小児科診療
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2020年 Vol.83 No.10 2020-09-11
小児の学際的な睡眠医療 基礎から臨床をつなぐ

定価:3,080円(本体価格2,800円+税)
序 文 /福水道郎
Ⅰ.睡眠医学の基礎研究 小児睡眠医療に役立つ知見
発達期の睡眠調節制御機構 /小山純正
発達期におけるレム睡眠とノンレム睡眠 /船戸弘正
発達期の体内時計 /本間研一
睡眠覚醒リズム障害とクロノタイプの遺伝学 /平野有沙
小児期の記憶や学習と睡眠 /山田貴志・他
小児期の睡眠覚醒の制御と代謝機能 /笹岡利安・他
Ⅱ.最新の小児睡眠医療を行うために
小児睡眠医療のための医学教育 /立花直子
養育者とのコミュニケーション /吉崎亜里香
小児ムズムズ脚症候群と睡眠 /長尾ゆり
小児てんかんと睡眠 /木村一恵
ゲーム障害と睡眠~どうしたらゲームより睡眠を選ぶか~ /星野恭子
小児発達障害と睡眠 /牧之段 学・他
小児期の頭痛と睡眠 /杉山華子
小児期の過眠症 /本多 真
発達期の睡眠覚醒リズム異常 /神山 潤
小児期の睡眠呼吸障害 /井下綾子
乳幼児期の自律神経機能・覚醒反応とSIDS,BRUE /加藤稲子
小児の睡眠と漢方,サプリメント /和氣 玲
症例報告
ベンゾジアゼピン系薬を投与後に不明熱が改善した重症心身障害児の1例 /森下菖子・他
川崎病罹患後に感音難聴を発症した2歳男児例の報告 /河田奈々子・他
福水道郎 /昌仁醫修会 瀬川記念小児神経学クリニック
人間は生まれか育ちか,遺伝子か環境かではなく,受胎後,その両方が絶えず影響を及ぼしあいながら成長発達していくと考えられている.遺伝子は自らがうまく機能するように環境と作用しあうため,睡眠の発達も遺伝的因子だけで決まるのではなく,環境・経験などに加えて訓練・努力にも影響されると考えられ,睡眠の健全な発達には適切な環境からの働きかけを作ることも必要である.
「寝る子は育つ」ということわざのとおり,小児にとって睡眠は成長・発達・健康の基盤となる.これらの関係は卵が先か,鶏が先かという問題(chicken-and-egg issue)でもあり,本人を取り巻く環境下での適応状況により睡眠の問題が起き,睡眠の問題は合併症や日中の行動への影響を引き起こす.小児では長い間よい睡眠をとることができれば,健全な成長・発達を促す生活ができ健康寿命も延びる可能性があるが,睡眠不足や生活リズムの異常が子ども時代から続くと将来の健康寿命を損なう可能性が高い.
「寝る間を惜しんで」ということばもあるが,寝る間を惜しんではいけない.塾で夕夜間勉強し,夕食・入浴が遅くなり,その後オンラインゲーム,YouTube,SNSなど,日中節度をもって楽しむべきことを寝る前に行い,睡眠時間を削る,さらに部活の朝練などでも早朝に起床しなければならない.これらのことで半世紀ほど前の子どもたちと比べても適切な睡眠時間・睡眠覚醒リズムを脅かす要素は多くなっている.老化による生理現象などでもみられる頻繁な日中の居眠り以上に,睡眠覚醒リズムの脆弱性や睡眠不足,疲労などで昼夜逆転している不登校の子を外来で頻繁にみるようになっている.「健康でいたかったら医療に近づくな」という人たちもいるが,これらの問題がある子どもたちの窮状を現代の科学に立脚した医学・医療で救い,将来活躍する土台を作るお手伝いをすることは大変重要と考える.コロナ禍もあり,免疫能を向上させるために良好な睡眠をとることは今後ますます注目されると考えられ,十分な睡眠時間で良好な質の睡眠を適切な時間帯に確保することは毎日の健康や自己肯定感を培う楽しい活動を保つ秘訣である.
睡眠に関連する医学研究の知見は日々蓄積・更新されており,アップデートした学際的な知識をふまえなければ睡眠の破綻状態をしっかりした手順でよい状態に戻す最良の臨床睡眠医療を行うことは困難である.本号は,学際的な睡眠研究で発見・開発された知識を臨床睡眠医学に応用し,早い段階での最良の睡眠医療や臨床研究の実践につなげることを目的とする小児科医のための睡眠特集号である.本人の健康・成長・発達レベル,気質や親子の状況・相互作用,文化的因子,家族因子など様々な因子が睡眠の問題には反映されるので,これだけ読めば問題を解決できるわけではないが,全人的睡眠医療の一助となるハンドブックとなることを願ってやまない.