日々新しい疾患が増え続けている遺伝性神経疾患.これらの疾患のなかには,「治療可能な遺伝性神経疾患」が少なからず含まれており,できるだけ早い段階で診断・鑑別し,神経の変性がはじまる前に治療を開始することが大事である.本書は,治療可能な疾患を見逃さないためのフローチャートと,近年明らかになった疾患を中心にエビデンスレベルとともに治療方法を解説した.
関連書籍
ページの先頭へ戻る
目次
序文
執筆者一覧
エビデンスレベルの分類
略語一覧
「第Ⅰ部 症候」の読み方
第Ⅰ部 症候
1 意識障害
2 退行
3 大頭症
4 不随意運動
5 眼球運動異常,眼科的異常
6 肝脾腫
7 てんかん
第Ⅱ部 総論
1 アミノ酸代謝異常症
2 有機酸代謝異常症
3 脂肪酸代謝異常症
4 ライソゾーム病,ペルオキシソーム病
5 ミトコンドリア病
6 尿素サイクル異常症
7 SLCトランスポーター異常症
8 神経伝達物質病
第Ⅲ部 各論
A.ミトコンドリア関連疾患
1 チアミン(ビタミンB1)代謝異常症候群
(1)チアミンピロホスホキナーゼ1欠損症
(2)ビオチン反応性大脳基底核病
2 リボフラビン反応
(1)Brown-Vialetto-Van Laere症候群,Fazio-Londe病
(2)ミトコンドリア呼吸鎖複合体I欠乏症(ACAD9欠損症)
(3)モリブデン補助因子欠損症A型
(4)コエンザイムQ10欠損症
(5)チオレドキシン2欠乏症
(6)ミトコンドリア炭酸脱水酵素欠損症
(7)ミトコンドリアグルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ欠損症
3 その他
(1)エチルマロン酸脳症
B.SLCトランスポーター異常症および関連疾患
1 葉酸,葉酸輸送・代謝
(1)脳葉酸輸送欠損症
(2)メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素欠損症
2 脳ドパミン-セロトニン小胞輸送
(1)脳ドパミン-セロトニン小胞トランスポーター変異疾患
3 ドパミン輸送
(1)ドパミントランスポーター欠乏症候群
4 クレアチン輸送・代謝
(1)脳クレアチン欠乏症候群
5 グルコース輸送
(1)グルコーストランスポーター1欠損症
C.その他
1.ウリジン反応性てんかん性脳症
2.PAK3関連性知的障害
索引
NOTE
・大頭症をきたす疾患
・不随意運動の定義と診断
ページの先頭へ戻る
序文
序文
次世代シークエンスにより新しい遺伝性神経が次々に見いだされ,神経系の維持・活動に必要なビタミンや,クレアチンなど生体内分子の輸送や合成・分解に関わる経路も明らかになってきています.臨床上で特に大事なことは,これらの疾患のなかには,治療できる病気が少なからず含まれていることです.これら「治療可能な遺伝性神経疾患」はまれであっても,できるだけ早いうちに鑑別し,神経の変性がはじまる前に治療を開始する必要があります.神経症候や神経画像・検査などからこれらの疾患を想起できるような,診療指針やガイドラインが国内にはありません.われわれの班は遺伝性の白質疾患や知的障害をきたす疾患を対象として調査・研究を続けてきました.この度,治療可能な遺伝性神経疾患に対する手引きを作成することとし,臨床に際して有用な鑑別診断の方法や,疾患概念の概説を加え,冊子媒体としてまとめることといたしました.
第I部では,意識障害,退行などの神経症候を呈している患者さんに関して,どのような所見があればこれら治療可能との診断にいたるのか,できるだけ簡潔に提示しています.その際の組み合わせは頻度よりも「その疾患に特異的な症候や検査」をあげていただくことにし,特異度を上げることを大事に考えております.第II部では,アミノ酸代謝・有機酸代謝といった疾患では,日本先天代謝異常学会を中心に,多くの優れたガイドラインが編纂され公開されていますので,「神経系からみた概説」をまとめています.SLCトランスポーター異常症といった新しい概念の疾患も提示していることも特徴です.第III部では,近年明らかになった疾患を中心に,治療可能な遺伝性神経疾患について,Mindsのガイドライン作成の手順を参考に,系統的な文献検索を行い,疾患概要,治療,診断をエビデンスレベルとともに提示しています.
この本が,一人でも多くの「治療可能な遺伝性神経疾患」の患者さんの診断・治療に役立つとともに,新しい治療法が開発され,この疾患リストが今後増えることを願っております.
2019年12月
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業
遺伝性白質疾患・知的障害をきたす疾患の診断・治療・研究システム構築班 研究代表者
小坂 仁