペ病診療ガイドライン作成委員会委員長の大橋十也先生,日本先天代謝異常学会事務局長の櫻井 謙先生をはじめ,ご協力いただいた多くの方々に深謝申し上げます.
本ガイドラインが多くの医療従事者に活用され,その結果,ポンペ病に対する診断・治療の質が向上し,患者さんのQOLが改善することを願います.
平成30年11月吉日
日本先天代謝異常学会
理事長 井田博幸
(東京慈恵会医科大学)
診療ガイドラインの刊行にあたって
ポンペ病(Pompe disease)は,ライソゾーム酵素,酸性α-グルコシダーゼ(acid α-glucosidase;GAA)の遺伝子変異により発症する常染色体劣性遺伝形式の先天代謝異常症です.発症年齢は0? 60代までと幅広く,発症すると筋力低下,肝腫大,心筋症などを呈します.
厚生労働省難治性疾患等政策研究事業「ライソゾーム病(ファブリー病を含む)に関する調査研究班」(研究代表者 衞藤義勝)では,ライソゾーム病31 疾患,ALD,ペルオキシソーム病の診療ガイドライン作成事業の一貫として,平成27 年度6 月の班会議において大橋十也教授(東京慈恵会医科大学)をポンペ病診療ガイドライン作成委員会の委員長に指名し,本分野の専門家13 名に執筆・編集委員,システマティックレビュー(SR)委員,担当委員として加わっていただき,「Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014」(以下,Minds)に示された手法に基づく,わが国初のポンペ病の診療ガイドラインである『ポンペ病診療ガイドライン2017』(非売品,当研究班ホームページにて公開中)を約1 年の歳月をかけて作成しました.同ガイドラインの刊行目的は,科学的根拠に基づき,系統的な手法により作成された推奨をもとに患者と医療者を支援し,臨床現場における意思決定の判断材料の1 つとして日常診療にお役立ていただくことです.ポンペ病という疾患の性質上,Mindsの手法に則って診療ガイドラインを作成することは,文献数,症例数の少なさから評価,選定がむずかしいところもありましたが,可能なかぎりMindsの精神に沿うように努めました.
今回,同ガイドラインは日本先天代謝異常学会による学会審査を経て,装いも新たに『ポンペ病診療ガイドライン2018』として書店に並ぶことになりました.『ポンペ病診療ガイドライン2017』から内容の変更はありませんが,より多くの先生方にポンペ病を知っていただく機会が増えたことを大変嬉しく思います.
最後に,本ガイドラインの作成を主導していただいた当研究班ポンペ病診療ガイドライン作成委員会の大橋十也委員長,石垣景子先生,福田冬季子先生,またMindsの手法を絶えずご指導いただいた(公財)日本医療機能評価機構の森實敏夫先生,学会承認までの過程でご尽力いただいた日本先天代謝異常学会の井田博幸理事長,診断基準・診療ガイドライン委員会の大竹 明委員長,中村公俊副委員長,深尾敏幸副委員長,事務局長の櫻井 謙先生をはじめ,多くの皆様に感謝申し上げます.
本ガイドラインが,難病診療に携わる難病指定医,さらには一般診療医の先生方,医療従事者の方々のお役に立つことを祈念いたします.
平成30年11月吉日
厚生労働省難治性疾患等政策研究事業
「ライソゾーム病(ファブリー病含む)に関する調査研究班」
研究代表者 衞藤義勝
(東京慈恵会医科大学)
診療ガイドラインの編集にあたって
ポンペ病(Pompe disease)は酸性α-グルコシダーゼ(acid α-glucosidase;GAA)の欠損により細胞のライソゾームにグリコーゲンが蓄積する疾患であり,常染色体劣性遺伝形式で遺伝する.厚生労働省の指定難病に認定されている.ライソゾーム病に分類されているが,糖原病II 型としても知られている.本症は乳児期早期に発症する乳児型と,それ以降に発症する遅発型に分類される.乳児型は心肥大,肝腫大,筋力低下を呈し,無治療の場合は1 歳前後で死亡する.遅発型は成人期までの発症があるなど幅が広いが,基本的に筋力の低下がおもな症状であり,予後は様々である.
2007年にわが国でも酵素補充療法(enzyme replacement therapy;ERT)が導入され,特に乳児型では救命的な治療となっている.治療法が開発されたことにより,疾患の認知度も上がり,新規に診断される例が増えている.また,より早期に発見するために新生児マススクリーニングの対象疾患とすべきとの動きもある.今後は,発見される症例も加速度的に多くなることが予測される.
一方,本症を専門とする医師はそれほど多くなく,また地域的にも偏在している.今後は非専門医もポンペ病の診断,治療に関わることが多くなると予想される.
以上のことを踏まえ,全国の患者さんが等しくレベルの確保された医療を受けられるために『ポンペ病診療ガイドライン2017』の作成を行った.同ガイドラインは科学的根拠に基づく医療(evidence-based medicine;EBM)に則って作成した.同ガイドラインは完成後,当研究班より全国の小児科教授などに無償配布され,また当研究班のホームページおよびMindsガイドラインライブラリーでも公開されている.しかしながら,「冊子を購入したい」という声にはこたえることができなかった.今回,日本先天代謝異常学会との協働のもと,学会審査を受けたうえで『ポンペ病診療ガイドライン2018』として上梓されたことにより,より多くの医療従事者の皆様に周知されることを期待したい.
最後に,本ガイドラインは別添の作成組織の先生方のご尽力により完成したものである.作成関係者の皆様に深謝する.また,論文収集,ガイドラインについてご指導いただいた阿部信一先生,森實敏夫先生,学会審査・承認にあたってご尽力いただいた日本先天代謝異常学会の井田博幸先生,大竹 明先生,櫻井 謙先生に感謝の意を表したい.
本ガイドラインは,全国のこの難病に苦しむ患者さん,ご家族,主治医の先生をはじめ,多くの方々の思いとご協力により得られた知見を基軸に作成されており,あらためて感謝申し上げるとともに,このガイドラインが臨床現場を通じて,ポンペ病の患者さんやご家族のQOL 改善につながることを心より願っている.
平成30年11月吉日
厚生労働省難治性疾患等政策研究事業
「ライソゾーム病(ファブリー病含む)に関する調査研究班」
ポンペ病診療ガイドライン作成委員会
委員長 大橋十也
(東京慈恵会医科大学)