脳科学と睡眠との関係を基礎研究から考察した第I部「基礎編」,睡眠障害や睡眠に関する社会的問題について詳説した第II部「臨床編」から構成されている.
今回の改訂では,ICSD-3を最新知見とともにわかりやすく解説.睡眠に関するコラムも多数掲載し,睡眠の基礎知識から臨床の各論まで集約した充実の一冊となっている.本書をきっかけに,眠りを真剣に考える方が一人でも増えてほしいという執筆者の願いを込めている.
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目次
著者略歴
はじめに
第Ⅰ部 基礎編
1章 State
1.State の定義
2.レム睡眠とノンレム睡眠
3.Rope theory (ロープ理論)
2章 睡眠・覚醒の系統発生
1.節足動物
2.軟体動物
3.脊索動物
3章 個体発生
1.胎 児
2.早期産児
3.睡眠関連の諸因子の生後変化
4章 眠りをもたらす脳
A 睡眠-覚醒のモデル
1.古典的な睡眠中枢と覚醒中枢
2.two-process model
3.現在の睡眠中枢と覚醒中枢
4.flip-flopモデル
(中間状態のないシーソーモデル)
B レム睡眠の実行系
1.PGO波,急速眼球運動
2.脳 波
3.筋活動抑制
4.相動性筋活動
C 時計機構
1.視交叉上核(生体時計)
2.概日周期発現の基礎
3.時計周期への光の影響
4.疾患を手がかりに
5.SCNからの遠心路
6.SCNとメラトニン
7.遺伝子の発現・転写のネガティブフィードバック機構によらないリズム発生
8.食餌により形成されるリズム
D 視 床
E 延 髄
5章 眠りと物質
A 睡眠関連遺伝子
B 睡眠物質
1.おもな睡眠物質
2.眠りとホルモン
3.メラトニン
4.薬 剤
6章 発達早期の睡眠
1.ニワトリの胚を用いた研究から
2.睡眠の出生後の変化
3.睡眠時間と脳機能との関連
4.睡眠覚醒リズムと脳機能との関連
5.睡眠の発達とセロトニン神経系
第Ⅱ部 臨床編
7章 睡眠の観察方法
1.睡眠ポリグラフィー
2.反復睡眠潜時検査
3.覚醒維持検査
4.モニター項目のオプション
5.その他の観察法
6.指標の評価
7.覚醒反応
8.CAP(cyclic alternating pattern)
9.質問紙
8章 睡眠関連疾患
A 新しい国際分類[ICSD-3(2014)]にしたがって
1.不眠症
2.睡眠呼吸異常症群
3.中枢性過眠症群
4.概日リズム睡眠覚醒異常症群
5.睡眠随伴症群
6.睡眠関連運動異常症群
7.睡眠関連てんかん
B ICSD-3に独立しては取り上げられていない項目
1.様々な疾患に伴う眠りの問題
2.夜泣き
3.乳幼児突然死症候群(SIDS)
4.失同調
9章 眠りが困難な時代
1.睡眠時間
2.睡眠覚醒リズム
3.日本の子どもたちの状況
4.寝不足,夜ふかしの原因
5.睡眠不足・睡眠覚醒リズム障害対策
6.保育園での昼寝
7.睡眠不足および睡眠覚醒リズム異常がもたらす長期的な影響に関する仮説
8.母親および女性の眠り
9.サマータイム
10.わが国の交代勤務者
11.睡眠時間,IQ,および平均余命
12.最後に
文献リスト
索 引
コラム
① 成長ホルモンについての誤解
② 子どもの早起きをすすめる会(1)
③ 不都合な真実revisited
④ 子どもの早起きをすすめる会(2)
⑤ 居眠りは怠け!? 罪深い寓話「うさぎとかめ」
⑥ 身体は最も身近な自然
⑦ 睡眠蔑視の起源は『養生訓』?
⑧ 日本の肥満対策には眠りの視点が欠如
⑨ 考えるということ
おわりに
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序文
改訂第3版における
はじめに
Sleep disorders の国際分類の第3版(International classification of sleep disorders-third edition:ICSD-3)が2014年春に出版されたことを受け,診断と治療社さんにご相談申し上げたところ,快く本書の第3版改訂を引き受けてくださり,今回の発行の運びとなった.診断と治療社さんには心から御礼を申し上げたい.
近年,睡眠関連の基礎研究では,時計遺伝子の分野を中心に知見の集積がなされているものの,いまだ睡眠の本質に迫る成果は十分な集積がなされたとは言い難い.一方で多くの国々で社会の24時間化が急速に進行,いまや睡眠を社会と無関係に語ることが難しくなっている.Social jet lag (社会的時差ボケ)という文言も世に出て久しい.そこでこの第3版改訂にあたっては,睡眠の社会的側面の記載の必要性を強く感じ,第2版では省いたコラムを復活させ,この欄に睡眠の社会的な側面を重点的に記載した.また睡眠の臨床には哲学が重要と感じていることも,コラムの復活による社会的側面重視に関わっている.睡眠不足症候群の患者さんに今後開発が予想されるオレキシンアゴニストを処方すれば,患者さんは理論上は覚醒を維持できることとなる.果たしてこれは人類にとっていかなる意味を有するのであろうか? 薬剤誘発性の覚醒と通常の覚醒とは同一の覚醒なのであろうか? さらに睡眠医療に関する教育研修の不足も社会的問題と捉える必要がある.薬剤の複数処方に対する規制も始まりはしたが,いまだ小生の睡眠外来にはいわゆる睡眠導入剤を5種類以上処方されている患者さんも決して少なくない人数が受診なさる.これらの流れで,最終の9章(眠りが困難な時代)も社会的側面が強くなった.とはいっても今回の改訂の一番大きなポイントは冒頭にも記したとおりICSD-3の紹介だ.日本語訳についてはいまだ用語の統一がなされていない現在,あくまで筆者の独断である点はご容赦願いたい.
初版以来,常に「はじめに」に記載しているが,本書をきっかけに眠りを真剣に考えてくださる方が一人でも増えることを期待している.
なお2014年12月,長年ご指導いただいてきた瀬川昌也博士が亡くなられた.瀬川先生には眠りの基礎から臨床にいたるまで,幅広くかつ斬新な視点から多くのご助言を賜った.本書を故瀬川昌也先生のご霊前に捧げご冥福をお祈りしたい.
2015年3月
神山 潤