獨協医科大学埼玉医療センター子どものこころ診療センター編
小児科外来で診る 子どものこころプライマリ診療ガイドブック診断と治療社 | 書籍詳細:小児科外来で診る 子どものこころプライマリ診療ガイドブック
獨協医科大学埼玉医療センター子どものこころ診療センター
作田 亮一(さくた りょういち) 監修
獨協医科大学埼玉医療センター子どものこころ診療センター
大谷 良子(おおたに りょうこ) 編集
獨協医科大学埼玉医療センター子どものこころ診療センター
井上 建(いのうえ たけし) 編集
初版 A5判 並製 312頁 2024年09月24日発行
ISBN9784787826657
定価:5,280円(本体価格4,800円+税)冊
ADHD,自閉スペクトラム症,起立性調節障害,不登校,摂食症など,プライマリ診療を担う小児科医が専門医へつなげる前にできることは?初診から再診への診療イメージや神経発達症・心身症のプライマリ診療について症例提示した1・2部,主な疾患や検査などを解説した3部,具体的な治療プログラムを紹介した4部の4つの構成で,プライマリだからできる「子どものこころ診療」を解説.子どものこころ診療に関わる医師,看護師,心理士の「困ったとき」に役立つ1冊!
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目次
序文 小児科医が「子どものこころの診療」を担うこと
子どものこころ診療のフローチャート
執筆者一覧
1部 症例から学ぶ プライマリ医が初診から再診につなげるコツ
Introduction 再診につなげるために
1 一般外来で神経発達症の子を診療するにはどうしたらよいですか?
2 一般外来でも不登校の診療はできるでしょうか?
3 摂食症診療の経験が浅い自分が担当してよいのか不安です
2部 症例から学ぶ ライフステージに沿った診療
Introduction ライフステージに沿って診療する意義
A 乳幼児期(就学前)
1 夜泣きについて相談です[1歳]
2 ことばの遅れが気になります[3歳]
3 何でも思い通りにできないと怒ります[4歳]
4 緊張すると吃音が強くなります[4歳]
5 朝起きておへその周りを痛がりますが午後には回復します[4歳]
6 ダンスが苦手で登園をしぶります[5歳]
7 保育所の教室から勝手に出てしまいます[5歳]
8 好きなものしか食べません[5歳]
9 電車の音をこわがって乗れません[5歳]
10 寝ているときに急に走り出します[5歳]
11 頻繁にトイレへおしっこをしに行きます[5歳]
12 年長になりますが,おむつがまだ外れません[6歳]
B 学童期(小学校低学年)
1 小学生になっても母親から離れられません[7歳]
2 小学校入学後にチックがひどくなりました[7歳]
3 学校で落ち着きがなくよく怒られます[7歳]
4 宿題に時間がかかってます.やる気の問題ですか?[7歳]
5 小さい頃から運動や細かい作業が苦手でした[8歳]
6 大人に過度に近づく一方,友だちとのケンカが絶えません[8歳]
7 家族以外の人がいるときに話すことができません[8歳]
8 嘔吐を契機に食べられなくなりました[8歳]
9 おなかが痛くて遅刻がちです.勉強も遅れてきました[9歳]
10 爪噛みがやめられません[9歳]
11 耐えられないほどの頭痛,何とかしてあげたいです[9歳]
12 おねしょを気にして宿泊学習に行きたがりません[9歳]
C 思春期(小学校高学年~中学生)
1 ゲームばかりしていて,やめさせようとすると暴れます[10歳]
2 髪の毛を抜くのが止められず,登校をしぶっています[11歳]
3 登校できず,ふさぎ込んでいます[12歳]
4 何をいっても食事を食べてくれません[12歳]
5 すぐにおなかが痛くなって何もできないので心配です[13歳]
6 出かける前の確認がやめられず学校に行けません[13歳]
7 トイレに頻繁に行くようになり最近はこもることが増えました[13歳]
8 友だちから孤立し辛くて風邪薬を大量に飲んでしまいました[14歳]
9 友人トラブルで不登校になったら生活リズムも崩れました[14歳]
10 朝起きられず,不規則な生活が治りません[14歳]
11 ゲームばかりで昼夜逆転生活です[14歳]
12 落ち着いていたてんかん発作が最近増えています[15歳]
13 たくさん食べては吐いています[15歳]
3部 解説編
Introduction 疾患の理解のために
A 神経発達症
1 神経発達症の基礎知識
2 神経発達症診断の“悩ましさ”
3 神経発達症の診断意義とは
4 発達外来でよく使用する検査
5 神経発達症の併存症の考え方
6 鑑別すべき重要な器質的な疾患
7 神経発達症の主な薬物療法
8 療育の意義と療育にかかわる専門職
9 ソーシャルスキルトレーニング
10 ペアレント・トレーニング
B 心身症
1 子どもの心身症とは
2 ストレスの生理的反応と対応
3 心身症の心理療法
4 外来でも使用できる心理検査
5 心身症の診断と治療の進め方・考え方
6 心身症の問診のコツ
7 子どもの摂食症とは
8 神経性やせ症および神経性過食症
9 回避・制限性食物摂取症
10 制限型摂食症のプライマリ診療での身体治療
11 神経性やせ症の心理療法
12 起立性調節障害
13 過敏性腸症候群
C 注意が必要な精神疾患と諸問題
1 一般診療で役立つ6つのポイントと思春期のメンタルヘルス
2 うつ病
3 不安症・強迫症
4 睡眠障害
5 ゲーム行動症
6 不登校
7 虐 待
8 マルトリートメント
9 自 傷
10 機能性神経症状症/変換症
D 連携・福祉
1 学校との連携
2 成人移行支援
3 支援のための制度や診断書
4部 子どものこころ診療センターで行っている治療プログラム
Introduction 多職種協働で診療する意義
1 摂食症の入院治療
2 神経性やせ症への家族をベースとする治療(FBT)
3 元気☆生活プログラム
4 ゲーム行動症に対する介入と治療プログラム
5 チック症の心理療法-リモート&グループCBIT-
6 院内学級-病院のなかのたまり場-
7 わかばプログラム-子どもと一緒にのびのびプログラム-
8 神経発達症の子どもへのグループ音楽療法
9 言語療法で行うメタ認知トレーニング
10 トラウマへの心理治療
11 子どもの認知行動療法
12 グループによるペアレント・トレーニング
付録
略語一覧
参考図書
索引
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序文
小児科医が「子どものこころの診療」を担うこと
子どものこころ診療のニーズは高まるばかりである.なぜ,これほどストレスを子どもたちが抱え,不安に満ちた生活を余儀なくされているのだろうか.様々な要因が報告されているが,原因探しではなく医療者にとって大切なのは,今,苦しんでいる子どもと家族とともに,子どもたちの心身の状態を理解し共有し支援することであろう.しかしながら,学校や家庭で楽しく子どもらしい生活ができない子どもたちが,いわゆる専門病院や専門クリニックを受診するまでに時間がかかるため,小児科かかりつけ医に相談するケースが増えている.小児科医は,日常診療のなかで,このような子どもと家族の存在を常に念頭において,こころの問題に気づき見立てることが必要とされている.プライマリ診療を担う小児科医は,こころの問題を抱える子どもたちと家族にとって,最初に訪れる子どもの心身を守る砦なのだ.
獨協医科大学埼玉医療センター子どものこころ診療センターは,2009年12月に開設され,すでに約15年の月日が経過した.それ以前は,小児科のなかで神経外来として「こころの診療」も行ってきたが,社会的なニーズの高まりもあって,より専門性を高める目的でセンター化し運営を始めた.発足当初は,センターといっても名ばかりで,専任は私ひとりだった.外来は,今なら許されないことであるが,9時から20時まで昼休みも取らず,ぶっ続けで行っていた.最後のほうの患者さんには,「先生,身体に気をつけてね」と逆に労りのことばをもらうことがたびたびあった.甘えてはいけないが心優しい子どもたちばかりだ.その後,小児科から当センターへ移動してくれた同志ともいえる大谷良子先生はじめ,井上 建先生なども加わり,他大学からも北島 翼先生,松島奈穂先生,椎橋文子先生など入局希望者が集まり,現在のような「医局」といえる所帯ができあがった.
当センターの特徴の1つは,勤務している医師はすべて小児科医ということがあげられる.「子どものこころの診療」というと,一般的には児童精神科を想像させるかもしれない.私も小児科医であるが,子どものこころ診療を専門的に行うようになった流れは極めて自然で,違和感を覚えたことはなかった.小児科医として新生児医療,アレルギー疾患,悪性疾患,循環器疾患,遺伝性疾患,筋疾患,代謝疾患などを一般診療のなかで学び経験を重ねてきたことが,自分の「こころの診療」の基礎を作ってくれたと思っている.たとえば,ことばが遅い,という主訴で初診した2歳半の子どもの診察時,周産期の成長の記録,神経学的な発達,身体診察などを行う過程で,神経発達症のみならず身長・体重の増加不良から養育環境の問題に気づき,家庭支援を検討することもある.小児科の強みは,新生児(胎児期も含め)から乳幼児期,学童期,思春期に至るライフステージにおいて,人の生物学的な発達・成長過程をしっかり理解できていることであろう.身体的な診察ができることは,心身症においても,腹痛や頭痛など不定愁訴に対し,身体面の治療を優先することによって,ストレスの解決の糸口を見出すことができるかもしれない.このように,小児科医は,「子どものこころの診療」において,大きな強みをもっており,これを診療に生かさない手はないのである.
当センターでは,主に神経発達症の診療と,小児心身医学の立場から小児心療内科としての診療を行っている.勤務する医師は,小児科専門医を取得後,小児神経専門医,小児心身医学会認定医,子どものこころ専門医等を取得している.年間に初診する患者数は約800名,年間の外来受診患者数は約9,200名である.初診患者の約70%以上は神経発達症であり,乳幼児期,学童期,思春期でそれぞれのニーズに従った診療を行っている.心身症では,児童・思春期の摂食症診療に特に力を入れ,可能なかぎり多くの患者を受け入れている.摂食症入院治療では,当センター独自のプログラムを作成し効果を検証しつつ実践している.また,不登校,起立性調節障害,概日リズム睡眠・覚醒障害群,ゲーム行動症の患者を対象とした短期入院治療プログラムも行っている.チック症児への認知行動療法を行い,神経発達症児対象の音楽療法も長年実施し成果をあげている.公認心理師,小児リハビリテーション部門(言語療法,作業療法,理学療法),病棟看護師,栄養士,医療ケースワーカー等と週1回定期的なカンファレンスを開催し,多職種協働診療体制を構築しているのも当センターの特徴といえよう.
本書は,構成を4部に分けた.1部は,“症例から学ぶ”として,当センターや他院の先生方からプライマリ診療の際の質問を受け,それに私たちが回答する形式をとった.2部は, “プライマリ医であっても診療できる代表的な症例”を提示した.3部は「解説編」とし,主な疾患をわかりやすく解説し,4部は当センターで開発した治療プログラムの実践を解説した.コラムには,当センター医局員が,日常診療で患者から学び考えた思いを紹介している.
読み方は自由であるが,もし,読者が,初診から再診に向けて実際の診療をイメージしたいのであれば1部から読むとよい.診断などは3部の解説を参考にしてほしい.臨床経験のある方は,2部を,主訴から診断をイメージして,外来の手順を学んでいただきたい.
3部の解説だけ参考書として読むこともできる.4部の治療プログラムを参考に自分の施設で新たに治療プログラムを実践するのもよいであろう.
本書が,少子化の時代にあって,小児科医のアイデンティティを高める1つの拠り所として「子どものこころ診療の基本的な診療知識と技術をもって,プライマリ診療医として活躍すること」に少しでも貢献できたらと思う.また,小児科医のみならず,小児に関連する精神科医,心療内科医,看護師,公認心理師,リハビリテーション,福祉,教育等幅広い職種の方々に活用していただければ幸いである.
2024年8月
獨協医科大学特任教授
獨協医科大学埼玉医療センター子どものこころ診療センター長
作田 亮一