新生児医療において脳障害の有無や程度を知ることは早期治療に極めて重要である.それには非侵襲的な脳波検査が有用だが,苦手意識を持つ方もいるのではないだろうか.新版となる本書では正常脳波・異常脳波の豊富なサンプルをもとに,初学者にもわかりやすく解説.また新規項目として「新生児発作」と「aEEG」を加え,Webには脳波のサンプルとチャレンジ問題を掲載.ぜひ,脳波判読スキルの向上にお役立ていただきたい.
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目次
推薦の序/渡邊一功
序文/奥村彰久
本書のおもな脳波図
執筆者一覧
本書のポイント
Ⅰ 総 論
A なぜ新生児脳波を記録するのか/奥村彰久・早川文雄
B 新生児脳波の特徴/奥村彰久・早川文雄
C 睡眠段階と脳波パターン/奥村彰久・早川文雄
Ⅱ 正常脳波
A 新生児の脳波パターン/奥村彰久・早川文雄
B 脳波パターンの発達的変化
B-1 交代性パターン(TA)/非連続性パターン(TD)の発達/加藤 徹・早川文雄
B-2 高振幅徐波パターン(HVS)の発達/加藤 徹・早川文雄
B-3 低振幅不規則パターン(LVI)の発達/加藤 徹・早川文雄
B-4 混合パターン(M)の発達と高振幅徐波パターンとの相違/加藤 徹・早川文雄
B-5 超早産児期の脳波/加藤 徹・早川文雄・奥村彰久
C 判読に必要なアーチファクトの知識/久保田哲夫
Ⅲ 異常脳波
A 異常脳波の考えかた/城所博之
B 急性期異常/深沢達也・丸山幸一・早川文雄
C 慢性期異常/深沢達也・丸山幸一・早川文雄
C-1 disorganized pattern/深沢達也・加藤 徹・早川文雄
C-2 dysmature pattern/深沢達也・加藤 徹・早川文雄
C-3 dysmorphic pattern/深沢達也・加藤 徹・早川文雄
Ⅳ 新生児発作
A 新生児発作総論/奥村彰久・丸山幸一
B 新生児発作と脳波所見/奥村彰久・山本啓之
Ⅴ aEEG
A aEEG総論/杉山裕一朗・久保田哲夫
B 急性期異常/杉山裕一朗・久保田哲夫
C 新生児発作/鈴木健史・久保田哲夫
Ⅵ 新生児脳波の実際とその応用
A 新生児脳波の録りかた/奥村彰久
B 新生児脳波のレポートの書きかた/奥村彰久
C 新生児期における脳波の臨床応用/城所博之
判読のポイント1:全体を把握して,細部に至る/城所博之
判読のポイント2:デルタ波の形態/城所博之
判読のポイント3:disorganized pattern/城所博之
Column
新生児脳波の研究をはじめたころ/渡邊一功
新生児の観察/渡邊一功
睡眠周期の発達/渡邊一功
睡眠周期と脳波パターンの変化/渡邊一功
交代性脳波と非連続脳波/渡邊一功
delta brushの意味するところ/渡邊一功
徐波睡眠の発達/渡邊一功
周生期脳障害の程度と脳波/渡邊一功
極・超早産児の脳波活動の驚き/早川文雄
total asphyxiaの脳波活動の驚き/早川文雄
急性期異常と慢性期異常/早川文雄
新生児発作と睡眠時期/渡邊一功
あとがき/城所博之
文献
索引
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序文
推薦の序
新生児医療では,新生児の脳が正常なのか障害されているのか,障害があるとすればその程度はどうか,いつどのように受傷したのか,神経学的後遺症が残るのかといった情報は,脳障害の新生児期における治療や予防,発症機序の解明などに重要である.このような情報を得る方法としてCT,MRI,超音波などの神経画像診断があるが,これらは空間分解能ではすぐれているが,時間分解能は劣っている.これに対し脳波は時間分解能にすぐれ,時々刻々の脳機能の変化を非侵襲的にベッドサイドで容易に検査できる極めて有用な検査法である.最近では小型のデジタル脳波計の普及,aEEGの導入などにより脳波検査の有用性がますます高まっており,周産期脳障害の診断や予後の判定,新生児発作の診断,成熟度の判定のみならず,連続的モニタリングによりリアルタイムで脳機能障害を検出し得るようになり,治療に結び付けられる可能性が高まっている.
本書は,総論,正常脳波,異常脳波,新生児発作,aEEG,新生児脳波の実際とその応用からなっている.「総論」では,新生児脳波の判読には様々な障壁があるが,それを乗り越える努力をするだけの価値がある極めて有用な検査法であることが強調されている.そのうえで,新生児脳波の特徴,睡眠状態と脳波パターンの関係が解説されている.新生児の睡眠は大きく動睡眠と静睡眠に分けられるが,その周期とそれに対応する脳波パターンをコード化して判読する方法が記載されている.一見わかりにくいようであるが,習得してしまえばそのあとの「正常脳波」の理解に役立つので理解に努めていただきたい.なお,睡眠状態の判定にはポリグラフ記録が必要だが,実地臨床では必ずしも必要はない.睡眠状態と脳波パターンの間には有意な関連があるが1:1の対応はなく,脳波パターンの出現周期を理解したうえですべての脳波パターンを記録すれば判読は十分可能である.「正常脳波」では,脳波パターン別にコードを用いて脳波の発達がわかりやすく説明されている.ここで注意していただきたいのは総論でも触れられているが,高振幅徐波パターンにはコードの異なる2種類があることである.これらの神経生理学的基盤についてはコラム欄を読んでいただきたい.「異常脳波」では,豊富な異常脳波が呈示され,特にどこに着目すべきなのかが図中に矢印を入れてわかりやすく解説されている.「新生児発作」では,最近提案されている新しい分類案を解説したうえで,実際の発作時脳波が呈示されており有用である.「aEEG」では,原理や表示方法,正常正期産児と早産児のaEEGについて丁寧にわかりやすく解説したうえで,急性期異常,新生児発作が豊富な実例をもとに説明されている.さらにホームページには脳波図のPDF,「チャレンジ問題」まで用意されており,至れり尽くせりの新生児脳波判読のテキストである.
本書を,ハイリスク新生児のintact survivalを目指すすべての新生児科医,小児神経科医におすすめしたい.
2019年4月
名古屋大学名誉教授
渡邊一功
序 文「新 誰でも読める新生児脳波」の発刊に際して
2008年に「誰でも読める新生児脳波」を診断と治療社から発刊していただき,気がつくと10年余が経過した.2019年5月には天皇陛下がご譲位され,時代は平成から令和へと移り変わった.「誰でも読める新生児脳波」もその内容をリニューアルするにはよいタイミングのように思われる.
発刊当時は「誰でも読める新生児脳波」は,おそらく世界でたったひとつの新生児脳波の判読テキストであった.令和時代が訪れた現在でも,私の知る限り「誰でも読める新生児脳波」に比肩できる欧米のテキストは存在しないように思われる.「誰でも読める新生児脳波」の発刊の時期は,ようやく欧米でamplitude-integrated EEGが普及して,その有用性が認知されるようになった時期である.発作時脳波なしで新生児発作を診断できないことを,欧米が当時はじめて認識したといってよい.しかし,そのようなことはわれわれにとってはすでに極めて当たり前であったのである.その後,欧米でも新生児脳波の重要性の認識が広がりつつあるが,おそらくわれわれと比較できるレベルの判読者はほとんどいないのではないかと思う. 医学の進歩は年々その速度を増し,ついこの前まで最新だと思っていた知見もあっという間に新鮮さを失っていく.iPS細胞は「誰でも読める新生児脳波」の発刊の頃に世に知られるようになったが,現在ではすでにiPS細胞の臨床応用がはじまっている.様々な研究にiPS細胞が用いられ,もはや目新しい手法とはいえない.では,新生児脳波の判読スキルは古くて使い物にならないものであろうか.少なくとも私は,新生児脳波がもたらす視点は新生児医療の進歩に今もなお重要であると感じる.
本書「新 誰でも読める新生児脳波」は,約10年ぶりに「誰でも読める新生児脳波」をリニューアルしたものである.本書はその性質上,内容の根幹部分は変わっていない.しかし,前版の内容をブラッシュアップし,新生児発作やamplitude-integrated EEGについての記述を追加した.本書1冊で新生児の脳波判読が可能になるように配慮したつもりである.ぜひ,本書を片手に新生児の脳波を判読していただきたい.
2019年5月
愛知医科大学小児科
奥村彰久