子どもの育ちに関するさまざまな疑問・問題を保護者から相談された場合,小児医療・保健にたずさわる専門職者はどう対応すべきかを一冊にまとめた.年齢別,ケース別に98の問題項目を挙げ,実際の対応パターンと,さらに詳しく相談するよう促すことを目的にとした専門機関受診のタイミングを呈示した.
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目次
目次・・・「育てにくさ」に寄り添う支援マニュアル
執筆者一覧
推薦の序
監修の序
本書の説明
本書活用の方法について
育てにくさについて
6~12 ヶ月頃
【コミュニケーション】
1●おとなしすぎる
2●ずっと泣いている
3●何をしても泣きやまず,何で泣くのかわからない
4●視線が合いにくい
【行動と遊び】
5●あまり泣かない・笑わない
6●要求が極端に少ない
7●抱っこをせがまない
8●後追いしない
9●抱いた時しっかりしがみついてこない
10●表情が極端に乏しい
11●ひとり遊びばかりする
【睡眠】
12●いつも寝てばかりいる
13●親に関係なく,一人ですぐ寝てしまう
14●ひどい夜泣きがある
15●ちっとも寝ない(睡眠時間が短い,細切れにしか寝ない)
【運動】
16●寝返りの仕方が異常
17●座位がいつまでも不安定である
18●おもちゃを持たない
19●ハイハイの仕方がおかしい
1~2 歳頃
【コミュニケーション】
20●人見知りがない,またはひどい
21●母親べったりで父親になつかない
22●親の行動や言葉をまねるのが苦手
23●コマーシャルの言葉ばかり言う
24●指差しをしない
25●親が見ている方向,指差された方を見ない
26●言葉の理解が悪いようである
27●名前を読んでも知らん顔をする
28●耳が聞こえないのか心配
29●言葉の発達が遅い
【行動と遊び】
30●人より物に興味を示す
31●人への興味が持続しない
32●外で迷子になってしまう
33●ひとり遊びが好き,遊びに介入されるのを嫌がる
34●ビデオ等の機械の操作が上手
35●好きなビデオを一日中ずっと見ている
36●不安が強い
37●物を一列に並べたり,積んだりして遊ぶ
38●偏った興味,決め事がある
39●物を何でも回す
40●キャラクター・乗り物への執着(極端なこだわり)がある
41●極端に落ち着きがない
【睡眠】
42●夜中に起きることが多い
43●寝つきが極端に悪い
44●夜泣きがひどい
【運動】
45●つま先立ちを長くする
46●歩き方がいつまでもぎこちない
2~3 歳頃
【コミュニケーション】
47●自分の思い通りにいかないとすごく怒る
48●言い聞かせてもわからないことが多い
49●人の言うことを聞かない
50●手遊び歌に関心がない
51●言葉の発達が遅い
【行動と遊び】
52●特定のものを異常なほど怖がる
53●慣れない建物には怖がって入れない
54●初めてのもの,場所を怖がる
55●妙に神経質である
56●ごっこ遊びをしない
57●独特なごっこ遊びをする(相手のいない自分一人だけの世
界で遊ぶ)
58●かんしゃく,パニックを起こすことが多い
【睡眠】
59●夜中に起きることが多い
60●寝つきが極端に悪い
61●夜泣きがひどい
【運動】
62●ジャンプができない
63●階段を上がれない
64●利き手が定まらない
【身辺処理】
65●トイレに行くのを拒否する
66●ひどい偏食が出てきた
67●しつけができない(言い聞かせてもダメ)
68●食事に極端に時間がかかる
3~4 歳頃
【コミュニケーション】
69●ひとり言ばかり言う
70●おうむ返しの言葉が多い
71●自分でつくった言葉(造語)を話して喜んでいる
72●言葉の発達が遅い
【行動と遊び】
73●友達に興味がない
74●決まった友達とばかりしつこく遊びたがる
75●子どもを怖がる
76●一人で遊んでいることが多い
77●集団に参加することを嫌がる
78●人ごみを極端に嫌う
79●奇妙な癖や動作がある
80●失敗を極端に恐れて行動しない
81●気分の変化が大きく,気が散りやすい
82●順番が待てない
83●いつでも一番でないとダメで怒る(勝ち負けにこだわる)
84●数字やアルファベットが好きで覚える
85●多動(座っていられず動いている)
86●攻撃的な行動が多い
【睡眠】
87●眠りが浅くすぐ起きる
88●寝つきが悪い
89●夜泣きがひどい
【運動】
90●丸が書けない
91●発音が極端に不明瞭
92●吃音がみられる(言葉の出だしがうまくできない)
93●手先が不器用
【身辺処理】
94●同じ服しか着ようとしない
95●靴下をはかせても必ず脱いでしまう
96●ウンチをパンツの中でしかしない
97●偏食がなおらない
98●食べ物を見た目で判断して食べない
99●服や手が汚れるのを極端に嫌がる
文献/冊子「健診をすませたお子さんをもつ保護者の方へ」について
冊子の活用の実際(1)(診療所)
冊子の活用の実際(2)(保健センター)
冊子の活用の実際(3)(保育園)
冊子の活用の実際(4)(幼稚園)
冊子の活用の実際(5)(学校)
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序文
推薦の序
地域で共に支え合う子育ての実現に向けて
人は皆,赤ちゃんとして生まれてきます.産んだ母親も,寄り添う父親も,そのあまりの小ささに驚きつつも,命の重さと大きさに感動します.そして,日ごとの成長の速さに,喜びとともに,当惑もするものです.
人は皆,子どもを他の子どもと比べたがります.わが子の身長は,体重は,平均的なのだろうか,大きすぎないか,小さすぎないか,異常なことはないかなど,まさに,親の悩みは果てしがありません.
こうして,人は皆,自分が赤ちゃんや子どもを育てることができるのか,自分に育てる力はあるのか,子どもの育ちに寄り添うことができるのか,迷い,惑い,悩みます.
本書の刊行は,だからこそ,求められていたのです.
本書の執筆者の皆様は,子どもの「育てにくさ」を真正面から捉えました.医師でも,保育士でも,幼稚園教諭でも,学校教員でも,その他の専門家でも,多様な「育てにくさ」があるからこそ,研鑽と実践を通して専門性を磨き,親を支えながら,子ども本位の成長の支援を担っています.
三鷹市は,少子化が進展する中,すべての子どもの健やかな「育ち」を地域全体で支える「子ども支援」と「子育て支援」を重視して,次世代育成支援の取組みをすすめています.子どもの健全な発達保障の視点に立ち,在宅子育て家庭の支援とともに,働く保護者支援として「保育サービスの質」の向上を図ってきました.今後はさらに,次世代育成支援の基本となる地域社会における「仕事と生活との調和(ワーク・ライフ・バランス)」の実現を図るために,教育委員会との連携を強化し,地域の多様な担い手や企業とも今まで以上に協働を進めます.こうした趣旨から,平成 21 年 3 月に,次世代育成支援の総合的指針である「三鷹市子育て支援ビジョン」を策定しました.ビジョンの 1 は「多様な主体の参画と協働による子育て支援体制の整備」としています.
本書は,まさに,子どもの「育てにくさ」を「育ちのきっかけ」とするためのヒントが,多元的な視点から豊富に含まれています.執筆者の皆様に感謝するとともに,読者の皆様による,子ども本位のご活用をお願いします.
2009 年 9 月
三鷹市長 清原慶子
監修の序
地域で共に支え合う子育ての実現に向けて
本書は子育ての悩みを抱えた保護者に対して,子育ての相談や指導に当たっておられる医師,保健師,保育士,幼稚園教諭等,幅広い職種の方たちに向けて書かれたものです.
言われて久しい少子化はいっこうに改善される気配がありませんし,コミュニティの弱体化と住民の帰属意識の希薄化によって,子育ての主な担い手である母親たちの孤立は深まっています.様々な子育てサークルや幼児向けの教室は孤立防止のために一役買ってはいるものの,子育てが楽しいと感じていて積極的に人と交流できる母親たちが主役であって,子育てに悩んでいる母親に必ずしも寄り添うものではありません.
「子育てを楽しまなくちゃ」というフレーズをよく耳にしますが,こうしたアドバイスを「私だって楽しめるものなら楽しみたい」と叫びたくなるような想いで聞いている母親も少なくないことでしょう.じつは,子育ての楽しさを奪う大きな要因の 1 つに「育てにくさ」があります.
「なぜだか育てにくい,育てていて手ごたえを感じない」,「どうしたらいいの?」,「一体何が悪いの?」こうした母親の声に応える指南書を本書は目指しました.「育てにくさ」をキーワードに乳児期から幼児期後半までによく相談される訴えを集め,想定される背景や子ども像と具体的なアドバイスを 1 ページになるようコンパクトにまとめてあります.
本書を読んでいただくとお分かりになると思いますが,ほとんど疾患名や障害名は出てきません.それは,子どもの行動の背景には実に様々な状態があることを知っていただきたかったからです.
発達障害を主題としたマニュアルが多く出版されるようになりました.その中には保育活動の中で日常的に見聞きしている行動特性が書いてあります.こうした情報に触れることによって,診断がつく子のことを学びます.しかし,一方で「多動なのは ADHD なんだ」あるいは「こだわる子はアスペルガーらしい」という単純なパターン思考が出来上がっていないでしょうか? 診断名がつくこともありますが,つかない子もたくさんいるという当たり前の事実をともすれば見失ってはいないでしょうか?
子どもの行動には理由があります.その理由にはいろいろなものがあります.本書の執筆はそうしたいろいろな理由を熟知した専門の先生方に担当していただきました.理由の中には幼児のある時期にだけ目立つ行動であって,いわゆる発達のバリエーションであることもあるでしょう.一方では将来的に診断がつくような場合もあるかもしれません.しかし,育てにくさを感じている母親にとっては,同じ重みなのです.大切なのは診断がついてから支援するのではなく,まず母親たちの育てにくさに寄り添うことなのでしょう.本書の活用によって育てにくさに寄り添うことが,子育てを楽しむことへの近道となることを願っています.
2009 年 10 月
鳥取大学地域学部 教授
同 附属小学校 校長
小枝達也