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希少神経難病・知的障害の成人移行支援の手引き診断と治療社 | 書籍詳細:希少神経難病・知的障害の成人移行支援の手引き
—遺伝性白質疾患も含めて

厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業  

遺伝性白質疾患・知的障害をきたす疾患の診断・治療・研究システム構築班 編集

初版 A5判 並製 88頁 2023年12月20日発行

ISBN9784787826374

定価:3,960円(本体価格3,600円+税)
  

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近年の医療の進歩により小児期から疾患があっても成人になる人は増えており,小児科から成人診療科への移行が重要な課題です.本書では,知的障害・運動障害をもつ方の移行医療についてまとめました.移行開始年齢や移行外来,患者・家族向けの情報,移行を成立させるための要因などについて解説し,特に知的障害をもつ患者の協働意思決定についても詳しく説明しています.事例を豊富に収載しより具体的に移行医療を考えられます.

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目次

刊行にあたって
序 文
移行についての10年を考える
執筆者一覧

1 移行開始年齢
 Q1 成人移行支援は何歳から開始すべきか?
 Q2 何歳までに移行すべきか?
 Column 1 小児科で診療継続した成人患者が入院を必要とするときの問題
 Q3 成人移行しない選択肢はないのか?
 Q4 知的障害のある患者の移行年齢は?
 Column 2 事例:死ぬまで診る
 Column 3 事例:知的障害児の移行
 Q5 知的障害と運動障害が重度である場合の移行年齢は?
 Column 4 事例:移行難渋例

2 移行外来について
 Q1 移行外来は国内にどれくらいあるか?
 Q2 移行外来ではどのようなことをするのか?
 Q3 移行外来受診はどのようなタイミングがよいか?
 Column 5 海外の移行外来の報告
 Q4 てんかんの移行外来とはどのようなものか?

3 移行にかかわる多職種
 Q1 成人移行支援にはどのような職種がかかわるのか?
 Q2 どのような場合に多職種のサポートが必要か?
 Q3 患者・家族と多職種,多職種間の調整役は誰か?
 Column 6 移行期医療支援センター・移行期医療支援コーディネーターとは何か?
 Q4 進学や就職の相談はどうしたらよいか?
 Q5 多職種が連携する医療・ケアチームはどのように形成されるか?
 Column 7 事例:患者・家族が大切にしていることを忘れずに─「どうしても譲れない」母親の思いから移行が保留になった事例からの学び
 Column 8 事例:相談支援専門員の介入が効果的だった例

4 患者・家族向けの情報
 Q1 患者・家族にとっての移行医療の現状は?
 Q2 患者・家族の情報収集の場とは?
 Q3 具体的な患者会に属していない場合は?
 Q4 情報更新とフィードバックはどのようにするか?
 Column 9 事例:移行にまつわる不安「どうしたらいいの?」─道標は身近なところに
 Column 10 事例:情報も支援もあれど

5 移行において必要な情報は何か
―患者・成人診療科・小児診療科それぞれの立場から
 Q1 患者にとって移行において医療的に必要な情報とは?
 Q2 患者にとっての移行医療についての相談先があるか?
 Q3 患者にとって移行時に必要な医療費助成制度の手続き
 Q4 患者にとって移行時に必要な医療費助成制度以外の手続き
 Column 11 事例:学校で将来の話を聞いて成人診療科に受診した例
 Q5 成人診療科にとって移行時に必要な情報は?―患者情報,救急時の対応等
 Q6 成人診療科にとって移行時に必要な情報は?―疾患概要,診断手引き
 Column 12 アメリカにおけるDravet症候群の移行
 Q7 小児科にとって移行時に必要な情報は?
 Column 13 先を見越した治療
 Column 14 事例:施設入所に伴い成人診療科に移行したが小児科に戻った希少難病例
 Column 15 各種情報サイト

6 移行医療の成立を左右する要因は何か
 Q1 ケアの方針をどうするか?
 Q2 成人診療と小児診療の違いをどのように埋めるか?
 Q3 移行のコーディネートをどのようにするか?
 Column 16 事例:大脳白質形成不全症の施設への移行

7 精神科にどのようなときにお願いするのか
 Q1 どのような患者において精神科との連携が望まれるのか?
 Q2 知的障害を有する患者ではどのような精神医学的問題が生じるのか?
 Column 17 小児科から精神科に紹介するときのコツ―小児神経科の経験より
 Q3 特定の疾患や症候群で生じやすい精神症状があるのか?
 Q4 精神症状や行動の問題に対してどのようなアプローチが必要となるのか?
 Q5 移行のプロセスにおける同意能力における精神科医療や心理的介入の有用性はあるのか?
 Column 18 判断能力・同意能力
 Column 19 「倒れるわけにはいかない」親―精神科医の経験より

8 小児科と成人診療科の共同作業
 Q1 小児科・成人診療科が共同で行うべきことは何か?
 Q2 移行チームはどのようなメンバーで構成されるとよいか?
 Q3 移行カンファレンスで話し合う内容にはどのようなものがあるか?
 Q4 移行チームの結成や移行カンファレンスの実施が困難な場合に,有効な手段はあるか?
 Column 20 事例:阿吽の呼吸ではうまくいかない―30 歳女性,進行性大脳白質変性症

9 患者教育、職員教育
 Q1 患者教育はなぜ必要か?
 Q2 移行医療についての患者教育とはどのようなものか?
 Q3 患者・家族に対する移行の計画,タイムラインについての情報提供
 Q4 移行医療についての医師への教育はどのようなものがあるか?
 Column 21 事例:家族教育,協働意思決定,地域医療連携が医療的ケアに効果的だった1例―喉頭閉鎖術を実施したTORCH 症候群
 Q5 医師以外の職種への移行医療に関しての教育はどうなっているか?

10 移行医療における協働意思決定(SDM)とは何か
 Q1 協働意思決定(SDM)とは?
 Q2 SDM の利点は何か?
 Q3 SDM にかかわる人は?
 Q4 SDM に必要なステップは何か?
 Q5 複雑な医療的な状態を有する子ども(CMC)の医療にSDMは有用か?
 Q6 小児-成人移行医療においてのSDM のメリットは何か?
 Q7 知的障害を有する神経難病患者の移行医療においてSDMはどのようなものか?
 Column 22 療養介護病棟での親族不在成人例への協働意思決定
 Column 23 事例:親・親族等の代弁者がいない患者の救命のための緊急転院
 Column 24 事例:親・親族等の代弁者がいない成人患者の療養方針の検討

11 ACPに取り組んでみる
 Q1 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)で何をするのか?
 Q2 どのようなことからはじめるとよいのか?
 Q3 医療の同意はどのように行われるのか?
 Q4 移行医療でなぜACP が必要なのか?

12 移行において医療的ケアに関連して配慮すべきこと
 Q1 医療的ケアの内容について気を付けることは何か?
 Column 25 医療的ケアとは
 Column 26 事例:小児科で診療継続した医療的ケア者が入院を必要とするときの問題
 Q2 在宅医療にかかわる衛生材料についての注意点は何か?
 Column 27 高額な物品について
 Column 28 事例:新たに医療的ケアが必要になった40歳代例

13 移行の評価
 Q1 介入としての移行医療のアウトカムには何があるか?
 Q2 移行医療のquality indicator はあるか?

あとがき
索 引

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序文

刊行にあたって

重度な知的障害や運動障害をもつ小児の移行(トランジション)は困難を極めます.まず患者への説明や自己決定権の尊重などにもとづく通常のトランジションのプロセスが踏めません.運動障害を取ってみても,特に白質形成不全症などの希少疾患では,病態と神経症状との関係が十分に明らかになっていません.中枢神経障害により引き起こされる呼吸器系,消化器系などの二次的な合併症や疾患自体の予後も明らかになっておりません.
成人期になるまで,小児の集中治療を要するような入院を繰り返す方もおり,医療システムの違いから成人期に同様の治療を行うことが難しい場合も多々あります.また生活と医療が一体化し,家族と医療スタッフの間に強固な関係が結ばれている場合が多く,さらに,家族は個別に様々な「工夫」をしているのが特徴です.これらはすべて受け手側の成人診療科にとって大きなハードルになっています.
今回,先天性大脳白質形成不全症に代表されるような知的障害・運動障害をもつ方のトランジションを班の課題とし,受け手となる成人側の代表者として望月葉子氏,小児科側の代表として久保田雅也氏を中心に取り組まれてこられました.まず移行に必要な因子をクリニカルクエスチョンとして抽出していだき,それぞれについて対応の手引を作成していただきました.エビデンスのある文献の少ないなか,多くの会議を通じて現実的な対応をご作成いただいた今回の担当者の皆様および,診断と治療社の櫻岡様に感謝申し上げます.

2023年11月

厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業
遺伝性白質疾患・知的障害をきたす疾患の診断・治療・研究システム構築班
研究代表者 小坂 仁




序 文

近年,医療の進歩や社会的支援体制の整備に伴い,小児期から疾患があって成人を迎える人は増えています.そのために,個々の患者にふさわしい成人期医療への移り変わりが重要な課題になっています.幼児期には,親が意思決定の中心的役割を果たしますが,患児は成長に合わせて理解力に応じた病気の説明を受け,成人後は患者自身で意思決定をする必要があります.本人の意思決定能力によっては,本人の意思を推定して協働意思決定(shared decision making)を行う必要があり,成年後見制度を利用することも大切です.また,障害児・者への福祉サービスや各種手当,医療費助成には年齢や所得による制限,地域による違いがあり,さらに,18歳ないし20歳で制度が切り替わるものが混在しています.
実際のところ患者本人にふさわしい医療はどのようなものなのでしょうか,そして,それを患者・家族はどのように理解して意思決定をすればよいのでしょうか.「サービスを利用してください」と一言でいわれても,患者・家族が納得して適切にサービスを利用するにはどうしたらよいのでしょうか.本書は,移行医療に携わる診療科医師,看護師,当事者が移行医療を少しでも理解できるようにテーマを分類し,各項目について文献を検索し,検討を重ねて作成しました.加えてコラムとして,架空の事例で,現実に直面しそうな事柄や,気に留めておいたほうがよいことなども記載しています.成人期医療への移行の準備を考えている患者と家族,成人診療科を受診してみた患者と家族,移行の必要性を考えている小児科の医師,小児科からの紹介状を手にした成人診療科の医師,医療・ケアチームメンバー,進路指導者,さらに行政の担当者など多くの皆様に読んでいただける内容になっています.1人でも多くの患者が,よりよい成人期を迎えることができるように執筆者一同願っています.
私は医学部を卒業後,母校の神経内科に入局し,教授1)からは,どのような患者に対しても,患者を尊重して真摯に診療にあたること,専門外の領域については,専門家にコンサルテーションすること,もし患者が亡くなった場合には病理解剖を行い,これまでの診療を振り返ることを指導されました.神経病理学の領域では,公益財団法人東京都医学総合研究所中山優季代表の研究班2,3)に参加しました.そこでは筋萎縮性側索硬化症患者の意思伝達能力評価とその背景病理について担当し,意思を伝える大切さを学びました.また,医学部学生時代に現在の難病対策の礎の一つである三鷹市と神経病院・神経研が連携して行った難病健診,神経病院の診療を見学した際に在宅ケア,地域の医師会と専門医の連携,多職種連携の重要性4)を認識しました.
縁があって,2002年に現職の病院に就職しました.同僚たちから経験のなかった小児神経や障害者医療のことを教わりながら,診療に従事しました.あるとき,小児科からの紹介状を手に不安そうに受診する患者が増えていることに気がつきました.調べてみると,成人診療科への移行について十分に納得する機会がなく,自分自身で移行を決められなかった方も含まれていました5).院内で小児科との移行カンファレンスを立ち上げ,同じようなことを考えていた脳神経内科医や小児神経科医たちと移行医療について語り合う機会を設けました.皆で話すと,さまざまな課題があることがわかりました.
その後,有志で日本神経学会に要望書を提出し,学会に小児―成人移行医療対策特別委員会が設置されました.最初の委員会報告は,小児神経科医と脳神経内科医の合作です6).委員会活動を通し,移行医療を少しでも神経学会会員に知っていただくこと,そして,小児診療科と成人診療科との連携,多職種連携と少しずつテーマを進歩させて,移行医療に関する話題をシンポジウムやワークショップとして継続的に発信してきており,それらへの参加者も増えています.
一方,小児期から知的障害がある人たちの意思決定はどうしたらよいのか,もし家族が不在になったら誰が医療同意をするのかという問題にも直面し,医療倫理の研修も受講しました.そして,院内の多職種とともに,医事法学者7)や外部有識者の指導を受けながら,院内の臨床倫理への取り組みなどを見直し,臨床倫理コンサルテーションチームを稼働させました8).移行医療においても,患者の意思が大切です.児から者へと意思決定のあり方も考えていくことが,よりよい移行医療につながるのではないかと考えます.
小坂仁教授にお声がけいただき,令和3年度から「遺伝性白質疾患・知的障害をきたす疾患の診断・治療・研究システム構築」班に研究分担者として参加しております.このたび移行医療について,このようにまとめる機会をいただきましたこと感謝申し上げます.執筆を担当していただいた先生,日々の業務に加えて多くの時間をいただき,ありがとうございました.そして,慣れない出版作業についてご指導いただきました診断と治療社の櫻岡仁氏に感謝申し上げます.


文献
 1) 高須俊明.私高須俊明が体現した臨床神経学,信条と達成.脳神経内科 2022; 97: 701-703.
 2) 研究代表者:中山優季.筋萎縮性側索硬化症療養者の病態生理に基づく革新的な意思伝達手段開発に関する研究.KAKEN 2010~2012.
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22390429/
 3) 研究代表者:中山優季.病態生理に基づく革新的な意思伝達手段の開発と長期経過追跡による適応評価研究.KAKEN 2013-04-01~2017-03-31.
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25293449/
 4) 厚生労働省補助金事業「令和4年度難病患者サポート事業」「日本患者運動史」改題 日本の患者会 WEB版インタビュー.聖隷クリストファー大学大学院看護学研究科川村佐和子教授.
https://pg-japan.jp/interview/1310/ [2023年10月アクセス]
 5) 望月葉子,他.小児期発症神経系疾患を有する患者の小児科・成人診療科移行期医療の現状の検討.臨床神経 2019; 59: 279-281.
 6) 尾方克久,他.神経系疾患を対象とする小児-成人移行医療についての展望:現状と課題.臨床神経 2022; 62: 261-266.
 7) 小西知世.残された課題 意思決定を中心に.医療と法の潮流を読む11.病院 2018; 333-336.
 8) 望月葉子.移行医療の現状と課題-脳神経内科の立場から.特集:脳神経内科医に求められる移行期医療.Brain Nerve 2022; 74: 741-746.

2023年11月

厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業
遺伝性白質疾患・知的障害をきたす疾患の診断・治療・研究システム構築班
望月 葉子