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書籍詳細

抗原量に基づいて「食べること」を目指す
乳幼児の食物アレルギー診断と治療社 | 書籍詳細:乳幼児の食物アレルギー

同志社女子大学生活科学部食物栄養科学科教授

伊藤 節子(いとう せつこ) 執筆

初版 B5判 並製 204頁 2012年09月07日発行

ISBN9784787819727

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定価:本体5,000円+税
  

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乳幼児のための食物アレルギー診断・治療の集大成.正しい抗原診断と食品の抗原性を理解したうえで,必要最小限の食品除去により,耐性の獲得を目指して「食べること」につなげていく.離乳食の進め方から調理による食品の低アレルゲン化まで,安全な食事指導を特に詳細に解説している.臨床経験豊富な著者が長年にわたり蓄積したデータも満載した,必読の一冊.

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目次

目  次
はじめに
著者紹介

第1章 食物アレルギーが起こるしくみ 

A 食物アレルギーとは
 1 食物アレルギーの定義
 2 食物アレルギーと鑑別すべき疾患 
 (a)毒性物質による反応(誰にでも起こる反応) 
 (b)食物不耐症(特定の人に起こる反応) 
 3 食物アレルギーの分類 
 4 食物アレルギーによるおもな症状と原因食品 
 5 IgE‐mediated food allergyとしての食物アレルギー 
B 食物アレルギーが起こるしくみ  
 1 食物がアレルゲンとなるための条件 
 (a)食物側の要因 
 (b)生体側の要因:乳児期に食物アレルギーを発症しやすい理由 
 2 アトピー素因 
 3 アレルギー反応が起こるしくみ 
 4 食物抗原による感作と症状誘発の経路 
 (a)胎内感作の可能性 
 (b)経母乳感作
 (c)食生活と抗原感作
 (d)その他の感作ルート
 (e)交差抗原性の関与するクラス2食物アレルギー 
 5 いったん食物アレルギーが起こると新たな食物アレルギーが起こりやすい理由

第2章 食物アレルギーの原因抗原の診断と摂取可能量の決定

A 食物アレルゲン同定の流れ 
 1 問診・食物日誌 
 (a)問診
 (b)食物日誌
 2 食物以外の症状悪化因子の除外(アトピー性皮膚炎の場合)
 (a)石けん,洗剤,柔軟剤など皮膚への外的刺激の回避
 (b)外用剤により湿疹病変をいったん治す
 (c)汗と保湿剤に注意
 (d)砂かぶれなど
 (e)殺菌剤を使用していないかどうか
 (f)ダニやペットなどの室内環境
 (g)花粉など
B 診断のための検査  
 1 一般検査
 2 血清総IgE値
 3 原因食物抗原を同定するための検査:免疫学的機序の関与の証明 
 (a)抗原特異的IgE抗体 
 (b)好塩基球ヒスタミン遊離試験 
 (c)皮膚テスト:プリック/スクラッチテスト 
C 食物除去試験
 1 診断の時の除去は完全に:摂取できるものを具体的に指導するのがコツ
 2 食事記録から除去の確認をすることも正しい診断のためには必要 
 3 即時型反応症例では除去中であることを食事記録によって確認する
D 食物経口負荷試験 
 1 食物経口負荷試験を行うかどうかをまず判断:安全性を重視
 (a)イムノキャップ®による抗原特異的IgE抗体検査の活用 
 (b)HRTシオノギ®の活用
 2 食物経口負荷試験を行わずに治療としての食品除去を開始する場合
 3 耐性の獲得の確認または摂取可能量の確認のための食物経口負荷試験 
 4 食物経口負荷試験の方法
 (a)食物経口負荷試験の分類
 (b)経母乳負荷試験
 5 食物経口負荷試験実施時の注意 
E 「食べること」を目指した治療のための臨床検査の活用法 
 1 問診と食物日誌から原因食物抗原を絞り込み,網羅的検査は避ける
 2 抗原コンポーネントタンパク質レベルでの検査の活用 
 3 好塩基球ヒスタミン遊離試験(HRT)の活用
 (a)HRTシオノギ®の結果の表し方とヒスタミン遊離曲線のパターン
 (b)即時型反応,アナフィラキシーの原因抗原診断におけるHRTシオノギ®の有用性 
 (c)負荷試験を安全に行うためのHRTシオノギ®の活用 
 (d)HRTシオノギ®の結果判定時の注意

第3章 食物アレルギーが治るしくみ 

A 早期の診断と治療開始が治るキーポイント 
 1 食物アレルギーを治す鍵は早期の診断と適切な食事療法
 2 一時的に抗原回避(=必要最小限の食品除去)が必要な理由 
 3 食品除去は必要最小限にする
 (a)極端な食品除去の継続は過敏性の増強につながるので注意
 (b)食品除去により症状が消失してしまうことが落とし穴である 
B 食物アレルギーが治るしくみ  
 1 成長に伴う因子
 2 アレルゲン除去に伴う現象
 (a)抗原特異的IgE抗体の緩やかな低下
 (b)抗原特異的IgG抗体の速やかな低下 
 (c)好塩基球ヒスタミン遊離試験のlow‐responder化
 (d)耐性の獲得に伴ってみられる現象
 (e)治りかけていることを示す徴候

第4章 早期治療開始によるアレルギーマーチの進展の予防 

A アレルギーマーチの初発症状としての食物アレルギー 
 1 乳幼児の食物アレルギー
 (a)乳児期発症の食物アレルギーの関与するアトピー性皮膚炎
 (b)即時型反応~アナフィラキシー
 (c)新生児・乳児消化管アレルギー
 2 乳児の食物アレルギーにおけるアトピー性皮膚炎と即時型反応
B 乳児期発症の食物アレルギーの関与するアトピー性皮膚炎  
 1 アトピー性皮膚炎の定義と原因・悪化因子としての食物
 2 乳幼児における食物アレルギーとアトピー性皮膚炎の関係 
 (a)乳幼児アトピー性皮膚炎における食物アレルギーの関与:疫学調査からわかること
 (b)乳幼児アトピー性皮膚炎における食物アレルギーの関与:アレルギー 外来初診例における検討 
 3 乳児期発症の食物アレルギーの関与するアトピー性皮膚炎の臨床像 
 4 原因食物アレルゲン診断のコツ
C 乳児期発症の食物アレルギーの関与するアトピー性皮膚炎とアレルギーマーチ
 1 卵アレルギーの関与するアトピー性皮膚炎の経過
 2 アレルギーマーチの進展の予防の観点からみた食物アレルギー治療におけるcritical period 
 3 即時型反応の喘息発症に及ぼす影響:即時型反応が気道の過敏性を増強
 (a)即時型反応発現回避の重要性 
 (b)1年以内の呼吸器症状発現に及ぼす影響
 (c)3年以上の経過観察例における喘息発症と吸入抗原による感作率
D 食物アレルギーの関与するアトピー性皮膚炎の治療 
 1 食物アレルギーを発症した乳児をアトピー素因の強い児としてとらえる
 2 食事療法の必要性
 3 アレルギーマーチの進展の予防を目指した早期治療介入 
 4 離乳食の進め方の原則
 (a)離乳の開始
 (b)食品摂取の方法
 (c)薬剤投与
 (d)検査結果
 (e)アトピー性皮膚炎との関連

第5章 食事療法の実際 

A 食物アレルギー児の食事指導 
 1 食物アレルギーの治療における食事療法の位置付けと食事療法のポイント
 2 食事療法の基本 
 (a)正しい抗原診断に基づく必要最小限の食品除去が基本
 (b)常に診断の見直しをしながら食事指導を行う
 (c)除去解除のタイミングを逸しないこと(ただしアトピー性皮膚炎の軽快は必ずしも食物アレルギーの耐性の獲得を意味するものではないことに注意)
 (d)「食べること」を念頭において治療し,常に診断の見直しをする 
 3 アレルギー物質の表示制度の活用 
 (a)容器包装された加工食品のアレルギー物質の表示の見方 
 (b)アレルギー物質の表示制度が定着した現在における食事指導
 (c)表示制度を活用した加工食品の選び方
 (d)表示制度下での食事作り
 (e)アレルギー用食品店における紛らわしい表現に注意 
 4 必要最小限の食品除去実施のコツ:保育園の給食に学ぶこと
 (a)食物アレルギーの原因食品は多様であるが,実は限られた食品が原因となっている 
 (b)保育園通園中の乳幼児では卵,牛乳,小麦の3品目が除去食品の75%以上を占める
 (c)保育園は頼もしい味方 
 (d)保育園での対応の方法にアレルゲン除去食をうまく行うヒントがある
 5 栄養面への配慮
 (a)鉄とカルシウムの摂取不足は乳幼児全体の食事における課題
 (b)食品除去の必要性についての定期的再評価と見直しの重要性
 (c)栄養評価
 6 食品除去の方法
 (a)食材として用いないで調理する:食品別対応の実際と注意点
 (b)調理による低アレルゲン化
 (c)加水分解,発酵による低アレルゲン化 
B 離乳食の進め方
 1 離乳食の進め方の基本
 (a)離乳の開始(5~6か月頃) 
 (b)2回食から3回食へ(7~8か月頃から9~11か月頃)
 (c)離乳の完了(12~18か月頃)
 2 食物アレルギー児の離乳食の進め方 
 (a)離乳食の進め方のポイント
 (b)離乳期に卵,牛乳,小麦を除去する場合の注意
 (c)食物アレルギーと診断されたときの母親の食事
C 食事療法に生かすことができる調理による食品の低アレルゲン化 
 1 「食べること」を目指した食品の低アレルゲン化
 2 「食べる」側から見た食品の抗原性の評価法についての基礎検討
 (a)特定原材料検出のために開発された二通りの抗原検出法
 (b)固ゆで卵中のOVAとOM抗原量でみる新法と従来法の違い
 3 卵,牛乳,小麦の主要アレルゲン
 (a)鶏卵
 (b)牛乳
 (c)小麦
 4 生体側の反応性からみた卵,牛乳,小麦の主要アレルゲン
 (a)鶏卵
 (b)牛乳
 (c)小麦
 5 加熱調理による食品の低アレルゲン化の法則 
 (a)調理による卵白の低アレルゲン化
 (b)調理による牛乳中のカゼインとβ‐ラクトグロブリンの低アレルゲン化
 (c)調理による小麦の低アレルゲン化 
 6 調理による卵の低アレルゲン化の実際
 (a)卵黄のアレルゲン性は混入する卵白量により決まる:卵白との分離がキーポイント 
 (b)卵白の低アレルゲン化 
 (c)調理食品・加工食品中のOVAとOMの抗原性のパターン分類
D 食品除去解除のための食事指導 
 1 食品除去解除の基本
 (a)食品除去の適応についての定期的な再評価の必要性
 (b)乳児期発症の食物アレルギーの関与するアトピー性皮膚炎における除去解除 
 (c)即時型反応既往例における食品除去解除
 2 食物経口負荷試験結果に基づく「食べること」を目指した食事指導
 (a)『食物アレルギー診療ガイドライン2012』における負荷食品の抗原量
 (b)食物経口負荷試験結果を反映させた食品摂取可能量 
 (c)重症卵アレルギーにおける摂取抗原量に基づく食事指導における注意 

第6章 誤食時の対応と海外旅行時の注意 

A 誤食時・接触時の症状の起こり方と対応の要点 
 1 誤食時の症状の進行の仕方と対応
 2 園・学校生活における配慮 
B アナフィラキシーの予防と対応の実際 
 1 アレルゲンを含む食品の摂取回避 
 2 園・学校の給食における誤食を起こさないための工夫 
 3 家庭,園・学校における誤食時の対応 
 4 アドレナリン自己注射器(エピペン®)使用時の注意
C 国内・海外旅行時の注意 
 1 旅行時,宿泊行事における注意点 
 2 海外旅行時にエピペン®を携帯するときの注意 

索引
おわりに

Coffee break
 検査結果をうまく活用するために
 除去試験実施のコツと経母乳負荷試験 
 抗原特異的IgE抗体と抗原特異的IgGおよびサブクラス抗体は競合的に働く
 乳児期のアトピー性皮膚炎では,まず原因・悪化因子を見つける努力を! 
 乳児期発症のアトピー性皮膚炎で気になること
 気管支喘息にならないために
 本物の魚アレルギーを作らない方法 
 離乳食は食育の原点
 「食べる」のは食品である 
 卵を制するものは食物アレルギーを制する
 アレルゲン除去食の目的は,安全に,楽しく「食べること」である

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序文

はじめに
 本書は,食物アレルギー児の示す現象をすべて真実と捉え,どのように科学的に説明すれば普遍性を持つのか,またどのような指導をすればQOLを損なうことなく食物アレルギーが治るのか,という視点で書いたものである.
 たいへん幸運なことに,京都大学医学部附属病院小児科のアレルギー外来は主治医制であったので,一貫した指導により患児や保護者との信頼関係が築かれ長期フォローが可能であり,その後赴任した医仁会武田総合病院でも同様であった.また,2児の母親としての経験から,保護者の訴えに応えて具体的な食事指導ができたことが最大の利点であった.食物アレルギーと診断されても,「食べること」を目指して食品除去は必要最小限にすること,牛乳アレルゲン除去調製粉乳以外は普通の食品で対応可能であること,摂取できるようになるまで通院することを徹底させることができた.
 本書に記したように,多くの臨床データから,食物を生体が異物として捉えたときの反応は細胞性免疫から始まり,児の発育の過程における抗原曝露のタイミングと抗原量により,IgE抗体産生が優位になりIgE依存性の食物アレルギーを発症することも,IgG抗体産生が優位になって免疫寛容が成立することもあることがわかった.しかし,食物の「消化・吸収」は依然としてブラックボックスのままであった.
 臨床現場でひたすら食物アレルギー児の診療にあたっていたときに,1つの転機が訪れた.それは,1998年秋に開かれた泊まり込みのシンポジウム「食物アレルギー:基礎と臨床のクロストーク」(代表:三河春樹京都大学名誉教授)であった.筆者に与えられたテーマはIgE産生機構の分野で「乳幼児における臨床―IgE抗体とIgG抗体・血中,母乳中のアレルゲン濃度」であった.抗原特異的IgE抗体とIgG抗体については,本書の第3章に述べるようにすでにデータの蓄積があったが,アレルゲンに関する研究の実績はなかった.これをきっかけとして,アレルゲンに目を向けることになったのである.そして,アレルゲンに関して,臨床医は基礎学者のデータを鵜呑みにしており,きちんとした臨床的な検証がほとんどされていないことがわかった.
 その後,1999年夏に同志社女子大学で管理栄養士の養成に携わる医師の公募をしていることを知った.食事指導に役立つアレルゲンの評価法と低アレルゲン化の研究をしようと一念発起して応募し,2000年4月に現職に就任した.研究日と土曜日にはアレルギー外来を続けることができ,研究成果の臨床における検証も可能となった.
 2002年にアレルギー物質の食品表示が義務化された.このときの公定法として定められたアレルゲンタンパク質の測定系の活用により,食品の「食べる」側から見た抗原性の評価ができ,食品の低アレルゲン化の評価に応用することが可能であることを示すことができた.
 卵の主要抗原である卵白アルブミンとオボムコイドの抗原性の変化についても新しい発見があった.本書をお読みいただくとわかるように,卵の抗原性の変化を理解すると患者さんの示す現象がよく理解できる.また,抗原量に基づく食事指導により,最重症例においても安全に耐性の獲得をはかることが可能である.
 本書の大まかな内容を紹介する.主題は「食べること」を目指して安全に行う食事療法である.本書に示す食事療法は抗原量に基づいて計画的に摂取していく方法であり,経口免疫療法の漸増法に他ならないが,あえて「経口免疫療法」という項目立てを行っていない.それは現在行われている「経口免疫療法(急速法)」がしばしば重篤な症状を惹起することを容認しながら行われているが,本書の示す食事療法は安全性を第一にし,しかも「経口免疫療法(急速法)」が必要な食物アレルギー児を作らないことを目指しているからである.
 「食べること」を目指した食事療法は,正しい抗原診断から始まる.単なる感作を食物アレルギーと判断しないためにも,詳しい問診と食物日誌の確認の重要性,網羅的検査は避けること,食物経口負荷試験は安全に行うべきであること,治すためにはいったんは除去が必要になるが必要最小限にとどめ,耐性の獲得に必要な条件とそのサインを見逃さないために,一人ひとりの食物アレルギー児を丁寧にみていく必要があることをまず述べた(第1章~第3章).
 第4章では,「経口免疫療法(急速法)」が必要となる食物アレルギー児を作らないために,多くの食物アレルギー児が最初に経験する疾患である,食物アレルギーの関与するアトピー性皮膚炎の早期診断の重要性,特に除去試験と経母乳負荷試験をきちんと実施して原因抗原の診断を行うことと,早期治療開始と適切な時期に除去解除を行うことの重要性,負荷試験時も含めて即時型反応を回避すべきであることを,非常に多くの食物アレルギーの乳幼児をみていた医仁会武田総合病院時代のデータをもとに述べた.
 第1章~第4章の耐性の獲得に向けて行う正しい抗原診断を前提として,第5章では食事療法の実際について述べた.個々の食物アレルギー児において,症状の起こり方を規定するのは吸収される食物抗原の量である.この食物抗原の量こそが症状出現の鍵を握っているのであるが,複数の要因により規定されるため食物アレルギーの臨床を複雑にしている.生体側の要因としては「消化・吸収」といういわばブラックボックスがあり,食品側としては,調理や副材料により食品中の抗原コンポーネントタンパク質ごとに異なった変化を受けることが食物抗原の理解を難しくしている.この章では卵を中心にできるだけわかりやすく「食べる」側から見た食物の抗原性の変化について説明することに努めたつもりである.
 第6章では誤食時の対応と誤食を起こさないための工夫や旅行時,特に海外旅行時の注意についても述べた.
 より具体的な食事療法の実際として,続編として卵,牛乳,小麦アレルギー児のレシピ集の刊行を予定している.このなかでは加熱調理や副材料との組み合わせによる低アレルゲン化のより具体的な臨床応用,特に重症児の耐性獲得のための食事療法に使えるレシピについても述べる予定である.

 2012年9月
同志社女子大学 生活科学部 食物栄養科学科 教授
伊藤節子