ADPKDの診療で困ったことはありませんか? 囊胞が見つかって患者さんが来院されるところから,具体的な診断方法,治療が始まるまでの管理,治療の実際まで―診療場面に沿って,患者さんにどう説明するか,診療を具体的にどう進めるかを中心に,50のPOINTにまとめました.ADPKDのエキスパートが実際の診療で行っていることをもとにわかりやすく解説した1冊です.忙しい日々の診療に,本書を是非お役立てください!
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目次
はじめに
略語一覧
Part 1 患者さんからの質問に答える―多発性囊胞腎ってどんな病気?
POINT 01 突然のADPKDの診断…どんな病気なの?
POINT 02 なぜ囊胞はできる?
POINT 03 なぜ大人で発見される?
COLUMN 囊胞はどうやってできる?
POINT 04 親と同じように透析をしなければならなくなる?
COLUMN 体細胞変異は重要な予後因子?
POINT 05 この先どうなる? ―妊娠・出産,子どものこと
Part 2 診断の実際―適切な診断のために
POINT 06 超音波検査で腎囊胞が見つかったらADPKD?
COLUMN 1 ADPKDのマイナーな原因遺伝子
COLUMN 2 内臓逆位と多発性囊胞腎
POINT 07 除外診断はまずMRI検査で!
POINT 08 遺伝子検査は必要?
COLUMN 1 遺伝子検査
COLUMN 2 ADPKDにおける遺伝子解析
COLUMN 3 遺伝子型と表現型(臨床病型)との関連解析
Part 3 病態の把握と診療計画―教科書には載っていない実際のところ
POINT 09 診断後,まず行うのは?
POINT 10 腎容積はどう測定し,評価する?
POINT 11 重要なのは大きさだけじゃない!―画像から腎臓の“表情”を読み取る
POINT 12 自覚症状もなく,薬物治療もしていないのに,なぜ通院が必要なの?
POINT 13 通院間隔を短くしたほうがよいのはどんな時?
Part 4 通院を始めたら―管理ではここに注意!
POINT 14 水分摂取は大切!① ―囊胞を大きくさせないために
COLUMN 1 尿細管では何が起こっている?
COLUMN 2 尿濃縮のメカニズム
POINT 15 水分摂取は大切!② ―バソプレシンは腎臓には負担になる
POINT 16 水分はどれだけ摂ればよいの?
POINT 17 なぜ塩分制限が必要なの?
POINT 18 塩分制限だけでよい? 蛋白制限は?
COLUMN 1日蛋白質摂取量は随時尿から推定できる?
POINT 19 血圧がいくつになったら治療を開始するの?
POINT 20 ADPKDで蛋白尿?
POINT 21 太っていると進行しやすい?
COLUMN 1 ADPKDと糖尿病
COLUMN 2 ADPKDとSGLT2阻害薬
POINT 22 カフェインはよくないの?
COLUMN カフェインはどのくらいなら摂ってもよい?
POINT 23 お酒は飲んでもよい?
POINT 24 発熱・痛み・血尿が出たら
Part 5 合併症の管理―腎臓以外で気をつけるべき病態
POINT 25 脳動脈瘤のスクリーニングはいつ行う?
COLUMN MRI検査を受けるのが難しい場合
POINT 26 心臓超音波検査でのスクリーニングはなぜ必要?
POINT 27 肝囊胞はどうフォローする?
POINT 28 女性は肝囊胞のハイリスク!
Part 6 トルバプタン治療への道のり―薬の説明から導入まで
POINT 29 トルバプタンってどんな薬?
POINT 30 トルバプタンはどのくらい効果があるの?
POINT 31 トルバプタンはどんな患者さんに使えるの?
POINT 32 治療適応になった患者さんにどう伝える?
COLUMN トルバプタンを処方するために
POINT 33 治療を躊躇する患者さんにどう向きあう?
POINT 34 難病医療費助成はどんな手続きが必要なの?
POINT 35 入院前の患者さんに何を心掛けてもらう?
POINT 36 入院中にどんな助言(指導)をする?
Part 7 トルバプタン治療中の経過のみかた―治療開始後の管理
POINT 37 クレアチニンが上がった! 大丈夫なの?
POINT 38 腎臓が大きくなった! 薬は効いている?
POINT 39 水分は足りている?① ―浸透圧をみる
COLUMN 1 尿浸透圧はトルバプタンの効果を予測する指標にもなる①
COLUMN 2 尿浸透圧はトルバプタンの効果を予測する指標にもなる②
POINT 40 水分は足りている?② ―ナトリウムをみる
POINT 41 水分は足りている?③ ―尿素窒素をみる
POINT 42 薬は多いほうがよい?
COLUMN ADPKDとサイアザイド系利尿薬
Part 8 トルバプタン治療中の注意点―日常の注意事項と副作用
POINT 43 こんな時は休薬する!
COLUMN トルバプタンと他の薬剤との相互作用
POINT 44 グレープフルーツジュースは飲んではいけないの?
POINT 45 肝障害が起きたら治療は中止する?
POINT 46 肝障害が起きた後はどうなるの?
POINT 47 肝障害が起きた患者さんに再投与はできる?
Part 9 腎機能低下時の対応―ADPKDではここに注意!
POINT 48 腎機能が低下してきたら
POINT 49 腎性貧血の治療には注意が必要!
POINT 50 腎代替療法について,いつ,どう話す?
索引
おわりに
著者プロフィール
【尿細管を旅する“尿素くん”のつぶやき】
1 旅のはじまり―糸球体~近位尿細管
2 仲間の尿素くんたちとの出会い―ヘンレ下行脚
3 Naくんたちとの別れ―ヘンレ上行脚
4 ご主人さまと尿素くんたちの関係―遠位尿細管~集合管
5 尿素くんのやすみ時間―間質~直血管
6 尿細管を一周してきた尿素くん―直血管~ヘンレ下行脚
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序文
はじめに
多発性囊胞腎には,常染色体顕性(優性)多発性囊胞腎(ADPKD)と常染色体潜性(劣性)多発性囊胞腎(ARPKD)があります.多くの腎臓医が経験するのは,遺伝性腎疾患のなかで最も頻度が高く,成人で発症することが多いADPKDです.私自身,ARPKDの診療経験がほとんどないため,本書ではADPKDの診療に焦点を当てて執筆しました.ARPKDに関しては,『エビデンスに基づく多発性囊胞腎(PKD)診療ガイドライン2020』および『患者さんとご家族のための多発性囊胞腎(PKD)療養ガイド2019』を参照してください.
ADPKDは多くの腎疾患のなかでそれほど頻度の高い疾患ではありませんが,腎臓医であれば,少なからずADPKDの患者さんを診る機会はあると思います.
その際,患者さんへの対応に困ったことはないでしょうか.
ADPKDは進行性の遺伝性疾患で,合併症も多いため,個々の患者さんの病状を把握し,説明するにはそれなりの時間がかかります.しかし,忙しい診療のなかで,ガイドラインを読むなどしてADPKDについて調べる時間などあまりないことが推察されます.
そこで,本書では,「患者さんにどのように説明するか」「治療を含めた診療をどのように行うか」について,腎臓医の先生方の参考にしていただくことを目的としました.
しかし,ADPKDではまだ十分なエビデンスが構築されているとはいいがたいのが現状です.また,個人差が非常に大きいことも,あまり知られていない特徴の1つです.そのため,診療ガイドラインでは言及されていないような具体的な実践方法を提示することを心掛けました.
本書では,診療場面を9つのPartに分けて構成し,私が実際の診療で行っていることをもとに,患者さんの疑問や診療における問題点を50のPOINTにまとめました.なお,本書は,実際の診療に役立てていただくことを目的としており,追加の説明や基礎的な知見はCOLUMNに記載しました.また,「尿細管を旅する“尿素くん”のつぶやき」では,尿濃縮にかかわる尿素が尿細管内を移動する様子を描いています.楽しんで読んでいただければ嬉しいです.
本書が,ADPKD患者さんの主治医である先生方の診療の一助となれば幸いです.
2024年8月
望月俊雄