患者,医師,企業それぞれの立場において必要なことは何かを提言するという前版のコンセプトはそのまま引き継ぎつつ,労働者の労働安全衛生から職場環境におけるメンタルヘルスの問題まで,最新の情報を盛り込んだ.さらに,現場での有用性を意識した実践的な説明を増やし,また,実際の現場で活用できるツール類も追加掲載.すべての産業保健職に満足いただける実践書である.
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目次
はじめに
初版 はじめに
著者プロフィール
用語・用字,略語の整理
1 産業精神保健の基本問題
1 産業精神保健の枠組み
2 重要な概念
3 産業精神保健活動の範囲と優先順位
4 産業保健専門職の「中立性」
5 精神医療の専門職の役割
6 個人情報の保護
2 産業精神保健小史
1 産業精神保健の歴史を知るということ
2 2 つの潮流
3 黎明期
4 1960 ~ 1970 年代
5 1980 ~ 1990 年代前半
6 1990 年後半以後
7 公務員などの精神保健
8 海外の動向
9 現状
3 メンタルヘルス不調に関する労災認定と事業者責任
1 精神障害の労災認定の概要
2 精神障害例の労災認定
3 公務員等の補償
4 事業者責任と安全配慮義務
4 職業性ストレスおよびメンタルヘルスに関する理論・モデル・概念
1 職業性ストレスと健康に関する理論・モデル
2 職業性ストレス・メンタルヘルスに関連する概念
5-1 産業精神保健活動の進め方
1 活動の枠組みと組織体制の構築
1 精神保健活動に関する枠組み
2 組織体制の構築
5-2 産業保健職による面接・相談と主治医との連携
1 産業精神保健活動における面接・相談
1 面接・相談における特徴
2 労働者との「距離感」に関する注意
3 面接の意識に関する考え方
4 産業保健職が「寄り添う」ということ
5 産業保健職の役割分担
6 「治療的な」働きかけに関する留意点
2 主治医との連携
5-3 産業精神保健活動の実際
1 職場復帰・職場再適応の支援
1 職場復帰とは何か
2 メンタルヘルス不調者の職場復帰とその支援
3 「復職支援手引き」の概要と具体的な支援の進め方
4 合理的配慮をめぐって
5 試し出勤制度
6 リワークプログラム
7 再教育・訓練の制度
8 公務員の職場復帰支援
2 メンタルヘルス不調事例の同定と対応
1 メンタルヘルス不調例の同定と評価
2 メンタルヘルス不調例への対応
3 過重労働対策と面接指導
3 メンタルヘルス不調の防止と活力ある労働に向けた支援
1 メンタルヘルス不調の防止
2 ストレスチェック制度
3 活力ある労働に向けた支援
4 教育・研修
1 教育・研修の位置づけと実践
2 管理監督者に対する教育・研修(ラインケア研修)
3 労働者(全体)に対する教育・研修(セルフケア研修)
4 産業保健職の教育・研修
5 自殺予防と危機対応
1 自殺予防
2 危機対応
重要文献
索 引
おわりに─これからの産業精神保健
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序文
はじめに
旧版の出版から6年半あまりが経過した.
旧版は,不遜ではあるが,産業精神保健についての産業保健職向け教科書を意図した.そのため,奇を衒ったような表現をできるだけ抑えた.それに加え,最近出版される書籍と比較すると1頁あたりの文字数が多く,また価格設定もやや高めであることから,どのくらいの方に手にとっていただけるか心配をしたものだった.けれど,予想よりも多くの方から,好意的な感想をいただいた.
他の産業保健活動と比較し,メンタルヘルス対策は難しいという悩みを多く耳にする.他方で,そうではないという声もある.行うべきことは決まっており,産業保健職はそれを然るべき標準的な手順にしたがって行えばよいのだからというのが,その主な理由である.しかし,産業保健活動が単なる「手続き」(に終始すること)であってよいはずはない.メンタルヘルス対策だけが特段に難しいという気はない(他の産業保健活動も難しい)が,やはりそれは難しいのである.個人への対応であっても,職場への働きかけであっても,産業保健職は,関わっていく過程でいろいろと悩まなければならないのである.本書には,メンタルヘルスに関する問題の難しさを解きほぐし,難しさの中身を整理しようという野心がその底流にある.
お褒めの半分以上が社交辞令の類であったとは承知しているが,このあたりに多少でも共感いただいたのであれば,この上ない喜びである.
この度,ありがたいことに出版元から改訂版の話をいただいた.
コンセプトは旧版と大きく変えていないが,この領域の最新情報を盛り込むとともに,実践における有用性を意識した説明を増やし,現場で活用できるツール類も追加掲載した.教科書プラス実践書といったところである.その分,30ページくらいを占めていた資料をすべて割愛した.それらは,いずれも現在の産業保健活動にとって重要なものであるため,インターネットを通じて入手は可能であるものの,すぐに読んでいただけるように,旧版では付録として付けた経緯がある.
また,旧版を改めて精読し,記載ミスや誤解を受けそうな表現(旧版を購入してくださった方には,誠に申し訳ないが,少なからず見つかった)には訂正を施した.
改訂作業には多くの時間を有した.そのため,校正の段階で,統計データなどを最新のものに入れ替えねばならない事態も生じた.ひとえに筆者の怠惰と遅筆のせいである.
旧版から引き続きお世話になった診断と治療社の寺町多恵子様,今回新たに担当に加わってくださった同社青山祐太郎様には,感謝の言葉しかありません.諸事情が重なったとはいえ,締め切りの遅延を繰り返したにも関わらず,終始温かい励ましをいただきました.深謝いたします.
2020年5月
産業医科大学名誉教授
廣 尚典