小児腎臓病学の決定版,待望の改訂第7版.小児科医や小児腎臓病を診るすべての専門家必携の定番書籍.小児腎臓病学の正しい知識をわかりやすく解説したほか,国内外の小児腎臓病学における近年の目覚ましい進展の知見や重要情報,また治療手技や臨床のコツまでを網羅した一冊.
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目次
改訂第7版の発刊に際して
著者紹介
腎臓の形をした赤色豆(fagioli rossi kidney)
おもな遺伝性腎疾患の原因分子の腎における局在
第1部 総 論
A 腎の発生と分化
1. 腎の系統発生と三つの腎系
前腎/中腎/後腎
2. 尿管芽
3. ネフロン
4. 蛋 白
5. 腎発生の分子メカニズム
B 腎機能と排尿機能の発達,およびその特徴
1. 腎機能の発達
胎児期の腎の発達/出生後の腎の発達
2. 排尿機能の発達
蓄尿と排尿/自覚的排尿
C 腎の形態と機能
1. 腎の形態
腎の血管系/糸球体の構造/尿細管の構造/傍糸球体装置
2. 腎の機能
糸球体機能(濾過機能)/尿細管機能(分泌再吸収機能)/代謝機能
D 腎疾患の主要症状
1. 臨床症状
浮腫/高血圧(体高血圧)/尿毒症/腎外所見
2. 尿の異常
血尿/蛋白尿/白血球尿(膿尿)と細菌尿/糖尿/尿量の異常/排尿異常
3. 血液生化学の異常
クレアチニン,シスタチンC,β2-ミクログロブリン,血液尿素窒素,尿酸/電解質/酸塩基平衡
E 診断法
1. 尿検査から何がわかるか
外観/尿試験紙を用いた尿定性あるいは半定量検査/尿沈渣/定量検査と精密検査/尿培養/
尿試験紙を用いた尿検査の原理と妨害反応の原因/その他
2. 尿保存法の実際
室温放置による尿中成分の変化/尿中成分の適切な保存法
3. 糸球体機能検査
腎血漿流量の測定/糸球体濾過率の測定/ RI物質を用いたGFR測定法/小児の腎機能障害の診断と
小児CKDステージ判定のアルゴリズム
4. 尿細管機能検査
近位尿細管機能検査法/遠位尿細管,集合管検査法/レニン-アンギオテンシン-
アルドステロン系の機能検査法/その他
5. 画像検査
X線検査/レノグラム,腎シンチグラム/腎超音波検査/CT検査/MRI検査/腎血管造影検査
6. 腎生検
種類/適応/禁忌/経皮的腎生検の実施法
7. 骨塩定量法と骨生検
骨塩定量法/骨生検
8. 分子生物学的検査法
遺伝子クローニングとその応用/遺伝子発現の解析/病態モデル作製による解析/
遺伝子病の分子生物学的解析/遺伝子診断の基礎知識/腎疾患の遺伝子解析/
機能性蛋白の解析法/バイオインフォマティクスの利用/エピジェネティクス解析
9. 質量分析
F 治療法
1. 一般的治療法
食事療法/運動制限
2. 血清電解質と酸塩基平衡の異常に対する治療法
電解質異常/高尿酸血症
3. 透析療法
腹膜透析/血液透析
4. 腎移植
適応,術前検査/組織適合検査とその意義/予後
G 腎疾患の早期発見と対応――尿異常を呈する患児にはどう対処するか
1. 胎児閉塞性腎疾患の診断と対応
胎児の尿路はいつから評価できるか/胎児閉塞性腎疾患/胎児閉塞性腎疾患の治療
2. 乳幼児腎検診
3. 学校検尿
検尿システム/尿異常の頻度
4. 腎臓病検診有所見者に対する指導と対応
検診結果通達時あるいは腎臓検診にて異常を指摘されて受診した場合の指導/有所見者への対応
H 慢性腎疾患の成人への移行と慢性腎臓病(CKD)
1. 小児科医の守備範囲とあるべき立場
2. 成人に移行する腎疾患
慢性腎炎/泌尿器疾患/その他
I 糸球体腎炎の発症機序
1. 免疫複合体の関与
2. 血管内皮障害性を有するIC以外の原因
3. 細胞性免疫と補体系の異常
4. アポトーシスの関与
5. 糸球体内浸潤マクロファージの関与
6. 基底膜構成成分の異常
J 慢性腎不全への進展機序
1. 増殖因子の関与
2. メサンギウム細胞の形質転換と細胞増殖・基質増加
3. 糸球体過剰濾過
4. 糸球体肥大
5. 高蛋白食(蛋白負荷)
6. 高脂血症
7. 間質性腎炎
8. 尿細管細胞の線維芽細胞への形質転換と増殖
9. 蛋白尿
10. 尿細管間質病変
11. アルドステロンの腎障害作用
12. アンギオテンシンIIのpodocyte傷害
13. 糸球体障害発生時の年齢
14. 尿細管間質における慢性腎虚血
15. 尿中への酸排泄の増加
K 腎疾患患児への予防接種
1. 積極的に予防接種をすべき疾患とその時期
2. 免疫能の低下している患児への予防接種施行時の注意点
3. 腎疾患患児への予防接種の方針
第2部 各 論
A 糸球体疾患
1. 急性糸球体腎炎
2. 可逆性皮質下血管性脳浮腫
3. 慢性糸球体腎炎
無症候性血尿,無症候性蛋白尿/IgA腎症/メサンギウム増殖性糸球体腎炎(非IgA腎症)/
巣状分節性糸球体硬化症/膜性増殖性糸球体腎炎,C3腎症/膜性腎症/ HBウイルス腎症/ HIV関連腎症
4. ネフローゼ症候群
生後1年以内に発症するネフローゼ症候群(先天性ネフローゼ症候群)/特発性ネフローゼ症候群
5. 急速進行性糸球体腎炎
6. 二次性糸球体腎炎・腎症
IgA血管炎性腎炎・Henoch-Schonlein紫斑病性腎炎/溶血性尿毒症症候群/膠原病,自己免疫疾患による腎炎/
腎症候性出血熱(重症アジア型)/ immunotactoid glomerulopathyあるいは
fibrillary glomerulonephritis/チアノーゼ腎症/肥満関連性腎症/骨髄移植後の腎症
7. 遺伝性腎症
Alport症候群/ nonmuscle myosin heavychain IIA syndrome /良性家族性血尿/
爪膝蓋骨(形成不全)症候群/ネフロン癆/ oligomeganephronia /リポ蛋白糸球体症/
Cockayne症候群/ミトコンドリア異常症/ Fabry病/ C1q腎症/
complementfactor H-related protein 5 nephropathy / fibronectin腎症 / Galloway-Mowat症候群 /
Schimke immuno-osseous dysplasia
B 尿細管疾患
1. 尿細管機能異常症
近位尿細管機能異常/近位あるいは遠位尿細管機能異常症/遠位尿細管機能異常症
2. 尿細管間質性腎症
全身性疾患/感染症/薬剤,重金属/その他
C 細菌性尿路感染症
1. 起因菌
2. 起因菌の薬剤感受性と第一選択薬
3. Gram陰性桿菌の尿路感染成立機序
4. 診断,部位診断
5. 尿路異常の合併
6. 膀胱尿管逆流の病態生理
尿管膀胱移行部における正常な逆流防止機構/ VURの成因/排尿時膀胱尿管撮影によるVURの重症度判定/
VURの予後
7. 治療,管理
細菌性尿路感染症/腎周囲膿瘍,腎膿瘍,巣状細菌性腎炎と黄色肉芽腫様腎盂腎炎/
急性出血性膀胱炎/アレルギー性膀胱炎/無症候性細菌尿/ Ochoa症候群/気腫様腎盂腎炎
D 嚢胞性腎疾患
1. 腎皮質嚢胞
単純性腎嚢胞/糸球体嚢胞症
2. 多嚢胞性異形成腎
3. 多嚢胞腎
常染色体劣性多嚢胞腎/常染色体優性多嚢胞腎/ Meckel症候群
4. 遺伝性症候群における嚢胞性腎疾患
結節性硬化症/ von Hippel-Lindau病/ Mowat-Wilson症候群
5. 腎髄質嚢胞性疾患
髄質海綿腎/髄質嚢胞腎/口顔指症候群/腎嚢胞と糖尿病の合併/ Bardet-Biedl症候群/ Alstrom症候群
E 腎尿路の形成異常
1. 閉塞性腎疾患
水腎症/多嚢胞性異形成腎
2. 腎異形成,腎低形成
腎異形成/腎低形成/遺伝子異常が明らかになった腎尿路形成異常症
F 代理Munchhausen(Munchausen)症候群
G 排尿異常
1. 器質的排尿異常
排尿調節機構/排尿異常/蓄尿異常/器質的排尿異常と機能的排尿異常の鑑別/治療,管理
H 急性腎障害(AKI)
1. 診 断
高窒素血症,血清クレアチニン高値/尿量,尿中ナトリウム濃度/その他
2. 原因究明――腎前性腎障害か腎性腎障害か
3. 合併症
体液量の増加あるいは減少/電解質異常/高窒素血症/高血圧/感染症
4. 治 療
透析療法
I 慢性腎不全と慢性腎臓病(CKD)
1. 概念,疫学
2. 病態生理
3. 治 療
方針/保存的治療
4. 学校生活への適応
5. 慢性腎不全,透析,腎移植に関する医療情報の提供
J 高血圧
1. 定 義
2. 原因疾患
3. 高血圧患者にどう対応するか
現病歴,家族歴等の問診/身体所見の診察/各種検査値の検討/血圧のスクリーニング測定の検討/病因の検討
4. 二次性高血圧症の診断
大動脈狭窄症/体液量の増加/高レニン血症/カテコラミン過剰/コルチコステロイド過剰/甲状腺機能亢進症
5. 治 療
一般的治療/薬物療法/外科的治療
K 腎尿路結石
1. 臨床症状
2. 種 類
カルシウム結石(シュウ酸カルシウム結石,リン酸カルシウム結石)/
炭酸リン酸カルシウム結石/シスチン結石/尿酸結石,その他の結石
3. 治 療
薬物療法/食事療法/外科的治療
索 引
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序文
改訂第7版の発刊に際して
「小児腎疾患の臨床」改訂第7版をここに上梓する.
本書は1996年4月に上梓した「研修医のための小児腎疾患の臨床」を基に,2006年6月に書名を「小児腎疾患の臨床」に改め,現在に至っている.本書は小児科の研修医や若手小児科医が小児腎疾患を診療する上で必要な最新の知識を提供することを目的に執筆した.小児腎臓病学の基礎である腎生理学は難解で,臨床に用いられる負荷試験も慣れないものが少なくない.これらを出来るだけわかりやすく解説することを心がけると共に,最新の概念や重要な医学的成果をも積極的に紹介することで,世界の小児腎臓病学の潮流を意識した内容になるようにした.その結果,本書はこれまでに多くの読者から20年以上の長い期間にわたって御支援を戴くことができた.
小児腎疾患に関する基礎・臨床医学は大きな進化を遂げている.本書を初めて上梓した頃は,患者さんの臨床像を詳細に観察し,臨床検査,画像検査や負荷試験,そして腎生検などを行って病気を診断し,経験に基づいて治療することが臨床の中心であった.その後,臨床に用いられる検査法が進歩すると共に,様々な分子生物学的手法が臨床にも導入されるようになった.現在では多数の糸球体・尿細管疾患の原因が遺伝子レベルで同定され,既成の疾患概念のスペクトラムが広げられ,新しい疾患とその原因遺伝子も解明されつつある.巣状分節性糸球体硬化症,SLE,ネフロン癆などの遺伝性疾患の病因論的多様性が明らかにされ,病気を成り立たせる複雑な仕組みの理解が少しづつではあるが着実に深まってきている.また,次世代シークエンサーを用いるwhole gene sequenceや遺伝子パネル検査も臨床に導入され,疾患の遺伝子レベルでの解明も格段の成果をあげている.さらに,質量分析やプロテオーム解析などの技術も研究レベルで盛んに用いられている.こうした新しい研究手法は小児腎臓病学の基礎と臨床のレベルを格段に向上させた.一方,IgA腎症やネフローゼ症候群に対する質の高いコントロールスタディが推進され,エビデンスレベルの高い成果がわが国からも発出されている.また,効果的な免疫抑制薬や分子標的薬が開発され,慢性糸球体腎炎,ネフローゼ症候群,腎移植の治療に利用され,優れた成績を上げている.
しかしながら,原因が解明されていない小児腎疾患も残されており,薬剤の副作用に悩まされる患児も少なくない.小児腎疾患に関する研究は基礎と臨床の両面においてこれからも大いに必要とされる.今後の研究の発展を期待したい.これまでのわが国で遅れていた遺伝子治療や遺伝子改変技術も小児腎疾患の分野での応用も可能となりつつある.優れた臨床研究を実施する上での基盤整備として,重症疾患の質の高いデータベースの構築も学会として求められるであろう.また,現在医療に導入されつつある人工知能AIをAugmented Intelligenceとして画像・病理診断だけでなく様々な面に利用することも求められている.
小児腎疾患の診療を担当する医師にとって本書が臨床の助けとなるだけでなく,本書を通じて小児腎疾患の基礎・臨床研究に興味を持たれ,高い志を持って基礎・臨床研究に参画する方が増えることを願う.
2019年10月
五十嵐 隆