生殖補助医療で生まれる児の割合は今や18人に1人となっており,周産期医療の現場ではART妊婦を診察しない日はない.本書ではこれまで蓄積された,妊娠高血圧症候群,胎盤異常,早産,低出生体重児,SGA,新鮮胚・凍結胚などのエビデンスをまとめている.また,新たな可能性として,胎盤形成不全が原因の疾患の予知・治療についても解説する.
生殖医も産科医も必読の1冊!
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目次
序 章
生殖医療と周産期医療の狭間で 吉村泰典
第1章 生殖医療と周産期医療の連携をどのように考えるのか?
1.生殖医療と周産期医療の連携をどのように考えるのか? 池田智明
第2章 不妊の背景因子と周産期予後
1.年齢 前川 亮,杉野法広
2.子宮内膜症 原田 崇,谷口文紀,原田 省
3.子宮筋腫 原口広史,廣田 泰
4.子宮腺筋症 牧野真太郎
5.PCOS 日下田大輔,岩瀬 明
第3章 内科的・外科的疾患における妊孕性と周産期予後の問題
1.甲状腺機能異常 前沢忠志
2.耐糖能異常 杉山 隆
3.循環器疾患 神谷千津子
4.その他の内科的・外科的疾患 荒田尚子
5.がんサバイバー 杉下陽堂,鈴木 直
6.薬剤 河村和弘
第4章 高度生殖技術が周産期予後に及ぼす影響
1.ARTそのものの周産期予後 菅原準一
2.凍結胚移植と新鮮胚移植 古井辰郎,森重健一郎
3.精子異常およびICSIの影響 髙橋俊文
4.卵子提供と精子提供の影響 齋藤 滋
5.排卵誘発法,分割期胚移植vs胚盤胞移植,
着床障害(慢性子宮内膜炎を含む),
黄体機能不全,OHSSの妊娠への影響 髙井 泰
6.多胎妊娠:生殖医療の立場から 眞田裕子,原田美由紀,大須賀穣
7.多胎妊娠:周産期医療の立場から 中田雅彦
8.PGTの妊娠への影響 竹下俊行
第5章 周産期医療における問題:生殖医療との関連
1.胎盤形成異常 真木晋太郎
2.胎盤・臍帯の異常 長谷川潤一
3.早産:その原因について 板倉敦夫
4.先天異常,染色体異常,遺伝 三浦清徳
5.減数手術の実際と周産期予後 小谷友美
6.妊産婦死亡と生殖医療 田中博明,田中佳世
第6章 臨床現場での生殖医療と周産期医療の連携
1.不妊クリニックにおける不妊検査以外の妊娠に向けた検査と注意点 松岡麻理,森本義晴
2.ART妊娠・分娩に対する管理 春日義史,田中 守
3.続発性不妊 生水真紀夫
4.生殖医療・周産期医療とメンタルヘルス 白土なほ子,関沢明彦
第7章 ガイドライン,法律,倫理など
1.世界のガイドライン 左 勝則,石原 理
2.経済的な補助,法律関係 久具宏司
3.生殖医学と周産期医学の連携における倫理 苛原 稔
第8章 将来に向けた研究
1.周産期医療と生殖医療が共同研究すべき5つのテーマ 池田智明
2.生殖データベースと周産期データベースのリンケージ 桑原 章
3.高度生殖医療で出生した児の予後 不破一将,森岡一朗
コラム:症例 筋腫核出後の妊娠中における子宮破裂と癒着胎盤 大里和広
索 引
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序文
巻頭言
日本産科婦人科学会による生殖補助医療(ART)の成績2016 によると,ART で生まれた児は年間54,110 人に及び,これはなんと出生18 人に1 人の割合となる.また,凍結胚による妊娠は82.6%であり,また35 歳以上の高年妊娠の割合が年々増加している.このことは,周産期医療の現場において,毎日のようにART 妊婦を診察するようになったことからも実感される.しかし,「IVF-ET で妊娠」としか病歴には書かれないことも多いのが現実である.
わが国においては日本産科婦人科学会が中心となりART の詳細なデータベースが完備されており,毎年,世界中に発信されている.その中で,新鮮胚移植は自然妊娠に比べて,早産やsmall for gestational age(SGA)が多いことが論文として報告されている.この機序として,新鮮胚移植時は,着床時の子宮内環境の高いエストロゲン濃度が関係すると考えられている.また,凍結胚移植は自然妊娠に比べて,低出生体重児やSGA の発症率は減少するが,一方で妊娠高血圧症候群や癒着胎盤の発生が増加するという結果もでてきている.このようなエビデンスが次第に蓄積していく中で,周産期医は,ただ単に,ART で妊娠したというのみでなく,母体年齢,排卵誘発の方法,新鮮胚か凍結胚かどうか,子宮内膜症などの合併疾患など,多数の背景因子を考慮に入れ,周産期合併症の予知,管理法を丁寧に行っていくことを求められる時代となった.
生殖医療と周産期医療の連携を密にしなければならない必要性は,ART による妊娠が多くなってきたこと以外にもう1 つ,周産期における新しい変化がある.これは,胎盤形成不全が原因の疾患(placentation disorders,great obstetrical syndrome)といわれる胎児発育不全,妊娠高血圧症候群および常位胎盤早期剥離などの疾患が予知でき,予防,治療できる可能性がみえてきたからである.胎盤成長因子などのバイオマーカーで発症が予測でき,アスピリン,タダラフィル,プラバスタチンなどの薬物で胎児発育不全や妊娠高血圧症候群が予防または治療できる可能性があり,世界各地で盛んに臨床研究がなされている.ART 妊娠や卵子提供妊娠には,アスピリンを予防的に服用させるべきと推奨しているガイドラインもでてきている.
10 年以上前に,おもに周産期医療からの要請にて,移植される胚の数が制限され原則1 つとすることとなり,大きな成果が生まれた.本書は,生殖医療と周産期医療のエキスパートによって問題提起から始め,現在における最新の知見を網羅し,さらに将来的な研究なども展望した.
本書が,お互いの領域のギャップを埋めるのみでなく,よりよい協力体制を早期に確立し,結果的に患者さまや国民にとって有益となることに一助となることを願っている.
2020 年4 月
三重大学医学部産婦人科 池田智明