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頭痛クリニック5 ボツリヌス治療はいまや世界標準診断と治療社 | 書籍詳細:頭痛クリニック5 ボツリヌス治療はいまや世界標準

寺本神経内科クリニック院長・八重洲痛みの相談室

寺本 純(てらもと じゅん) 著

初版 B5判 並製 84頁 2013年04月30日発行

ISBN9784787820143

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定価:本体3,000円+税
  

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米英では慢性頭痛に対するボツリヌス治療はすでに標準的治療となっている.本書では,ボツリヌス治療の日本におけるパイオニアである著者が,その実践における患者選択から薬剤の入手,診療までを詳述.頭痛の種類に応じた薬剤の投与箇所をイラストでわかりやすく紹介するとともに,治療効果のばらつきが大きいボツリヌス治療を行う上での心構え,患者とのコミュニケーション術まで盛り込んだきわめて具体的なガイダンスである.

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目次

はじめに
著者紹介

総論 ボツリヌス治療
A ボツリヌス治療を考慮する前の心得
 1 頭痛治療の歴史
 2 薬剤の有効性を示す確たる証拠
 3 国際頭痛分類と診断基準がボツリヌスの評価を阻んでいた
 4 投与技術に明確な差が表れる
B 患者選択の要点
C 治療前に準備すること
 1 ボツリヌス製剤の種類 
 2 入手の方法と経路 
 3 薬剤の保管について 
 4 使用直前の準備
 5 免疫の問題点

各論 ボツリヌス治療の実際と課題
A 片頭痛
 1 治療を開始する前の知識
 2 予防治療の1つではあるのだが
 3 多様性の有効所見
 4 推定されるボツリヌス治療の効果の成因論 
 5 治療の目標を立てること
 6 経口薬と並行治療で
 7 治療の実際 
B 緊張型頭痛
 1 治療を開始する前の知識
 2 欧米での位置づけ 
 3 緊張型頭痛は1つの症状では? 
 4 報告からみた今までの成績
 5 筋症状のある例を絞り込むこと
 6 頸部ジストニアとの関係
 7 投与の実際
C 群発頭痛
 1 治療を開始する前の知識 
 2 群発頭痛の経年変化
 3 群発頭痛の治療
 4 ボツリヌス治療の歴史 
 5 治療の実際
D 頭部の各組織の異常に伴う二次性頭痛
 1 頭頸部ジストニーによる頭痛
 2 頭部外傷およびむち打ち損傷による頭痛
 3 頸原性頭痛
 4 血液パッチ後の頭痛・頸部痛 
 5 顎関節症,歯ぎしり・食いしばり 
E その他の頭痛
 1 新規発症持続性連日性頭痛 
 2 慢性発作性片側頭痛
 3 三叉神経痛 
 4 後頭神経痛
今後の展開をどうするか
 1 ボツリヌス治療は世界標準に
 2 日本では今後どうする? 
 3 日本での現状
 4 新たに治療法を習得するためには
 5 治療水準の維持には自由診療が必須

付録 読者の皆様へのお知らせ
 1 ボツリヌス製剤の購入について
 2 筆者の施設での見学
 3 難治性頭痛に対するボツリヌス治療の受付 
索引
和文索引
欧文索引

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序文

 はじめに 

 今回の「頭痛クリニック」シリーズでは,頭痛のボツリヌス治療をとりあげることにした.当初の予定とはいささか異なるが,これは2010年に米英で慢性片頭痛に対してボツリヌス治療が正式に承認されたことにより,欧米ではボツリヌス治療が爆発的に広まっていることを無視できないからである.
 昨年秋ごろだったが,ある人から英国のニュースチャンネル「スカイニュース」で頭痛に対するボツリヌス治療について取り上げられており,多くの人がその恩恵を受けているという内容が高らかに報道されている,との情報が入った.
 ちょうど筆者は昨年末から本年正月にかけて,オーストリア,ドイツ,ベルギーへ旅行する機会があった.現地の各国で,ホテル,レストラン,タクシーさらには一般の人,在住の日本人などと話す機会がたくさんあったので,随所でボツリヌス治療について尋ねてみた.まずほとんどの人がボトックスの名前を知っていた.しわ伸ばしに効用があることに女性が興味を示すのは世界共通なのだが,なんと驚くことに,ほとんどの人が頭痛にも効く薬だということまで知っているではないか.さらには緑十字の看板が出ている薬局の何軒かにも立ち寄り質問してみた.いずれも「私たちが処方はできないが……」という前提を言いながらも,トリプタンと並び片頭痛治療の代表的な薬剤であるという返答であった.
 ここまで一般に広がった情報は,医療法などの制限で情報を伝えることが困難な日本にも伝わってくることは間違いないだろう.
 こうした実情を踏まえて,「頭痛クリニック」シリーズの中で今回はボツリヌス治療を選択することになったのだが,ひるがえって国内の状況を考えると置いてきぼりを食らってしまったようである.しかしこのままではいけない.
 筆者が頭痛に対するボツリヌス治療に興味をもち始めたのは,1999年にバルセロナで開催された国際頭痛学会である.多くのボツリヌス治療に関する演題が報告され,また欧米ではすでにいくつかの論文が示されていたことによる.
 その背景には,1990年代初めにトリプタンが発売され,欧米ではすでに90年代後半には当時triptan induced headacheとよばれた頭痛が蔓延していた.その脱却法のうち最良と考えられたことから,またたくまに欧米先進国では情報が広がったのである.
 本能的にボツリヌス治療の重要性を知った筆者は,独自に2000年より準備を始め,すでに2003年には国内で初めて片頭痛と慢性群発頭痛の成績を報告し,一定の効果が得られることを確認していたので,以後日常臨床の中で12年にわたり継続してきた.
 頭痛のボツリヌス治療は実に興味深い.症例によって効果の現れる所見が異なる,効果の現れる時期が異なる,後になって効果があったことを知るなど,その効果の出方があまりにも多岐にわたっている.
 欧米でも公式に承認されるべく努力が払われた.しかしそういった臨床試験では,各種の評価に同一の基準が求められるところから予想以上に難航する結果となった.
 この間に実施された二重盲検試験で2007年に報告された欧米の結果は,デザイン上は否定的な成績であったことにより,日本国内では表層的な結果だけをみた評論が相次いだ.トリプタン偏重に陥っていた国内の学術団体は,その結果にある種の安堵感をもったとしか思われない状況で,ボツリヌス治療は歯牙にもかけないという雰囲気になった.
 2010年になって欧米ではやっと努力の結果が実り,統計学的有意差を出す段階にこぎ着けた.数カ月もしないうちに米英では,片頭痛に対してボツリヌス治療が正式に承認される結果となった.そして,それを待っていたかのように爆発的に普及していったのである.
 一方,日本国内の学術団体関係者には大きな戸惑いを与えたようである.海外では脈々と,着実に有効性の証明のための研究が進んでいたことを知らなかったことにもよるだろう.
 筆者も米英の承認によって,広く一般の人たちにボツリヌス治療の有効性が広まってきたことを嬉しく思っている.本能的に本薬は確実に有用な薬剤であることを感じて以来,黙々と継続しているのだが,日に日に少しずつ深い興味にはまり込む思いを感じている.とくにその中でも頭痛に関する治療は特別といえよう.
 片頭痛に対して治療を開始した当時,一定の成績を示すことはできたが,以後しばらく成績が向上しなかった.いつも「果たして効いてくれたかな?」との思いを抱いていたことを明確に覚えている.4年目くらいから,診断にそして治療にわずかながら工夫を加えはじめた.8年ほど経過したとき,「今回はどんな点に効いているのかな?」と自らが考えていることにふと気づいた.知らぬうちに効果が得られることを前提として思考するようになっていたのである.
 12年経過した現在でも,頭痛へのボツリヌス治療を実施するたびに,新たな感動,驚き,落胆を覚え,新たな知見を積み上げることができ,結果的には楽しくて仕方がない.そんなこともあってますますのめり込むのである.
 トリプタンのように投与して数時間後には結果が出るというような薬剤ではない.上記のように,著しい個人差がみられる非常に癖の強い薬剤なのである.これはある意味で「荒馬を乗りこなす」ような魅力と迫力を感じさせることでもある.
 頭痛診療にもCharcotのような神経学的観察が重要であることは既刊のシリーズで述べたことがあるが,まさしく頭痛のボツリヌス治療では,単に実施前・後だけでなく,もっと長期的な意味での詳細な観察が必要であることを改めて実感させてくれる.
 今後の頭痛診療の進展がどうなるかは分からないが,自由診療が中心の米国,午後は自由診療を実施できる英国ではすでに10年以上前から実施されており,今となっては一定の歴史を積み重ねた治療法であるといえるだろう.正式承認以来,さらに広範に普及していく様子をみていると,現存する頭痛治療法の中ではエポックメイキングな治療法であることは間違いない.
 ひるがえって国内で考えてみると,欧米とはさまざまな相違点があり,日本なりの工夫が必要である.それとともに,欧米でもそうであるようにボツリヌス治療を使いこなせる技術力が必要であり,それには着実な研鑽が必要であることを冷静に考えておかなければならないだろう.
 日本でも片頭痛へのブリッジングで臨床試験を実施しようとする動きがあるようだが,筆者はズバリ失敗するとみている.それどころか症例の確保も危うく,そもそもキックオフすらできない可能性もあるとみている.ざっと数えても5?6項目の高い壁が立ちはだかっているからである.
 まずは他の疾患を含めてボツリヌス治療をじっくりと経験してから積み上げていないことが重大な根拠の1つである.それは,筆者は多くの症状・疾患に対してボツリヌス治療を経験してきたが,その中でも頭痛に対する治療が,有効性を引き出すという点では最難関であることを常に感じているからである.
 いずれにせよ,頭痛に対するボツリヌス治療は輝かしい魅力を呈する反面,生かしきれないこともある魔性のある薬剤であるといえるだろう.
 ここに一流の音が出る尺八が存在するとしよう.それを手にとって,最初から立派な音を奏でることができるわけがないことは誰にでも分かることである.ガイドラインや指南書を読めば対応できるものではない.ボツリヌス治療もそのように考えるべきである.
 本書だけで,それらの観点を心おきなく習得できるまでには至らない.まずは実際に壁に突き当たりながら,実践でボツリヌス治療を経験して積み上げていく以外に方法はない.ガイドラインで対応していた従来型の頭痛治療とは全く異なる研鑽が必要なのである.机上の頭痛学は全く通用しないことをまずは心得ておきたい.
 逆にいえば,まず実際に実施してみるという姿勢で始めるならば,何年かの経験とともに何かみえてくるものがあるはずだ.本書が新たに頭痛のボツリヌス治療を開始する医師にとって,技量を獲得するための誘い水になるならば幸甚である.

2013年4月
寺本神経内科クリニック院長
八重洲痛みの診療室
寺本 純 識