ベイズ統計を学んだことがない医療者は大勢いるのではないでしょうか? 本書は,ベイズ統計の基礎から解析の仕方を解説.特にロジスティック回帰モデル,Cox回帰モデル,アダプティブデザインについて,実際の論文を紹介し,その中でどのように使われているのかについて解説しています.これからベイズ統計を学ぶべきかどうか迷っている方への道標となることを願っています.ベイズ統計を学びたいすべての医療者のための1冊.
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目次
序文
本書の構成とガイダンス
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第1章 はじめに
1 臨床診断と事前情報を用いた推論
1.誰でも知っている感度・特異度の話から
2.有病率は「率」じゃなくて本当は「割合」なんです
3.有病率改め有病割合をどうするのか
4.疾患の有病割合を最も簡単にベイズ推測する話
2 急増したベイズ統計を用いた研究
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第2章 ベイズ流の基礎知識
1 ベイズ統計のすべてはベイズの定理から始まる
1.ベイズの定理
A.ベイズ流は確率を条件付き確率として扱う
B.最も身近なベイズ推測の例
2 ベイズ推測の基本的なステップ─観測値から事後確率へ
1.ベイズ推測の基本的な流れ
2.発生割合のベイズ推測─二項データの生起確率
A.医療分野でのアウトカムと二項データ
B.ベータ分布が自然共役事前分布になる場合
C.応用
D.第1章の有病割合推測の種明かし
3.発生率のベイズ推測
A.ポアソン分布のベイズ推測
B.ガンマ分布が自然共役事前分布になる場合
C.応用
4.平均と分散の推測
A.正規分布のベイズ推測
B.μをベイズ推測する
C.σ2をベイズ推測する
D.応用
3 観測データの扱い:観測データのi.i.d.と交換可能性について
1.i.i.d.:独立に同一の分布に従うこと
2.i.i.d.の担保と交換可能性
4 ベイズ推測の特長と注意点
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第3章 臨床家のためのマルコフ連鎖モンテカルロ法
1 計算数学的手法による近似
1.解析的手法の限界
A.ベータ分布引くベータ分布は何分布?
B.解析的手法を使わない・使えないときの対処
2.モンテカルロ法
A.コンピューターの数値計算による近似
B.モンテカルロ法とは
C.簡単なモンテカルロシミュレーション
D.注意:乱数が確率現象を模擬的に再現できていないと結果が怪しくなる
E.ベータ分布引くベータ分布をモンテカルロシミュレーションで
2 サンプリングの原理
1.マルコフ連鎖モンテカルロ法
─それはサンプル(乱数)からサンプル(乱数)を生み出す
A.マルコフ連鎖
B.最も簡単なマルコフ連鎖モンテカルロ法の例
C.マルコフ連鎖モンテカルロ法とは
D.サンプリングしている変数が3個の例
2.ギブス・サンプリング
3 サンプリングのアルゴリズム
1.メトロポリス・ヘイスティングス法
A.ギブス・サンプリングが使えない場合
B.メトロポリス・ヘイスティングス法でサンプリングする際の方針というか,たとえ話
C.当たるか当たらないかの見込みを用いた勝ち抜き?制の相対評価
D.もうちょっと細かい設定とルールの話
E.メトロポリス・ヘイスティングス法の利点
F.メトロポリス・ヘイスティングス法の欠点・弱点
2.ハミルトニアンモンテカルロ法
A.より効率的なサンプル提案法
B.ハミルトニアンモンテカルロ法を搭載している「Stan」と
ここに至ってお断りです
4 モデリングとシミュレーション
1.モデリングの例
A.モデリングの例としてのベイズ流メタアナリシス
B.対象とする一次研究の形
C.モデリングの手順
D.サンプリング法の選択─このモデルではギブス・サンプリングはムリ?
E.結果
F.備考
2.シミュレーションの手順・設定・評価
A.シミュレーションの手順
B.シミュレーションがうまく実行できているかを評価します
3.構築されたモデルについて
A.モデルをどのように構築していったらよいのでしょうか
B.マルコフ連鎖モンテカルロ計算の失敗しやすい例
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第4章 ベイズ流臨床研究
1 ベイズ流ロジスティック回帰モデルを用いたスタディ
1.ロジスティック回帰モデルについてのおさらい
2.実際の事例
A.方法での注意点
B.モデル作成のプロセス
C.結果のどこをみるか
D.ベイズ流オッズ比の解釈
E.その他
2 ベイズ流Cox回帰モデルを用いたスタディ
1.Cox回帰モデルについてのおさらい
2.ベイズ流Cox回帰モデル
3.実際の事例
A.ベイズ流Cox回帰モデルがどのように使われているか
B.結果
C.その他
3 ベイズ流アダプティブデザイン
1 アダプティブ用量探索(用量漸増)デザイン
1.アダプティブデザインとは?
2.アダプティブデザインにはどのようなものがありますか?
3.用量探索(用量漸増)デザインについてのおさらい
4.従来の用量増減デザイン:3+3法とその弱点
5.モデルの前提
6.用量割り当てルール
7.除外ルール
8.例外ルール
9.備考というか問題
A.参加してもらう患者人数について
B.種々の値の設定について
2 アダプティブランダム化デザイン
1.アダプティブランダム化デザインとは
2.アダプティブランダム化デザインが用いられる2つの場合
A.倫理的な問題となりえる場合
B.群間のサンプルサイズの差を抑えたい場合
3.ベイズ流の割り当てデザイン
A.デザインの前提
B.モデルの設定
C.CRが得られるまでの期間の確率分布
D.各群のCR発現の確率分布
E.除外ルール
F.備考
G.他の方法について
4.Ⅰ/Ⅱ相シームレス試験への応用
3 アダプティブ群逐次デザイン
1.群逐次デザインとは
2.群逐次デザインはどのような場合に用いられるか
3.群逐次デザインにベイズ流手法が用いられる利点
4.タイプⅠエラーの制御:群逐次デザインを行うにあたって
5.ベイズ流群逐次デザインの例
A.最も単純なモデル
B.ベイズ流群逐次デザインにおけるタイプIエラー
C.ベイズ流タイプIエラーの計算と制御
D.予測確率を用いた早期中止ルール
E.2値データ形式以外のエンドポイントについて
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索引
著者プロフィール
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序文
この本を書くにあたり,「ベイズ流の統計は医学医療分野で何ができるのか?」そして「もし自分なら,それをどうやって知ろうとするか?」について考えました.答えは,まず当代の関連論文を集めてきて精読し,個々の論文から得られた知見から,こういうことができるのだろうと帰納的に推論することでした.それに今までの学習で得られたベイズ統計関連の知識を基礎にした,演繹的思考を組み合わせるのがよい(のだろう)と結論づけました.
しかし,論文を読むにしても,知りたいことを適切に教えてくれる論文を効率よく探し出さないといけません.さらには,そもそも日常のプラクティスに忙殺されている立場では「そんな時間ないよ」という人のほうが多いのではないでしょうか?
本書は,そのような皆さまのために,エッセンスを凝縮してお届けすることを目指しました.そして,先人たちの著された多くのベイズ統計の書物と少し異なるアプローチを行いました.具体的には物語風の文章を基本とし,なるべく観念的な表現を避けるように心がけました.また,診断と治療社の編集者と相談して,馴染みやすい体裁になるように努めました.しかし,それでも臨床系の記事とは異なり,「ここだけ押さえておけばOK!」というキーワードやポイントに乏しい,かつ,どうしても形而上的な表現になってしまっている箇所も,一部にあることをお許しください.
また,かつて「標本分散(不偏分散)はなんでnじゃなくてn-1で除さないとだめなのだ?」という疑問に対し,数式をわざわざ書いてやっと納得した筆者の性分ゆえに,一部では相応の数式も説明に使っています.物語風といいつつ,一部で数式が駆け回ったりと,やや不統一な趣にはなるかもしれませんが,ベイズ流の本質は,数学(的思考)の応用に加えて,意思決定における決定者の価値観までも包含する広範なものです.ここに頻度論的統計学とは異なる,独自の世界を有しているベイズ統計の可能性と魅力を感じ取ってもらえれば幸いです.
本書が,読者の皆さまにとってベイズ統計の理解を深める助けとなり,ベイズ統計がさらなる探求の道標となることを願っています.
2024年8月20日 井上 弘樹