子ども虐待を発見・支援・予防する,医療・教育・行政の各専門家へ向けた実用書.今回新たに「妊娠・出産期からはじめる子育て支援」の章を追加.巻末のQ&Aも大幅加筆した.
関連書籍
ページの先頭へ戻る
目次
推薦のことば 岩城正光
かかわりを続けることの大切さ~改訂にあたって 山崎嘉久
ふだんのかかわりから始めよう~序にかえて 山崎嘉久
第1章 子ども虐待の現状と課題 前田 清
A 子ども虐待の現状
B 子ども虐待対応の今後の課題
第2章 子ども虐待の定義と分類 山崎嘉久
A 法律による定義
Column 現場の混乱の理由
B 社会の対応の発達段階と個人レベルでの認識
第3章 ふだんのかかわりから取り組む虐待対応~日常業務の視点から~ 山崎嘉久
A 予防活動から支援を組み立てる
B 虐待予防を含めた市町村の新たな子育て支援策
第4章 気になる子と家族への支援~具体的な取り組み~
■私たちにできること 山崎嘉久
A 取り組む側の姿勢を考えてみよう
B できることを理解しよう
■医師としてできること 山崎嘉久・小山典久
Case1 外来看護師のちょっとした観察から
■看護スタッフとしてできること 浅野みどり
A 周産期やNICUの看護場面で
■教員としてできること~学級担任の立場で~ 兼田智彦
A 先生は子どもの味方に
B 「虐待を受けている子ども」は扱いにくい子のなかにいる
■教員としてできること~養護教諭の立場で~ 野村美智子
A 養育し保護するとは
B 具体的な取り組み
Case2 学校組織を改善する
■教員としてできること~学校現場における障害児と虐待~ 兼田智彦
A 子殺し自殺(無理心中)
B 難しい障害児の子育て
C 障害児虐待のリスクを回避させるために
Case3 無理心中を考えた母親の体験談
■保育士・幼稚園教諭としてできること 白石淑江
A 地域の子育て支援の充実を
B 身近な子育て相談のなかで
C 子育て相談の実際
Column スウェーデンの子育て支援センターの例
■保健師としてできること 塩之谷真弓
A まず自分のかかわり方をふりかえる
B 具体的な支援
■市町村ネットワーク関係者(担当窓口)としてできること 桂 浩子・山崎嘉久
A 法律に基づく市町村の児童相談体制
B 市町村ネットワーク担当窓口とは
第5章 妊娠・出産期からはじめる子育て支援
■妊娠・出産期からはじめる子育て支援とは 山崎嘉久
A 母子健康手帳交付からはじまる子育て支援 塩之谷真弓
B 病院と地域の連携ではじめる子育て支援 山崎嘉久
C 乳児期早期の家庭訪問のポイント 白石淑江
第6章 虐待の早期発見のために
■早期発見の大切さ 山崎嘉久
A 早期にかかわってつなげる
B いかに発見するか
■アセスメントツールと活用方法 前田 清
A アセスメントツール
B 活用法
■医師の現場で 山崎嘉久・小山典久
A 子どもを「診る」
Column 不自然さや虐待に気づいた時の医師の態度
B 発見のポイント
Case4 お姉ちゃんが離乳食を食べちゃう?
Case5 お腹が痛い
Case6 妊婦健診未受診が示すこと
■あらゆる看護の現場で 浅野みどり
A 看護スタッフが虐待に気づくポイント
Case7 障害児へのネグレクト
B 入院中の看護場面で
Case8 親をかばう(医療ネグレクト;不適切な治療の中断)
■教員の現場で 兼田智彦
A 子どもの様子がおかしいと感じたら
B 援助のポイント
Case9 家庭訪問から見えたこと
■学校現場のケースに学ぶ 野村美智子
A 保健室から 108
Case10 家庭からも学校からもネグレクト
B 学校内の体制づくり
Case11 性的虐待
C 役割を分担する
Case12 放任と厳格のあいだで
D 学び合う場を作る(現職教育・学校保健安全委員会・PTA活動・総合的な学習)
Case13 家庭からはネグレクト,学校では先生の不適切なかかわり
■保育士・幼稚園教諭の現場で 白石淑江
A 日々の観察から
B ケースから
Case14 もしかしたら虐待?
■保健師の現場で 塩之谷真弓
A 予防的な働きかけを
B ハイリスク家庭への支援から
■市町村ネットワーク関係者(担当窓口)の現場で 桂 浩子・山崎嘉久
Case15 近所の通告から
第7章 通告と介入 大河内千里
A なぜ社会的な介入が必要か
B 児童相談所の役割
C 親・子への具体的な支援
Case16 しつけのしにくい子
Column 学習障害とAD/HDと広汎性発達障害
Case17 母のこころ子知らず?
Case18 顔のあざ
D 児童福祉施設・里親制度について
E 専門家・地域との連携
第8章 ネットワーク活動とケース・マネージメント
■ケース・マネージメントで支援をつなげる 山崎嘉久
A 子ども虐待のケース・マネージメントの特色
B ネットワーク活動のなかでのケース・マネージメント
■市町村ネットワーク活動の実践
A ネットワーク活動の必要性と構築 前田 清
Column ジェノグラム(家系図)
B 要保護児童対策地域協議会 桂 浩子・山崎嘉久
C ネットワークによる支援の実際 桂 浩子・山崎嘉久
Column ケース検討会議の進行ルール
D ネグレクトに対する在宅支援 桂 浩子・山崎嘉久
■ネットワーク支援にみる関係機関の役割 桂~ 浩子・山崎嘉久
◆施設入所を拒否する父子家庭に対する支援
■医師・看護師の役割
A 医療機関の組織として 山崎嘉久
B 医師・看護師の役割 浅野みどり
Case19 出生前(妊娠期)からはじまる虐待予防
■教員の役割 兼田智彦
Case20 気になる転校生
■保育士・幼稚園教諭の役割 白石淑江
A 初期対応における保育者の役割
B 在宅支援における保育者の役割
Case21 ネグレクトされているA子
■保健師の役割 塩之谷真弓
Case22 ボランティアを導入する
Case23 母親を支援する
Column 過去の虐待による子どもへの影響
■養護施設等からネットワークへ(親子分離ケースの再統合) 菱田 理
A 虐待を受けた子どもの養護とは
B 親子分離ケースでのケース・マネージメント
Column 家族のかたち
Case24 ネグレクトで保護された兄弟
第9章 支援のゴールとは 山崎嘉久
A 子ども虐待への取り組みの評価
Column システム検討委員会の報告
B 子ども虐待のゴールとは
子ども虐待Q&A─なんだ,そうだったのか!
索 引
脚注キーワード・文献について
・本書では,専門用語の説明,内容についての補足を,*印脚注キーワードとして掲載しました. 一部次ページにまたがって掲載している場合もありますのでご注意下さい.
・引用文献は,章ごとに1)~の肩つき番号を,脚注コラムに対応する文献名を掲載しました.
・参考文献は,各担当著者の担当ページごとに都度まとめて脚注コラムに文献名を掲載しました.
ページの先頭へ戻る
序文
かかわりを続けることの大切さ──改訂にあたって
初版を発刊してから5年余りがたちました.ふだんのかかわりから始める子ども虐待への対応という本書のメッセージには,たくさんのご支持をいただき,このたび改訂版を刊行することとなりました.
初版を出した時は,ちょうど平成17年の法律の改正によって要保護児童対策地域協議会の設置が各地で広まるタイミングでした.それまでは,ほとんど児童相談所だけで担ってきた子ども虐待への対応が,より身近な市町村でも行われることになったわけです.法律や制度が変わったからといって,現場の担当者がすぐに取り組めるわけではありません.対応には,地域の関係機関の連携が欠かせませんが,分野の異なる専門職種間の協働作業には見えない壁があるのも事実です.そうした課題をかかえた人々にとって,現場の活動に視点を置いた本書はわかりやすい情報源として利用されてきたようです.
この5年のあいだには,児童相談所の機能や権限の強化,死亡事例の検証に基づいた対策への提言,オレンジリボン運動などのNPO活動,こんにちは赤ちゃん訪問事業など予防活動ほか,様々な施策や取り組みが始まっています.児童精神医学や心理分野からのアプローチもかなり進んできました.
しかし,残念ながら子ども虐待の問題は解決の方向に向かっているとはいえません.今もなお,子ども虐待で命を落とす子どもたちがいます.児童相談所から毎年度報告される相談対応件数は,自治体によって増減はあるものの,全国集計ではなお増え続けています.活動報告として集計されるこの数値には,様々なバイアスが入り込む可能性はありますが,子ども虐待は増加しているというのが,現場の実感とも一致した事実ではないでしょうか.
子ども虐待は,子どもと家族の毎日の暮らしのなかで起こります.その暮らしは子どもが自立するまで毎日続くものです.さらに,子どもの成長とともに関係機関は変わります.私たちのかかわりもまた「始める」だけではなく,「続ける」ことが大切です.突然の転居により関係機関からの支援が途絶えた後に重大な結果にいたったケースも少なくありません.転出元の自治体の「やれやれ」感と転入先の関係者の不信感,転居によるかかわりの途絶にどのように対処するのか,まだまだ解決すべき課題が山積みしています.
改訂にあたっては統計データや法律の改正などは最新のものとし,地域での新しい事業など盛り込みました.また,この数年予防活動が活発になりつつあることを踏まえ,「第5章 妊娠・出産期からはじめる子育て支援」を新しく加えました.予防活動とは,息の長い取り組みです.すぐに成果を示すことはできませんが,こうした活動が近い将来に実を結び,虐待対応件数が真に減少することを願っています.
共同執筆者の児童虐待防止協会副理事長 桂 浩子氏が,平成21年3月にご逝去されました.きっと今も“千の風になって”わが国の子どもと家族の未来を見守っていてくださることと信じてやみません.
2011年6月
東日本大震災からの復興を願いつつ
あいち小児保健医療総合センター
山崎嘉久
ふだんのかかわりから始めよう──序にかえて
本書は,子ども虐待への現場でのかかわり方を示すものです.これまでいろいろなマニュアルが行政機関や関係団体から出版されていますが,ここでは,“ふだんのかかわり”という全く違った視点から子ども虐待にアプローチしようとしています.子ども虐待を扱う特別な専門家だけではなく,日常業務や活動のなかで普通に親子にかかわる,あなたと私たちのためのものです.
昨今の法律の改正などにより,虐待防止に向けたわが国の取り組みは少しずつ前進しています.しかし,子ども自身に焦点を当て,子ども本位の幸福と最善の利益を追求する視点については,いまだコンセンサスがはかられていません.今回,身近な市町村が通告の窓口となり,通告システムが機能し始めている反面,発生予防(育児支援体制)や,虐待された子どものケア,家族の再統合などについてはまだこれからの課題といえます.
このような背景や課題を踏まえて,本書ではいくつかの新しい視点を盛り込みました.
◆誰にとってもすぐにわかる内容
ふだんの日常業務に追われる私たちでも,子ども虐待の現状がすぐにわかり,私たち親子にかかわる者すべてが認識しなければならない基本的な知識と問題点が,すぐに理解できる内容になっています.実際に現場で活動し,積極的な勉強,発言をしていらっしゃる方はもちろんのこと,子ども虐待という社会的問題に対して,いまだピンとこない方にとっても,すぐ理解できる内容です.
◆予防活動からスタートするという視点
子ども虐待の取り組みは,早期発見から始まるとされていますが,ふだんのかかわりから始める私たちの取り組みは,予防活動をスタートラインとしています.私たちのふだんのかかわりは,地域の仲間として,子どもを社会全体で見守っていくことです.私たちの日常業務や活動が子ども虐待の予防活動につながります.起きてしまってからの早期発見も,保護された後の継続的なかかわりも,すべてふだんのかかわりから始まっているという視点です.起きてしまった後の,程度の深刻な虐待対応ばかりでなく,むしろ,予防的な観点から,日常よく遭遇する場面,私たちが迷いやすいもの,引き続きフォローが必要とされる内容を中心としました.
◆ゴールを明らかにするという視点
ふだんのかかわりは日常の出来事であり,終わりがありません.しかし取り組みという枠組みには明確な目的やゴールが必要です.子ども虐待への対応や支援のゴールとは何か,またこうした活動の評価はいかにあるべきかについて解説を加えました.
◆親子にかかわる多くの人が手に取りやすい内容
子どもにかかわる仕事,活動,営みは実に様々です.専門家といわれるだけでも,保健,医療,教育,保育,福祉や司法などの領域のそれぞれに細かな職種があります.また,養育里親,主任児童委員,民生委員,母子保健推進員,さらにはPTA役員,子ども会役員,社会福祉協議会に登録したボランティアなども取り組みには必要です.さらに,子ども虐待防止を目的としてNPOや民間団体が,力強い活動を始めています.子育て支援や親子の居場所作りを目指した団体や,子育て中の母親が集まって仲間作りを目指すグループなども,活発に活動しています.その方々すべてが,子ども虐待の取り組みにはなくてはならないプレイヤーです.
このため本書では,あえて多くの方々を読者として想定しました.各章内の見出しとして,小児医療,母子保健,児童福祉,保育,教育などのそれぞれの職種の取り組みのポイントを示す形を取っていますが,その内容は,それぞれの職種の方々はもちろん,むしろその専門領域以外の方々に理解していただくことを目的としています.
◆キーワード解説と子ども虐待Q&A「なんだ,そうだったのか!」
連携とは,事務的に次につなげることではなく,全体の取り組みのなかで,自分ができる役割を果たすことです.周りの人ができる役割を知ってこそ,自分ができる役割を把握することができます.このため,各分野でよく使われる専門用語などについては,その場で理解ができるよう細かなキーワード脚注をつけました.
また,今さら周りの人に聞きづらい疑問も起こります.単なる情報の紹介だけではなく,発見・ケア・防止活動のなかで,よく起こる誤解,ちょっとした疑問,他職種に聞きにくいことなどをわかりやすく解説してみました.言われてみれば「なんだ,そうだったのか!」と納得いただけるはずです.
◆焦点のぼやけない「ケース紹介」
子ども虐待のケースは見る立場,かかわる人の職種によって様々な見方ができます.また,家族内の連鎖などが生じる場合,ケース紹介はとても長い「物語」となります.その中から,問題視されるべき課題と反省点,また日ごろの私たちのかかわりとして良かった点など,改めて焦点を絞ったものを本書では「ケース紹介」としました.なお,本書で掲載してある「ケース」は,私たちがかかわってきた数多くのケースの要素を寄木細工のように継ぎ足した「誰かさん」です.ケースとして実在こそしませんが,その要素は現実の出来事ですので,十分なリアリティがあります.
本書は,「司法的なかかわり」と「こころの治療」の領域にはあえて踏み込んでいません.このふたつの領域は最も専門性の高い特別な分野であり,私たちにとっても,主人公である親子にとっても,むしろ「非日常」の出来事だからです.専門性の高さはその対象の狭さともいえます.そして時折,その狭い─広いというベクトルを,高級─低級の軸に読みかえてしまいがちです.しかし,子ども虐待は,日々の暮らしのなかでの出来事であり,親子にかかわる日常こそが子ども虐待への対応の現場です.だからといって私たちの取り組みが,軽いものであるとか,レベルが低いという意味ではありません.専門性の高いケアや治療は有効なものですが,それは治療につなげる人々の協力があってこそ成り立つものなのです.
最後に,本書は現場における「ソコソコさん」を目指しています.現場で働く私たちにとって,知識が不十分で,忙しくて勉強しているヒマなどないのは当たり前です.たっぷり勉強するゆとりのある人には,支援しているヒマなどないかもしれません.現場での問題には,ごく少数の超専門家も必要ですが,親子のそばにいてソコソコの知識とソコソコのお手伝いができる数多くの「ソコソコさん」が必要なのです.
あなたが,そのひとりになってくださること,それが私たちの願いです.
2006年7月
あいち小児保健医療総合センター
山崎嘉久