本書は言語発達に問題がある子どもへの初期評価の方法を解説した書籍です.診断が未確定の子どもに対し,どのような評価が有効かを具体的に紹介しており,特定の障害に限定しない点が特徴です.また,保護者支援の重要性にも言及し,面談や心理的配慮のポイントも詳述.言語聴覚士の実務や教育現場で役立つ一冊です.
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目次
序
はじめに
第1章 言語発達障害領域における診断とは
● 1. 言語発達障害の評価
● 2. 言語発達障害の診断
1)子どもの言語障害の原因
(1)言語機能に関連する機能3
(2)言語機能
2)子どもの言語特徴の把握
(1)言語障害の有無について
(2)言語障害の種類は何か
(3)言語障害の程度はどれくらいか
3)今後の方針の設定
(1)方針を設定するために
(2)訓練の方針
(3)家庭生活への提案の方針
● 3. 支援の場に沿った評価の目的
1)早期発見・早期療育のシステム
2)専門機関
3)乳幼児健診
4)児童発達支援センター
5)訪問支援
● 4. 発達段階による評価の目的
1)乳児期
2)幼児期前期
3)幼児期後期
4)学齢期
第2章 言語発達障害児の評価・診断の臨床
● 1. 評価の方法
1)子どもの行動観察
2)子どもに対する検査
3)保護者との面談
● 2. 診断の方法
1)クリティカルシンキング
2)診断への施行のプロセス
第3章 子どもの行動観察
● 1. ファーストコンタクト
1)容姿からの情報
(1)特定の症候群による身体的特徴
(2)服装
(3)身だしなみはどうか
2)待合室での行動
3)最初にあいさつした時の反応
4)ST室への誘導
(1)遊びを終えること
(2)玩具の片づけ
(3)ST室への移動
● 2. 遊び場面の行動観察
1) 全般的な観察
(1)注意
(2)遊び場面に合わない行動の例
2) 子どもとモノとの関係
(1)モノ
(2)観察のポイント
(3)モノへの注目・接近
(4)モノの遊び方(操作・使い方)
(5)その他の気になる行動
3)子どもと人との関係
(1)子どもの大人への行動
(2)大人の子どもへの行動
(3)大人と子どもの相互のやり取り
● 3.言語行動の観察
1)言語理解
2)言語表出
(1)表出能力の発達について
(2)単語の表出について
(3)文の表出について
3)構音
(1)構音の誤り方
(2)構音器官の観察
第4章 子どもに対する検査
● 1. 検査の分類と目的
● 2. 聴覚検査
1)聴性行動反応聴力検査(BOA)
2)条件詮索反応聴力検査(COR)
3)ピープショウ検査
4)遊戯聴力検査
● 3. 発達検査
1)新版K式発達検査2001
● 4. 知能検査
1)田中ビネー知能検査Ⅴ
2)WISC-Ⅳ知能検査
3)WPSSI-Ⅲ
4)KABC-Ⅱ
5)DN-CAS認知評価システム
● 5. 言語発達検査
1)国リハ式<S-S法>言語発達遅滞検査
2)LCスケール
3)LCSA
● 6. その他の言語検査
1)語彙力の評価
(1)絵画語彙発達検査 PVT-R
(2)抽象語理解力検査
2)統語能力の評価
(1)構文検査
3)会話の評価
(1)質問―応答関係検査
4)発声発語の評価
(1)新版構音検査
(2)口蓋裂言語検査
(3)吃音検査
5)読み書き能力の評価
(1)改訂版標準読み書きスクリーニング検査(STRAW-R)
第5章 保護者との面接
● 1. 情報収集
1)主訴
2)生育歴
3)現在の様子
4)質問紙を用いた情報収集
(1)津守式乳幼児精神発達質問紙
(2)KIDS乳幼児発達スケール
(3)遠城寺式乳幼児分析的発達検査法
● 2. 面接の目的
1)医療面接
(1)保護者とのコミュニケーション
(2)医療面接と問診の違い
2)解釈モデル
3)ナラティブベイスドメディスン
4)子どもへの問題意識の聞き取り
● 3. 面接の技法
1)面接の前提
(1)不快感を与えない誠実な態度
(2)話しやすい雰囲気を作る
(3)相手を受け入れる
2)面接の進め方
(1)場所の設定
(2)面接の進行
3)面接の基本技術
(1)開かれた質問(オープンエンドクエスチョン)
(2)閉じた質問(クローズドエンドクエスチョン)
(3)共感的理解
(4)非言語コミュニケーション
(5)促し
(6)要約
● 4. 保護者の心理
1)親にとっての子どもの障害受容
2)親としての自立を応援する
第6章 対象児の記録
● 1. 行動観察所見の書き方
1)環境を把握する
2)バイアスを防ぐ
3)客観的に書く
4)文章表現について
● 2. 行動観察の実際
1)行動観察をするための環境の設定
2)行動観察所見の例
(1)発語に遅れのない4歳の自閉症男児
(2)6歳の機能性構音障害男児
第7章 対象児の報告書
● 1. 臨床場面
1)初期評価報告書の例
● 2. 実習
1)症例報告書の形式
2)症例報告書の一例
引用文献
索引
編著者プロフィール
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序文
言語聴覚障害診断学を執筆してから早いもので2年が経過しました.おかげさまで教科書として採用していただいている養成校も多々あると聞き及んでいます.
そもそも本書は,言語聴覚障害を学ぶ学生,経験年数の浅い臨床家,臨床実習指導者が,言語聴覚障害の評価方法やその流れを系統だって学んでいただくこと,また再度整理していただくことを目的に企画したものでした.しかしながら,私は若い時分から成人の言語障害の方のみを対象に,臨床を重ねてきたということもあり,本書の内容は成人の領域に偏ったものとなっていました.当然,我々の評価,治療の対象は小児から成人までとその年齢層は幅が広く,小児領域の言語聴覚障害診断学のテキストは私のみならず,言語聴覚士の養成校の学生や教員,臨床で小児領域に従事されている言語聴覚士の方もその必要性を少なからず感じておられたのではないかと推察します.そのような現状の中,この度,2年遅れとはなりましたが,小児領域の言語聴覚障害診断学のテキストを発刊することとなりました.
執筆者は同僚の井﨑基博先生です.井﨑先生は,私の卒業した養成校の先輩から指導を受けた(元)卒業生ということもあり,言語聴覚障害診断学に対して前回,監修をお願いした都筑澄夫先生や私の考え方に理解を示していただき,我々と共通の基本的な考えのもと,非常にわかりやすいテキストを完成させてくれました.
現在,小児領域の障害も,評価,診断の知識や技術が以前にもましてより一層進み,言語聴覚士にも,これまで以上に多くの期待が寄せられているのを感じます.そのような状況の中,本書が学生だけでなく,若い臨床家にとっての一助となれば,それに勝る喜びはありません.
2018年11月
熊本保健科学大学 大塚 裕一