小児科診療
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2020年 Vol.83 No.6 2020-05-13
たかが便秘,されど便秘−小児の便秘を科学する

定価:3,080円(本体価格2,800円+税)
序 文 /永田 智
Ⅰ.そもそも便秘って何?(総論)
子どもの便秘は多いのか /清水俊明
意外に知られていない? メカニズム /中山佳子
原因はまったく様々 /髙木祐吾・他
なぜ治りにくいのか /友政 剛
子どもの頃の合併症とは-小児慢性便秘の腎・尿路系合併症と危急的合併症- /上野 滋
将来的な合併症とは /伊崎智子・他
見逃さないコツ(診断のコツ)とは /田尻 仁
Ⅱ.薬を使わない治療(非薬物治療)
慢性機能性便秘の治療のフローとは /奥田真珠美・他
生活・排便指導はどうするか /中野美和子
どのような食事がいいのか /位田 忍
プロバイオティクス治療は効くのか /安東亜希子・他
便塞除去の必要性と方法 /右田美里・他
手術が必要な便秘とは /世川 修
Ⅲ.薬を使った治療(薬物治療)
薬物治療のフローとは /十河 剛
治療薬の種類と特徴とは /伊藤夏希・他
腹痛の少ない便秘レスキュー /浦尾正彦・他
維持療法のコツとは /田中理貴・他
予防はできないのか /岡田和子
原 著
思春期におけるスポーツ貧血の検討 /渡辺 力・他
症例報告
自己免疫性脳症との鑑別が困難であった転換性障害の1例 /長尾江里菜・他
Sjögren症候群に合併した視神経脊髄炎関連疾患の1例 /西井悠美・他
永田 智 /東京女子医科大学小児科
医学の勉強をされていない方に,「大腸の働きは?」と聞くと,「水分を吸収するところ」という答えが返ってくることが多い.消化器内科の講義を受けていない医学生でも,そのような傾向がある.「便秘はなぜ生じるか?」と聞けば,「水分が不足している」という答えも多い.逆を返せば,「便秘の治療は,水分をよくとること」と医学の心得のない方は思っておられることが多い.もちろん誤っている.
しかし,ヒトの消化管における水分の出納を正しく理解している方は,医師でもそう多くはない印象がある.成人では,1日の食事中の水分量は約2 Lで,これに消化液が約7 L分泌されて胃腸管へは全部で9 Lほどの水分が流入するが,そのほとんどが小腸で吸収されて大腸へ入る水分量は約500 mL,それも大腸で吸収されて糞便中の水分は100 mLにも満たない,と説明すると,たいていの方は驚く.それでは,水分をちょっと多く飲んだくらいでは,このダイナミックな水分出納の中では,誤差の範囲内程度になってしまうのが現実であろう.
便秘は立派な「病気」であり,子どもの便秘が成人の様々な疾患の火種になっているということは,一般の人たちのみならず一般小児科医の間でも周知されておらず,今なお多くの「隠れ便秘」の子どもたちが未治療のまま苦しんでいるのが,残念ながら現状といえよう.便秘の多くは習慣性であり,そのはじまりは早くも小児期に端を発することが指摘されており,成人便秘に移行すると,大腸がんや精神疾患,循環器・脳血管障害などの続発を許し,社会的な損失につながることが知られている.
しかしながら,早期診断,早期治療により予後を改善できることも事実である.薬物治療においては,浸透圧性下剤から開始することが原則であるが,わが国では,これまで海外のガイドラインで第1選択とされているポリエチレングリコール製剤が使用できなかったという背景もある.したがって,わが国に便秘が根強くはびこっていた理由は,便秘に対する保護者,医療者の意識の薄さに加え,あまり有効な薬剤が存在しなかったせいもあろうと思う.また,今まで便秘の治療に汎用されてきた薬剤の多くが保険適用を有していないことにも驚かされる.
今回は,便秘の特集号を,一般(小児科)医に広く読んでもらいたいという思いを込めて「たかが便秘,されど便秘」という親しみやすいタイトルにした.ご執筆をお願いしたエキスパートの先生方には,これまでのご経験,お考えから,ぜひ一般医,研修医にもわかりやすい手ほどき書づくりにお手を貸していただけたらと考えた.本特集では,新しい治療選択も紹介し,便秘治療の暗く長いトンネルの突破口になることを願っている.
最後に,ご多忙の中,本書のご執筆を快諾いただいた執筆者の先生方に,心より敬意と謝意を申し上げます.