日本人類遺伝学会,日本遺伝カウンセリング学会の共同運営による,臨床遺伝専門医制度委員会が監修した,臨床遺伝専門医テキストシリーズ.本シリーズは「臨床遺伝学総論」「臨床遺伝学生殖・周産期領域」「臨床遺伝学小児領域」「臨床遺伝学成人領域」「臨床遺伝学腫瘍領域」の5冊からなり,今回,第5弾となる「各論Ⅳ 臨床遺伝学腫瘍領域」が満を持しての刊行となりました.臨床遺伝専門医を目指す医師,必読の書です.
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目次
発刊にあたって 小崎健次郎
発刊にあたって 櫻井晃洋
『臨床遺伝専門医テキスト』総編集の序 蒔田芳男
『各論Ⅳ 臨床遺伝学腫瘍領域』編集の序 井本逸勢/平沢 晃
本書における用語について
執筆者一覧
Ⅰ.総論
1.オーバービュー
A がんの病態と発生機序 醍醐弥太郎
B わが国におけるがんゲノム医療の状況と問題点 吉田輝彦
2.遺伝性腫瘍症候群
A 発症のメカニズムと病態 村上善則
3.遺伝性腫瘍での遺伝カウンセリング
A 特 徴 菅野康吉
Column がん医療における遺伝学的検査と遺伝カウンセリング―自費診療と保険診療― 菅野康吉
B 診療の流れ 桑田 健
4.遺伝子関連検査
A 体細胞遺伝子検査と遺伝学的検査 中谷 中
B 体細胞遺伝子検査におけるgermline variantの取り扱い 小杉眞司
5.治 療
A がん薬物療法 松本光史
B 試験的治療 松本光史
6.遺伝性腫瘍のマネージメント
A 一次予防 植木有紗
B 二次予防(サーベイランス) 吉田玲子
Column 腫瘍領域における着床前遺伝学的検査(PGT)の動向 吉田玲子
Ⅱ.各論
1.介入が有効な遺伝性腫瘍疾患
A 介入が有効な疾患の現状と課題 古川洋一
2.小児期から対応が必要な遺伝性腫瘍疾患
A 小児期から対応が必要な疾患の現状と課題 服部浩佳
Ⅲ.資料
1.参考資料
A 各種ガイドライン・ガイダンス・声明 中島 健
B 各種リスク評価ツール 中島 健
C 各種遺伝子情報検索ツール 中島 健
D その他(会議資料) 中島 健
E 遺伝性腫瘍のサポートグループ 中島 健
文 献
索 引
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序文
発刊にあたって
臨床遺伝学は人類遺伝学の原理を診療に応用する分野です.近年のゲノム解析技術の飛躍的な進歩を受けて,難病やがんの診断に大きく貢献しています.今後は遺伝子編集技術や遺伝子治療ベクターの発展を受けて,さらに治療学分野として発展することが期待されます.数千を数える遺伝性疾患の発症時期は胎児期・新生児期から老年期にわたり,罹患臓器は全身におよび,臨床遺伝学の知識体系は既に膨大です.新規疾患の発見や多因子疾患分野での臨床応用の進展など,今後も拡大を続けることでしょう.出生前診断や着床前診断,網羅的遺伝子診断に伴う二次的所見の開示など生命倫理上の課題も増え,患者さんごとに提供すべき遺伝カウンセリングのあり方も変わってゆくと予期されます.
全方向に発展を遂げる臨床遺伝学分野において,新しい医療の先導者となる専門医を育てるためには,基礎となる理論を提示したうえで,診療現場での理論の実践を促し,応用力の涵養を図る以外の良法はありません.本書は臨床遺伝専門医をめざす各診療科の医師に対して,学習上の明確な里程を示すことを目指して編纂されました.臨床遺伝専門医が,自身の臓器別・年齢別・性別の専門領域を問わずに共有すべき理論と知識について,各分野で診療と研究に邁進される気鋭の臨床遺伝専門医の方々に解説をいただきました.
臨床遺伝専門医を目指される医師が,本書を手がかりとして,経験された遺伝性疾患についてOMIMやGeneReviewsなどの網羅的な知識ベースをひもとかれ,一次文献を精読され,最新の臨床遺伝学を遺伝性疾患の患者さんやご家族の診療に生かされること,さらには研究を通じて新しい知見や理論を生み出され,次世代の臨床遺伝学を切り拓かれることを願ってやみません.
最後になりますが,本書の企画・制作に情熱を捧げられた,日本人類遺伝学会前理事長の松原洋一教授,臨床遺伝専門医制度委員会委員長・本シリーズ総編集 蒔田芳男教授,同じく総編集 櫻井晃洋教授,遺伝医学セミナー実行委員会委員長 佐村修教授をはじめとするすべての関係者の方々に感謝を申し上げたいと思います.
2021年12月
一般社団法人日本人類遺伝学会
理事長 小崎健次郎
発刊にあたって
臨床遺伝専門医を目指す医師のための,待望のテキストが刊行されました.
日本遺伝カウンセリング学会と日本人類遺伝学会が共同で運営する臨床遺伝専門医制度は,日本遺伝カウンセリング学会の前身である日本臨床遺伝学会による遺伝相談認定医師カウンセラー制度と,日本人類遺伝学会による臨床遺伝学認定医制度を発展的に再構築し,21世紀のスタートと同時に2001年から制度化されたものです.20年の歴史の中でこれまでに1,600名を超える医師が臨床遺伝専門医として認定され,各方面で活躍しています.ゲノム医療の急速な発展に伴い,臨床遺伝専門医に求められる医療は領域も内容も,ますます広く深くなっています.
これまで,わが国には臨床遺伝専門医を目指す医師のためのテキストがありませんでした.このため,両学会が主催するセミナーの資料や海外の臨床遺伝学領域の書籍などがテキストとして用いられる状況が長く続いていました.これは医学部卒前教育も同様で,もともと医学教育モデル・コア・カリキュラム(コアカリ)に臨床遺伝学領域の内容が記載されていなかったため,多くの大学では教員の熱意によってそれぞれ独自の臨床遺伝学教育が行われてきたという経緯があります.こちらは2016年度の改訂でコアカリに「遺伝医療・ゲノム医療」が追加され,これに基づいて日本人類遺伝学会による卒前教育のためのテキスト『臨床遺伝学テキストノート』が刊行されました.
臨床遺伝専門医についても,2019年度にその到達目標が改訂されたのを機に,日本のこれからの臨床遺伝学を支える人材を育成するための基盤となる教科書刊行が計画され,このたびこの5分冊からなる『臨床遺伝専門医テキスト』を皆さまにお届けすることになりました.
本書は,構想の段階から刊行まで,編集,執筆にあたられた日本の臨床遺伝学のリーダーである多くの先生方の並々ならぬ熱意,そして私たちの思いを共有し多くの難題に直面しつつも最後までご支援くださった株式会社 診断と治療社の方々の熱意の賜物です.本書の制作にかかわってくださったすべての方々に心から御礼申し上げます.
本書が,臨床遺伝学を学ぶ意欲ある方々の必携の書としてお役に立つことを願っています.
2021年12月
一般社団法人日本遺伝カウンセリング学会
理事長 櫻井晃洋
『臨床遺伝専門医テキスト』総編集の序
ここに,日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会員自らが執筆した『臨床遺伝専門医テキスト』をお届けします.
日本における医学生向け遺伝学教科書の金字塔である『医科遺伝学』(南江堂,1991年)の序文には,1979年にアメリカ人類学会誌の編者であるD. Comingsが,遺伝子研究開始以後の遺伝学に対して命名した造語である“New Genetics”が引用され「遺伝子診断,遺伝子治療などの先端技術が医療の中でどう扱われるべきか,その倫理面の検討が問題にされつつある」と記載されています.『医科遺伝学』から30年を経て,私たち医師は,この“New Genetics”を現実の医療の中で実際に扱う局面に立たされていると言えます.
日本人類遺伝学会では,すべての医師が,“New Genetics”の担い手としての臨床遺伝学を習得すべきであると考え2013年に「医学部卒前遺伝医学教育モデルカリキュラム」を共同で作成し公開しました.この内容は,平成28年(2016)改訂「医学教育モデル・コア・カリキュラム」に取り込まれることになり,2018年に『コアカリ準拠 臨床遺伝学テキストノート』(診断と治療社)の発刊に繋がっています.
しかしながら,実際の“New Genetics”の担い手へのテキストは,「翻訳物が多い」「日本の実態にそぐわない」などの状態が続いており,日本の臨床遺伝専門医になるための必須の知識の整理を求める機運が高まってきました.折しも2019年に臨床遺伝専門医到達目標が全面的に改定され行動目標となったタイミングで,この『臨床遺伝専門医テキストシリーズ』が企画されることになったわけです.本書は,日本での臨床遺伝学の実践に関わる4つの領域(生殖・周産期,小児,成人,腫瘍)の別冊と総論の5冊で構成されています.臨床の現場と直結する内容を領域別の分冊とした理由は,時代とともに順次改訂され,常にアップデートな内容を維持するためです.今後のアップデートにも期待いただきたいと思います.
編集者と執筆者は,臨床遺伝専門医制度における専攻医のみなさんが,このテキストを用いることで,日本における臨床遺伝学の実践を肌で感じることができると信じています.専攻医が,研修を始め専門医取得に至るステップについては,臨床遺伝専門医制度委員会HP(http://www.jbmg.jp/examinee/index.html)「臨床遺伝専門医を目指す方へ」をご覧いただきたいと思います.
本書の構想から実現には,(株)診断と治療社の編集者の方々(堀江康弘/柿澤美帆/川口晃太朗/前原宏美/小林雅子/吉田洋志/坂上昭子/土橋幸代)に継続的でかつ多大な援助をいただきました.また,両学会の関係者のみなさまや,5分冊の編集を担当していただいた先生方の力添えがあってこそ,この本を世に問うことができたと思っております.合わせて感謝申し上げます.
2021年12月
臨床遺伝専門医制度委員会
委員長 蒔田芳男
『各論Ⅳ 臨床遺伝学腫瘍領域』編集の序
臨床遺伝専門医テキストシリーズとして企画されたなかの各論の分冊最終巻にあたる「腫瘍領域」が,ついに刊行されます.
人類遺伝学の原理を診療に応用する臨床遺伝学において,腫瘍領域以外の領域では,おもに生殖細胞系列でのゲノム情報の変化に重点が置かれています.ところが,腫瘍領域では,腫瘍における後天的な体細胞でのゲノムの変化と遺伝性腫瘍症候群に代表される生殖細胞系列でのゲノムの変化の両方を理解することが求められます.がん領域では,難病領域とともに,近年飛躍的に進歩するゲノム解析技術の臨床応用としてゲノム医療が急速に広がっています.最近では,がん治療薬の選択のために行われる検査が,コンパニオン診断としての単一の体細胞遺伝子変異の検出から網羅的ながんゲノムプロファイリングへと拡大したことや,生殖細胞系列のバリアントが保険収載されたコンパニオン診断の対象となったことで,いわゆる「ゲノムファースト」で遺伝性腫瘍症候群が診断される機会が急増しました.がん領域では,体細胞・生殖細胞系列を問わず検出されてくるバリアントを理解し,がん発症者・未発症者にかかわらず,予防から治療に至るまで対応が必要な対象者に遺伝医療・ゲノム医療を適切に提供できることが必要です.網羅的な検査が全エクソン,全ゲノムへと拡大すると,がん診療で遺伝性腫瘍以外の遺伝性疾患の原因遺伝子に病的バリアントが検出されるということも生じる可能性があり,4領域の知識・技能・態度を身につけたオールラウンダーである臨床遺伝専門医こそがこのような時代に求められる人材になります.本書がそのような人材の育成の一助となれば幸いです.
常にup to dateな内容を維持するために分冊化されたテキストですが,この領域では,ゲノム解析技術や薬剤の開発と保険収載化,エビデンスの集積によるガイドラインや保険制度の変更などが急速に進んでおり,特に短期間でのアップデートの必要性が予想されます.実際に,本書の編集期間中にも,たびたび内容を更新する必要がありましたし,発刊される頃にはすでに古くなっている情報があるかもしれません.臨床遺伝を学ぶ皆様にとって役立つ書であるために,最も短いサイクルでアップデートが必要な分冊になることを編集者として覚悟しつつ,本書の制作にかかわってくださいましたすべての方々に感謝申し上げます.
2021年12月
『各論Ⅳ 臨床遺伝学腫瘍領域』責任編集 井本逸勢
編集 平沢 晃