「マスト&ベスト/ミニマムシリーズ」第3弾!
治療効果を上げるには目の前の患者さんの病状をしっかりと理解し,的確に診断することが大切です.しかし1人ひとりに時間をかけて向き合うのは難しい…….そんな忙しい臨床ですぐに役立てていただけるよう,本書では,いかに面接から向精神薬処方を組み立てるかのポイントとピットフォールをコンパクトにまとめました.これから精神科医になろうという医師の方だけでなく,薬剤師の方にも実践的で役立つ内容になっています.
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目次
発刊によせて
略語一覧
第1章 総論 面接・診断と治療の流れ
1.面接と情報の収集
1 イントロダクション
2 医療面接
3 面接の実際
4 情報の取り扱いに対する説明
5 複数回の面接実施によるメリット
6 患者本人からの情報収集の注意点
7 関係者からの情報収集の注意点
8 患者の病気でない部分の情報の評価
2.診 断
1 診断基準
2 日本における精神科臨床診断の変遷
3 操作的診断基準
4 診断基準にとらわれない理想的な診断のロジック
3.神経ネットワークと精神活動
1 脳高次機能と精神活動
2 情報量の調節による防御機能
3 神経ネットワークの保守・修復機能と精神症状
4 神経ネットワークとストレス
5 システムトラブルと精神症状
6 神経ネットワークと神経伝達物質
7 神経伝達物質共用によるメリットとデメリット
4.精神活動にかかわる神経伝達物質
1 精神科治療に関連する神経伝達物質
2 神経伝達物質生成・分解サイクル
3 精神活動に関連が強い神経伝達物質の性質
5.精神症状と神経伝達物質
1 神経伝達物質の変化と精神症状
2 「抑うつ」症状
3 躁状態
4 幻覚妄想状態
5 不 安
6 集中困難
7 衝 動
8 睡眠異常
第2章 各論 疾患編
6.鑑別フロー
7.統合失調症
1 生物学的研究結果と仮説からの治療の視点
2 統合失調症の治療
8.うつ病
1 治療開始前の留意点―患者の医療知識の把握―
2 抗うつ薬の選択
3 抗うつ薬の効果判定
4 抗うつ薬による薬物療法期間
5 抗うつ薬の中止
6 回復期の注意点
9.双極性障害
1 外界からの刺激によって発生する「気分」
2 外界からの刺激に対する易刺激性
3 双極性障害と抗うつ薬
4 再発予防の治療計画
10.不安障害
1 脳神経学的・心理学的研究結果からの仮説と治療
2 不安誘発の原因と治療
3 パニック障害
4 不安障害と強迫症
11.ストレス障害
1 ストレス反応
2 ストレス障害の分類
3 ストレスに対する脆弱性と治療
12.老年期精神障害
1 脳器質変化による老年期精神障害
2 認知症の薬物療法
3 周辺症状の治療薬
4 患者・家族への説明
5 二次障害としての老年期精神障害
13.依存症
1 様々な依存症
2 脳科学の観点からみた依存症の経過と予後
3 依存症者と共依存者(巻き込まれた関係者)
4 依存症の治療
5 アルコール依存症の薬物療法
第3章 非薬物療法と職場のメンタルヘルス
14.非薬物療法
1 身体療法
2 精神療法
3 精神科リハビリテーション
15.精神科医と社会におけるメンタルヘルス
1 精神科医を取り巻く諸問題
2 職場のメンタルヘルスへの取り組み
3 精神科医の常識と社会通念のズレ
4 精神科医と産業医間の双方の誤解
5 意見・助言についての注意
おわりに
索 引
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序文
発刊によせて
統計的にはメンタル不調によって精神科を受診する患者数は年々増加し,約20年前と比較すると,「うつ系」のメンタル不調だけでも患者数は2.5倍となっていて,人口が密集する都市部では,メンタル不調となって受診しようとしても,予約待ちで数週間という状態にあり,精神科臨床的には医療崩壊に近いのが現状です.
精神科の治療効果を上げるのに最も必要なことは,よい薬剤ではなく,診察に時間をかけて,しっかりと病状と情報をつかみ,的確な診断をすることなのですが,このように患者数が青天井で増加すれば,当然1人の患者にかけられる時間は減っていき,情報の未収集が生じることで診断の精度が低下するリスクがあります.さらに医療経済的にも,現在の皆保険制度内での診療では,患者の満足度を上げれば,医療機関が困窮するという構図にあり,標準的な診察時間内でいかに効率よく必要な情報を収集し,精度高く診察するかが重要となってきています.
そのような背景も手伝って,「操作的診断」が臨床で多く用いられるようになったのでしょうが,近年に至っては,臨床医が個人的に改変省略した,アレンジされすぎた「操作的診断」によって,診断の信頼性が低下してきている事実があります.同じ患者を10人の精神科医が診ると10の診断が下されるなどと揶揄されるのはこのためです.
「操作的診断」も,過去に積み上げられた精神臨床病理や伝統的診断の改良の上に築かれたものですから,これらを全く知らずに正しい「操作的診断」を体得するのは困難なのです.
1990年代から米国が先導した生物学的精神医学が台頭し,2000年には精神科も脳科学の時代といわれた頃から,欧州を中心に体系化されてきた古典的精神医学は非科学的であり医学とはいえないという考えの波に押し流され,急激に精神医学の知識の分断が起こったという印象です.この分離問題を解消できないかと,数年前から講演や寄稿など事あるごとに生物学的精神医学と古典的精神医学の融合の重要性を発信してきました.
今回それらの内容を体系的にし,再編したものを執筆することが叶い,本書が刊行されました.すでに学問や研究の場から離れた一開業医が,これまで培った知識と技術をまとめたものではありますが,駆け出しの精神科臨床医にとっては「診療のいろは」,指導する立場となった精神科医にとっては総まとめとして有用となるような内容になったと思っています.
また,本書を執筆するにあたり,精神科診療の診断や治療においての基盤となる知識やセオリーはすでに普遍的なものを中心にしていることや,学術的なエビデンスがないものであっても中堅の精神科医であれば共通の認識と考えられる内容を基に構成していること,さらに本書は精神科初学者に向けた入門書かつ教科書的な役割をもたせた内容であることからも通読できることも重要と考え,都度のリファレンスは割愛しています[筆者の知識に間違いがないかを確認するのに,『DSM-5R精神疾患の分類と診断の手引』(医学書院),『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン』(医学書院),『現代精神医学事典』(弘文堂),『カプラン臨床精神医学ハンドブック 第4版―DSM-5R診断基準による診療の手引―』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)を用いました].
本書がこれからの精神科医療の中心となられる若い世代の精神科医師にとって有用だという評価が得られれば幸いです.
2022年8月
姫井昭男