日本内分泌学会が総力をあげて編集した内分泌代謝科専門医テキストの決定版.小児科・産婦人科分野を充実させ,内分泌代謝科専門医が必要な知識を網羅した.総論では,代謝経路やホルモンの作用機序などについて,各論では主要症候別,疾患別に検査・診断・治療の最新情報について,各領域のエキスパートが執筆.内分泌代謝科専門医を目指す医師や専門医としてさらに知識を広げたい医師,日々の内分泌診療に携わる医師にぜひ持っていただきたい一冊.
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目次
口絵
序文
刊行によせて
日本内分泌学会の新専門医制度への対応について
執筆者一覧
目次
略語一覧
日本内分泌学会専門医研修カリキュラムおよび評価表
第1章 倫理,安全,専門医制度
1 倫理指針と個人情報保護
2 専門医研修における医療安全の考え方
第2章 総論
1 ホルモンとは
2 ホルモンの合成,分泌,輸送,代謝―概論
(1) ペプチドホルモン,アミン系の合成,代謝
(2) ステロイドホルモン系の合成,代謝
(3) 神経内分泌機構
(4) ホルモンの分泌調節:ネガティブフィードバック機構など
3 ホルモンの作用機構
(1) 細胞膜受容体
(2) 核内受容体
4 内分泌疾患の病因
(1) ホルモンの分泌低下
(2) ホルモンの分泌過剰
(3) 異常ホルモンの分泌:プロセシング異常など
(4) ホルモンの異所性産生
(5) ホルモン不活性化酵素の異常
(6) ホルモン結合蛋白の異常
(7) ホルモン受容体異常症
5 内分泌疾患の診断,鑑別
(1) 医療面接,病歴,臨床症状―概論:ポイント,注意点
(2) 身体診察,所見
(3) 小児の問診・病歴・身体診察・臨床症状(注意点)
(4) 一般検査所見,胸腹部単純写真,心電図
(5) ホルモン濃度の測定法,結果の解釈
(6) 内分泌・代謝機能検査―総論
(7) 静脈サンプリング
6 内分泌疾患の治療―総論
(1) 腫瘍:手術,放射線,薬物療法(治療アルゴリズム)
(2) 機能性腫瘍における薬物療法
(3) 内分泌機能低下症におけるホルモン補充療法
(4) 水・電解質異常症:診断と治療のポイント
7 遺伝カウンセリング
(1) 総合的遺伝医療の立場から
(2) 小児科の立場から
第3章 主要症候,病態からの鑑別診断
1 意識障害
2 視力障害
3 筋力低下
4 過食
5 低血圧
6 高血圧
7 低ナトリウム血症
8 低カリウム血症
9 高カルシウム血症
10 低カルシウム血症
11 低リン血症
12 高リン血症
13 浮腫
14 口渇,多飲,多尿
15 多汗症
16 乳汁分泌
17 低身長
18 肥満
19 食欲不振
20 体重減少
21 低血糖
22 脱毛
23 多毛症
24 皮膚病変
25 動悸
26 思春期の徴候と発来時期
27 無月経
28 女性化乳房
29 顔貌
30 肝障害
31 精神症状
32 勃起障害,性欲低下
第4章 機能診断
1 機能検査―総論
2 視床下部・下垂体機能検査
3 視床下部―下垂体後葉系の機能検査
4 甲状腺
5 副甲状腺
6 副腎
7 女性性腺
8 男性性腺
9 膵・消化管(内分泌機能検査)
10 小児期の内分泌機能検査
第5章 画像検査
1 視床下部―下垂体系
2 甲状腺・副甲状腺
3 副腎・性腺
第6章 視床下部・下垂体疾患
1 視床下部・下垂体(前葉,後葉)の発生,形態,解剖
2 下垂体前葉ホルモン
3 下垂体後葉ホルモン(バソプレシン)
4 視床下部腫瘍,鞍上部腫瘍,下垂体腫瘍―総論
5 先端巨大症
6 高プロラクチン血症/プロラクチノーマ
7 Cushing病(異所性ACTH症候群を含む)
8 非機能性下垂体腫瘍,下垂体偶発腫
9 下垂体癌,下垂体への癌転移
10 Rathke嚢胞,頭蓋咽頭腫,トルコ鞍空洞
11 胚細胞腫瘍
12 成長ホルモン分泌不全性低身長
13 成人GH分泌不全症
14 ACTH単独欠損症
15 下垂体機能低下症
16 リンパ球性下垂体炎
17 中枢性尿崩症
18 SIADH
19 下垂体卒中
20 神経性やせ症
第7章 甲状腺疾患
1 甲状腺と甲状腺ホルモンの基礎知識
2 Basedow病
3 甲状腺クリーゼ
4 甲状腺眼症(Basedow病眼症)
5 無痛性甲状腺炎
6 亜急性甲状腺炎
7 甲状腺機能低下症
8 慢性甲状腺炎(橋本病)
9 粘液水腫性昏睡
10 潜在性甲状腺機能異常
11 甲状腺ホルモン不応症(その他の不適切TSH分泌症候群を示す疾患)
12 薬剤誘発性甲状腺機能異常
13 出産後甲状腺機能異常症
14 非甲状腺疾患,低T3症候群
15 甲状腺良性腫瘍
16 甲状腺悪性腫瘍
17 先天性甲状腺機能低下症
18 小児の後天性甲状腺疾患
19 放射線と甲状腺
20 甲状腺外科
21 アイソトープ治療
第8章 副甲状腺および関連疾患
1 副甲状腺と副甲状腺ホルモンの基礎知識
2 ビタミンD,カルシウム代謝の基礎知識
3 原発性副甲状腺機能亢進症
4 その他の副甲状腺機能亢進症(家族性副甲状腺機能亢進症)
5 二次性副甲状腺機能亢進症
6 悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症
7 高カルシウム血症性クリーゼ
8 副甲状腺機能低下症
9 先天性副甲状腺機能低下症(偽性を含む)
10 ビタミンD欠乏症
11 骨粗鬆症
12 骨粗鬆症治療薬の基礎知識
13 くる病・骨軟化症
14 副甲状腺外科
第9章 副腎および関連疾患
1 副腎皮質の構造とステロイドホルモン合成経路や作用の基礎知識
2 副腎髄質の構造とカテコールアミン合成経路,作用の基礎知識
3 副腎病理の基礎知識
4 ステロイド作用機構と副作用の基礎知識
5 原発性アルドステロン症
6 Cushing症候群
7 両側副腎皮質過形成(PMAH,PPNAD)
8 サブクリニカルクッシング症候群(サブクリニカルクッシング病を含む)
9 褐色細胞腫/パラガングリオーマ
10 Addison病
11 ステロイド補充療法
12 副腎クリーゼ
13 先天性副腎過形成症
14 先天性副腎低形成
15 偽性低アルドステロン症
16 副腎偶発腫瘍
17 副腎皮質癌
18 男性化,女性化副腎腫瘍
19 腎血管性高血圧
20 その他の二次性高血圧
21 Liddle症候群
22 Bartter症候群
23 Gitelman症候群
24 AME症候群(ミネラロコルチコイド過剰様症候群)
25 副腎腫瘍手術(副腎癌,褐色細胞腫を含む)
第10章 性腺疾患
1 女性性腺の構造と作用の基礎知識
2 男性性腺の構造と作用の基礎知識
3 性ステロイドの基礎知識と性分化
4 性腺機能低下症―総論
5 性腺機能低下症(女性)
6 性腺機能低下症(男性)
7 思春期早発症
8 思春期遅発症
9 Klinefelter症候群
10 Turner症候群
11 精巣女性化症候群
12 排卵障害,無月経で使用する薬剤の投与法と基本知識
13 多嚢胞性卵巣症候群
14 男性化卵巣腫瘍
15 性分化疾患の診断・鑑別診断
16 性同一性障害
17 女性更年期障害
18 男性更年期障害と加齢男性性腺機能低下症(LOH症候群)
19 生殖医療(男性)
20 生殖医療(女性)
第11章 多腺性内分泌疾患,遺伝性疾患
1 多発性内分泌腫瘍症
2 自己免疫性多内分泌腺症候群
3 膵・消化管神経内分泌腫瘍
4 インスリノーマ
5 ガストリノーマ
6 その他の消化管ホルモン産生腫瘍
7 カルチノイド症候群
8 ホルモン受容体異常症
9 下垂体関連遺伝子疾患
10 副腎関連遺伝性疾患
11 下垂体腺腫
12 副腎腫瘍における体細胞変異
第12章 肥満症
1 摂食,エネルギー代謝の基礎知識
2 脂肪細胞の基礎知識
3 肥満症―総論
4 二次性肥満症(内分泌性,薬剤など)
5 遺伝性肥満症
6 メタボリックシンドローム
7 非アルコール性脂肪肝炎
8 肥満症の治療
9 肥満外科
第13章 糖尿病
1 糖代謝―総論
2 糖尿病医療学
3 糖尿病の分類と成因―概略
4 糖尿病の疫学と主要な大規模臨床試験
5 糖尿病診断基準と管理目標
6 診断:病歴,診察,検査のポイント
7 1型糖尿病
8 2型糖尿病
9 遺伝子異常による糖尿病
10 妊娠糖尿病
11 内分泌性を含む二次性糖尿病
12 膵性糖尿病
13 薬剤性糖尿病
14 脂肪萎縮症
15 インスリン自己免疫症候群
16 インスリン療法
17 GLP‐1受容体作動薬
18 経口血糖降下薬
19 食事療法・運動療法
20 糖尿病における急性代謝失調
21 糖尿病大血管障害
22 糖尿病腎症
23 糖尿病網膜症
24 糖尿病神経障害
25 その他の糖尿病合併症
26 小児・思春期糖尿病の病態・診断・治療
27 糖尿病合併妊娠の管理
28 シックデイの糖尿病管理
29 周術期の糖尿病管理
30 高齢者の糖尿病管理
第14章 脂質異常症,高尿酸血症
1 リポ蛋白代謝の基礎知識
2 尿酸代謝の基礎知識
3 内分泌・代謝疾患に伴う脂質異常症
4 脂質代謝と動脈硬化症
5 脂質異常症
6 高尿酸血症,痛風
第15章 その他の内分泌機能異常,病態,トピックス
1 IgG4関連内分泌疾患
2 内分泌代謝疾患のトランジション医療
3 妊娠と内分泌疾患
4 薬剤による内分泌異常
5 加齢とホルモン
6 内分泌撹乱物質
7 小児がん経験者と内分泌合併症
8 免疫チェックポイント阻害薬と内分泌代謝障害
9 再生医療
付 録
1 内分泌負荷試験の判定基準一覧
2 内分泌緊急症一覧
3 厚生労働省 指定難病・小児慢性特定疾病制度と内分泌関連疾患一覧
4 人名,略語の疾患,症候群
索引
謝辞
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序文
序文
わが国の内分泌学は,高峰譲吉先生のアドレナリンの結晶化に始まり,世界の内分泌学の草分け的存在であり,その牽引者として世界に冠たる立場を堅持してまいりました.日本内分泌学会は,1927年,京都帝国大学医学部,辻寛治先生により創設されました.1922年に創設された米国内分泌学会に次ぐ歴史を誇り,現在会員数は8,000名に及び,昨年2017年に90周年を迎えました.
辻寛治先生の学会誌創刊の辞には,近代医学の黎明期においてすでに「内分泌の如きは実に急に一分野を確立するに至れる」とその先進性が指摘されています.内分泌学こそ,専門家集団を組織するにふさわしい学問分野であるという,先生の熱い胸中を読み取ることができます.先生は,1941年,文部省所轄「体質研究会」の設立に寄付されています.内分泌学が,人の体質を決める極めて重要な領域であるとの見識,矜持が示されていると思います.わたくしが提唱する「内分泌至上主義」―内分泌学は,すべての医学領域の基盤である―との考えは,辻先生から受け継いだレジェンドであります.
昨年11月の創設90周年記念式典では,「神戸宣言」として,100周年に向けて取り組むべき5つの課題が示されました.以下が,その全文です.
・ホルモンや内分泌代謝疾患に関する正しい知識を一般に広め,早期診断・治療につなげるための啓発活動に務めます.
・すべての内分泌代謝疾患患者に適切な医療を提供できるよう,ガイドラインの策定と普及を進めるとともに,専門医の適切な配置と医療施設・地域間連携を充実化します.
・生命現象の基盤である内分泌学全般に精通し,医学全体に貢献できる歓びと誇りを持つ,真の内分泌学のエキスパートの育成を行います.
・内分泌代謝疾患の病態解明,新たな内分泌因子の発見,およびそれらの医療応用を達成する研究を支援します.
・生活様式や環境の変化,急速な社会の高齢化に伴い生じる新たな内分泌学の時流に柔軟に対応し,世界の内分泌学を先導します.
いずれも質の高い専門医の育成なくして,達成することのできない目標です.内分泌学会員が一致団結して「神戸宣言」を実践していくためには,学会員の皆さんが,高い専門性を体得すべく真摯に研鑽を積まれることが必須であります.
辻先生が示されたように,内分泌学は,広い領域をカバーし,かつ奥深く,多くの専門的知識が要求される領域であります.また,本年からいよいよ新専門医制度が始まります.内分泌代謝科専門医は,内科関連サブスペシャリティ領域に位置づけられています.
わたくしは,2015年,代表理事に就任して,学会で鍛えられた経験豊富な先達の先生たちにより,オール学会の体制で,新研修カリキュラムを反映したガイドブックを作成刊行することが喫緊の課題と考えました.しっかりした内分泌学の基盤テキストの策定こそが,“学会員10,000人”にむけてのアクションだと思いました.
2016年4月の理事会で,「内分泌代謝科専門医研修ガイドブック」の刊行が決定し,教育育成部会の柳瀬敏彦部会長,山田正信副部会長兼専門医委員会委員長,竹内靖博副委員長を中心に,その獅子奮迅のご活躍により,極めて短期間のうちに,本書の刊行に至ることが出来ました.
本書の刊行のために惜しみないご協力を賜りました,執筆をご担当いただいた学会専門医の皆さま,編集にご協力いただいた編集委員・査読委員の皆さま,また,本書の前身である「内分泌代謝専門医ガイドブック」を2007年より編集されてきた成瀬光栄先生,平田結喜緒先生,島津章先生ら,すべての先生方に代表理事として深謝申し上げたいと存じます
この本で学ぼうとする方々へ:
京都大学名誉教授で,生態学者,文化人類学者,日本の霊長類研究の創始者である,今西錦司先生は,登山家としても有名であります.彼は,「なぜ山に登るのですか」と聞かれると,「山に登ると,その頂上からしか見えない景色が広がってくる.そして,そこに次の山が見える.すると,その山に登りたくなるんだ.」と言われたそうです.内分泌学の専門医となることで,内分泌学に存在する新たな美しい山が見えてくることを期待いたします.
2018年4月
日本内分泌学会 代表理事
慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科 教授
伊藤 裕
刊行によせて
内分泌代謝疾患に関する包括的な学問である内分泌代謝学は,学問の進歩,社会的な疾病構造の変化とともに内分泌疾患を主とする内分泌学,糖尿病を主とする糖尿病学に分かれ,基幹学会も日本内分泌学会と日本糖尿病学会に分かれて発展してきた.しかしながら,実際の診療現場では内分泌疾患と代謝疾患・糖尿病の診療が明確に区別されているケースは極めてまれで,内分泌代謝科として両者を並行して診療する機会が圧倒的に多いことから,バランスのとれた専門的知識の習得とそれに資するガイドブックが不可欠である.
そこで私達は2007年4月に内分泌代謝疾患の診療に従事する医師の日常診療に役立つ書籍として『内分泌代謝専門医ガイドブック』を企画,初版を刊行した.下記に紹介したように,本企画は国立病院機構内分泌代謝政策医療ネットワークの啓発活動の一環として企画されたものである
「内分泌代謝専門医ガイドブック」初版の序文より
「私が所属する国立病院機構では内分泌代謝疾患を重要な政策医療の一つとして位置づけ,わが国における診療水準の向上に貢献するため様々な教育的,研究的,社会的活動を進めている.京都医療センター内分泌代謝臨床研究センターはその要としての役割を担っており,その役割の一つが内分泌代謝疾患の診療に従事している医師を対象とした教育活動である.本書はその一環として企画されたものであるが,医学,医療に境界はない.本書がわが国における内分泌代謝疾患の診療水準向上に貢献できれば幸いである.」
初版の発刊後,予想以上に多くの先生方に活用頂くことが出来たことから,2016年までに計4回の改訂版を発行,発売延べ数は一万冊に達した.改訂毎に診療現場の読者の先生方に丁寧にアンケートを実施し,不足個所の補充,内容のアップデートに努めると共に,編集者,編集協力者の先生方で十分な査読を行い,日常診療のニーズに即した実用書とすべく尽力したが,何よりも実際に原稿を執筆頂いた多くの先生方の忍耐と協力のお蔭であると考えている.
この度,日本内分泌学会から「内分泌代謝科専門医研修ガイドブック」が発刊されることとなった.専門医制度の変化に対する学会としての教育・育成活動の一環であるが,12年の歴史を有する私達の編集による「内分泌代謝専門医ガイドブック」を基盤とした企画とのことで,私達にとっても大変名誉なことと感謝している.新たな書籍が日本内分泌学会の社会貢献と,それを通じたわが国の内分泌代謝疾患の診療水準向上に役立つことを切に願う次第である.また,この場を借りて,長年に亘り「内分泌代謝専門医ガイドブック」の出版に尽力頂いた多くの執筆者の先生方と診断と治療社に改めて感謝申し上げる.
2018年4月
国立病院機構京都医療センター臨床研究センター 特別研究員
成瀬光栄
日本内分泌学会の新専門医制度への対応について
現行の専門医制度は1990年にスタートし,多領域にわたる内分泌代謝診療をカバーする専門医として,内分泌代謝科(内科・小児科・産婦人科)専門医と呼称されている.制度はカリキュラムに定められた到達目標を達成した段階で専門医受験資格が与えられ,研修年限は問わないカリキュラム制を採用している.2017年12月時点で,専門医数2,494人(教育機関:33.2%,大規模病院:44.2%,診療所等:22.6%),指導医数1,172人,専門医研修認定施設386を数え,わが国のこの分野の専門診療に多大な貢献を果たしてきた.
しかしながら,厚生労働省による「専門医の在り方に関する検討会最終報告(2013年4月)」を受けて,2014年頃よりわが国の専門医制度全体に関して新たなあり方を目指す議論が日本専門医機構を中心として提起され,日本内分泌学会でも新専門医制度に向けた議論を開始した.新専門医制度の方向性に関する全体議論の流れを踏まえたうえで,制度の骨子として育成すべき専門医像の明確化,専門医の質の保証,地域医療への配慮といった観点を重視すると同時に,医師のキャリア形成上,不都合や混乱が生じない制度設計に腐心した.基本領域の専門医制度は2018年度から開始されるが,2019年度からの開始を予定している本学会の新専門医制度の整備基準の骨子は以下のとおりである.
<育成すべき専門医像>
内分泌代謝科専門医とは基本領域全般にわたる一定の診療能力を背景に,内分泌・代謝疾患に関する深い専門的知識と技能に優れる医師を指す.具体的には,日常臨床において比較的,疾患頻度が高く重要な内分泌疾患に関してアップデートな知識を有し,その診断,治療が適切に行える,あるいは指導できる医師を育成する.一方で,内分泌・代謝疾患には国の指定難病に選定されているような稀少難病も多く,稀有な症例に対する高度な専門的知識を有する内分泌代謝科専門医の育成も重要である.
<新専門医制度における研修制度の骨子>
(1)現行と同様,カリキュラム制を採用.
(2)内分泌代謝科専門医としての呼称は一つに統一.そのため,主たる専門領域以外の領域に関しても標準的な専門的知識を修得するために学会指定講演の受講を必須とした.その他,努力目標として,院内合同症例検討会への参加,院外の勉強会や研究会への積極的参加等による主たる専門領域外の知識の習得に努めることを奨励している.
(3)研修カリキュラムでは,従来の病歴要約だけでなく,目標症例数を設定.
(4)基本領域研修中に内分泌代謝科専門医,指導医が指導した症例,技術・技能は研修経験として組み入れることが可能.
新制度のカリキュラム制においては,原則3年間以上の研修期間とするが,開始時期,終了時期は定めず,産休,育休や長期留学,介護など相当の理由がある場合,中断は可とした.これにより医師のキャリア形成において大きな支障はないと思われる.現在,内分泌代謝科専門医の基本領域は内科,小児科,産婦人科であるが,今後,脳神経外科(間脳―下垂体領域),泌尿器科にも拡大されることから,専門医として関連領域の広範な知識の修得が今まで以上に不可欠となる.一方で,専門医受験に際しては,従来の一定数の病歴要約の提出に加えて,新制度では目標経験症例数を新たに設定したこと,専門医研修専攻医にも一定数の指定講演の聴講を義務づけたことから,さらなる専門医の質の向上が期待される.目標症例数の達成のために外来症例の積極的な経験が求められることになる.また,地域医療への配慮の観点から,認定施設以外での研修も可能にするため,「認定教育施設・連携医療施設制度」を開始している.本制度では認定教育施設の連携医療施設(内分泌代謝科専門医が1名以上在籍する病院または医院・クリニック)における研修も研修期間(原則,全研修期間の1/2以内)として認められることとした.専門医は在籍しても指導医不在のため,認定教育施設ではない施設への若手医師の派遣が可能となるが,実のある研修を実現するために,連携医療施設の選定は,認定教育施設の責任下に選定することになる.本制度を地域医療の活性化のためにも,大いに活用していただきたい.
現行の専門医制度下では,学会編集のガイドブックがなかったために,新専門医制度の発足に合わせて,専門医受験の指針となるべき書として本書を作成した.本書には専門医として理解しておくべき内分泌代謝学のエッセンスならびにアップデートな知識がほぼ余すところなく記載されており,これから専門医受験を目指す方だけでなく,既に専門医・指導医の先生方にも,診療における座右の書としてご活用いただければ幸いである.
2018年4月
日本内分泌学会教育育成部会長
福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科 教授
柳瀬敏彦