育てにくさの理解と支援診断と治療社 | 書籍詳細:育てにくさの理解と支援
健やか親子21(第2次)の重点課題にむけて
あきやま子どもクリニック 院長
秋山 千枝子(あきやま ちえこ) 編集
国立成育医療研究センター 副院長/こころの診療部 部長
小枝 達也(こえだ たつや) 編集
東京学芸大学教育実践研究支援センター 教授
橋本 創一(はしもと そういち) 編集
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所社会精神保健研究部 家族・地域研究室長
堀口 寿広(ほりぐち としひろ) 編集
初版 A5判 156頁 2017年04月25日発行
ISBN9784787822543
定価:2,530円(本体価格2,300円+税)冊
健やか親子21(第2次)の重点課題である「育てにくさ」への支援をキーワードに,医療スタッフや育児関係者らが保護者への育児相談を行う際,その要因を①子どもの要因,②親の要因,③親子の関係性による要因,④親子をとりまく環境による要因の4つに分けて解説.より具体的な支援ができるよう,聞き取り方法や関わり方、観察ポイントをあげ,実用的なアドバイスについて記述した.「育てにくさ」を拭い去るためには家族の心理的負担や環境の向上が必要な場合もあり,さまざまな立場からの支援を想定し,考えられる「連携」先についてもふれている.
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目次
推薦のことば
「育てにくさ」について
Ⅰ.総 論
総 論
Ⅱ.4つの要因へのアプローチ法
①子どもの要因
❶ 全般的に発達がゆっくりである
❷ アイコンタクトが少ない,対人的な関心が低い
❸ すぐに発熱する,風邪をひきやすいなど病弱である
❹ 寝つきが悪い,夜中に起きる
❺ 離乳食を食べない,食欲に偏りがある,偏食が著しい
❻ 言葉の発達がゆっくりである
❼ 落ち着きがない,常に動いている
❽ 思い通りにいかないとすぐに怒る,激しく泣く
❾ 飛び出す,欲しい物を見ると走り出す
❿ オムツがとれない,排泄の自立がなかなかできない
⓫ 外出先のトイレや建物に怖がって入れない
⓬ 初めての場所や人を怖がる,初めての活動を嫌がる
⓭ 同年齢の子どもと遊ばない,または怖がる
⓮ 指しゃぶり,性器いじり,皮膚をむく,足の裏を嗅ぐなどがやめられない
⓯ 遊びの興味・関心が狭い,ひとり遊びばかり好む
⓰ スケジュールや道順などにこだわる
⓱ 母子分離ができない
⓲ 発音が不明瞭
⓳ ボーっとしていることが多い,忘れ物が多い
⓴ よく転ぶ,手先の不器用さが目立つ
②親の要因
❶ ネットや育児雑誌の情報に振り回されている
❷ 知的障害が疑われる
❸ 精神疾患が疑われる
❹ 発達障害が疑われる
❺ 母子健康手帳を忘れた,書いていない
❻ DV(ドメスティック・バイオレンス)を受けている
❼ 子育てが面倒だ,かわいくないと感じるときがある
❽ 近くに親類や相談できる友人がいない
❾ 代理人によるミュンヒハウゼン症候群(MSBP)
❿ 依存症の傾向がある—喫煙,飲酒,携帯ゲーム,ギャンブルなど
③親子の関係性による要因
❶ 潔癖症の母親と少し無頓着な息子—片づけないのが許せない
❷ 早産児とそれを気に病む親—身体がちいさい,発達がゆっくり
❸ 仕事がしたい母親と甘えたい娘
—自分を見て見てとせがむが,母親は自分の時間が欲しい
❹ 食事の所作が気になる父親と,うるさく言うなと反発する息子
—父親の育った環境が大きい
❺ 努力しないことが許せない母親と努力が嫌いな息子
❻ 攻撃性の強い母親と言い返せない子
❼ 理想を捨てようとしない親とちょっと出来の悪い子
❽ 頼りない親と立派な子…
❾ 子どものためにと自己犠牲を払う親とそれを嫌がる子
❿ 子どものためにと習い事を強いる親と拒否する子
⓫ 子どものためにと習い事を強いる親とそれを拒否できない子
⓬ 父親の愚痴を聞かせる母親とそれに同調する息子
⓭ 過干渉な親と従う子
⓮ 過保護・過干渉な親と反発する子
⓯ 過保護な親と従う子
④親子をとりまく環境の要因
❶ 家計が苦しい
❷ 転居してきたばかりで知り合いがいない,転居が多い
❸ 介護が必要な家族がいる
❹ ひとり親家庭で子どもへの影響が心配
❺ 祖父母の介入が多くて困る
❻ 親の実家と不仲である
❼ 多子家族である—きょうだいに心配事がある
❽ 両親ともに仕事が忙しい—日祝日も仕事である
❾ 夫婦げんかが絶えない
❿ 保育所・学童(放課後児童クラブ)に入れない
⓫ 父親が単身赴任中である
⓬ 再婚で子どもがいる
⓭ 仕事がない
⓮ 家族に浪費家がいる・借金が多い
⓯ 学校が薬物療法をやたらとすすめてくる
⓰ 保育・教育環境が適さない
コラム:Tips
ミュンヒハウゼン症候群
個人情報保護法
法テラス
承認欲求
関連法案などのHP
過剰適応
子ども・子育て支援新制度
付 録
付録① 3〜4か月児健診アンケート
付録② 1歳6か月児健診アンケート
付録③ 3歳児健診アンケート
本書では,子どもと保護者(親)の関係性について,原則として「子ども」「親」という言葉で書かれています.
※保護者(親)としている項目もあり
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序文
推薦のことば
わが国の小児科医は子どもの発達の評価や予防接種などに時間をかけてきましたが,それ以上に疾病への対応に多くの時間を割いてきました.病気の患者さんが多かったためです.しかしながら,予防接種の充実,医療の進歩等により,実地医家や病院小児科の医師のいわゆるcommon diseaseへの対応が減ってきています.しかしながら,病気の時だけが子どもではありません.子どもは子どもとしてbiopsycosocialな存在であり,小児科医の本来の役割である子どもの健康を守り,増進するには,病気以外の様々な問題への対応が必要です.しかしながら,これまでの小児医学の教育や医療保険がカバーする範囲には子育て,子どものこころの問題,子どもをpsychosocialに支援する視点等が希薄でした.
子育てをする保護者は子どもの予防接種や病気を心配するだけでなく,自分の子どもが他の子どもと何か違っていると感じたり,さらに,子どもの発達,周囲との協調性,様々な障害の可能性等についても疑問や心配事を持っています.そして子育てについての心配を「育てにくさ」として感じ,小児科医,保健師,保育士などの子どもの専門家からアドバイスを貰いたいと思っています.一方,ITの普及により子育てに関する様々な情報が氾濫し,子育てをする保護者を混乱させています.
本書はこうした保護者からの「育てにくさ」についての相談に対して,保健師,保育士,小児科医などの子どもの専門家が子どもと保護者の状況を理解した上で,適切なアドバイスができることを目的に執筆されました.身近な問題に対して具体的で丁寧な記述がされており,理解しやすい内容になっています.本書に記載されている内容は,米国小児科学会が実施している子どもの健康診査のための方針であるBright Futuresのhealth supervisionとanticipatory guidanceに共通しており,子育ての悩みは日米に共通していることがわかります.本書は子どもの専門家への斬新で科学的な育児書と言えるかもしれません.
保健師,保育士はもちろんのこと,小児科医などの子どもの専門家も是非とも参考になる書籍であり,御推薦いたします.
2017年3月
国立成育医療研究センター 理事長
五十嵐 隆
「育てにくさ」について
小児科医である私は,親の感じる「育てにくさ」に,当初は子どもの発達障害や慢性疾患が関わっていると考え,「育てにくさ」をキーワードに発達障害の早期発見・早期支援を始めようとしました.しかし,「育てにくさ」には子どもの要因から生じるものだけではなく様々な例のあることがわかってきました.例えば,子育ての経験がなく「育てにくさ」を感じる例,経済的な困窮から「育てにくさ」を感じる例,さらには「育てにくさ」から子どもを虐待してしまう例など,さらに他の事態の要因となる例もありました.一方で,「子どもってこんなもの」と抱え込んでしまい「育てにくさ」を訴えない例も経験しました.そのため私は,「育てにくさ」を定義づけることはとても難しいと気づきました.そのような時に,「健やか親子21(第2次)」は,【「育てにくさ」を感じる親に寄り添う支援】を重点課題のひとつに取り上げました.「育てにくさ」の要因として「子どもの要因」「親の要因」「親子の関係性による要因」「親子をとりまく環境の要因」の4つが示され,私の考えも整理されてきました.
私は,「育てにくさ」という感覚は親にとって一つのSOSと考えます.どんな些細なことでも周囲に助けを求めてほしい,そのときに使う支援者との共通言語になってほしいのです.支援者は,「育てにくさ」の要因が一つなのか,いくつかの要因が組み合わさっているのか,あるいは継時的に要因が交替していくものなのか常に注視し,支援が届かなかったりすることのないようにしなければなりません.
本書は母子保健の現場で出会う様々な「育てにくさ」について,経験豊富な先生方にご執筆いただきました.本書を手にされた支援者の皆様方が,「育てにくさ」というSOSに気づき,4つの要因を紐解きながら丁寧に親子を支援して下さることを切に願っております.
2017年3月
あきやま子どもクリニック 院長
秋山千枝子