学際的研究の精華,待望の刊行!
術中モニタリングの礎となる,分野,領域,職種を越境したマニュアルブックが日本臨床神経生理学会術中脳脊髄モニタリング小委員会によって堂々の完成.近年,手術時におけるモニタリングはスタンダードになりつつある.症例写真やイラストなどの図版を用いて,刺激や記録,麻酔の方法をはじめ,種々の電位のモニタリングを解説した,斯界一流の書き手による,初学者から専門家まで手術に関わる幅広い読者にとって共通言語となりうる好箇の一冊.
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目次
刊行にあたって 今井富裕
序文 齋藤貴徳
執筆者一覧
略語一覧
A.総 論
I. 臨床神経生理学・解剖学の基礎 髙橋 修
II. 検査技術の基礎
1 記録用電極について 板倉 毅
2 インピーダンスについて 板倉 毅
3 差動増幅器 板倉 毅
4 術中モニタリング委員会から「ニュートラル電極」の使用についての提言 板倉 毅
5 術中神経生理学的モニタリング(IONM)における雑音とその対策 佐々木一朗
6 感染と対策 高谷恒範
III. 皮質脊髄路(CST)の術中モニタリングの基礎
1 皮質脊髄路(CST)の術中モニタリングの概要 杉山邦男
2 刺激方法 杉山邦男
3 記録方法 高谷恒範
4 有害事象とその予防 山本雅史,田中 聡
IV. 体性感覚誘発電位(SEP)による術中モニタリングの基礎
1 体位感覚誘発電位(SEP)の概要 丸田雄一
2 コンポーネントの起源 丸田雄一
3 体位感覚誘発電位(SEP)の記録に影響を及ぼす因子 丸田雄一
V. 術中モニタリングの麻酔
1 術中モニタリングの麻酔の概要 川口昌彦
2 鎮静薬 福岡尚和,飯田宏樹
3 鎮痛薬 福岡尚和,飯田宏樹
4 筋弛緩薬 林 浩伸
5 麻酔深度モニタ 林 浩伸
6 筋弛緩モニタ 林 浩伸,高谷恒範
7 全身性因子(血圧,体温など)の影響 福岡尚和,飯田宏樹
8 脳脊髄モニタリング時の成人の麻酔法 福岡尚和,飯田宏樹
9 脳脊髄モニタリング時の小児の麻酔法 林 浩伸,川口昌彦
B.各 論
I. 脊椎脊髄手術の術中モニタリング
総 論
1 脊椎モニタリングの歴史 齋藤貴徳
各 論
1 経頭蓋刺激・運動誘発電位(Tc-MEP) 吉田 剛
2 経頭蓋刺激・脊髄誘発電位(Tc-SCEP) 川端茂徳
3 脊髄刺激・脊髄誘発電位(Sp-SCEP) 安藤宗治
4 体性感覚誘発電位(SEP) 安藤宗治,齋藤貴徳
5 脊髄刺激・運動誘発電位(Sp-MEP) 安藤宗治
6 脊髄刺激・末梢神経誘発電位(Sp-PNP) 小川 潤
7 経鼻咽頭電極を用いた脊髄誘発電位(SCEP) 山本直也
8 自発筋電図(sEMG, free-run EMG) 川端茂徳,橋本 淳
9 直接神経刺激・運動誘発電位(Dn-MEP) 安藤宗治
II. 脳外科手術の術中モニタリング
総 論
1 脳外科手術の術中モニタリングの歴史と現状 佐々木達也
各 論
1 おもに運動誘発電位(MEP)を用いた皮質脊髄路(CST)の誘発電位
■ はじめに 佐々木達也
I 直接皮質刺激・運動誘発電位(Dc-MEP) 藤井正美
II 経頭蓋刺激・運動誘発電位(Tc-MEP) 本山 靖
III D-wave 渡辺 充,大島秀規
IV 皮質脊髄路(CST)のモニタリング 後藤哲哉
V 運動誘発電位(MEP)によるマッピング 藤木 稔
2 体性感覚誘発電位(SEP) 本山 靖
3 視覚誘発電位(VEP) 兒玉邦彦
4 脳幹聴覚誘発電位(BAEP) 相原徳孝
5 顔面神経のモニタリング 福多真史
6 下位脳神経モニタリング(lower cranial nerves monitoring) 後藤哲哉
7 異常筋反応(AMR)のモニタリング 福多真史
III. 大血管手術の術中モニタリング
総 論
1 大血管手術の術中モニタリングの歴史と現状 吉谷健司
2 大血管手術における術中モニタリングの適応 田中 聡
3 大血管手術における脊髄虚血 和泉俊輔,垣花 学
4 大血管手術の術中モニタリングにおける麻酔 田中 聡
5 脳脊髄液ドレナージの方法と管理法 和泉俊輔,垣花 学
各 論
1 経頭蓋刺激・運動誘発電位(Tc-MEP) 田中 聡
2 体性感覚誘発電位(SEP) 田中 聡
索 引
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序文
刊行にあたって
日本臨床神経生理学会は,臨床神経生理学という学問のもとに集まった多分野・多職種の基礎・臨床研究が一体となってヒトの神経系の複雑な生理や関連する疾患の病態を解明することを目的として活動しています.そのため,本学会の特徴を示す言葉として,しばしば“multidisciplinary”という用語が用いられます.確かに本学会は多分野・多職種が連携した学際的学会なのですが,高度な専門的知識や技術を用いて臨床神経生理検査が実施でき,その結果を正確に判断できる技能を身につけることは,分野や職種を問わず多くの学会員にとって共通の目標となっています.
日本臨床神経生理学会は2004年から,脳波分野と筋電図・末梢伝導分野に関する高度な専門的知識や技術の認定制度を設け,5年間の移行期間を経て,2009年から日本臨床神経生理学会認定医・認定技術師の筆記試験を開始しました.2015年6月には日本専門医機構未承認診療領域連絡協議会への入会が承認され,脳波分野と筋電図・末梢伝導分野の認定制度を学会専門医・専門技術師制度に変更しました.現在,この両分野の認定試験は筆記試験と面接・レポート試験の2部構成になっており,年1回実施されています.
術中脳脊髄モニタリングも高度な専門的知識や技術を用いて実施される臨床神経生理学的分野の一つです.2018年,当時本学会の試験委員会・委員長であった私は試験委員や多くの学会員の皆さんの協力を得て認定試験の筆記試験問題解説を編集し,診断と治療社から発刊しました.その本には術中脳脊髄モニタリングの問題解説も掲載されているのですが,ほんの一部で,実臨床で行われている術中脳脊髄モニタリングの奥行きの深さは全く反映されていませんでした.その最大の理由は,“術中脳脊髄モニタリング”が本学会で認定すべき一分野として独立していなかったことにあります.幸いにも,齋藤貴徳理事を中心とした術中脳脊髄モニタリング小委員会の多大な努力によって,本学会が認定する高度な専門的知識や技術の分野として「術中脳脊髄モニタリング」が創設され,現在,資格認定の移行期間に入っています.今後,他分野と同様に認定試験が開始される予定です.その意味でも,術中脳脊髄モニタリングのすべてが網羅された本書はベストタイミングで発刊される最高の参考書といえます.現在,術中脳脊髄モニタリングにかかわっていらっしゃる学会員の皆様,これから術中脳脊髄モニタリングのスペシャリストを目指す学会員の皆様,さらに多くの皆様が本書で学ばれ,術中脳脊髄モニタリング分野が大きく発展していくことを切に願っています.
2022年6月吉日
日本臨床神経生理学会理事長
今井富裕
序 文
術中脳脊髄神経モニタリングは全身麻酔下で脳や脊髄,末梢神経に障害を及ぼす危険性のある手術を安全に施行させるために開発された技術であるが,さらには手術を積極的に行う外科医にとってはより良好な結果を求め限界まで攻める手術を支えたり,引いては新しい手術法の開発をも支える,なくてはならない手術支援技術であるといえる.その基本的な基盤技術は日本臨床神経生理学会(以下,当学会)で長年の先達たちが研究を重ねて開発してきた電気生理学に基づくものであり,当学会では神経内科,精神科,整形外科,脳外科,小児科,麻酔科などの集学的な議論の上に成り立っているとともに,将来にわたり今後も研究が続くことになる.その恩恵に浴するわれわれは,その理論的な理解と技術的な習得に基づき,正しい方法での実施を実践し,現在の技術で獲得しうる最高の安全性を求めなければならない.そのためには,まず術者の信頼を獲得し,手術室でのチーム医療を構築するとともに,可能な限りfalse negativeを出さないことは当然であるが,false positiveも可能な限りゼロにすることを究極の目標としなければならない.すでに訴訟社会となっている米国では術中脳脊髄神経モニタリングを施行していなければ,術後麻痺が出現した場合に100%裁判に負ける時代となっており,手術を受ける患者も,術中脳脊髄神経モニタリングを施行しているかの確認はもとより,その内容やレベルまで確認して手術を受ける施設を選択している.近い将来,わが国でも同様な状態となる可能性が高く,実施者であるわれわれはさらに安全安心な術中脳脊髄神経モニタリングの実施が可能となる環境作りに努めなければならない.
このような現状において当学会は2013年,術中脳脊髄モニタリング小委員会を設置し,同年から術中脳脊髄モニタリングセミナーの主催を開始している.その後,2018年から認定医制度を発足させ,移行措置による認定医の認定が開始された.手術の安全性を高めるため,すでに多くの手術担当科や麻酔科で委員会やセミナーが実施されている現状において,集学的な議論が可能な当学会のはたす役割は非常に大きく,術中脳脊髄神経モニタリングの標準化や技術レベルの向上を,現在実施しているすべての担当科において横断的に実現できるのは当学会をおいて他にないとの認識から,8年の年月を掛けて各科間の認識の違いの相互理解や,知識・技術の共有を少しずつ遂行し現在に至っている.本書は,その一環としてこれから術中脳脊髄神経モニタリングを開始する人たちから,現在実施中の人たちまで,全モニタリング関係者に向けての手引きとして発行するものである.
内容に関してはこれから術中脳脊髄神経モニタリングを開始する初心者でも十分に理解できることを目標に,わが国でも有数のモニタリング研究者が執筆しており,必ずやモニタリングを実施している皆様が教科書的に使用できる内容であると自負している.このなかで取り分け用語に関する問題は最後まで各執筆者間で意見の相違があったが,現状での最も標準的で国際的にも理解しやすい用語を選択したつもりである.将来を含め,この使用法が正しいかどうかは今後の研究者間での自然淘汰で決まるものと考えている.一例としてMEPという略語が本書に使用されているが,本書では大脳または経頭蓋的に刺激し末梢の筋より記録した誘発電位という意味に使用している.一方で,脊髄から記録した電位も含め運動路の誘発電位の総称とすべきとの意見も根強くあった.このような用語の定義に関しては,国際的な論文でも統一された使用がなされておらず,今後も検討が必要と感じている.
本書は,今後,認定医制度の移行措置が終了し,筋電図や脳波の専門医制度と同様に試験が開始された場合には,出題される問題のレベルを規定する教科書としての役割をはたすことも想定し執筆されている.今後,本書が,術中脳脊髄神経モニタリングを始める初心者から,現在モニタリングを施行しながら研究している専門家まで,広く読まれ,わが国のモニタリングの標準化やレベルの向上の一助となればこれに勝る喜びはない.将来のわが国のモニタリング界の発展とその技術の向上をもって,手術を受ける患者の安全性の向上に役立つことを祈念し本書の序文といたします.
2022年6月吉日
日本臨床神経生理学会理事
日本臨床神経生理学会術中脳脊髄モニタリング小委員会委員長
齋藤貴徳