疾患についての基本から最新情報まで,わが国を代表する甲状腺のエキスパートが執筆した.内科的診かた,外科的診かたに分けて解説した「総論編」と基礎・臨床・専門知識,Topicsからなる「各論編」の2部構成.改訂第3版では,「バセドウ病治療ガイドライン2019」や「甲状腺クリーゼ診療ガイドライン2017」など,ガイドラインの改訂や新規治療薬などによる情報のアップデートを行い,“甲状腺専門医だけでなく関連分野のすべての医師が活用できる”を目指した.
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目次
口絵
推薦の言葉 森 昌朋
『内分泌シリーズ:甲状腺疾患診療マニュアル』第3版改訂にあたって 成瀬光栄
改訂第3版序文 西川光重
執筆者一覧
Ⅰ 総論編
1 甲状腺疾患の診療について(内科から) 田上哲也
2 甲状腺疾患の診療について(外科から) 伊藤公一
Ⅱ 各論編
第1章 基礎知識
1 甲状腺・副甲状腺の解剖 伊藤公一
2 甲状腺の発生と胎児期・新生児期の甲状腺機能 長崎啓祐
3 甲状腺ホルモンの合成・分泌・代謝 豊田長興他
4 甲状腺ホルモンの作用 田上哲也
5 甲状腺ホルモンの分泌・調節 佐々木茂和
6 甲状腺ホルモンと心血管病変 成瀬光栄他
7 甲状腺ホルモンと糖・脂質代謝異常 木村博典
8 甲状腺ホルモンと骨代謝 小松弥郷
9 甲状腺と自己免疫 岩谷良則
第2章 臨床知識
1 甲状腺疾患の疫学 田上哲也
2 甲状腺の診察の仕方 西川光重
3 甲状腺機能検査と解釈法 野村惠巳子
4 甲状腺の画像診断:超音波検査 宮川めぐみ
5 甲状腺の画像診断:CT,MRI 齋藤尚子
6 甲状腺の画像診断:シンチグラフィ・PET-CT 横山邦彦他
7 穿刺吸引細胞診:実施法 小野田教高他
8 穿刺吸引細胞診:病理診断 亀山香織
9 甲状腺の機能異常 田上哲也
10 Basedow病:診断 西川光重
11 Basedow病:薬物治療 吉村 弘
12 抗甲状腺薬の副作用 吉村 弘
13 Basedow病:アイソトープ治療 御前 隆
14 Basedow病:外科治療 杉野公則
15 甲状腺眼症 谷 淳一
16 甲状腺クリーゼ 赤水尚史
17 euthyroid Graves病 笠木寛治
18 甲状腺中毒性周期性四肢麻痺 田上哲也
19 中毒性結節性甲状腺腫(Plummer病) 中野賢英他
20 無痛性甲状腺炎 中前恵一郎
21 亜急性甲状腺炎・橋本病急性増悪 磯崎 収他
22 急性化膿性甲状腺炎 中前恵一郎
23 橋本病(慢性甲状腺炎) 吉村 弘
24 中枢性甲状腺機能低下症 堀口和彦他
25 粘液水腫性昏睡 白石美絵乃他
26 非自己免疫性甲状腺機能亢進症 磯崎 収他
27 潜在性甲状腺機能異常の治療ガイドライン 中島康代
28 薬剤誘発性甲状腺機能異常 笠井貴久男
29 euthyroid sick syndrome 豊田長興他
30 TSH産生腫瘍 吉原 愛他
31 甲状腺ホルモン不応症 村田善晴
32 多発性内分泌腫瘍症 臼井 健
33 自己免疫性内分泌腺症候群 伊藤光泰
34 IgG4甲状腺炎とIgG4関連甲状腺炎 覚道健一他
35 甲状腺良性腫瘍性病変 宇留野 隆
36 経皮的アルコール注入療法 中野賢英他
37 甲状腺癌の新WHO分類 近藤哲夫
38 甲状腺分化癌 長濵充二
39 甲状腺分化癌に対するアブレーションと補助療法 渋谷 洋
40 甲状腺低分化癌 赤石純子
41 甲状腺未分化癌 筒井英光
42 甲状腺リンパ腫 渡邊奈津子
43 甲状腺髄様癌 宇留野 隆
44 甲状腺癌の分子標的治療 正木千恵
45 甲状腺疾患の病理 亀山香織
46 甲状腺微小癌の取り扱い 北川 亘
第3章 専門知識
1 先天性甲状腺疾患 菱沼 昭
2 新生児マススクリーニング 長崎啓祐
3 小児期発症バセドウ病診療ガイドライン 菱沼 昭
4 小児甲状腺癌 渋谷 洋
5 甲状腺ホルモンと女性医学 小野瀬裕之他
6 甲状腺疾患と妊娠・出産 百渓尚子他
7 チアマゾール奇形症候群―抗甲状腺薬の催奇形性について― 荒田尚子
第4章 Topics
1 甲状腺関連血液検査の進歩 村上正巳
2 甲状腺機能検査の標準化 菱沼 昭
3 リコンビナントTSHの臨床応用 杉野公則
4 高齢者の甲状腺疾患 上條桂一
5 サイログロブリン遺伝子異常症
―甲状腺ホルモン合成障害,家族性多結節性甲状腺腫にかかわる遺伝子異常症― 深田修司
6 甲状腺ホルモン抵抗症 鬼形和道
7 放射線と甲状腺疾患―放射線被曝後の甲状腺発癌リスクについて― 山下俊一
8 放射線被ばくと甲状腺超音波検査 鈴木眞一
9 日本における甲状腺とヨウ素摂取の現状と問題 布施養善他
索 引
Information
・Basedow病の歴史的背景 西川光重
・バーチャル臨床甲状腺カレッジ 豊田長興
・日本甲状腺学会のホームページと関連学会へのリンク 田上哲也
・甲状腺腫の七條分類 田上哲也
・甲状腺外科学会解散:一般社団法人日本内分泌外科学会として再出発 今井常夫
・日本甲状腺学会の取り組み 田上哲也
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序文
推薦のことば
内分泌代謝疾患のなかで糖尿病と同様に症例数の多い疾病として甲状腺疾患があげられ,わが国における甲状腺疾患を有する患者の総数は900万人を超えると推定されている.そのため,一般医家が日常診療を行う際にも甲状腺疾患を有する患者さんを診療する機会は多いものと思われる.甲状腺疾患としては,Basedow病,無痛性甲状腺炎ならびに亜急性甲状腺炎などによる甲状腺中毒症を示す疾患と,橋本病や中枢性病変などに由来する甲状腺機能低下症を示す疾患があり,また良性から悪性に及ぶ甲状腺腫瘍を有する患者さんも多い.2009年に発行された『甲状腺疾患診療マニュアル』は,一般医家が日常診療を行う際に大変有益であるとの多くの言葉が寄せられ,また,学問の進展に伴い2014年には第1回の改訂が行われた.今般,甲状腺診療における最新データが追加され,補完された第2回目の改訂が成された.
日本甲状腺学会は,甲状腺疾患の診療を行ううえで重要でかつ今日的な課題である臨床重要課題を設定し,専門医師から構成される各委員会を設けて数年間の頻繁な討議を経て,疾患の診断基準と治療指針の作成ならびに改訂を行ってきている.これらのなかには諸外国に先んじて,診断基準や治療指針が確立された甲状腺疾患もある.特に,これに該当する課題として,甲状腺クリーゼの診断基準と治療指針,妊娠初期におけるBasedow病の治療指針などがあり,臨床的には不妊や妊娠継続期における甲状腺機能維持の治療方針も重要となっている.さらに,特徴ある抗腫瘍効果を示す抗PD-1抗体などの使用による薬剤性甲状腺機能異常の症例数も飛躍的に増加している.また,甲状腺ホルモン不応症は厚生労働省における難治性疾患の指定難病に指定され,最近では,Basedow病悪性眼球突出症に対する抗体療法の治験も進行中である.
上記の経緯を踏まえて,このたび改訂され上梓される『甲状腺疾患診療マニュアル』には項目冒頭に日常診療で見逃してはならない,直ちに役立つ最新の「臨床医のためのPoint」が掲げられており,またその内容は総論,基礎知識,臨床知識からはじまり,特に甲状腺疾患の画像診断と治療指針の項目が充実され掲載されている.本書はこのように改訂を重ねた工夫が随所に示されており,甲状腺疾患の日常診療を行う際に手元において十分参考になるものと確信する.
2020年6月
日本甲状腺学会 元理事長
代謝肥満研究所 所長
森 昌朋
『内分泌シリーズ:甲状腺疾患診療マニュアル』第3版改訂にあたって
わが国には内分泌疾患診療に関する系統的な書籍は必ずしも多くない.われわれは平成19年に,診断と治療社の「内分泌シリーズ」の初めての企画として『内分泌代謝専門医ガイドブック』を発刊したが,その後,現在までに『原発性アルドステロン症診療マニュアル』『褐色細胞腫診療マニュアル』『クッシング症候群診療マニュアル』『甲状腺疾患診療マニュアル』『内分泌機能検査実施マニュアル』『内分泌性高血圧診療マニュアル』『内分泌画像検査・診断マニュアル』『もっとわかりやすい原発性アルドステロン症診療マニュアル』『下垂体疾患診療マニュアル』『副甲状腺・骨代謝疾患診療マニュアル』など,合計17の書籍を発刊し,またその改訂を定期的に行ってきた.内分泌シリーズは,①診療に従事する関連分野のすべての医師が活用できること,②疾患の基本から最新の動向までをカバーしていること,③最新の診断基準やガイドラインを掲載,解説していること,④理解しやすいように図表を多くしていること,⑤各分野でわが国を代表する専門医に執筆を依頼したこと,などが特徴である.
『甲状腺疾患診療マニュアル』は,シリーズの5作目で,甲状腺ホルモンに関する基礎的事項,Basedow病や橋本病などの頻度の高い甲状腺疾患の診断と治療,内分泌代謝専門医が知っておくべき種々の病態,甲状腺疾患におけるトピックスなどの項目をバランスよく構成し発刊された.その後,改訂を行い,今回 改訂第3版となる.改訂の主眼は,診療ガイドライン等(『バセドウ病治療ガイドライン2019』『甲状腺クリーゼ診療ガイドライン2017』「甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018」「小児期発症バセドウ病治療のガイドライン2016」『甲状腺癌取扱い規約第8版』など),WHO分類や新規治療薬などの甲状腺癌に関するアップデートである.執筆にご協力頂いた諸先生方に,改めて心より感謝申し上げるとともに,本書がわが国の甲状腺疾患のさらなる診療水準向上に貢献できれば幸いである.
2020年6月
医仁会武田総合病院 内分泌センター長
国立病院機構京都医療センター 臨床研究センター客員研究員
京都大学糖尿病・内分泌・栄養内科 客員研究員
成瀬光栄
改訂第3版 序文
『甲状腺疾患診療マニュアル』は甲状腺実地臨床に身近に役立つことを目指して2009年4月に発行された.幸いに好評を博して増刷を重ね,2014年1月にその後の進歩を踏まえた改訂第2版が出版された.近年は学会主導のガイドブックや商業雑誌での甲状腺特集が多く出版されるなかで,本マニュアルは改訂後も広く読まれ,実地臨床医の臨床現場のみならず,研修医,あるいは甲状腺専門医用のすぐれた参考書としても親しまれてきた.
今回,改訂後6年を経て甲状腺臨床の最新の進歩,発展に対応するために,改訂第3版を上梓することとなった.
今回の改訂では,当初からの「実際の甲状腺臨床に役立つこと」という基本姿勢を維持しつつ,16本の追加項目を新たに建てて最新の情報を取り入れた.また,約8項目の論文に関しては項目名の変更や統合などを行った.旧第2版の執筆者には最新の知見に基づいて論文内容を刷新していただいた.今回も基本構成は総論と各論に分け,総論では甲状腺疾患の診療について,内科医と外科医の立場から甲状腺疾患が俯瞰的に解説されている.また,各論では臨床医が理解しておくべき基礎知識,実際の臨床に役立つ臨床知識と,より専門的な内容の専門知識に分けて,甲状腺診療に必要な情報を可能な限り組み入れた.
執筆者は中堅からベテランまでいずれも甲状腺学・甲状腺臨床に卓越した技量と実績をもつ方々である.それぞれの論文には教科書的な画一的な記述でない,執筆者の長年の経験に裏打ちされた情熱のこもった内容が込められている.
甲状腺疾患は一般臨床で非常にポピュラーなものである.甲状腺疾患の頻度は高く,また甲状腺機能異常の症状は多彩であるので,専門医でなくても一般臨床医が診る機会が多い.一方,甲状腺疾患の成因や機能異常の病態生理などはまだ解明されていない部分も多く,今後の研究発展に委ねられるべき範囲が多い.本書によって甲状腺疾患・甲状腺学の幅広さとその深さを感じ取っていただければ幸いである.
本書が甲状腺疾患臨床に役立ち,ひいては甲状腺疾患に罹っておられる多くの患者の心と身体の快復に資することを心から祈願する次第である.
2020年6月
神甲会隈病院 学術顧問
西川光重