国立成育医療研究センターで活用されてきた医療保育マニュアルの書籍化.患者の遊び・話し相手,入院生活の援助・心理サポートや家族支援といった保育活動の基本から,保育記録の書き方,安全対策,災害時の対応,保育行事の進め方,また疾患別にみた保育支援や医療現場における保育士教育などを本書のために新たに書き加え,さらに内容を充実.基本から実践まで,医療保育の現場で役立つ1冊です.
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目次
監修の序
はじめに
国立成育医療研究センターの理念と方針
執筆者一覧
A章 保育の基本
Ⅰ.保育のねらいと役割
Ⅱ.係活動とその他の業務
1.係活動
2.保育士が参加している会議,他職種カンファレンスなど
Ⅲ.保育士の1日と保育過程
1.保育士業務「1日の流れ」
2.保育過程
Ⅳ.保育活動
1.保育活動を実施するうえでの留意事項
2.情報収集の項目
3.集団保育
4.個別保育
5.ぽけっと保育
6.保育行事
Ⅴ.生活援助と家族支援
1.食 事
2.排 泄
3.清潔(歯磨き・手洗い・うがい・鼻かみなど)
4.睡眠(生活リズム・休息)
5.着脱衣
6.家族支援
Ⅵ.保育活動中に起こりうる事故と安全対策
1.保育活動中に起こりうる事故
2.安全対策
3.災害時の対応
B章 保育の実践
Ⅰ.保育記録マニュアル
1.医療現場における保育記録
2.保育記録の体系
3.保育記録記載の流れ
Ⅱ.症例別にみた保育支援
1.クローン病の治療のため入院した12歳10か月女児
2.アトピー性皮膚炎の治療のため入院となった1歳8か月男児
3.気管支喘息で緊急入院となった3歳6か月男児
4.先天性心疾患(ファロー四徴症)により出生時より入院している3か月女児
5.心房中隔欠損症の心内修復術を受ける7歳2か月女児
6.ネフローゼ症候群の治療のため入院となった2歳9か月男児
7.急性リンパ性白血病と診断された6歳3か月女児
8.細気管支炎(RSウイルス肺炎)のため緊急入院となった2歳3か月男児
9.内服コントロールのため入院となった重症心身障害児6歳7か月男児
10.虐待を疑われた4歳10か月男児
11.川崎病で緊急入院となった自閉スペクトラム症5歳6か月男児
12.未熟児網膜症の手術のため入院した6か月女児
13.上腕骨顆上骨折で入院となった7歳1か月女児
14.口蓋扁桃肥大によりアデノイド摘出手術を受ける6歳6か月男児
15.在宅移行する低酸素性虚血性脳症の9か月男児
C章 多職種連携と医療現場における保育士教育
Ⅰ.多職種との連携について
1.医療現場での多職種について
2.他部署との連携
3.チーム医療における保育士のあり方
Ⅱ.医療現場における保育士教育
1.大学教育における保育学科
2.病棟保育士の養成と現状の課題
3.現場での教育のあり方〜当センターでの新採用者教育(入職1〜3年目)
医療保育の発展を願って
参考文献
索 引
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序文
監修の序
本書が世にでるきっかけは,私が当院病棟保育士の方々に「今,日常業務で行っていることをまとめてみないか」と提案したことでした.驚いたことに,すでに,彼女達は,系統立てて,疾患別にして,細かなマニュアルを作成し,それをもとに病棟での保育業務を行っていました.前から,医療保育に関する書籍は発刊されていますが,単施設で行っている医療保育の現場経験をもとにまとめたマニュアルは,私が知る限り,本書が初めてかと思います.
国立成育医療研究センター病院には,希少・難病疾患,重症疾患の子ども達が,全国から入院します.小児の入院医療は,医師,看護師のみで高いレベルを保つことはできません.この「高いレベル」の入院医療というのは,疾患の寛解,軽快という疾病オリジンの事象がよくなったということだけでなく,病棟内での良好な患者・家族のQOLの担保,子ども達の年齢・疾病重症度に見合った遊びの提供,精神・心理的負担の軽減を行っていなければなりません.日本の医療供給制度の原則の1つに,国民皆保険制度による医療費の安価な自己負担があります.全体の医療費も,世界から見れば,安く設定されています.安価な医療費ということは,裏を返せば,病院経費も少額になるということです.このような病院経費の少額な環境下で,子ども達の入院環境を向上させることは,病院経営上大きな困難があります.だからと言って,欧米の小児病院に比べて病棟内QOLは低くてもよいということにはなりません.繰り返しですが,医師,看護師のみで入院医療を行う時代は終わっていると言わざるを得ません.その時代背景もあり,病棟保育士の存在は,診療報酬上でも考慮されるようになりました.子どもたちには教育を受ける権利があります.同じレベルで,子どもたちは「保育」を享受できなければなりません.それは,病棟でも同じです.
本書では,病児の保育はもちろんのこと,保育記録の実際,保育における安全対策,他の職種との連携の仕方,代表的疾患別の保育実践内容などがまとめられています.これらは,国立成育医療研究センター病院で実際に行っている医療保育内容です.他の施設では,また別の考え,実践方法があるかと思います.医療保育のあり方は,これからも,目まぐるしく改善されていくかと思います.そのような状況において,本書が,その一助になれば幸いです.
本書がこの世に出るまでには,国立成育医療研究センター病院病棟保育士の加藤さん,豊田さん,八尾さん,山田さんの努力はもちろんのこと,診断と治療社の坂上さん,土橋さんには,忍耐強く援助をしていただきました.この場を借りて,心より御礼申し上げます.
本書が,これからの日本における医療保育の現場に貢献できるよう願って,序を閉じさせていただきます.
2016年7月
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター病院長
賀藤 均
はじめに
国立成育医療研究センターは2002年3月に開院し,今年で14年目を迎えました.当センターは「成育医療」すなわち,ライフサイクルとして捉えた医療体系として,受精卵から胎児,新生児,乳児,幼児,学童,思春期,生殖世代となって次の世代を生み育てるという人生のサイクルにおける心身の病態を包括的・継続的にみる医療を行っています.そのなかで,保育士は主に乳児,幼児,学童・思春期の患者・家族にかかわっています.
開院当初は6名の保育士が乳幼児病棟6病棟,各1名で保育を行ってきました.当初は保育体系も整っておらず,試行錯誤で多くの方の力を借りて今日まできました.2013年より学童・思春期病棟にも保育士が配置され,現在は8病棟,8名の保育士がそれぞれの病棟の特色に応じた保育活動を展開しています.
私たちは様々な疾患をもち,入院をしている患者・家族を対象に5つの保育目標を立てて,医療チームの一員として,保育活動を実践しています.本書では患者・家族に対して成長・発達や疾患に応じて遊び,話し相手,入院生活の援助,心理的なサポート,家族支援など保育士との様々なかかわりを保育活動としています.
今回は当センターの保育士が活用している「保育士業務マニュアル」「保育記録記載マニュアル」をもとに,“医療現場における保育士教育”と“症例別にみた保育支援”を追加し,医療保育の基本から実践までをまとめました.倫理的配慮から,実際の事例ではなく,私たちが経験した内容をもとに作成した模擬症例となっています.また本書で使用した症例写真については患者・家族の承諾を得て掲載しています.
本書を医療保育に携わっている保育士や今後医療保育を目指す方々の参考にしていただけると幸いです.
出版にあたり,看護部をはじめ,様々な診療科の先生方の助言やご指導,成育医療研究センターの立ち上げ当初よりご尽力くださった保育士の皆様に心より深く感謝を申し上げます.
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
主任保育士
加藤ゆみえ