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書籍詳細

臨床電気神経生理学の基本診断と治療社 | 書籍詳細:臨床電気神経生理学の基本
脳波と筋電図を日々の臨床に役立つものとするために

天理よろづ相談所病院白川分院

橋本 修治 (はしもと しゅうじ) 著

神戸市立医療センター中央市民病院神経内科部長

幸原 伸夫 (こうはら のぶお) 執筆協力

初版 B5判 並製 212頁 2013年11月10日発行

ISBN9784787820587

定価:本体5,500円+税
  

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本書は活動電位の発生から臨床までを,ごく基礎的な原理から,特に生理学の知識がなくても読み進められるよう,数多くの講義で培ったノウハウで豊富な図解を用いてわかりやすく解説.さらに基本原理をもとに軸索や脱髄の生理学,いくつかの臨床的問題,アースの原理といった臨床に直結するテーマまでを盛り込んだ,神経生理学を志そうとする人,臨床で神経生理検査に携わるすべての人に真に役立つ書籍.

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目次

第Ⅰ章 神経と筋の電気現象を電気的等価回路で考えるために
1.電気神経生理学の基本事象
◇コラム1:電位の図示の仕方について
2.電気抵抗としての容積伝導体とイオンチャネル
◇コラム2:伝導体について
3.イオンチャネルの種類
4.コンデンサーとしての細胞膜
5.電池としてのイオンチャネル
◇コラム3:抵抗について
6.電池とコンデンサーの違いは何か
7.いわゆる「オームの法則」について─本書での位置づけ
8.本章のまとめ
◎より深く理解するために:電気抵抗率(resistivity)と容積伝導体および膜の抵抗(resistance)

第Ⅱ章:活動電位を巡るパラドックス─静電気学と動電気学の違いについて
1.静電気学
2.動電気学における抵抗─オームの法則を理解するために
3.活動電位を巡るパラドックス─活動電位の発生は,オームの法則に反する現象か?

第Ⅲ章 
オームの法則と3つの原理─生体電気現象を読み解く術をもとめて
1.電圧降下の原理
2.電気回路における電圧の正負の決め方
3.電流ゼロの原理と抵抗ゼロの原理
4.合成抵抗
5.電圧分配の原理
◇コラム:「電圧降下」という言い方について
6.抵抗の直列回路と並列回路の組み合わせ
◎より深く理解するために:並列回路における合成抵抗値の公式の証明

第Ⅳ章 オームの法則は,生体電気現象の理解に役立つ
1.心電図で肢誘導が可能となる理由はリード線効果にある
2.臨床での電位記録は電圧降下の原理に基づいている
3.細胞膜の脱分極と過分極は電圧降下の原理で説明される
4.電気刺激時の電位分布と膜電位の意味
5.大脳皮質錐体路細胞や感覚受容器の電気刺激は陽極で行う
6.抵抗ゼロの原理は活動電位の発生機序の理解に役立つ-極性逆転回路の導入
7.膜電位が変化する機序には2種類ある
8.リード線効果によるP9遠隔電場電位発生機序の理解
オームの法則のまとめ
◎より深く理解するために:極性逆転回路の解析

第Ⅴ章 膜電池の発生機序─濃淡電池,膜が1種類のイオンに対してのみ透過性を持つ場合
1.膜電位の発生と平衡状態の意味
2.平衡電位とNernst式
3.コンパートメント内でのイオン分布
4.コンパートメント内での電位分布
5.濃淡電池の電気的等価回路
◇コラム:Nernst式の一般的表記
◎より深く理解するために①:静電誘導
◎より深く理解するために②:濃淡電池の検証

第Ⅵ章 膜電池の発生機序─膜が複数のイオンに対して透過性を持つ場合
1.膜が2種類のイオンに対して透過性を持つ場合の膜電位の計算
2.膜が2種類のイオンを透過させる場合の電気的等価回路
3.膜が2種類のイオンに対して透過性を持つ場合-膜を介したイオンの動きは
どうなっているのか
4.能動輸送が必要となる理由
5.塩素イオンも考慮した膜電位
6.Nernst式とGoldman式の関係

第Ⅶ章 膜コンデンサー
1.コンデンサーは直流を通さないが交流は通す
2.コンデンサーの電気容量と容量リアクタンス
3.コンデンサーは電位変化の時間経過に影響する
◎より深く理解するために①:抵抗とコンデンサーからなる回路における電位変化と電流の時間経過
◎より深く理解するために②:時定数とは何か

第Ⅷ章 活動電位の発生機序
1.静止膜電位の発生と静止膜の簡略化モデル
2.活動電位と活動電流の発生,および第Ⅱ章のパラドックスに対する答え
3.不応期
4.活動電位の終息
5.活動電位の発生と終息過程-イオンチャネルの活性化と不活化
◎より深く理解するために:簡略化回路の妥当性の検討

第Ⅸ章 神経線維の太さと有髄化が活動電位の伝導速度に与える影響と電気学的機序
1.有髄神経と無髄神経の比較
2.活動電位の発生に及ぼす膜時定数の役割
3.長さ定数
4.膜抵抗の変化が電位に与える影響
5.伝播時定数
6.神経線維が太くなると,なぜ伝導速度は速くなるのか
7.有髄化による伝導速度の高速化
8.脱髄による伝導速度低下の機序
9.神経線維の電気刺激-神経線維の直径による相違,および脱髄が起こるとなぜ電気刺激を強くする必要があるのか

第Ⅹ章 シナプス後電位の発生機序─神経筋伝達,シナプス伝達を理解するために
1.シナプス後電位の発生機序
◇コラム 終板雑音(endplate noise)
2.終板電位(EPP)の発生機序
3.興奮性シナプス後電位(EPSP)の発生機序
4.興奮性シナプス後電位(EPSP)の逆転電位
5.抑制性シナプス後電位(IPSP)の発生機序
6.IPSPのEPSPへの転化

第ⅩⅠ章 臨床における電位記録─活動電位と脳電位
1.細胞外記録で,活動電位が三相波となる理由
2.複合筋活動電位(CMAP)の記録が二相性となる理由
3.逆向性感覚神経活動電位(SNAP)に初期陽性波が存在しない理由
4.筋肉長の変化による複合筋活動電位(CMAP)の波形変化
5.皮膚温による複合感覚神経活動電位の波形変化
6.脳電位の記録
7.容積伝導電位と投射性遠隔電場電位

第ⅩⅡ章 周波数域遮断フィルターの意味と動作機序
1.周波数域遮断フィルターが必要となる理由
2.低域遮断フィルターが初期段階で必要となる理由
3.高域遮断フィルターが初期段階で必要となる理由
4.信号のデジタル化とアンチエイリアスフィルターの役割
◇コラム1 コンピュータ内でのデータ保存
5.低域遮断フィルターの作用機序と時定数
◇コラム2 交流の有効電圧
6.高速遮断フィルターの構造と作用機序
◎より深く理解するために①:時定数と遮断周波数の関係
◎より深く理解するために②:周波数域遮断フィルターに矩形波を入力したときの出力波形

第ⅩⅢ章 差動増幅器とアース
1.差動増幅器
2.交流雑音(ハム)の原因
3.2種類のアース-保護アースとシグナルアース
4.アースされたシグナルアースと浮遊したシグナルアース
5.ボディアースとボディシグナルアースの相違
6.なぜ,被検者からシグナルアースをとる必要があるのか

補遺 活動電位発生機序の静電気学的解説
索引
著者紹介

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序文



 本書執筆の誘いを,執筆協力者の幸原伸夫先生から受けたのは,今から3年以上前のことでした.そのときは「やりましょう」と簡単に応諾したのですが,筆がなかなか進みませんでした.理由は,予備知識のあまりない初歩的な人にも分かるように書く,という要請が幸原先生から出されていたからです.この要請がいかにきついか,今回身をもって感じました.書きかけては何度も書き直しました.記述の順番を大幅に変えたり,書いたものをすべて捨てて最初から書き直したりと,四苦八苦の連続でした.こうして出版に至りましたが,果たして当初のねらい通りになっているか,読者の判断にお任せするほかありません.
 本書のような,臨床的立場を踏まえて電気神経生理学の基本を解説した書籍は,日本語ではほとんど刊行されていません.手前勝手な言い分かもしれませんが,その意味で,本書の出版にはそれなりの意味があると自負しています.教科書は分かりやすいことが一番です.しかし,決してレベルを下げて安易なテキストとしたつもりはありません.かなり高度な内容にまで言及しています.本書が,脳波や筋電図を理論的に考察しながらより深く理解し,日々の臨床に役立ってくれることを念願しています.
 高い山に登るには,色々な道程があります.麓から山頂まで直線コースを一気呵成に登る道もあるでしょう.それとは異なって,山の周囲を何度もぐるぐる回りながら次第に高度を上げていく道もあります.本書では後者の道をとりました.前者の道程では,山腹に咲いている桜の木は1回しか見ることができません.後者では,はるか遠方から見上げる桜の木,近寄って正面から見る桜の木,上方から見下ろす桜の木と異なった様相が見えてきます.それにつれ,木の全体像やそれが他の草木との関係で山の景観に占める位置が,次第に明瞭なイメージとなって結像していくでしょう.本書ではこのような道を採用したため,同じことに何度も言及しています.くどいという批判は覚悟の上です.知識がより確実なものになることを期待して繰り返した面もありますが,同じことでも,それを見るときの視点が少しずつ異なり,他の事象との関連が新たに分かるように書いたつもりです.また,読み進める上で,参照した方が良いと思われる事柄については参照箇所を示しましたが,随所に復習事項を書き込み,できるだけ他の箇所を参照せず読み進められるようにも配慮しました.
 本書の内容については橋本に全責任があります.幸原先生には,本文の説明に必要な有意義な図と解説を2カ所で提供していただきました.さらに,原稿を丁寧に読んで適切なアドバイスをいただくとともに,読者の理解に役立つ質問(Q)を作成していただきました.それに対する解答(A)は橋本が書きました.このような次第で,本書は,幸原先生の適切なピアレビューなしには成立しなかったでしょう.

 謝辞:本書執筆にあたり,下記の方々に種々ご教示いただきました.ここに記して謝意を表します.三重大学大学院医学系研究科名誉教授?山本哲朗先生,天理よろづ相談所病院臨床検査部神経機能検査室?原田譲氏,元天理よろづ相談所病院医学研究所主任?瀬川義朗氏,日本光電工業株式会社?馬瀬隆造氏,元日本光電工業株式会社?鎗田勝氏の各氏です.本当にありがとうございました.また,遅筆の私を根気よく励まして,テキストと図をわかりやすく配置するという困難な編集作業を,休日返上で行っていただいた診断と治療社の荻上文夫氏にも深謝申し上げます.最後に,家庭のことをあまり顧みず机にばかり向かっている私を,文句一つ言わず支えてくれた妻,寿美子に感謝致します.

平成25年9月
橋本修治



最初の読者からの推薦の言葉

 私は自分が講演するときの題名を,いつも「考える筋電図」や「考える神経伝導検査」というように「考える」という言葉を入れるようにしている.これは今までの臨床神経生理の教育が波形のパターン認識,すなわち「こんな波形がでるのはこんな状態のとき」といったようなことが主体で,論理的に現象を説明するための基本原理を十分に教えていないことを強く感じてきたからだ.しかし「考える」講義をしているはずの自分自身が,まだまだ神経生理学をよく理解できていないことも強く自覚していた.そんなときに出会ったのが橋本先生の「活動電位はどうして生じるのか」という講義と,そのとき紹介された『電気回路による臨床電気神経生理学入門』(永井書店,1997)であった.十分に理解できないことも多かったが,頭の中の霧が晴れたような気持ちになった.中学校で習ったオームの法則と,あとわずかな原理で生体現象が統一的に記述可能ということを知り,明晰な論理に感動した.そしてこの感動をもっと,もっと多くの人に伝えたい,という気持ちが橋本先生の講義を聴くたびに沸き起こっていった.たとえば本書に取り上げられている「心電図の四肢誘導は記録電極の位置が上腕であっても手首であっても変わらないのはなぜか」とか「末梢神経はなぜ陰極で刺激されるのか」といった,ごく日常的な,しかし本質的な問題に対し,正確に論理的に答えられる人が何人いるだろうか.このことを多くの人に知ってもらいたい,きちんと答えることができるようになって欲しい.その思いが結実したのが本書である.
 本書はごく基礎的な原理から書かれており,特に生理学の知識がなくても読み進められるように構成されている.橋本講義の空気がよりわかりやすく伝わるような工夫もされている.最後の方には基本原理をもとに軸索や脱髄の生理学,いくつかの臨床的問題,アースの原理とかいった臨床に直結するテーマも論じられており,神経生理学を志そうとするすべての人,臨床で神経生理検査に携わるすべての人に真に役立つ内容となっている.
 読み進むと山を登るときのように視界がだんだん広がってゆく.そして読み終わったとき,眼下に広がる世界の大きさと美しさに驚くだろう.私は本書の最初の読者として皆さんとその喜びを共有したいと思う.

2013年9月
執筆協力 幸原伸夫