胎児・新生児や妊産婦に異常があった時,分娩経過に異常があった時,母児に影響を与えずに原因を調べられるのが胎盤ですが,その診断は難しい!本書は,大きく見やすい症例写真,検査・診断のフローチャート,病理診断の申込例など豊富な図表とともに,検査の目的や手順,用語解説などの基本的事項,単胎・多胎胎盤の調べかた,臨床で問題となる病態など,日常診療で役立つ内容をわかりやすく解説.また,APWGCSによる用語統一やCOVID-19などのトピックスも盛り込み,FAQも充実.胎盤病理診断の第一人者による集大成です.
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目次
推薦のことば
はじめに―第2版の発刊によせて
Ⅰ章 胎盤検査の目的・手順・考えかた
1.なぜ,胎盤を調べるのか
2.胎盤検査の進めかた,胎盤診断の考えかた
1 胎盤検査の進めかた―胎盤検査フローチャート
2 胎盤診断の考えかた―胎盤診断フローチャート
3.臨床情報と病理所見の記載のしかた
1 単胎胎盤所見記載用紙
2 双胎胎盤所見記載用紙
4.おさえておきたい胎盤に関する用語
1 臨床的事項に関するもの
2 病理学的事項に関するもの
Ⅱ章 胎盤の発生と発達
1.妊娠産物と胎盤
1 妊娠とは
2 妊娠産物とは
2.胎盤の発生と発達
3.胎盤の機能
1 呼吸・循環
2 栄養代謝
3 ホルモン産生
Ⅲ章 単胎胎盤のみかた・調べかた
1.臨床情報
1 記載日,分娩日,分娩形式
2 分娩週数
3 母体の年齢,分娩歴
4 児の性別,体重,Apgarスコア
5 臨床診断
6 提出状態
胎盤検査における臨床情報のポイント
2.臍 帯
1 臍帯の肉眼所見
2 臍帯の顕微鏡所見
臍帯検査のポイント
3.卵膜(胎児膜)
1 卵膜の肉眼所見
2 卵膜の顕微鏡所見
卵膜検査のポイント
4.胎 盤
1 胎盤の肉眼所見
2 胎盤の顕微鏡所見
胎盤検査のポイント
Ⅳ章 臨床的にしばしば問題となる病態
1.胎児発育不全(FGR)
2.妊娠高血圧症候群(HDP)
3.常位胎盤早期剥離(abruptio placentae/placental abruption)
4.癒着胎盤,弛緩出血および羊水塞栓症
1 癒着胎盤
2 弛緩出血,羊水塞栓症
5.母体疾患合併妊娠
1 自己免疫疾患合併妊娠
2 妊娠糖尿病
6.流産・絨毛性疾患
1 流 産
2 胞状奇胎(hydatidiform mole)
3 全胞状奇胎(全奇胎)(complete hydatidiform mole)
4 部分胞状奇胎(partial hydatidiform mole)
5 ほかの絨毛性疾患
7.死産・子宮内胎児死亡
Ⅴ章 多胎胎盤のみかた・調べかた
1.多胎胎盤の所見のとりかた
1 卵性と膜性
2 臨床情報
3 双胎の臍帯の調べかた
4 双胎の卵膜の調べかた
5 分離膜(隔膜)の調べかた
6 双胎の胎盤の調べかた
2.双胎間輸血症候群と関連病態
1 血管吻合
2 双胎間輸血症候群(TTTS)
3.無心体/twin reversed arterial perfusion(TRAP) sequence
4.その他の多胎胎盤
1 一絨毛膜一羊膜胎盤(MM胎盤)
2 三胎以上の多胎胎盤
多胎胎盤検査のポイント
Ⅵ章 胎盤の病理検査・診断の実際
1.単胎胎盤の肉眼検査,切り出し
1 胎盤の保存
2 胎盤の検体処理
3 胎盤の切り出し・病理標本作製
2.双胎胎盤の肉眼検査,切り出し,血管吻合検索
1 双胎胎盤の肉眼診断時の注意点
2 血管吻合検索
3.胎盤病理標本のみかたと特殊染色,免疫染色
1 HE染色
2 特殊染色
3 免疫組織化学(免疫染色)
4 その他の検査
4.胎盤病理診断文の書きかた
1 病理診断文の構造
2 臓器名
3 娩出形式・分娩週数
4 死産,胎児治療後
5 付着部異常,結節,潰瘍など
6 絨毛発育
7 妊娠高血圧症候群(HDP)に関連する所見
8 臍帯炎,絨毛膜羊膜炎
9 慢性絨毛炎
10 多 胎
11 記載にあたっての注意事項
FAQ―よくある質問
おわりに―胎盤病理は複雑系
参考文献
索 引
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序文
推薦のことば
本書は日本における胎盤病理の第一人者である筆者が丹精を込めて執筆した,まさに「胎盤病理の教科書」の第2版です.
胎盤という臓器は人体のなかでも特殊な臓器で児を育てるためだけに存在します.妊娠初期に子宮内で形成され,分娩とともに娩出し役目を終えます.このように1つの胎盤が役割を果たす期間は短く1年間にも満たないですが,児を育てるための多くの機能を有しています.また,胎盤は産科的な病態を反映していることが多々あり,胎盤をみることにより母児の病態を検証することができます.
産科医療は時に,臨床医が予測し得ない経過をとることが少なくありません.そのような場合は,その原因究明となる情報が胎盤に隠されていることが多いのです.胎盤を検索することにより,新生児治療,次回妊娠の管理方針に役立てることができます.代表的なものでは早産においての絨毛膜羊膜炎,妊娠高血圧症候群,胎児発育不全など多くあげられます.双胎間輸血症候群では胎児鏡下レーザー手術という胎盤上の吻合血管をレーザー焼灼し双胎の両児の血流を改善する治療を行いますが,その治療の検証も生後の胎盤に色素を注入し行うことができます.また産科の診療における不幸な結果として,予期できない胎児死亡をきたすことがありますが,胎児の検索だけでなく胎盤を検索することによって原因を特定することができる場合があります.
胎盤は,母児に侵襲を与えることなく摘出することができる臓器であるため,研究の素材としても優れており,近年では胎盤の分子学的な研究,遺伝学的な研究が進んでいます.
本書は,Ⅰ章からⅢ章までは産科医療と胎盤病理を理解するために必要な用語の説明からはじまり,胎盤の機能や構造の解説,肉眼所見・組織学的所見のみかたが記載され,Ⅳ章では各産科疾患における胎盤の肉眼所見と組織学的所見の解説が大変わかりやすく,詳細に記載されています.初版も素晴らしい書でしたが,経験を積み近年の知見を盛り込み,より充実した内容になったと思います.産科医,小児科医などの周産期医療に携わるすべての医療者に推薦できる本です.
2023年12月
国立成育医療研究センター
周産期・母性診療センター長
和田誠司
はじめに―第2版の発刊によせて
日々,胎盤の病理診断を行っていて感じるのは,産科医をはじめとする周産期医療にかかわる医療従事者の妊娠・出産に対する優しく寄り添う姿勢です.担当医らと妊婦,胎児,新生児とのかかわりは申込書に書かれた数行の字句からしかわかりませんが,胎盤を病理組織学的に検索することにより妊娠経過の詳細を知りたいという思いをそこに感じ,それに応えるために,私も真摯に胎盤組織・標本に向き合い,格闘しています.
母児に影響を与えることがないという点で胎盤はとても有用な臓器であるにもかかわらず,これを調べて病理学的に新しい所見を得て,その結果を臨床にフィードバックしようということがこれまであまり行われてきませんでした.その理由の1つとして胎盤の扱いかた,調べかたといったことに習熟した病理医が少ないということがあります.私自身,国立成育医療研究センター病院に病理医として赴任するまでは,胎盤は診断のむずかしい臓器の1つでした.
しかしながら,国立成育医療研究センターで母性医療,生殖医療,胎児医療,周産期医療という成育医療に携わり,その各ステージを理解するためには胎盤を理解しなくてはならないということを実感し,周産期・母性診療センターの先生たちからのリクエストもあり,胎盤の病理診断を専門とするようになりました.病院の後押しもあり,胎盤病理診断の大家であるカリフォルニア大学サンディエゴ校の故Kurt Benirschke先生のもとに留学する機会を得て,ヒト以外の動物を含む多くの胎盤診断を経験し,帰国後は慶應義塾大学医学部病理学教室の先輩である故藤倉敏夫先生のご指導を仰ぎながら研鑽を重ねました.
そうこうするうち,産科医のみならず,母性内科医,助産師そして外部の病理医さらには国立成育医療研究センター研究所の研究者など,周産期医療にかかわる多くの人から,胎盤のみかた,調べかたを教えてくれないかという依頼を受けるようになり,総論的なことから各論的なことを様々な場で話したり,雑誌に書いたりするようになりました.これならすべてまとめて1冊の本にしようと考え,国立成育医療研究センター在職中の10年あまりに診断した約3,000例の経験をもとに,『やさしくわかる胎盤のみかた・調べかた』を出版しました(「胎盤病理診断手順書の作成のための調査研究」承認番号936).拙著は産科医,病理医ほか周産期医療にかかわる多くの医療従事者に手にとっていただき,わが国の周産期医療の発展に貢献できたのではないかと考えています.
初版発刊後,胎盤の病理診断に関連して注目すべきことが2つありました.1つは胎盤病理に関する国際的コンセンサスミーティング(APWGCS)により,胎盤病理に関する用語の整理,統一が行われたこと,そしてCOVID-19感染症です.前者は解釈に幅のあった胎盤病理診断に共通言語をもたらしました.また,後者は新たなる未知の感染症が胎盤を傷害するのをリアルタイムで目撃した,私にとってパラダイムシフトをもたらすものとなりました.
そのような折に,診断と治療社より第2版の話をいただき,自分のミッションとしてこれに取り組むことにしました.
参考文献にあげた成書とは異なり,初版同様,日常診療・診断で気軽に使っていただけるよう,図表の見直しを行い,配置も改めました.新たに加えた図表は東京都立小児総合医療センター,東京都立多摩総合医療センターなどで経験した症例です.各センターのスタッフの皆様にこの場をお借りして深謝します.また,第2版の出版にあたり,多くのご助言をいただき校正の労をお取りいただいた,診断と治療社の土橋幸代様,馬場瑞季様にもあわせて御礼申し上げます.
2023年12月
東京都立小児総合医療センター病理診断科部長
松岡健太郎