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書籍詳細

初・中級者のための 読み解く
疫学スタンダード診断と治療社 | 書籍詳細:疫学スタンダード

奈良県立医科大学 副学長

車谷 典男(くるまたに のりお) 著

初版 B5判 並製 2色刷 280頁 2019年10月01日発行

ISBN9784787823502

定価:本体4,800円+税
  

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本書は,疫学について幅広く,かつこの次に読むのは各領域に特化した疫学の専門書というレベルを目指した教科書です.学部の初学者から大学院生,疫学の理解を必要とする研究者や保健行政職,疫学の専門的知識に興味をもったりその獲得を目指す方々までを対象としたもので,疫学,衛生学,公衆衛生学,予防医学のみならず,看護学,保健学,栄養学,薬学,生物統計学など,疫学が少しでも含まれる分野で活用されることを願っています.

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目次

はじめに

第1部 疫学の定義

序 章 疫学でわかること
 epidemiologyと疫学の語源 / 疫学でわかること,その1
 疫学でわかること,その2 / 疫学でわかること,その3
 疫学の独自性 / 疫学と統計学

第1章 疫学の定義
 感染症の発症モデル / 非感染症の発症モデル / 多要因ということ
 危険因子と防御因子 / 遠位原因と近位原因 / 疫学の定義 
 介入可能性


第2部 イベントの把握

第2章 対象集団の設定
 問題意識 / 全数調査の実例 / 全数調査の問題点 / 標本調査
 誰が研究対象者となりうるか / 母集団と標本集団の関係 
 いくつかの標本抽出法 / 標本数の決定の実際 / 脱落者

第3章 イベント(事象)の把握
 人口動態統計 / 出生イベントと死産イベント
 死亡イベントと死因情報 / 原死因と直接死因
 臨床診断と病理診断の不一致 / 死因分類 / 罹患イベントの把握
 イベント把握の工夫

第4章 質問紙(アンケート)調査
 質問紙の調査項目 / 調査票の構成 / 質問文の作成
 郵送調査(postal survey) / インタビュー調査(interview survey)
 質問紙を用いた各種調査法の比較 / QOL尺度調査票の開発過程

第5章 スクリーニング
 疫学とスクリーニング / 感度と特異度 / ROC曲線
 陽性反応的中割合 / 陽性尤度比と陰性尤度比
 スクリーニング検査のバイアス

第6章 率・割合の調整
 仮想モデル / 直接法による調整
 わが国の死亡率の経年推移 / 基準集団の選択
 間接法による調整 / SMR(標準化死亡比)
 直接法か間接法か / 調整の前提条件 / 交絡因子の調整


第3部 疫学総論

第7章 疫学研究総論
 アウトカムと仮説因子 / 疫学の研究デザイン概観
 エビデンスの階層性 / 閉鎖集団と動的集団
 バイアス(bias) / 交絡の制御方法 / 従属と独立 / 因果関係の判断規準

第8章 疫学指標(1)
 有病割合(prevalence) / 発生割合(incidence proportion)
 罹患率と死亡率(incidence rate of morbidity and mortality)
 3つの疫学指標の使い分け / 3つの疫学指標の関係


第4部 疫学の研究デザイン

第9章 記述的疫学研究
 記述研究 / 症例報告 / 症例シリーズ研究

第10章 生態学的研究と横断研究
 生態学的研究 / 横断研究 / 生態学的研究と横断研究の比較
 仮説因子の着想

第11章 コホート研究
 コホート研究の研究デザイン / 2つのコホート研究事例
 コホートの確立 / 追跡 / 関連の強さの指標
 結果の解釈 / コホート研究の強みと弱み

第12章 症例対照研究
 症例対照研究の研究デザイン / 関連の強さの指標 / 症例の抽出
 対照の抽出 / コホート研究を活用した症例対照研究
 症例対照研究のオッズ比の意味合い / マッチング
 症例対照研究のバイアス / 症例クロスオーバー研究
 症例対照研究とコホート研究

第13章 疫学指標(2)
 オッズ比の追加説明 / ハザード比
 寄与危険(割合)と人口寄与危険(割合)
 コホート研究の場合 / 症例対照研究の場合

第14章 実験的疫学研究
 研究デザイン / RCTの基本構造 / マスキング(masking)
 ITT(治療意図)分析 / 臨床試験 / フィールド試験
 クラスター無作為化試験(CRT) / 地域試験 / 実験的疫学研究に関する補足説明

第15章 システマティックレビュー
 定義 / 基本的手順 / メタアナリシス(meta-analysis)
 量的システマティックレビューの事例 / 質的システマティックレビュー
 EBMと診療ガイドライン


第5部 疫学のための統計解析

第16章 統計解析の基礎知識
 いくつかの統計学用語 / カテゴリカルデータの検定
 t 検定 / ノンパラメトリック検定 / Mann-Whitneyの U検定
 対応のある検定 / 一元配置分散分析 / 多重比較 / 相関と回帰
 生存率曲線

第17章 疫学研究のための多変量解析
 単変量解析と多変量解析 / 3つの多変量統計モデル / 重回帰分析
 多重ロジスティック回帰分析 / Coxの比例ハザード回帰分析
 その他の多変量解析


参考資料

 いくつかの標本数の求め方 / 疫学指標の95%信頼区間(CI:confidence interval)の求め方
 疫学研究等の報告に関する推奨項目と質評価のための主な声明(ABC順)


文 献
あとがき
著者紹介

和文索引
欧文-数字索引


事 例

1 母親の葉酸摂取と出生児の自閉症発症リスク
2 症例報告:Pulmonary embolism
3 症例報告:Guillain-Barre syndrome associated with Campylobacter infection
4 指趾の特異的落屑を伴う小児の急性熱性皮膚粘膜淋巴腺症候群(自験例50例の臨床的観察
5 サリドマイドと先天異常
6 オフセット印刷工の胆管がん
7 フラミンガム研究
8 新潟県中条町砒素汚染コホート
9 身体活動量と一次性心停止死亡リスク
10 事例にみる症例と対照の供給源
11 事例にみる症例と対照の供給源:コーヒー摂取と膵臓がんに関する症例対照研究
12 事例にみる症例と対照の供給源
13 事例にみる症例と対照の供給源
14 安定狭心症に対する経皮的冠動脈インターベンション:二重盲検無作為化比較試験
15 アスピリンとβカロテンの一次予防効果
16 結核発見のための世帯内接触者検診の有効性
17 上水道への意図的フッ素添加による齲蝕予防
18 わが国の受動喫煙と肺がんに関する量的SR
19 臓器移植についての遺族の考えに関する質的SR
20 メラトニン分泌量と日中の光曝露量との関連
21 エタノール摂取量別の低骨密度保有オッズ比
22 2型糖尿病患者の心血管疾患イベントに対する低用量アスピリンの一次予防効果


わが国の疫学研究から

1 高木兼寛と脚気
2 わが国初の職業がん報告
3 広島・長崎原爆被爆者コホート
4 Hisayama Study:半世紀を超えた久山町研究
5 四日市喘息は大気中SO2濃度と関連
6 Hirayama study:受動喫煙は肺がんの危険因子
7 SMONはキノホルムによる薬害
8 銅製錬工の肺がんは砒素曝露が原因
9 Shibata Stroke study:脳卒中登録制度の確立と活用
10 Ohasama study:家庭測定血圧の基準値を提案したコホート研究?
11 JACC study:がんと生活習慣のコホート研究
12 JPHC study:保健所を基盤とした多目的コホート研究
13 NIPPON DATA:循環器疾患基礎調査対象者の大規模コホート研究
14 JPOS study:アウトカムは骨粗鬆症と骨折
15 JAGES:高齢者の健康の社会的決定要因を探る
16 劇症1型糖尿病の疫学像
17 HEIJO-kyo study:ユビキタスな仮説因子に注目
18 JECS:子どもの健康に与える環境因子の解明を目指す


column

1 統計法
2 臨床研究法と特定臨床研究
3 疫学研究のための質問紙
4 正確性と信頼性
5 人を対象とする医学系研究に関する倫理指針
6 クロスオーバー臨床試験
7 Rothmanのニワトリと卵
8 case fatality rate
9 Kappa統計量(カッパ統計量)
10 Research Questionの検証
11 プロペンシティスコア

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序文

はじめに

本書は,疫学について幅広く,かつこの次に読破するのはそれぞれの領域に特化した疫学の専門書というレベルを目指した教科書です.学部の初学者から,大学院生,疫学の理解を必要としている研究者や保健行政職,疫学の専門的知識に興味をもったりその獲得を目指している人たちまでを対象にしたもので,疫学,衛生学,公衆衛生学,予防医学のみならず看護学,保健学,栄養学,薬学,生物統計学,そしておよそ疫学が少しでも含まれている分野で活用されることを願っています.
疫学は,健康事象を観察・分析しその成果を社会に生かす実践科学で,筆者は教育と研究の場で長くそれに携わってきましたが,実に明快で論理的かつ奥行きのある興味と面白さが尽きない学問です.
本書ではそのような疫学を実感しながら学べるよう,歴史的な疫学研究事例を多く織り込むとともに,暗算可能な簡単な計算例だけではなく,文献から直接引用した生データに基づく疫学指標の計算過程も紙面の許すかぎり紹介しました.1頁に1つの割合の図を追いかけながら本文を読み進めば,疫学を楽しく修得できると確信しています.図は本書のために作成したものばかりですが,巻末に列挙した図書や文献の一覧を頼りに原文を読むこともお薦めします.
5部構成で,序章から第17章までの計18章を一つのストーリーとして組み立てていますが,いずれの章から読み始めても困難は感じないと思っています.索引を有効活用していただければより容易でしょう.
実は疫学用語の使い方にはごく一部ですが混乱があります.疫学論文を書いている人たちさえ定義を厳密に意識していないためです.たとえば「喫煙率」は正しくは「喫煙割合」というべきですし,「オッズ比」と「発生割合比」などの使い方も峻別されねばなりません.本書で紹介する用語と定義は,A Dictionary of Epidemiology(sponsored by IEA:国際疫学会)とその日本語訳である疫学辞典(日本疫学会編)にほぼ忠実に従っています.
各章の最初の頁には,筆者が選んだわが国の疫学研究を紹介しています.その章と関連させたものではなく,独立した,章をまたぐ連載と思ってください.
本書が疫学の興味を深める一冊となれば望外の喜びです.

2019年9月吉日
 車谷典男
 奈良県立医科大学


あとがき

私が疫学に興味をもったのは,いまも書斎の本棚に大切に並べてあるが,出版(1977年6月)されたばかりの重松逸造著『疫学とはなにか―原因究明の科学』(講談社ブルーバックス)をたまたま書店で見つけ手に取ってからである.大学を卒業して1年経った頃で,公衆衛生学を大学院の主科目として選んだものの,「さてどうしようか」と考え始めていた時期であった.その翌年,もう一冊の本と出会う.専門書である.重松逸造編著『疫学―臨床家のための方法論』(講談社サイエンティフィク)で,これが私にとっては決定打となった.その本も本棚の中央に座っている.
その後,疫学を冠したタイトルの本が出版されるたびに買い求めては読んでいたが,何といっても留学中のUTSPH(略歴参照)のfaculty memberに紹介してもらったEpidemiologyのtextbookはどれも大変刺激的であった.「そんなスタンダードテキストブックも知らなかったのか」というほどの無学さを曝した結果で恥じ入るばかりであったが,日本語の教科書と違って事例に基づいた解説で,結局のところ疫学の初学者であったことを自覚させられた私にとっては驚きのわかりやすさであった.わが国の「皆で分担」とは異なり,単著あるいは少人数の執筆で統一と整合がとれていることも寄与していたのであろう.
医学生を相手に他の医学領域にない衛生学・公衆衛生学の独自性は疫学にあると講義で熱心に教えようとし,産業疫学と地域保健を専門分野と自らを励ますようにあちこちに書くようになり始めてからは,いずれ疫学の教科書をという気持ちが強くなっていった.とはいえ,留学中に出会った畏友である中村好一先生が著した『基礎から学ぶ楽しい疫学』(医学書院)の存在は手ごわく,何度も書き始めては中途半端に推敲を繰り返しているうちにずるずると日ばかりがたち定年近くなって諦めかけたときに,冒頭の書の著者紹介を確認して決意を新たにすることになった.その『疫学とはなにか』は重松先生が66歳のときの発刊であった.そして運の良いことに,この頃,日本医師会生涯教育シリーズ93『環境による健康リスク』の監修で診断と治療社の相浦健一氏を知るところとなった.それからでも2年余り,構想の具体化から数えると優に数年は経過して,そして本日ようやく脱稿に至った.ただ,ゲラ刷り,著者校正とまだそこそこの工程はいまからである.執筆にあたって最も苦労したのは実は序章であった.なかなか書き始められなかった.どのように開始すれば読者に親和性が良いかが思い浮かばなかったことによる.それを乗り越えると,章立て項目立てはそれほど苦しまなかった.曲がりなりにも蓄積があったおかげと思っているが,本書の執筆のためにあらためて読み直したり新たに収集した文献では再発見と新発見が数多くあった.
図のほとんどは私のオリジナルである.「図を眺めながら本文を読み,理解を進める」というコンセプトに基づいて何度も作成し直した.今後機会があれば「研究不正」と「研究倫理」の章を足してみたいと思う.研究者レベルでは遵守事項となっているが,ごく近未来には大学の講義レベルでも重要項目となっていよう.
疫学の面白さに魅せられ,それを教育と研究に生かし,さらには教科書にしてみたいと思うまでに至ったのは,良き指導者と共同研究者,そして同僚,後継者に恵まれた幸運の成せる業というほかはない.森山忠重先生,小川定男先生,山添史郎先生,伊木雅之先生,久繁哲徳先生,甲田茂樹先生,天明佳臣先生,津田敏秀先生,酒井一博先生,田中平三先生,熊谷信二先生,中村好一先生,佐伯圭吾先生,大林賢史先生,木田勝康先生,冨岡公子先生,岡本 希先生,藤原京スタディグループ,國分清和先生,片岡明彦氏,飯田 浩氏のお名前を順不同に列挙させていただくことで,心からの感謝を表したい.また手書きの推敲原稿と図を何度も繰り返し入力してくださった吉崎和美さんと森下道子さん,そして出版の機会を与えていただいた診断と治療社の方々にも厚く御礼を申し上げたい.相浦さんは校正原稿に読者の立場から貴重なコメントもくださった.
誤りなきよう慎重に書き進めたつもりではあるが,自らの浅学ぶりを懸念している.ご指摘ご叱責いただければと思う.

2018年10月12日
 車谷典男
 奈良県立医科大学