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書籍詳細

もしかして甲状腺疾患!?
外来で見逃さない甲状腺疾患診断と治療社 | 書籍詳細:外来で見逃さない甲状腺疾患

国立病院機構京都医療センター内分泌・代謝内科診療部長

田上 哲也(たがみ てつや) 著者

初版 B5判 並製 124頁 2024年06月25日発行

ISBN9784787826633

定価:3,960円(本体価格3,600円+税)
  

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甲状腺疾患特有の症状で来院されたかかりつけの患者を「診る」ためにプライマリ・ケア医ができることとは何か.
まずは,甲状腺疾患とは何かを知ること,そしてその疑いのある患者さんの状態を見逃さず,検査を行うこと,その後,正しい診断をし,治療につなげ,必要であれば患者さんに最適な専門病院との連携も行うこと・・・そのために必要な知識が簡潔にまとめられています.甲状腺にまつわる「小話」も読み応えがあります.

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目次

はじめに
略語・用語一覧
|第1部|甲状腺疾患を知る
1 甲状腺疾患とはどんな病気?
はじめに
甲状腺機能異常症の定義
Column 1 甲状腺中毒症という名称について
Column 2 甲状腺ホルモンの発見
Column 3 ヨウ素の発見
Column 4 ビオチンによる甲状腺ホルモン検査結果への干渉
甲状腺疾患の頻度
Column 5 ネガティブレギュレーションの不思議
Column 6 Wolff-Chaikoff効果
甲状腺ホルモンの作用
Column 7 バセドウ病の発見
Column 8 血中(F)T3濃度測定の意義
2 甲状腺疾患にはどんな種類がある?
甲状腺中毒症
Column 9 プランマー病の発見
Column 10 甲状腺末
Column 11 妊娠に伴う生理的な甲状腺機能の変化
甲状腺機能低下症
甲状腺機能正常
不適切TSH分泌症候群(SITSH)
Column 12 甲状腺ホルモン受容体(TR)の話
Column 13 甲状腺ホルモン不応症の話
Column 14 甲状腺の語源
|第2部|甲状腺疾患を疑う
1 よくみられる症状とは?
全身症状
神経・精神症状
消化器症状
循環器症状
婦人科系症状
眼症状
耳鼻咽喉症状
皮膚症状
不定愁訴
その他
|第3部|甲状腺疾患を検査・診断する
1 検査を行う
血液生化学検査
甲状腺ホルモン検査
サイログロブリン(Tg)
Column 15 TSAb開発の歴史
Column 16 バイオセンサⓇTSAbとBIOSENSORⓇ TSBAb YAMASA
サイログロブリン(Tg)抗体,ペルオキシダーゼ(TPO)抗体
TRAb, TSAb
事例 TRAbとTSAbの乖離例
カルシトニン
超音波
細胞診
単純X線
CT/MRI
FDG-PET/CT
甲状腺シンチグラフィ
2 診断する
甲状腺中毒症:FT4(FT3)↑~→,TSH↓
甲状腺機能低下症:FT4↓
びまん性甲状腺腫(甲状腺機能正常)
結節性甲状腺腫(甲状腺機能正常)
SITSH:FT4↑,TSH→~↑
|第4部|甲状腺疾患を治療する
1 治療法にはどんなものがある?
甲状腺機能異常症の治療
Column 17 MMI,PTU使用中のモニタリング
Column 18 MMI,PTUの副作用
Column 19 LT4の併用注意薬
甲状腺癌の治療
2 治療法を決定し説明する
どのように説明する?
事例 バセドウ病でMMI内服中に妊娠したとき
事例 検診や人間ドックで甲状腺機能異常を指摘されたとき
|第5部|専門病院と連携し,かかりつけ医として患者をフォローする
1 病院連携とフォロー
専門医・専門病院への紹介
長期フォロー
Column 20 ニュートラル型TSH受容体抗体とは?
2 患者さんからのよくある質問にこたえる


索引

ガイドライン・ガイドブック情報

著者略歴

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序文

なぜ,甲状腺疾患を啓蒙する必要があるのでしょうか?それにはいくつかの理由があります.

1.甲状腺疾患はありふれている.
2.それにもかかわらず,見逃されていることが少なくない.
3.甲状腺疾患は多くの体の不調の原因となるが,症状は不定愁訴と紛らわしい.
4.甲状腺機能異常を放置すると命に関わる.
5.甲状腺疾患は(他の病気と同様)早期診断と早期治療が重要である.
 
順に説明してみましょう.

甲状腺疾患はありふれている.

人間ドックの調査では,顕在性*甲状腺機能亢進症と顕在性*甲状腺機能低下症はどちらも0.5%(200人に1人),潜在性甲状腺機能亢進症はその2倍(100人に1人),潜在性甲状腺機能低下症はその10倍(20人に1人)とされています.また,甲状腺自己抗体の保有者は成人では18%(男性12%,女性23%)と報告されています.さらに,超音波検査で見つかる甲状腺腫の頻度は20%(男性13%,女性27%)に上ります.これらの全てが治療対象になるわけではありませんが,いつでも治療が必要な状態になりうるとも言えます.
*註:
以前は顕性とも言われていたが,遺伝学の分野で,優性遺伝は顕性遺伝,劣性遺伝は潜性遺伝と言い換えられることになったことから,本書では顕性を顕在性とよぶこととする.顕在性甲状腺機能異常はTSHとFT4が基準値外のもの,潜在性甲状腺機能異常はTSHだけが基準値外のものを指す(本文参照).

それにもかかわらず,見逃されていることが少なくない.

甲状腺疾患は通常の血液検査ではわかりません.ただし,甲状腺機能異常症は貧血を起こしたり,肝機能やコレステロールなど多くの生化学検査値に影響を与えたりします.また,多くの甲状腺疾患は甲状腺腫を呈します.甲状腺機能異常症は血液検査で甲状腺ホルモンを測定すれば一目瞭然となりますので,これらをヒントに甲状腺疾患を想起して,甲状腺機能検査につなげられるかどうかがポイントです.

甲状腺疾患は多くの体の不調の原因となるが,症状は不定愁訴と紛らわしい.

甲状腺ホルモンは大人では新陳代謝を司ります.そのため,亢進症では代謝亢進による,低下症では代謝低下による,それぞれ様々な症状を引き起こしますが,それらの一つひとつは不定愁訴と紛らわしいものが多く,更年期障害やうつ病などとして診療されていることが少なくありません.それでも,いくつかの症状を組み合わせて考えると,共通の代謝異常の存在が浮かびあがってくるかもしれません.

甲状腺機能異常を放置すると命に関わる.

古来,甲状腺機能低下症は大陸ではヨウ素欠乏による精神・発達障害(いわゆるクレチン症)や巨大な地域性甲状腺腫として恐れられていました.しかし,現在では食事(パンや食塩,飲料水)へのヨウ素の添加により,このようなことはほぼ無くなりました.一方,海藻類を多食する日本ではむしろヨウ素過剰により,橋本病を基礎とした甲状腺機能低下症や難治性のバセドウ病が多いとされています.現在でも,甲状腺機能低下症や亢進症が放置されて,それぞれ粘液水腫性昏睡や甲状腺クリーゼといった生命に関わる病態に陥る方がおられます.

甲状腺疾患は(他の病気と同様)早期診断と早期治療が重要である.

粘液水腫性昏睡や甲状腺クリーゼの発症予防はもちろんですが,先天性甲状腺機能低下症や新生児バセドウ病など,幼少期の甲状腺異常は現在でも精神・発達障害の原因となりますし,その前に不妊症や不育症(流産や早産)の原因にもなります.甲状腺がんの早期発見ももちろん重要です(微小がんを手術するか積極的経過観察でいいかはケースバイケースですが…).

甲状腺疾患のスクリーニングは触診とTSHの測定でいい.

先天性甲状腺機能低下症の早期発見にはTSHを用いた新生児マススクリーニングが普及していますが,成人においても甲状腺機能異常症の発見において,ほとんどの場合はTSHの測定で事足ります(稀な中枢性甲状腺機能異常症を除く).しかしながら,一般診療では甲状腺疾患を疑わなければTSHの測定にさえ至らないのが実情です.そのため,自覚症状の組み合わせや(AIによる)生化学検査異常の組み合わせで甲状腺機能異常症を想起する工夫がされています.頸部の触診も重要です.甲状腺機能異常症が緩徐に進行していると体が慣れてしまっていて,本人でさえ異変に気づかない場合もあります.例えば,学校検診で校医さんに甲状腺腫を指摘され,医療機関を受診したら,はなはだしいバセドウ病であったということもまれではありません.

本書は,甲状腺疾患をより早く見つけて,大事に至る前(少しでも軽症のうち)に治療できるようにと願って執筆いたしました.触診やTSHの測定後に専門医へ紹介いただいても構いませんし,治療を開始したがスムーズな治療経過を辿っていないと思われてからでも大丈夫です.本書が読者の甲状腺疾患診療に少しでもお役に立てば何よりです.


令和6年5月吉日
田上哲也