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書籍詳細

エビデンスに基づく
臨床査定メソッド診断と治療社 | 書籍詳細:臨床査定メソッド
質の高い心理支援の基礎と実践

東京女子大学現代教養学部

山口 慶子(やまぐち けいこ) 著

杏林大学医学部精神神経科学教室

大江 悠樹(おおえ ゆうき) 著

量子科学技術研究開発機構量子医科学研究所脳機能イメージング研究部

宮前 光宏(みやまえ みつひろ) 著

国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター

伊藤 正哉(いとう まさや) 著

国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター

堀越 勝(ほりこし まさる) 著

初版 A5判 並製 248頁 2023年12月15日発行

ISBN9784787825421

定価:3,300円(本体価格3,000円+税)
  

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臨床判断を研ぎ澄ますための手引書.査定の基礎から一連のプロセスを一挙網羅.臨床現場でよく遭遇する精神疾患に使われる標準的尺度を紹介するとともに,示唆に富む複数の事例から細かなニュアンスを汲み取ってもらえるように工夫した.筆者らが実施した介入研究におけるランダム化比較試験の事例では,実証的な介入研究によるエビデンス構築の方法や手順を学ぶことができる.質の高い心理支援を行うためのノウハウが満載!

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目次

執筆者一覧
この本でお伝えしたいこと
本書の主な登場人物の紹介

第1章 エビデンスに基づく臨床査定の基本
A なぜ、臨床査定をするのか?
 1 「役に立つ」とは?
 2 「臨床家としての専門性」とは?
 3 まとめ
B 何を、どう査定するか?
 1 臨床査定とは何か?
 2 意味があり、信頼でき、活用でき、共有できること
 3 何を査定するか?
 4 いつ査定するか?
C 査定のプロセスの基本
 1 臨床査定の前に
 2 緊急対応は必要ないか?
 3 心理介入前の臨床査定の3 段階と8 ステップ
 4 心理介入中の臨床査定
 5 心理介入後の臨床査定
 6 まとめ

第2章 エビデンスに基づく臨床査定の実践
A 査定のプロセス
 臨床現場での実践例①:仮説検証のステップを段階的に進む場合
 1 心理介入前の臨床査定の8 ステップ
 2 心理介入中の臨床査定
 3 心理介入後の臨床査定
 4 事例のまとめ
 臨床現場での実践例②:仮説検証を繰り返す場合
 1 心理介入前の臨床査定の8 ステップ
 2 心理介入中の臨床査定
 3 心理介入後の臨床査定
 4 事例のまとめ
 臨床現場での実践例③:臨床試験での症状評価
 1 臨床研究における心理介入前の症状評価の8 ステップ
 2 臨床研究における心理介入中の随時症状評価
 3 臨床研究における心理介入中の中間症状評価
 4 臨床研究における心理介入後の症状評価
 5 事例のまとめ
B 様々な尺度とその活用
 1 抑うつ症状の主要尺度
 2 ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)
 3 ベック抑うつ質問票 第2 版(BDI-II)
 4 PHQ-9
 5 不安症、強迫症、PTSD の主要尺度
 6 ハミルトン不安評価尺度(HAM-A)
 7 GAD-7
 8 パニック症重症度評価尺度(PDSS)
 9 自己記入式パニック症重症度評価尺度(PDSS-SR)
 10 リーボヴィッツ社交不安尺度(LSAS)
 11 自己記入式リーボヴィッツ社交不安尺度(LSAS-SR)
 12 エール・ブラウン強迫観念・強迫行為尺度(Y-BOCS)
 13 自己記入式エール・ブラウン強迫観念・強迫行為尺度(Y-BOCS-SR)
 14 PTSD 臨床診断面接尺度(CAPS-5)
 15 PTSD チェックリスト(PCL-5)
 16 SCID
 17 M.I.N.I.

附録 補遺編
A ポジティブな側面に焦点を当てた査定
B 査定する人をどう育てるか?
C 身体疾患が隠れている例
D オンライン査定

ビネット一覧
ビネット① なぜ「物差し」が必要か?
ビネット② いつ、どのように「物差し」を使うか?
ビネット③「物差し」で測った結果をどのように活用するか?
ビネット④ 他院の先生との連携のカギは「尺度」!?
ビネット⑤ うつ? 強迫症? どうしたらいいか困ったら……

コラム一覧
コラム① 査定の心得:導入のためらいと工夫
コラム② 査定における倫理・守秘義務
コラム③ 査定の心得:実施法に慣れる
コラム④ カットオフ値との付き合い方
コラム⑤ 査定の心得:語尾まで意識する

あとがき
索引

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序文

この本でお伝えしたいこと

朝,マサルくんはなかなか起きてこない.
親:マサル,朝だよ.起きなきゃ幼稚園に遅れちゃうよ.
マサル:うーん.
親:あれ?  どうしたの?  調子が悪いの?(額に手を当てる)
いつもより熱いようだね.心配だから体温計で熱を測ってみようか.結局,マサルくんは親と一緒に病院に行くことになりました.

日常の一場面である.マサルくんは具合が悪いようだ.あなたがマサルくんの親だったらどうするだろう?   一連の出来事がどのように起こったのかについて想像してみたい.まず,親はいつもと違う息子の様子に気づく.「あれ?」と思い,直接息子に調子を尋ねる.息子の反応を不安に思った親は,病気を疑う.経験から,熱があるかどうかを知ることが先決だと,息子の額に手を当てる.「熱いな」.どれだけ深刻なのか.ここで体温計を用意して熱を測る.「38℃」.数字は高熱を示している.「この場合はどうすることがベストなのか……?」.やはり,専門家に診てもらわなければ…….このような顛末だったのではないかと想像する.まず問題に気づき,本人に直接質問して確認.経験知を働かせ,いつもの方法で状態を探る.さらなる心配から,より客観的な情報を得,それに照らして対処法を決定するという段階を順に踏んでいる.何の次は何という自然な流れがある.いきなり病院というのもやや乱暴すぎる.もちろん「大したことはない」と高を括って放置することもできるが,息子が大病である可能性もゼロとは言えない.状態を正確に見極め,適切に処置したい.相手が自分にとって大切な人であればなおのこと,より厳密に問題を把握し,裏付けのある確かな方法で対処したいと思うのではないだろうか.このように,日常の一場面のなかにも,問題をどのような手順で知り,適切な介入に結びつけるかのヒントが隠されている.
おそらくこの本を手にとった読者は,様々な場面で出会う相談者の問題について可能なかぎり正確に理解し,適切に対処したいという気持ちを共有していると思う.通常,そうした状況では,これまでの経験や習慣に基づいた主観的な判断,経験則が役立つ.ある意味での「臨床判断(clinical judgement)」である.経験則は手っ取り早く結論を出すには便利だが,自分の信じるところを裏付ける情報を重視してしまうという弱点をもっている(確証バイアス).主観的な判断だけに頼らずに,科学的で客観的な情報を得ることの重要さはそこにある.マサルくんの額に手を当てるだけでなく,体温計で検温することで「熱い」を数字情報に変換することができる.そして,数字の意味するところがわかれば,その情報は次のステップへの架け橋になる.医師に「熱は?」と聞かれたときに,「すごく熱い」よりも「38℃」と数字で示したほうが,医師は次の臨床的判断をより適切なものに,治療プランをより有効なものにできる.この体温計に相当するのが本書で扱う「尺度」である.こころの状態を知りたいときには通常「心理テスト」が使われる.体が不調なときには体温計,肉付きが気になったら体重計,寒い熱いは寒暖計,測りたいものによって物差しは異なる.同様に心理テストも,測りたい問題に合わせて使い分けることになる.
体温計が何を測り,表示される数字の示す意味を正確に理解していれば,問題理解に役立つ.しかし,体温計で計測して,いつもと違うとわかったところで,どこが,どのように問題なのかを見極めなければ的確な対処法はみえてこない.ますます個人の勘や経験則だけではなく,厳密な方法で集められた実証的な情報と照らして裏付けをとることが望まれる.つまり,誰でも入手できる体温計ではなく,特別な訓練を受けた専門家にしか手にすることのできない「物差し」が求められる.それらは専門的で精度が高い分,使う者を選ぶ.言い換えれば,専門家は訓練を受けて,そうした特殊な測定器を使い問題を見極めるための知識と方法をもっている者と言える.結果的に専門家は様々な実証的な情報を集めて精査することで,最適な治療法に到達することができる.つまり,専門家は,なぜ臨床査定をするのか.何をどう査定するのか,そして,それに伴う基本的なプロセスやマナーを知っていなければならない.
本書は,こころの問題を的確に査定する方法の手引き書である.「第1章 エビデンスに基づく臨床査定の基本」と「第2 章 エビデンスに基づく臨床査定の実践」の2 つの部分からなり,第1 章ではビネットを挟みながら査定のいろはを,第2 章では具体的な事例をあげて査定のプロセスを具体的に示した.臨床現場で出会う代表的な精神疾患に用いられる標準的な尺度を紹介するとともに,筆者らが実施した介入研究を実例として用いて,査定の様子やスタッフ同士のやりとりを対話形式でみせ,行間から細かいニュアンスなどを汲み取ってもらえるよう工夫した.さらに,前述のように実際に筆者らが実施したランダム化比較試験を例示することで,実証的な介入研究によるエビデンス構築の方法や手順についても学習してもらえるものと期待している.

2023年9月吉日

執筆者を代表して
堀越 勝  伊藤正哉