神経系,呼吸器,心臓,腎臓,皮膚,眼科,歯科など,全身の様々な器官に腫瘍などの症状がみられる遺伝性疾患である結節性硬化症.2015年に指定難病に追加され,近年,研究・治療の進歩が著しい本疾患について,各領域のエキスパートによって診断と治療の最新知見から,サポート体制や公的補助制度まえでを解説した,初の学会編書籍!
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目次
口 絵
推薦の序 …新井 一
序 文 …樋野興夫
執筆者一覧
第1章結節性硬化症の全体像と遺伝
A 結節性硬化症の歴史 …大野耕策
B 結節性硬化症の遺伝子検査…新井田 要
第2章結節性硬化症の基礎的研究
A TSC-mTOR経路 …池田崇之,猪木 健
B 腫瘍病変発生モデル動物 …小林敏之,樋野興夫
C 自閉症モデル動物 …佐藤敦志,水口 雅
D 栄養シグナルと結節性硬化症 …鈴木 司,山本祐司
E 酵母のTSC遺伝子ホモログを用いた研究 …中瀬由起子,松本智裕
F mTORの活性化変異と疾患発生 …葛西秀俊,饗場 篤,前田達哉
第3章結節性硬化症の臨床症状
A 全身症状と神経症状 …水口 雅
B 精神神経学的症状① ―上衣下巨細胞性星細胞腫 …師田信人,井原 哲
C 精神神経学的症状② ―てんかん・知的障害・自閉症 …久保田雅也
D 呼吸器症状―リンパ脈管筋腫症 …西野宏一,熊坂利夫,瀬山邦明
E 心症状 ―横紋筋腫 …金 基成
F 腎症状① ―血管筋脂肪腫 …波多野孝史
G 腎症状② ―血管筋脂肪腫のカテーテル治療 …桑鶴良平
H 腎症状③ ―多発性囊胞腎 …河野春奈,堀江重郎
I 皮膚症状 …金田眞理
J 眼科領域 …春山美穂
K 歯科領域 …関口五郎
第4章結節性硬化症の診療体制とサポート
A 結節性硬化症の診療ガイドラインー現状と今後の展望― …野々村祝夫,植村元秀
B 結節性硬化症の診療における大学病院の連携 …菅野秀宣
C 結節性硬化症の総合診療における多科多施設連携 …岡西 徹
D 結節性硬化症患者のQOLについて考える …武井 愛
E 結節性硬化症の公的助成制度 …平岡まゑみ
索引
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序文
推薦の序
結節硬化症は,古典的には顔面血管線維腫,てんかん,精神発達遅滞の3主徴とする神経皮膚症候群の1つであるが,心横紋筋腫,上衣下巨細胞性星細胞腫,腎血管平滑筋脂肪腫,肺リンパ脈管平滑筋腫症等を合併することからも明らかなように,その病態はまさに全身に及ぶものである.1990年代にTSC1とTSC2の2つの遺伝子が本症の原因遺伝子として同定され,さらに,これらの遺伝子異常によってmTORが過剰に活性化されることが本症の発症機序であることが明らかとなった.近年,これらの知見を基にmTOR阻害薬が本症の治療に用いられるようになり,その治療体系は大きく変化したといえる.しかしながら,mTOR阻害薬によっても本症を完治させることは不可能であり,また個々の症例でその表現型は様々であるため,対処法にも個別化が求められることになる.小児科,神経内科,精神科,脳神経外科,呼吸器内科,泌尿器科,皮膚科,眼科,歯科と,各分野の専門家が個々の症例の病態に応じてその診断・治療にかかわることになる.将に,本症が難治性疾患克服研究事業の対象となっている所以である.
このようななか,本書「結節硬化症の診断と治療最前線」が刊行された意義は極めて深いものといえる.本症の歴史的背景に始まり,基礎的研究,各診療科にまたがる臨床の実際,さらには社会医学的側面にまで言及した本書の内容は,本症にかかわる全ての医療従事者および研究者に有用な情報を提供するものと考える.本書が本症に罹病されている多くの人々に福音をもたらすことを祈念して,推薦の序とする.
平成28年6月吉日
順天堂大学学長
新井 一
序 文
結節性硬化症(tuberous sclerosis complex;TSC)は,神経系,呼吸器,心臓,腎臓,皮膚,眼科,歯科など,全身の様々な器官に腫瘍などの症状がみられる遺伝性疾患です.
2015年に指定難病に追加され,治療薬としてmTOR(mammalian target of rapamycin)阻害薬に注目が集まり,治験も進められています.また,全身疾患であることや小児発症患者の成人診療科へのトランジションなどチーム医療が求められており,日本でも多職種・多施設連携などの試みも始められています.多科・多職種のスタッフが各部署に所属しながら診療では協力体制を組む,「バーチャルTSCセンター」というシステム作りです.
そうした医療の進歩と社会の変化を受け,日本結節性硬化症学会編として本書を発行することとなりました.内容は,歴史的背景や遺伝,基礎的研究からTSCの様々な臨床症状の診断と治療,さらには診療体制など,いずれも各領域のエキスパートの先生方に執筆をお願いし,できるだけ最新の情報にもふれていただきました.用語につきましてもLAM(lymphangioleiomyomatosis)は,これまで日本語では“リンパ脈管筋腫症”とよばれてきましたが,最新の国際診断基準では“リンパ脈管平滑筋腫症”に改められ,日本の指定難病・小児慢性特定疾病でも“リンパ脈管平滑筋腫症”に変更される流れにあります.本書では,そうした現状をふまえ両方の用語が用いられております.
その他,医師の立場からだけでなく,日々,本症に向き合っておられます患者家族の立場から家族会の方々にも,サポート体制や公的補助制度などについて執筆いただきました.お忙しいなかご執筆いただきました皆様に,この場を借りて感謝申し上げます.
本書が,「病気・遺伝病は単なる個性である」という社会の構築と「医療の共同体」を目指し,日常診療の質の向上と患者さんQOLの改善の一助となれば望外の喜びであります.
平成28年6月吉日
日本結節性硬化症学会理事長
順天堂大学医学部病理・腫瘍学教授
樋野興夫