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書籍詳細

授業・実習・国試に役立つ 言語聴覚士ドリルプラス

器質性構音障害診断と治療社 | 書籍詳細:器質性構音障害

熊本保健科学大学保健科学部リハビリテーション学科言語聴覚学専攻教授

大塚 裕一(おおつか ゆういち) 編集

大阪人間科学大学保健医療学部言語聴覚学科講師

宮地 ゆうじ(みやち ゆうじ) 著

初版 B5判 並製 72頁 2021年12月20日発行

ISBN9784787825230

定価:2,090円(本体価格1,900円+税)
  

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言語聴覚士を目指す学生のための『言語聴覚士ドリルプラス』シリーズ,ついに完結!この最終巻で取り上げた「器質性構音障害」では,構音の問題は患者さんが抱える様々な問題の一側面に過ぎず,原疾患の理解が最重要となります.本ドリルでは構音以外にも原疾患や治療法の特徴について重要項目をピックアップし,理解を深める構成となっています.授業の復習から実習,国試,そして臨床に出てからも役立つ問題集です.

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目次

刊行にあたって 大塚裕一
器質性構音障害は,“言葉だけの問題”と理解してはいけない 宮地ゆうじ
編集者・著者紹介
本ドリルの使い方
第1章 器質性構音障害の歴史
 1 器質性構音障害に関する歴史的変遷
第2章 器質性構音障害の基礎
 1 器質性構音障害の定義
 2 器質性構音障害にかかわる解剖と生理
  ①発声発語器官の仕組み
  ②口腔顔面領域の発生と成長に伴う変化
  ③正常な構音の獲得過程 
 3 器質性構音障害の特徴
  ①共鳴の異常
  ②術後の構音障害
  ③異常構音(1)鼻咽腔閉鎖機能不全に関連するもの
  ④異常構音(2)鼻咽腔閉鎖機能不全に直接関連しないもの
 4 器質性構音障害に関連する疾患
  ①口唇・口蓋の異常(1)
  ②口唇・口蓋の異常(2)
  ③舌の異常(1)
  ④舌の異常(2)
  ⑤歯列・顎の異常
  ⑥頭頸部奇形等を伴う先天異常
第3章 器質性構音障害の臨床
 1 器質性構音障害の評価
  ①構音に関連する諸要因の評価
  ②発声発語器官の形態と機能の評価
  ③音声言語の評価
 2 器質性構音障害の治療と訓練
  ①構音訓練の基本と原則
  ②医学的治療(1)
  ③医学的治療(2)
  ④発音補助装置(補綴装置)の利用
第4章 器質性構音障害の環境調整
 1 家族への支援と心理的ケア
 2 関係機関との連携とコンサルテーション

文 献
採点表
索 引

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序文

刊行にあたって

 現在わが国には,およそ70校の言語聴覚士の養成校が存在します.言語聴覚士法(1997年)の成立時にはその数は数校程度だったのですが,20年あまりで増加し,県によっては複数校存在しているという状況になっています.言語聴覚士の養成は,さかのぼれば1971年,日本初の言語聴覚士養成校である国立聴力言語障害センター附属聴能言語専門職員養成所での大卒1年課程の開設が記念すべきスタートになるかと思います.その後,開設された養成校の養成課程は,高卒3年課程や高卒4年課程の専門学校,大学での4年課程,大卒を対象とした2年課程などさまざまで,あらたに専門職大学での養成課程も加わりました.
 言語聴覚士法が制定されてから,この約20年間での言語聴覚士にかかわる学問の進歩は著しく,教育現場で修得させなければならない知識・技術は増大する一方です.しかしながら入学してくる学生は,千差万別で従来の教育方法では十分な学習が困難となってきている状況もあります.
 今回,このような状況を改善する方策の1つとして,修得すべき基本知識を体系的に示したドリルを作成してみました.内容は,言語聴覚士の養成校で学ぶべき言語聴覚障害を専門領域ごとにまとめてシリーズ化し,領域ごとのドリルの目次は統一したものとし,目次を統一したことで領域ごとの横のつながりも意識しやすくなるようにしました.
 特徴としては
①すべての養成課程の学生を対象にしたドリルであること
②日々の専門領域講義の復習のみならず,実習,国家試験にも対応できる基本的な内容を網羅していること
③専門領域ごとにまとめたドリルであるが目次が統一されており,領域ごとの横のつながりが意識しやすいこと
などがあげられます.
 対象は学生ということを念頭においてシリーズ化したのですが,臨床現場で活躍されている言語聴覚士にも,基本的な知識の整理という意味で使用していただくことも可能かと考えています.
 最後に,この『ドリルプラス』シリーズが有効活用され言語聴覚士養成校の学生の学びの一助となることを期待します.

令和3年11月

大塚裕一




器質性構音障害は,“言葉だけの問題”と理解してはいけない

 私は学生時代から決して努力家ではなく,どちらかというと試験直前にポイントだけを覚えて,ギリギリ試験をパスするというタイプの人間でした.先生からも「要領だけはよい」と言われ,褒められてもいないのに,それを100%ポジティブに捉えているような学生でした.当時を振り返ると,学生の頃から構音障害には興味があり,熱心に学んでいたのですが,「なぜ,わざわざ機能性構音障害と器質性構音障害を別々に学ぶ必要があるのだろう?」と疑問を浮かべながら授業を聞いていました.もっと正直にいえば,「器質的な問題があるのか,ないのかの違いであって,同じ発音の問題でしょ?」と考えていたのです.ひょっとすると,皆さんのなかにもそのように考えておられる方がいらっしゃるかもしれませんね.
 私はそのような認識のまま病院実習に臨みました.初めての症例は,今でもよく覚えていますが,発音が不明瞭なアスペルガー症候群(現:自閉症スペクトラム障害)のお子さんでした.構音検査を実施したところ/ɾ/が[d]に近い歪み音として聴取され,口腔内を確認したところ明らかに舌小帯が短く,舌尖の挙上が難しい状態でした.私は構音訓練のみで改善は困難と考えましたが,医学的治療(舌小帯手術)が本当に必要なのか大いに迷いました.当時の私には知識や経験がないだけでなく,そもそもこのような重大な決断に立ち会う覚悟もできていませんでした.
 さらに,これまでの授業では「発音の問題」としか理解していなかったため,「入院が必要なのか」「手術は全身麻酔で行うのか」「いつからご飯を食べてよいか」など,不安そうな本人とご家族からの質問にほとんど答えることができませんでした.
 このように器質性構音障害の場合,構音の問題は患者さんが抱えるさまざまな問題の一側面にすぎず,まず原疾患に関する理解が最重要であり,そして,機能的な側面はもちろん,生活面や精神面などを包括的に理解する視点が必要になります.また,治療に関しても多職種が協働で行うため,構音訓練に関する知識だけでなく,さまざまな治療の特徴についても理解しておく必要があるのです.
 本書では,できる限り器質性構音障害に関連する疾患や治療法について触れながら,重要項目をピックアップしてまとめました.ぜひ日々の授業の復習や実習対策,国試対策として活用していただければと思います.

令和3年11月

宮地ゆうじ