小児血液疾患では比較的稀な疾患である溶血性貧血.しかし分析機材の進歩等により診断技術が向上し,複雑な病態が解明されつつある.本書では,病態の解説のほか,筆者が実際に行った赤血球膜タンパクの分析方法や,豊富な自験例を詳細に掲載.長年にわたり溶血性貧血を研究してきた著者の貴重な知見が詰まった1冊.
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目次
はじめに
貧血の概念・赤血球造血と機能
第Ⅰ章 貧血の分類と診断
1 貧血の分類
a 小児期の貧血の特徴
b 貧血の分類
2 溶血性貧血の診断
a 一般的貧血の指標(末梢血液像)
b 溶血を示唆する末梢血液像(Wright染色,Giemsa染色)
Study1 わが国における溶血性貧血の基準
厚生労働省特発性造血障害に関する調査研究班によるもの
〜平成16年度改訂版による溶血性貧血の診断基準の要点〜
c 溶血性貧血の体内血液循環中の赤血球の動態と溶血
d 血管内溶血と血管外溶血の概念
e 血管内および血管外溶血後のヘモグロビンの代謝
第Ⅱ章 先天性溶血性貧血と後天性溶血性貧血
1 先天性(遺伝性)溶血性貧血
a 赤血球膜異常症
Study2 赤血球膜性状の特殊検査法(特殊染色,生化学的検査,質量解析)
赤血球膜分析法(東京電機大学理工学部生命理工学系)
Study3 これまで経験した自験例と依頼された遺伝性球状赤血球症症例の分析
Study4 膜タンパクの遺伝子変異がみられた5例での臨床像と膜タンパク分析
(生化学的解析,質量解析)
b 赤血球酵素異常症
Study5 自験のグルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症Canton
c ヘモグロビン異常症
Study6 自験の不安定ヘモグロビン症《症例 Hb Köln症》
Study7 自験の後天性メトヘモグロビン血症の検討
Study8 自験の不安定ヘモグロビン症,鎌状赤血球,β-thalassemiaの赤血球の特徴とその解析
2 後天性,続発性溶血性貧血
Study9 自己免疫性溶血性貧血例における赤血球膜抗体の対応抗原の同定と抗体産生機序に関する考え方
3 そのほかの溶血性貧血
a 発作性夜間ヘモグロビン尿症
b 栄養性の溶血性貧血
c 物理的(機械的障害)因子による溶血性貧血
d 血清脂質異常
e アルコール性肝障害(肝硬変)
f 寄生虫や微生物による赤血球損傷
g 赤血球自体の異常と赤血球以外の異常の相互作用により溶血をきたすもの
h 化学物質による溶血性貧血
Summary 先天性,後天性(続発性)溶血性貧血の検査所見とその特徴
第Ⅲ章 脾臓との関わり
1 脾臓摘出の適応と合併症の対策
Study10 自験の免疫不全症での脾臓摘出
2 脾臓摘出以外の一般的治療法と特殊治療法とその展望
おわりに
索引
著者紹介
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序文
小児は胎生期,新生児期,幼少期,学童期,思春期と発達していくため,その時期特有の疾患があります.小児の疾患のなかでも,貧血には,各小児期に特徴的に発症するものがあります.特に遺伝性球状赤血球症などの先天性で遺伝学的要因の強い貧血は,ほとんどが出生時から幼少期に発症しています.
本著は,貧血のなかでも溶血性貧血の診断と治療について,著者のこれまでの経験をもとにまとめたものです.診断は赤血球膜タンパク質の分析としてsodium dodecyl sulfate polyacrylamide gel electrophoresis(SDS-PAGE)による生化学的手法を中心に,また,タンパクやペプチドは質量解析機器にて実際の実験操作法を詳しく記載しましたので,ご参考になれば幸いです.これらの分析機材は,小児溶血性貧血の診断技術の向上に寄与し,治療や病状など種々の新しい知見が得られています.
最近では,溶血性貧血の治療にもモノクロナール抗体(遺伝子導入によるリコンビナント抗体での抗体医薬)を使用したり,さらには先天性の遺伝子変異を有するものに対して遺伝子編集技術が用いられている現状があります.これらの最新の治療の方向性について記述していますので,治療の参考になれば幸いです.
2019年12月
東京電機大学理工学部生命理工学系
客員教授 渋谷 温
※本書内のEMA染色画像は,「渋谷 温:小児溶血性貧血の診断と治療 小児科 2013:54:1919-1929」,「Shibuya A, Kawashima H, et al. : Analysis of erythrocyte membrane proteins in patients with hereditary spherocytosis and after types of hemolytic anemia. Hematology 2018;23:669-675」,「第79回 日本血液学会学術集会発表時のポスター」にカラー画像で掲載されております.