日本人の死因第一位である悪性新生物のうち,最も多い肺癌のCT画像診断のノウハウを初学者にわかりやすく解説する.早期発見,早期治療が叫ばれる中,肺癌を素早く正確に診断することは「胸部CT検査」の最も重要な役割りの一つである.しかし,得られた肺結節や腫瘤性病変の情報から,正確に肺癌を診断するには豊富な経験と知識を必要とする.本書は,その不足分を補うと同時に読影者独自のテクニック体得への道筋を示すものである.
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目次
I 肺腫瘤性病変の診断
1.肺区域解剖
A 肺の基礎的解剖
B 胸部CT画像上での解剖
Note 存在部位同定の意義
2.肺野型結節および腫瘤
A サイズ
Note ランダム分布
B 境界および辺縁の性状
Note 辺縁整の悪性病変
C 内部の性状
Note 嚢胞性肺疾患
D 周囲の変化
Note 周囲散布像
Note Pancoast腫瘍(Pancoast型肺癌)
3.肺門部腫瘤
A 肺門部肺癌
B 扁平上皮癌と小細胞癌
C その他の鑑別すべき疾患
II 縦隔腫瘤性病変の診断
4.縦隔の解剖
A 臓器および血管
B 縦隔区分
5.前縦隔腫瘤
A 嚢胞性腫瘤
B 充実性腫瘤:胸腺上皮性腫瘍
C 充実性腫瘤:胸腺上皮性腫瘍以外
Note 胸腺過形成
6.中縦隔腫瘤
A 嚢胞性腫瘤
B 充実性腫瘤
7.後縦隔腫瘤
A 神経原性腫瘍
B その他の疾患
III 胸膜・胸壁腫瘤性病変の診断
8.胸膜・胸壁の解剖
A 胸 膜
B 胸 壁
C 胸膜外徴候
9.胸膜結節および腫瘤性病変
A 胸膜播種/転移
B 胸膜中皮腫
Note 胸膜プラーク
C 稀な胸膜結節および腫瘤性病変
10.胸壁結節および腫瘤性病変
A 骨由来の病変
B 軟部組織由来の病変
索 引
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序文
監修の序
本書は,初学の人が胸部CTの読影を手早くマスターするための実践の書である.
HounsfieldらがCTを開発して今年でほぼ50年になるが,臨床現場に投入されて以来,CTは常に疾患の診断において重要な位置を占め続けている.この間,機器・装置の進歩は著しく,画像は高精細化しスキャンも高速化され,各領域において膨大な知見が集積されている.胸部領域においても,体系的に記載された日本語で読める優れた教科書が多数出版されている.しかしながら,これらの教科書は情報量が膨大で,初期研修医や医学生等の初学者が最初に取り組んで読み通すにはかなりの努力を要するであろう.
本書は,当研究室の若手のホープである福本航医師が,日々の診療とともに研修医や医学生を指導している経験から,胸部腫瘍のCT診断のエッセンスを抽出し「まず,これだけは学んでほしい」という事項をわかりやすくまとめ上げたものである.日頃の医学生への講義や臨床実習,研修医の読影指導等における氏の経験が随所に生かされている.各パートでは,解剖学的な基本的事項から始まり,疾患別ではなく画像所見別に診断にアプローチするという形式で記載されている.読者は,本書により胸部腫瘍のCT診断の根幹をマスターし,次のステップで国内外の詳しい成書に挑むことで,より充実した知識が身につけられよう.
著者の福本医師は,診療については胸部のみならず全身すべての領域の診断に精通するほか,Interventional Radiologyも得意としている.研究領域では胸部画像診断や死後CT診断を中心に研鑽を積んでいる.このコンパクトな教科書を最初のステップとして,読者が胸部腫瘍のCT診断をマスターできることを祈っている.
2020年10月
広島大学大学院医系科学研究科
放射線診断学 教授 粟井和夫
著者まえがき
現代の医療において,CTは最も重要な検査のひとつである.特に,胸部CTは肺癌のスクリーニングや精査・治療方針の決定・治療効果判定など,肺癌診療においてきわめて重要な役割を果たしている.また,肺感染症やびまん性肺疾患の診断などにも胸部CTは用いられており,その有用性は非常に高いと言えよう.一方で,胸部CTの画像所見は多彩であり,鑑別診断も炎症性疾患から腫瘍性病変など多岐に渡る.特に,学生や研修医などの胸部CTの初学者では,多彩な画像所見をどのように読み,表現すればよいかが習得できておらず,このことが胸部CTを苦手とする要因のひとつとなっている.
本書では胸部の腫瘤性病変に的を絞り,注目すべき画像所見について,どう表現し,どんな鑑別診断を挙げるべきかなど,基本的な読影が習得できるよう工夫した.特に肺腫瘤性病変の診断では,①存在部位,②サイズ,③辺縁の性状,④内部の性状,⑤周囲の変化に着目し,それぞれの読影のポイントを簡潔かつわかりやすく解説した.これらに習熟することで,肺腫瘤性病変の正確な診断に繋がることを期待している.
執筆にあたって,筆者自身も初心に戻り基本的な画像所見のとり方について検討を重ねたが,画像所見を適切に表現することの難しさを再認識した.たとえば日常診療において,CT上,病変の境界が明瞭か不明瞭かについては主観的に判断していることが多く,これを他者に客観的に説明することは困難をきわめる.そこで,「境界明瞭」と「境界不明瞭」の違いについては,境界が鉛筆でなぞれるか否かで判断するよう記載した.このように,胸部CTの初学者が普段疑問に思っている点について,具体的かつわかりやすい解説を心掛けたつもりである.
最後に,執筆にあたりご指導頂いた粟井教授,症例の収集に協力して下さった先生方に深謝致します.
2020年10月
著者