視力発達期に眼の疾患や異常が起こると,その後の長い生涯にわたって重篤な視力障害を残すことがある.そのため,小児の眼の構造や発達過程を知り,疾患や異常を早期に発見・治療することは極めて重要である.一方,わが国における小児の眼のスクリーニングの機会や啓発は十分でなく,小児眼科医と他領域・多職種の連携が不可欠である.本書では,子どもを診る医師・メディカルスタッフに身に付けてほしいエッセンスをまとめた.
関連書籍
ページの先頭へ戻る
目次
序 文 東 範行
執筆者一覧
第Ⅰ部 知っておきたい小児の眼の診かた・考えかた
1 小児の眼科診療の特徴 東 範行
2 眼の構造と機能 寺﨑 浩子
3 視 力 森本 壮
4 視 野 南雲 幹
5 屈折と近視,遠視,乱視 不二門 尚
6 調 節 長谷部 聡
7 弱 視 杉山 能子
8 斜 視 佐藤 美保
9 両眼視 林 孝雄
10 眼科医以外でも行うことができる検査 根岸 貴志
11 眼科医が普段行っている検査 羅 錦營
12 眼球と眼窩の画像診断 林 英之
13 疾患の早期発見の必要性 仁科 幸子
14 健 診 森 隆史
15 学校保健と学校健診 柏井真理子
16 色覚異常 村木 早苗
17 外 傷 野村 耕治
18 小児虐待 中山 百合
19 心身症,心因性視覚障害 四宮 加容
20 ロービジョンケアとリハビリテーション
(1)早期ケアと保護者への対応,補助具 田淵 昭雄
21 ロービジョンケアとリハビリテーション
(2)発達障害,重複障害のケア 富田 香
22 義眼の管理 野田英一郎
23 点眼薬と眼軟膏の使いかた 大野 明子
第Ⅱ部 知っておきたい小児の眼の疾患
1 眼瞼,睫毛の疾患 彦谷 明子
2 結膜の疾患 田中三知子
3 角膜,虹彩の疾患 粥川佳菜絵/鎌田さや花/外園 千恵
4 水晶体の疾患 黒坂大次郎
5 緑内障 木内 良明/井上 俊洋
6 網膜の疾患(1)網膜剝離 近藤 寛之
7 網膜の疾患(2)未熟児網膜症(ROP) 眞野福太郎/日下 俊次
8 網膜の疾患(3)家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR) 近藤 寛之
9 網膜の疾患(4)コーツ病 眞野福太郎/日下 俊次
10 網膜の疾患(5)網膜ジストロフィ 近藤 峰生
11 ぶどう膜炎 丸山 和一
12 神経眼科疾患 木村亜紀子
13 腫 瘍 鈴木 茂伸
14 眼窩・涙器の疾患 八子 恵子
15 眼の発生と先天異常 東 範行
16 眼の異常をきたす代表的な全身疾患 福嶋 葉子
17 眼の異常をきたす代表的な染色体異常,遺伝性疾患 古森 美和/堀田 喜裕
第Ⅲ部 小児の眼科Q&A
1 小児の眼科診療の特徴 東 範行
Q1 視力がどのくらい悪いと日常生活に支障をきたしますか?
Q2 子どもを泣かさずに検査するコツはありますか?
2 眼の構造と機能 寺嵜 浩子
Q3 小児の眼球の大きさはどれくらいですか?
Q4 小児の視神経,視路の疾患にはどのようなものがありますか?
Q5 視野検査ができない小児の視路疾患の診断で重要な検査はありますか?
3 視 力 森本 壮
Q6 近視は治りますか?
Q7 遠視と近視はどう違いますか?
Q8 近視の子どもは増えていますか?
4 視 野 南雲 幹
Q9 子どもは視野が狭いのですか?
Q10 心因性の視野障害は,日常生活に影響しますか?
Q11 視力低下があると,視野も狭くなりますか?
5 屈折と近視,遠視,乱視 不二門 尚
Q12 近視が始まってから,裸眼視力を回復させるのは難しいですか?
Q13 近視予防のために推奨される生活習慣はありますか?
Q14 近視の進行を抑制する点眼薬はありますか?
Q15 近視の進行を抑制する眼鏡,コンタクトレンズはありますか?
Q16 タブレット端末を使用するうえで注意することはありますか?
6 調 節 長谷部 聡
Q17 調節力は成長とともに低下しますか?
Q18 瞳孔不同がみられた場合,すべて異常と考えるべきですか?
7 弱 視 杉山 能子
Q19 3歳児健診で視力検査ができないときは,どのように対処したらよいですか?
Q20 小学4年生の学校健診で初めて弱視が発見されました.手遅れでしょうか?
Q21 眼科を初診したら,裸眼視力も眼鏡視力も同じなのに,眼鏡を常に装用するようにいわれました.なぜでしょうか?
8 斜 視 佐藤 美保
Q22 斜視が疑われる場合,検査はいつ頃からできますか?
Q23 間欠性斜視の手術時期はどのように決めますか?
Q24 遠視性調節性内斜視で眼鏡をかけている場合,将来的に遠視がなくなったら斜視も治るのでしょうか?
Q25 斜視は遺伝しますか?
9 両眼視 林 孝雄
Q26 両眼視機能が悪いと,取得できない運転免許はありますか?
Q27 立体視検査を簡便に行える検査器具はありますか?
10 眼科医以外でも行うことができる検査 根岸 貴志
Q28 眼科に紹介する適切なタイミングを教えてください.
Q29 視力を簡易的に測定することはできますか?
11 眼科医が普段行っている検査 羅 錦營
Q30 高価な検査装置をもたない施設では,小児の眼の検査のために最低限どのような機器が必要ですか?
Q31 非協力的な小児では,どのように検査が行われていますか?
12 眼球と眼窩の画像診断 林 英之
Q32 CTやMRIによる眼の画像検査を実施する場合,同時に頭蓋内の画像検査も行ったほうがよいですか?
Q33 CTやMRIによる眼の画像検査では,画像面の方向で特別な設定は必要ですか?
13 疾患の早期発見の必要性 東 範行
Q34 健診などにおいて,小児科医や看護師が眼の病気をみつけることはできますか?
14 健 診 森 隆史
Q35 診察で斜視は認められないのですが,保護者が斜視を疑っています.精密検査は必要ですか?
Q36 自動判定機能付きフォトスクリーナーの異常判定基準値の変更はできますか?
15 学校保健と学校健診 柏井真理子
Q37 学校健診に色覚検査は含まれていますか?
Q38 幼稚園や保育所での視力検査は,教師や保育士でも実施できますか?
Q39 学校での視力検査では,裸眼視力を測定しているのですか?
Q40 幼稚園や学校の視力検査で用いる視力検査表は「字づまり視力表」でよいですか?
16 色覚異常 村木 早苗
Q41 学校健診で石原色覚検査表の環状表の検査が難しいことがあります.どうすればよいですか?
Q42 色覚検査は何歳頃から実施できますか?
17 外 傷 野村 耕治
Q43 眼球の打撲後に受診した患児ですが,眼の表面に傷などはありません.眼球の動きは痛がって確認できません.嘔吐はなく斜視もないようにみえるので,眼窩吹き抜け骨折は考慮しないでよいですか?
18 小児虐待 中山 百合
Q44 虐待性頭部外傷(AHT)に特徴的な眼所見はありますか?
Q45 散瞳下の眼底検査はいつ行ったらよいですか?
Q46 「しつけ」と称して子どもに体罰を加えることは許されますか?
Q47 「虐待かもしれない」と思ったら,どこに相談すればよいですか?
19 心身症,心因性視覚障害 四宮 加容
Q48 「心因性視覚障害」と「詐病」はどう違いますか?
Q49 心因性視覚障害の原因にはどのようなものがありますか?
20 ロービジョンケアとリハビリテーション
(1)早期ケアと保護者への対応,補助具 田淵 昭雄
Q50 生後3か月になっても「追視しない」子どもの検査はどのように行いますか?
Q51 6歳の女児に原因不明の視力低下があり,両眼ともに裸眼視力0.1(矯正不能)です.どう対応すればよいでしょうか?
21 ロービジョンケアとリハビリテーション
(2)発達障害,重複障害のケア 富田 香
Q52 1歳半の屈折スクリーニング検査で両眼の遠視性乱視がわかり,眼鏡装用を勧められました.発達が遅いのですが,眼鏡はいつ頃からかけたらよいでしょうか?
Q53 眼鏡を嫌がってすぐに外してしまいます.どうしたらよいでしょうか?
Q54 首から上の触覚過敏があり,眼鏡をかけられそうもありません.どうしたらよいでしょうか?
22 義眼の管理 野田英一郎
Q55 義眼装用者ですが,目やにがよく出ます.なぜでしょうか?
Q56 義眼装用者ですが,他診療科を受診する際に注意することはありますか?
23 点眼薬と眼軟膏の使いかた 大野 明子
Q57 点眼薬と眼軟膏はどう使い分けますか?
Q58 小児向けの特殊な点眼薬の使用法はありますか?
24 眼瞼,睫毛の疾患 彦谷 明子
Q59 逆さまつげ(睫毛内反症)は自然に治りますか?
Q60 まぶた(眼瞼)に塗れるステロイド外用薬について教えてください.
25 結膜の疾患 田中三知子
Q61 はやり目(流行性角結膜炎)と診断されました.どのように対処すればよいですか?
Q62 学校にはいつから通えますか?
Q63 プールにはいつから入れますか?
26 角膜,虹彩の疾患 粥川佳菜絵/鎌田さや花/外園 千恵
Q64 先天角膜混濁は遺伝しますか?
Q65 角膜に混濁がある場合でも,眼鏡をかけると見えやすくなりますか?
27 水晶体の疾患 黒坂大次郎
Q66 片眼性の先天白内障で,生後2か月です.「手術の効果はあまり望めない」といわれましたが,手術をしてはいけないのでしょうか?
Q67 手術をすると,安全面からスポーツなどができなくなりますか?
28 緑内障 木内 良明/井上 俊洋
Q68 成人では散瞳する前に前房の深さをチェックします.乳幼児の場合はチェックなしで散瞳薬を点眼されています.「乳幼児は眼軸長が短く,前房が浅い」と聞いています.小児は緑内障発作を起こさないのでしょうか?
Q69 小児緑内障で拡大した角膜は,眼圧を下げることで正常な大きさに戻りますか?
Q70 眼圧が上がると,眼痛や頭痛の症状がありますか?
29 網膜の疾患 (1)網膜剝離 近藤 寛之
Q71 網膜剝離になると目が痛くなりますか?
Q72 網膜剝離になったかどうか,家族がみてわかりますか?
30 網膜の疾患 (2)未熟児網膜症(ROP) 眞野福太郎/日下 俊次
Q73 抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬は,ROP患者のどのような状態に適応がありますか?
Q74 ROP患者の手術のタイミングはいつ頃ですか?
31 網膜の疾患 (3)家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR) 近藤 寛之
Q75 FEVRは遺伝すると目が見えなくなりますか?
Q76 FEVRの網膜剝離は予防できますか?
32 網膜の疾患 (4)コーツ病 眞野福太郎/日下 俊次
Q77 コーツ病の硝子体手術にコツはありますか?
Q78 コーツ病の強膜外排液にコツはありますか?
33 網膜の疾患 (5)網膜ジストロフィ 近藤 峰生
Q79 網膜ジストロフィで最も多い網膜色素変性の「夜盲」の症状について,もう少し具体的に教えてください.
Q80 網膜ジストロフィの検査で重要な網膜電図(ERG)は,小児ではどのように記録するのですか?
Q81 網膜ジストロフィの診断のための遺伝子検査は,一般的な保険診療でできるのですか?
34 ぶどう膜炎 丸山 和一
Q82 ぶどう膜炎の充血には特徴はありますか?
Q83 ぶどう膜炎と診断されました.どう対処すればよいでしょうか?
Q84 ぶどう膜炎の治療中(眼科診療)に気をつけるべきことはありますか?
35 神経眼科疾患 木村亜紀子
Q85 両眼光覚弁の視神経炎では,視力は回復しますか?
Q86 視神経炎の症状は完全に回復しますか?
Q87 将来的に留意するべきことはありますか?
36 腫 瘍 鈴木 茂伸
Q88 眼にも腫瘍はできますか?
Q89 網膜芽細胞腫の治療は眼球摘出ですか?
Q90 小児の眼の腫瘍はどこで治療を受けられますか?
37 眼窩・涙器の疾患 八子 恵子
Q91 小児の眼窩蜂巣炎の診断に,CTまたはMRI検査は必要ですか?
Q92 小児で眼窩腫瘍を疑った場合,他院への紹介や検査スケジュールをどれだけ急げばよいかを決める指標はありますか?
Q93 乳児の流涙は先天鼻涙管閉塞と考えて,自然治癒を期待して放置してよいでしょうか?
Q94 先天鼻涙管閉塞に対する,プロービングの効果と適切な施行時期を教えてください.
38 眼の発生と先天異常 東 範行
Q95 眼の先天異常に特徴的な所見はありますか?
39 眼の異常をきたす代表的な全身疾患 福嶋 葉子
Q96 全身疾患が疑われる患者が眼科を受診し,「異常なし」といわれたそうです.その後も眼科の受診を勧める必要はありますか?
Q97 全身疾患に伴う眼疾患の治療適応について,どのように判断すればよいですか?
Q98 全身疾患の治療に用いる薬物で眼への影響を留意すべきものはありますか?
40 眼の異常をきたす代表的な染色体異常,遺伝性疾患 古森 美和/堀田 喜裕
Q99 患者や保護者が遺伝カウンセリングを希望する場合,どうしたらよいですか?
Q100 遺伝カウンセリングではどのような検査が受けられますか?
Q101 遺伝子検査ではどのようなことがわかりますか?
Q102 遺伝子検査を受ける際に留意すべきことはありますか?
和文索引
欧文‒数字索引
ページの先頭へ戻る
序文
本書は,小児科医の皆様をはじめ,子どもの医療や教育に携わる医師,看護師,保育士など多くの方々を対象に,小児の眼について知っていただくことを目的に作成しました.
眼は,眼瞼,角膜,水晶体,硝子体,網膜,ぶどう膜(脈絡膜),強膜,視神経,外眼筋など,多種多様な組織からなる複雑な構造をしています.また,視覚には,視力だけでなく,色覚,視野,両眼視といった多くの感覚機能が含まれ,そのほかにも屈折と調節,瞳孔反応,電気生理学的反応,眼球運動など様々な機能を有します.そして,その各々に疾患や異常をきたしうることから,それに対応した数多くの検査法が存在します.
小児眼科は,疾患の対象年齢が小児期であることを除けば,眼科のほぼすべての領域を網羅しますが,小児特有の疾患も存在します.そして何より成人領域と異なるのは,視力の発達期に眼の疾患や異常が起こると,その後の長い生涯にわたって重篤な視力障害を残すことです.そのため,小児眼科では早期発見と早期治療がより重要となりますが,現時点,小児の眼のスクリーニングの機会や啓発は十分でなく,子どもの眼を守る意味でも,小児眼科医と読者の皆様の連携が不可欠です.
そこで本書では,読者の皆様が小児眼科について体系的に理解しやすいよう,次の3部構成としました.「第Ⅰ部 知っておきたい小児の眼の診かた・考えかた」では,様々な視覚や眼の機能とその発達,それらが障害される疾患,眼科医以外でも行うことのできる検査,眼科で行われる検査法などについて述べています.そして「第Ⅱ部 知っておきたい小児の眼の疾患」では,眼の組織別の代表的な疾患を記載しました.いずれも解剖とその部位の機能を理解し,それらが障害されるとどのような疾患が起こるのかが平易に書かれており,解説が必要と思われる専門用語については本文中の括弧書きあるいは脚注で記載しました.最後の「第Ⅲ部 小児の眼科Q&A」では,眼科医が他領域の医師や患者・保護者から日常診療で聞かれることの多い102の質問と回答を記載しました.
本書の執筆者はいずれもわが国を代表的する小児眼科医たちです.通読しても,知りたい部分だけを読んでもわかりやすく理解いただけると思います.前述の読者対象以外の方々,たとえば,これから小児眼科を学ぼうとする眼科医や視能訓練士,看護師,学生にも,あるいは小児眼科診療の場で患児や保護者の方々に疾患や治療法を説明する際にも有用な一冊です.
本書が小児の眼を守るための一助となることを祈念いたします.
2023年2月吉日
日本小児眼科学会
理事長 東 範行